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2020/09/27

SIADの治療、水制限?追加治療は何がいい?

 今年になって、SIADの治療のRCTの論文が3つも出ている。どれも、power自体は小さな研究ではあるが、非常参考になるので少し紹介したい。

2019年に出された、SIADの最新治療と展望はぜひ読んでもらいたい。

本邦のガイドラインでは、治療の手引きでは下記のように記載されている。

次のいずれか(組み合わせも含む)の治療法を選択する。

1:原疾患の治療を行う。

2:1日の総水分摂取量を体重1 kg当り15~20 mlに制限する。 

3:食塩を経口的または非経口的に1日200 mEq以上投与する。

4:重症低ナトリウム血症(120 mEq/L以下)で中枢神経系症状を伴うなど速やかな治療を必要とする場合はフロセミドを随時10~20 mg静脈内に投与し、尿中ナトリ ウム排泄量に相当する3%食塩水を投与する。その際、橋中心髄鞘崩壊を防止す るために1日の血清ナトリウム濃度上昇は10 mEq/L以下とする。

5:異所性バゾプレシン産生腫瘍に原因し、既存の治療で効果不十分な場合に限り、 成人にはモザバプタン塩酸塩錠(30 mg)を1日1回1錠食後に経口投与する。投与開 始3日間で有効性が認められた場合に限り、引き続き7日間まで継続投与するこ とができる。

6:デメクロサイクリンを1日600~1,200 mg経口投与する。


SIADに伴うものでも、重症低Na血症であれば治療は3%生理食塩水などの高張食塩水を用いて治療するが、Naが125や130mEq/L程度のSIADに対しての治療はかなり統一されていないと感じる。水制限をして、塩分負荷をする治療を行うが、患者さんによっては塩分負荷がかなり苦痛に感じる人も多い。

では、ここから3本の結果を説明していく。

・まず、タイで行われたRCT(EFFUSE-FLUID Trial)で92人のSIAD患者さん(腎機能はeGFR>60mL/min/1.73m2)に対して、水分制限群(500-1000ml/day未満)、水分制限+フロセミド群(20-40mg/day)、水分制限+塩分負荷(3g/day)+フロセミド群で比較を行っている。

primary outcomeは4、7、14、28日目の血清Naの変化をみている。


この試験は、open-label試験であり、バイアスの混入は否定できないこと、powerが足りないというlimitationはあるが、水分制限とその他の治療にNa変化の上では大きな変化は認めず、フロセミド投与群では急性腎不全と低カリウム血症の発症の割合が高かった。



ここで、SIADの低Na血症の治療のときにまずは水制限。そして必要があれば追加の治療を検討する。その際にフロセミドや塩分負荷以外の方法はないのか?ということが疑問として出てくる。

追加治療という点でよくトルバプタンを使用することが多くなってきている。しかし、トルバプタンは高価な治療薬であり、また過度に補正されすぎることがある。

そこで、2020年の報告で出てきたものが、エンパグリフロジンのRCTである。


・これは、スイスからの報告であり二重盲検でのRCTで87人のSIAD患者に対して、水分制限(<1000mL/day)に1日1回のエンパグリフロジン群とプラセボ群で4日間投与して比較したものである。primary endpointは4日投与してのNa変化である。

そもそも、SGLT2が用いられている理由は、近位尿細管からのグルコースの再吸収阻害により、尿糖を増加させ、浸透圧利尿により自由水排泄が促されるためである。



エンパグリフロジン投与群ではNa改善においてプラセボに比較して有意に改善を認めていた。

                                  


そして、飲水制限が治療の前提で話していたけど、本当に飲水制限はいい治療なの?というのがアイルランドからの報告で出ている。


この報告は非割り付けのRCTでSIAD患者(46人)に対して水制限群(1L/day未満)と水制限をしない群で比較したものである。primary endpointは4日目と30日目の血清Naの変化である。



水制限群では、11日目の早期にNaは速やかに増加していることがわかる。しかし、その後はそこまで血清Naは動いていない。しかし、非飲水制限群と比較して血清Na濃度は有意に改善していることがわかる。

また、上記の表が、飲水制限群と非制限群の飲水量の違いになる。


この研究から、飲水制限は有用な治療であるが、飲水制限群でも何人かの患者はNa上昇が不十分で飲水制限に追加の治療が必要になっていた。その際の追加治療に関しては、費用・効果などを考えての治療になってくる。今後はSGLT2も一つの選択肢になるかもしれない。


