2020/11/11

腎機能障害下における疼痛管理

 腎障害と疼痛管理は、いつも悩む分野である。今回は、少し症例を通しながらその部分を復習できればと思う。


症例:65歳男性、糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析導入後。導入後に食欲など改善したが全身の痛みが持続し、透析中や就寝中に下肢の焼けるような痛みが悪化することを訴えていた。変形性関節症があり、アセトアミノフェンの服薬はしている。

Q:この患者さんの痛みの原因として考えられるものは?

1:下肢虚血による疼痛

2:神経性疼痛(糖尿病による)

3:骨の痛み(MBDによる変化)

4:筋骨格系の痛み(透析の際に椅子に座ることなど)

5:透析開始に伴う不安やうつからの痛み

6:すべて

この場合は6の全てになる。

腎不全患者の疼痛は非常に多く40-60%が経験し、その中の半数が中等度から重度の痛みがると報告されている(Semin Dial 2014)。しかし、腎臓内科医はこの疼痛の評価や管理などには長けている人は少ない。そのため、我々は全身の疼痛評価をしっかりと行い管理を考えるということはとても重要になる。

腎不全患者は、原疾患(PKDなど)、骨代謝異常、尿毒症性神経症、併存疾患(血管虚血に伴うPADなど)による疼痛を経験する。その中で、慢性疼痛は両膝の非外傷性の骨関節症による侵害受容性疼痛、糖尿病や尿毒症による神経性疼痛によるもの、また不安や気分障害によるものも相乗して生じるとされている。

疼痛の治療目標としては、しっかり眠れることと、我慢できない痛みがなく動けることである。そのために、この患者さんではどのように管理をしていく必要性があるだろうか?

ここから、少し質問形式で知識を深めていこう。


Q:まず、この症例で神経性疼痛の治療でのオプションとして考えられるものは?

1:オピオイド

2:アセトアミノフェン

3:ガバペンチン/プレガバリン

4:NSAIDs

この場合は3:ガバペンチン/プレガバリンになる。

抗けいれん薬や三環形抗うつ薬は糖尿病性神経症に対しての最もエビデンスのある治療オプションになる。

ガバペンチンとプレガバリンは中枢神経系において電位依存性カルシウムチャネルと結合することによって興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することによって効果を発する。ガバペンチンに関しては本邦では鎮痛薬としての承認は得られてはいないが海外では第一選択薬として位置づけられている。下記は本邦の神経障害性疼痛の薬物療法ガイドラインである。

プレガバリンやガバペンチンは眠気やふらつき、浮動性めまい、転倒、骨折などの副作用のリスクが有り、腎機能低下患者や高齢者などには慎重に量を調整して投与する必要がある。プレガバリンやガバペンチンで疼痛の改善が乏しい場合には、三環系抗うつ薬やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を少量併用して管理を行う(本邦のガイドラインも参照)。

他の選択肢をみてみると、オピオイドは神経障害性疼痛を管理する場合に、効果が乏しく過量投与になる可能性がある。また、オピオイドは透析患者では死亡、透析の中断、入院の増加につながることがわかっているので、リスクとベネフィットをよく検討した上で投与を考える必要がある。

また、ガバペンとオピオイドの併用でオピオイド関連死が増加する事がわかっている(PLOS ONE)。

NSAIDsに関しては、透析患者とNSAIDsは神経障害性疼痛には効果は乏しく、頓服の使用は副作用も少なく安全ではあるが、常用にすることで、体液や電解質異常、高血圧、腎機能悪化、心血管イベントの増加、出血リスクの増加との関連が示唆される。


Q:もし、オピオイドを疼痛管理に使用する場合には何を用いたらいいのだろうか?

1:モルヒネ

2:トラマドール

3:オキシコドン/ヒドロコドン

4:ヒドロモルフォン

この場合の選択肢は4が正解となる。

ヒドロモルフォンは代謝されて、ヒドロモルフォン-6-グルクロニドに代謝され、腎排泄されるが、この代謝物は生物学的活性を持たず、また透析でも除去されやすい。そのため、代謝物に活性がないため、これが選択される。

モルヒネの場合は体内で代謝されM3G(モルヒネ-3-グルクロニド)とM6G(モルヒネ-6-グルクロニド)に変換される。M3Gは鎮痛効果はなく、M6Gはモルヒネの3倍の鎮痛効果を持ち、モルヒネによる中枢神経毒性(せん妄、眠気、悪心、呼吸困難)の原因となる。M3G、M6Gともに腎排泄なので、腎不全の症例や透析例では蓄積しやすい特徴がある。モルヒネやコデインは透析で除去される。オキシコドンは透析除去されにくい。

東北大学緩和医療科資料より抜粋


腎障害の人と痛みはやはり関連性が強く、我々も薬だけでなくコミュニケーションなどの上でも引き出しを多くしておかなくてはならないと感じた。

東北大学緩和医療科資料より抜粋