2020/11/10

造影剤腎症におけるBNP、NT-proBNPの役割

 最近全然投稿できずで申し訳有りません。少しずつ記載していこうと思います!

今回は心臓血管造影検査と造影剤腎症についてふれていきたいと思います。

まず、本邦の造影剤ガイドライン2018(https://cdn.jsn.or.jp/data/guideline-201911.pdf)の知識は抑えておく必要があります。詳細は読んでいただきたいのですが、Chapter5の経動脈的造影剤投与における検査・治療の項目で今回のCAGに関する項目が触れられています。この中で、造影剤の量が少ないほうが造影剤腎症発症のリスクが少なくなる可能性があること、CKD患者では造影剤腎症発症の発症リスクが増加する可能性があること、造影剤腎症の発症した患者では心血管イベント発生率が多いことが記載してある。

造影剤腎症の発症は悪い結果につながるため、早期に造影剤腎症のリスクを判断するということは非常に重要になる。

今回急性冠症候群に対して冠動脈造影を行った患者たちのAKI発症の予測にBNPやNT-proBNPが用いられるかを検討したMeta-analysisが出ていたので報告していく。

そもそも、BNPとNT-proBNPとは何なのか?臨床現場でも混同することが多いと思う。その部分をまずは解説していく。

心臓に負担がかかると、まずpre-proBNPが合成される。pre-proBNPは、その後にproBNPになり、生物学的活性をもつBNPと生物学的活性を持たないNT-proBNPに切断される。基本的にはBNPとNT-proBNPは1:1の割合で生成される(下図参照)。


BNPは昇圧系ホルモンに拮抗し、利尿、降圧作用を介して心筋のリモデリングを防ぐ。

BNPとNT-proBNPの半減期はBNPが20分、NT-proBNPが約120分で、加齢、女性、腎機能障害、心機能低下で上昇し、肥満で低下するという特徴がある。BNPは腎臓以外でも代謝されるが、NT-proBNPはほぼ腎臓での排泄のため、腎機能障害時にはNT-proBNPは高値となる。BNPは血漿採血で、採血後早期に血漿分離、凍結保存を行わないと測定値が低下する。NT-proBNPは血清採血で検体が安定化しているので検査の外注を行う診療所や在宅医療などで実施しやすい特徴がある。


BNPとNT-proBNPは心不全の除外に主に用いる。その際のカットオフを下記に提示する。



ここまで、話が脱線してしたが、BNPとNT-proBNPが冠動脈造影を行った場合の造影剤腎症の良好な予想マーカーになるかもしれないとことが報告された。

現時点では、造影剤腎症の診断は造影剤使用後の血清Crの上昇で判断する。しかし、健康な人では糸球体濾過量(GFR)の約50%が低下しないと血清Crの変化として認識されないことから考えると疾患の拾い上げには弱い可能性がある。そのため、別の早期の診断のツールが非常に重要であった。今回そこで注目されたのが、BNPとNT-proBNPである。

では、なぜBNPと造影剤腎症の関係があるのか?に関しては、完全にはわかっていないが、下記の理由が言われている。

・冠血管症候群による腎臓の循環不全によってBNPの腎排泄が低下するため

・BNPが先行研究でも全身炎症において上昇することが知られており、冠血管症候群における炎症や免疫反応の状況を反映している

これらの理由から、造影剤腎症においてBNPとNT-proBNPは上昇することが予想され、今回のMetaanalysisでもBNPとNT-proBNPの上昇が造影剤腎症の診断ツールとして有用であるという報告が出た。

この研究では、limitation(造影剤腎症の定義が明確化されていない、研究での基準値の違い、異質性の存在)はあるが、BNPやNT-proBNPの上昇が造影剤腎症の診断ツールとして有用であるということは、臨床現場での選択肢が広がるため、非常に参考になる。