SIADは意外に出会う機会は多い。その中で、最新の知識をupdateしながら管理する必要がある。




2020/05/21

SIADHの診断、6つの質問

 79歳男性、高血圧と高脂血症にサイアザイド・ACE阻害薬・スタチンを内服中。数週つづく倦怠感と左上肢・顔面の不随意運動あり、精査目的に入院。発熱なし、血圧156/76mmHg、脈拍56/min。体重74.8kg(2.2kg増)、浮腫なし。検査所見は以下のようであった。

Na 123mEq/l
Cr 0.89mg/dl
BUN 14mg/dl
血糖 103mg/dl
尿酸 3.1mg/dl
血清浸透圧 256mOsm/kgH2O
尿浸透圧 720mOsm/kgH2O 
尿Na 124mEq/l

Q:診断は?


 本例はマサチューセッツ総合病院のケースカンファ症例(NEJM 2020 382 1943、バイタル・身体所見は入院前のもの)だが、腎臓内科医なら「SIADHっぽい、不随意運動もあるから脳疾患か?」と診断すること自体は難しくないだろう。

 しかしこのカンファで学ぶべきは、症例提示の後に登壇したシンシア・クーパー先生の明快で美しい診断過程にある。腎臓内科医として、思考過程を(研修医や他科の先生方に)分かりやすく伝えていますか?と問われているかのようだ。

 それもそのはず、クーパー先生は腎臓内科医だが、マサチューセッツ総合病院の総合内科でinpatient clinician educatorとして研修医を教え、ハーバード大学医学部の臨床教育も司る、教育のプロだ(賞も多数受賞している、こちらも参照)。

 そんな先生は、どんな低ナトリウム血症であっても、原因を調べ鑑別を絞るときには、系統的にいくつかの質問に答えていくことにしているという。まずそれらを紹介すると:


1. 高血糖はあるか? 尿素と違ってグルコースには張力(tonicity)があるので、著明な高血糖があれば細胞内液から水を引き込み低ナトリウム血症になる。本例は血糖は100台mg/dlであり、除外できる。

2. 血清浸透圧はどうか? グルコースだけでなく、マニトールやIVIGも張力があるので、細胞内液から水を引き込む。こうした物質があれば血清浸透圧は高くなるが、本例は256mOsm/kgH2Oと低く、除外できる。

3. 腎に異常はあるか? 上記を除外した低浸透圧性低ナトリウム血症では、細胞内外を問わず水・ナトリウムのバランスが崩れている。腎臓は水分摂取量に応じて尿を希釈(濃縮)するが、それには十分な糸球体ろ過量と希釈(濃縮)能が必要だ。

 本例は腎機能正常で、サイアザイド中止後もナトリウム値は不変なことから、除外できる。

4. ADHはでているか? 尿浸透圧が血清浸透圧より高いので、ADHがでている。ADHは通常血清浸透圧が高くないと出ない(センサーがある)が、本例のように血清浸透圧が低くても出ているのは異常だ。その原因としてまず、体液減少(volume depletion)がないか確認しなければならない。

5. 体液量はどうか? 本例では、バイタル・体重・身体所見に明らかな体液減少はみられない。微妙な体液減少と適切体液量(euvolemia)を見分けるのは難しいが、もし体液減少があればRAA系が亢進して尿Naは低くなり(本例は100mEq/l以上)、尿酸値も高くなるはずだ(本例は4mg/dl未満)。また、入院後の輸液でもナトリウム値は上がらなかった。

6. 副腎不全・甲状腺機能低下症はないか? 血清浸透圧が低く体液減少がないにもかかわらずADHが出ているのだから、不適切ADH分泌症候群(SIADH)に矛盾しない。ただし、ここに挙げた2疾患は同様の所見を呈することがある。本例でも検索され、除外された。


 このあと先生はSIADHの原因を①悪性疾患、②肺疾患、③脳疾患、④薬剤、⑤その他(痛み・嘔吐・激しい運動など)に大別した。本症例では③が疑われたが、脳MRI所見は非特異的で、不随意運動はナトリウム値でも説明がつかなかった。

 そこで、"face"、"arm"、"dystonic"、"hyponatremia"の4語でPubMed検索し、こちらの診断に至ったことは、すでによく知られている通りだ(日本腎臓学会のメーリングリストでも、先週紹介された)。




 
 いかがであろうか?よく目にするアルゴリズムを正統的に解説してくれる安心感、そしてPubMed検索というクライマックスで迎える衝撃の結末。筆者のように「キラキラ星変奏曲がじつはどれだけ凄い曲か」をプロのピアニストに解説されたかのような感銘を受けたかはともかく、こう思った方は多いだろう。


 クリニシャン・エデュケーターって、かっこいい!



