腎炎の治療で免疫抑制剤使用を行う場合が多い。
その中で、ステロイドは最も汎用される一つなのではないかと考える。
ステロイドを長期で使用する際には、治療後どんなことに気をつけるかを常に考えなければならない。
例えば、使用期間に関しては
開始日から数日:不眠、気分変化(躁症状)、食欲増強、血圧の上昇、むくみ
開始後数週間:糖尿病、高脂血症、肥満、満月様顔貌
数か月以上と長期:皮膚菲薄化、紫斑、骨粗しょう症、白内障など
は知っておく必要性がある。
また、ステロイドの開始前には下記のように色々なことをチェックする必要がある。
・糖尿病・脂質異常の有無
・高血圧・心不全の有無
・消化性潰瘍の既往歴
・鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)の併用使用の有無
・骨折歴・骨密度測定の有無
・慢性感染症の存在:結核歴(家庭内での罹患歴・肋膜炎などと言葉を変える)、慢性呼吸器感染、B型肝炎など
・白内障や緑内障:眼科受診歴
今回、結核のことについて考えてみたいと思う。
症例:78歳男性で血尿・タンパク尿・腎機能障害(1ヶ月前Cre:0.8→5.6)で来院した。
既往に若いときに肋膜炎をやったことがあるとのこと。
検査を色々出したところ、急速進行性糸球体腎炎の可能性が高い。年齢的にも治療はステロイドは使用するが、この方肋膜炎の既往があるからどうしよう?と悩む機会も多い。
まず、この人が自覚症状もなく抗酸菌培養検査や画像検査で異常がない場合はなんだろうか?
→これは、潜在性結核感染症(LTBI : Latent Tuberculosis infection)であり、2000年にCDCとATS(アメリカ胸部学会)が報告している。
では、こんな人の検査はどうすればいいのか?であるが、現時点では絶対にこれをしなくてはなりませんと言ったGold Standardなものはないのが現状である。
ただ、行うとすれば、ツベルクリン反応(TST)かQFTやT-SPOTなどの(IGRA: Interferon γ release assay)である。
それぞれ、特徴をしっかりと押さえておくといい。
TSTに関してはBCG接種歴や非定型抗酸菌症で偽陽性になりやすい。
IGRAに関しては上記の場合は偽陽性にはなりにくい。
IGRAの中のQFTは血漿中のIFN-γ濃度を測定し、T-SPOTはIFN-γ産生細胞数を測定している。
LTBIでは、INH(Isoniazid)が第一選択薬となる。これは、安全性や効果についての報告が多いためである。ただ、INH耐性や副作用の肝障害が出る症例にはRifampinを用いる。
治療期間は6ヶ月から9ヶ月である。
では、ステロイドはどのくらいだと結核の発症率が上がるのか?
→多くの報告があるが、Predoonine 15mg/日以上で4週間以上継続する場合は結核発病のリスクが上がると報告されている。
なので、我々が腎炎に使うステロイドに関しては、長期間使うため常にその危険には晒されていると考えたほうがいい。
今回の症例では、結核の症状がなくIGRAで陽性で、画像所見でも何もなくLTBIと診断。
RPGN疑いは腎生検を行い、INHを内服しステロイド1mg/kg/dayで開始した。
特に結核再燃なく腎機能も改善傾向であった。
このような診療の場面は日常茶飯事であろう。
自分の中で振り返れてよかった。