Lang Langさんによる解説
動画はこちら


 

2018/03/23

低ナトリウム血症を考える③

前回CSWSの話をしたが、尿中Naが高い場合にCSWSとSIADHを比較して多いのはSIADHである。

あるケースシリーズで、187人の神経外科領域の低ナトリウム血症の原因を検証した場合であるが、7人がCSWSで123人がSIADHであったという報告がある。
なので、脳外科手術後低ナトリウム血症≠CSWSは非常に重要である。

では、SIADHとはどんな病態であろう?
まず、ADHに関しては身体にとっては浸透圧変化に対しての重要な調整因子であり、また循環血液量の変化に対しても重要な調整因子である。調整因子というのは、変化に対して調整しようと働くホルモンであるということである。
下図は低ナトリウム血症のキーな図である。


まず、低ナトリウム血症は基本的には水の異常(自由水過多=低ナトリウム血症、自由水不足=高ナトリウム血症)である。水の異常は浸透圧の異常と相関する。なので、低ナトリウム血症を見た際には、まずは浸透圧の異常は大丈夫かな?と尿中浸透圧を見る。
ここで、ADHは浸透圧(Osmo)と循環血液量(volume)の両方の調整因子であるので、もし浸透圧系の異常があった場合に、volume系はどうなのだろう?と考えて、尿中Naの変化をみる。このアルゴリズムが今のガイドラインの診断アルゴリズムである。

話は脱線してしまったが、SIADHはADHが浸透圧変化やvolume変化に関係なく不適切に分泌する疾患である。
不適切に分泌する理由としては、疼痛や嘔気に伴うもの、小細胞肺癌に伴うものなど様々な理由がある。


また、ADHの血中濃度測定に関しては、参考程度にはなるが必ずしも必要はないということは認識する必要がある。

SIAHDでは、
・有効浸透圧の低下(275mOsm/kg・H2O)
・血清浸透圧が低い割には尿の浸透圧が高張(Uosm>100mOsm/kg・H2O)
・臨床的に循環血液量で脱水所見(起立性低血圧・頻脈・皮膚の乾燥・口腔内乾燥)や過剰所見(腹水・浮腫)は乏しく、正常である。
・正常の塩分摂取・水分摂取の状況でも尿中Naの上昇がある(UNa>20-30mmol/L)
・甲状腺機能低下症や副腎不全などの似たような病態を取るものが否定されている。
・腎機能は正常、利尿剤の使用(特にサイアザイド)はない。

ことが診断には重要である。
治療は
・基本的に重篤な症状(痙攣や意識障害など)のある場合には、高張食塩水を使用
その際には、体重あたりの量を1時間で投与をすると約1mmol/LのNaの上昇が見込める。
・飲水制限は一番推奨度は高い:尿量よりも500mL程度少ないくらいの飲水制限が一つ推奨されている。
・トルバプタンも一つの治療のオプションである。バプタンに関しては自由水の排泄からの急速なNaの補正がかかり、これが患者のアウトカムをどこまで改善させたかは現時点では定かではなく、これが米国と欧州のSIADHに対するバプタン使用の差にもなっている。
・尿素の投与も一つの選択で、急速な上昇はないが飲むのが不快で非常に苦みがある。
・デメクロサイクリンも一つのオプションであり、腎性尿崩症を生じうる。


今回の教訓としては、CSWSが状況的に(脳外科手術後など)で疑われたとしても、SIADHは非常に多いので注意をするという事である!!


下の図は飲水制限をしている人の絵である。









2018/03/20

低ナトリウム血症を考える②

今回は悩ましいCSWS(cerebral salt wasting syndrome)とSIADHについて簡単に記載をしようと思う。

この2つを分ける理由はやはり治療をしたとしても、それがもう一方の疾患だった場合に低ナトリウム血症を悪化させるためである。

★飲水制限:SIADHの治療であるが、CSWSの患者では低ナトリウム血症進行
★生理食塩水投与:CSWSの治療であるが、SIADHの患者では低ナトリウム血症進行

■CSWSに関して
やはり軸は脳と腎臓になる。
つまり、くも膜下出血や外傷や外科手術などの脳のダメージによって引き起こされる場合が多い。
神経ホルモンの変化が最終的に尿細管に変化を引き起こし低ナトリウムを引き起こす。

ちなみに、CSWSはSIADHよりも7年前に報告されているらしいが、広く認知されるようになったのは1980年の論文からのようだ。

CSWSは通常のNa異常とは異なると考える必要がある。
低ナトリウム血症は基本的には水の異常である。(Naの異常は浮腫や循環血液量減少など)
しかし、CSWSでは明らかに尿からの塩類喪失でありNaの異常になる。なので、治療はNaを補充する生理食塩水である。
尿からのNa喪失であるが多い症例では600mmol/day(35g/dayの塩)というから驚きである。

注目をされた1980年の論文では、12人のケースシリーズで神経手術前後のvolumeの状態をみて、ナトリウムの数値を見て、10人に中等度低ナトリウム血症が発生し、しかも循環血液量は減少していたというものである。

なので、①尿からNa排泄増加、②循環血液量減少の2つがあれば、CSWSの報告などに用いていたが、循環血液量の評価は非常に難しく、SIADHも尿中Na多くなるので、判断に迷う場合が今でも多い。
たとえば、循環血液量評価の点で中心静脈圧(CVP)などは心機能は正常で、頭部外傷のある若い人では正常であってもCVPは低く出やすいので、CVPの測定は循環血漿量の評価には向いていない。

循環血液量減少時は通常は尿酸や尿素の尿細管での再吸収が増加する。
しかし、CSWSではおそらくはNa再吸収を阻害する因子が、同じように尿酸や尿素の再吸収を阻害するため尿中に漏れる。たとえ、低ナトリウム血症を補正してもFEureaは増加したままであるのは非常に面白い。
下の図は2009年のCJASNの論文のグラフであるが非常にわかりやすい。
これは、尿中の浸透圧の変化をみていて生理食塩水の投与での両方の変化を見ている。




この経過からもわかるように、CSWSもSIADHも尿中Naは出ていて、かつ循環血液量の評価は非常に難しく、最初に患者さんをみた段階での即座の判断は非常に難しいということは把握しておくべきである。
その中で、暫定診断で治療をした時に患者さんがどちらの方向にいくのか?をみて判断する事が重要である。

そこで、CSWSと診断した時にん?この人頭の病変ないな?と言った時にRSWS(renal salt wasting syndrome)はどうかなというのが一つ考えると思う。
これに関してとSIADHに関しては、次回お話しをしようかなと思う。



2017/06/06

低ナトリウム血症におけるreset osmostat(reset osmostat in hyponatremia)

 今回、低ナトリウム血症の中のreset osmostatについて触れたいと思う。

 僕はこの概念を知ったのは後期研修医になってからと比較的遅かった。最初はよくわからないなと感じて、今回この論文(AJKD 2017)をよんで色々と分かった部分もあり、つねに勉強することが重要だなと感じた。

 まず、入院患者の低ナトリウム血症で最多の原因としてはSIADHといわれている(Eur J Endocrinol 2010)。
 
 SIADHにおいてはADH調整パターンは下記のように4つあると言われている。

 ①:古典的SIADH:浸透圧とは関係なしにADHが出てしまう(悪性腫瘍などに多い)。
 ②:視床下部のバソプレシン抑制ニューロンの障害で持続的にバソプレシン(ADH)がでてしまう。
 ③:臨床的にはSIADHを疑うが、ADH増加はみとめていない。:まれだがバソプレシン受容体変異により不適切に抗利尿が働くパターン(大人にも子供にも表出)
 ④浸透圧調整系に対するバソプレシン反応も問題なく、集合管での濃縮希釈機能も問題ないが、ADH分泌の閾値が低い

 この中の④がいわゆるreset osmostatにあたる。

 これは、重度の神経学的な異常、肺疾患、感染症、アルコール依存、悪性腫瘍、外傷などでもみられる。

 古典的なSIADHとreset osmostatを分けることは治療にとっても非常に重要な部分である。SIADHであれば飲水制限が重要ではあるが、reset osmostatではそうではない。

 ・定義について

 基本的な事項として人間の体では、血清浸透圧は280-290mOsm/kgになるように調整されており、これが浸透圧系とよばれている。この調整に関わる因子がADHである。
血清浸透圧が<275mOsm/kgではADH分泌は抑制されるし、血清浸透圧が上昇すればADHが分泌し浸透圧を整える。

 しかし、reset osmostatでは、ADHの出る閾値が低く慢性的な低ナトリウム血症になっている。




 この図ははreset osmostatの患者で血清Naが低いのに尿浸透圧上昇しているのがわかる。



 この図はreset osmostatの患者の血清Naと尿浸透圧の推移であり、血清Na130前後で尿浸透圧の増加がある。

 ・検査について

 Reset osmostatの検査にはどんなものがあるかだが、水分負荷試験である。

 経口でも点滴でもかまわないが、10-15ml/kgの水分負荷をおこない、reset osmostatであれば4時間以内に水分負荷量の80%以上が尿から排出されるが、SIADHではこれがおこらない。

 これは、reset osmostatでは前述したように集合管の部分の機能は維持されているためである。

 ・機序について

 なぜ、これが起こるかに関しては様々なものが言われている。

 ①腫瘍浸潤や自律神経の疾患で抑制系に支障がきて低い浸透圧でADHがでてしまう。
 ②sick cellsといわれる細胞膜の障害で細胞内外の電解質のバランスが崩れてADHの早期分泌が生じる。

 妊娠はreset osmostatがしばしば生じるため注意をする。平均5mEq/L低下し、妊娠後8-10週で達する。

 ・治療について

 治療は前述した何らかの原因があるのであれば、そちらの治療を行う(結核が根底にあるならそちらの治療を)。

 補正をすることで、逆に狡猾が刺激される場合があるため無理に正常に戻す必要はない。

 今回の論文ではもともと中枢性尿崩症で慢性的にDDAVPを使用しており、その慢性的な使用がreset osmostatを生じたのではないかというものであった。

 DDAVPに関しては短期的な副作用で多いのは軽度の低ナトリウム血症や頭痛である。
長期的使用に伴う副作用の報告は少ない。

 慢性的にDDAVPを使う中枢性尿崩症などの症例に出会うことは腎臓内科医としては少ないかもしれない(内分泌科で管理が多いかと。)

 ただ、今回この論文からはreset osmostatについても勉強になる部分も多い。



2017/03/26

低ナトリウム血症を再度考える パート2 (Rethinking about hyponatremia from case record of MGH NEJM)

パート1での回答は各々の中で出ただろうか?




今回の論文では数々学ぶポイントがある。


A)低ナトリウムと尿浸透圧高値の所見からは何を考えるか?
-CSWS(cerebral salt wasting syndrome)、薬剤、ホルモンの変化に伴うもの、中毒、SIADHなど。


今回の症例では甲状腺機能は問題なく、薬剤使用もなく、CSWSを疑わせる所見もなく、もし他の鑑別があがらないとSIADHになる。


・ここで、ポイントは若年女性では妊娠は考えなくてはならず、また妊娠は程度として強くないが低ナトリウム血症を引き起こしうることである(相対的水分過剰)。
・SIADHは常に除外診断である事である。


B)利尿剤の乱用と低ナトリウム血症
今回の鑑別で若い女性で考えないといけないのは、利尿薬の乱用である。
利尿剤の中でサイアザイドの使用はループ利尿薬より低ナトリウム血症を来たす。


まず、サイアザイドが低ナトリウム血症を来たす機序を説明する前に、一つ知っておく必要性があるのが、countercurrent multiplication(対向還流)というヘンレループ特有の機序である。
これは、ヘンレの下降脚は電解質の移動を起こさずに、水の再吸収を行う。
逆にヘンレの上向脚はNa/Cl/Kなどの電解質の再吸収のみ行い水の再吸収はおこさない。これにより髄質で高い浸透圧を作ることが出来る。
また、ヘンレループは腎臓の髄質にあるということも重要な情報である。

ループ利尿薬ではヘンレの上行脚でNa再吸収が阻害され、腎髄質の浸透圧が下がる。
それにより、最終的に水の再吸収が行われる集合管でも浸透圧が下がり、浸透圧勾配にしたがって移動する水は再吸収されにくくなる結果、尿量は増加。
サイアザイドは腎髄質の浸透圧に影響を来さないので、尿量の増加は多くはなく、またADHに対する水貯留の反応が良好なため低ナトリウム血症を生じる。


サイアザイドによる低ナトリウム血症は治療開始後1-2週間で生じる。


多いのは痩せた高齢女性であり、volume statusは正常な場合が多い。


この症例では、女性は若年であり発生頻度の多い年齢には合わないが鑑別としては残る。



C)副腎不全と低ナトリウム血症


全ての副腎不全で低ナトリウム血症は生じやすいが、原発性の場合に最も多く生じる傾向にある。


副腎不全の中でも原発性の頻度は稀である。これは、腫瘍・炎症・出血などで副腎が>90%破壊されると生じる。Glucocorticoidと mineral-corticoid(アルドステロン)の両方が低下するというのがポイントである。


二次性では下垂体機能低下, ACTH分泌低下による機序である。


原発性で低ナトリウム血症になる機序は2つあげられる。
①コルチゾールの欠乏
-これがADH分泌を抑制させる機構を破綻させる(CRH産生亢進でADH分泌促進)。


②アルドステロン欠乏
-尿細管のNaバランスを調整する部分を変化させ、低ナトリウム血症をおこす。


volume statusは正常か低下の場合がおおい。


この症例では、可能性は否定はできない。


D)MDMAの使用と低ナトリウム血症
エクスタシーとよばれるもので合成麻薬である。使用による合併症として高血圧・頻脈・横紋筋融解症・セロトニン症候群・低ナトリウム血症・昏睡・死亡などがある。


低ナトリウム血症の機序としてはADH様物質の増加と口渇に伴う飲水過多が原因となる。
volume statusは正常か低下の場合が多い。


この症例では薬剤のチェックで引っかからず病歴的にも合致しなかった(薬剤服用して1-3日で陽性になる)。


結果的には・・・
この症例では利尿剤濫用・副腎不全が除外できていない。


この症例を鑑別していくときのキーポイントは
・低血圧、軽度高カリウム血症、代謝性アシドーシスの点である。
低血圧に関しては、輸液のみで改善している。この点では、副腎不全には少しそぐわない。


軽度高カリウム血症や代謝性アシドーシスは、利尿剤の乱用を行っていた場合には高アルドステロン状態になり、低カリウム血症・代謝性アルカローシスになる場合が多く合わない。


この症例では最終的には、検査も行い原発性副腎不全という結果になった。

最初コルチゾールの基礎値を測定した際には高値であった。しかし、これはストレス環境下であり、その場合には高値になる事が多い。






今回の症例とは関係ないが我々として覚えておかなくてはならないのが、3次性の副腎不全(長期ステロイドによる副腎不全)である。


これは、長期ステロイド内服による視床下部-下垂体-副腎(HPA axis)の萎縮である。20-30mg/日のステロイドを5日以上使用した患者は常にリスクがあるが、 短期投与の場合は抑制も数日で改善する。機能低下は先ず中枢性に起こり、その後副腎萎縮となる。抑制されたHPA axisが戻るのには9ヶ月以上かかることを知っておく必要がある。そのために、ステロイドを避ける治療があれば選択することは重要である。


この症例からは様々学ぶものがあると感じた。低ナトリウム血症を見た時のアセスメントは非常に重要である。




2016/12/14

低ナトリウム血症に尿素投与を考える。

低ナトリウム血症の治療は悩む部分が多いし、難しいことが多い。

ご存知のようにガイドラインが2014年に欧州と米国から出ており、欧州のガイドラインがよく引用されており、その中でSIADHの治療に尿素の負荷が推奨されている(推奨は2D)。

In moderate or profound hyponatraemia, we suggest the following can be considered equal second line treatments: increasing solute intake with 0.25–0.50 g/kg/day of urea or a combination of low dose loop diuretics and oral sodium chloride.

では、尿素の負荷はどのように作用するのか?を少し考えてみたいなと思う。

調べてみると意外に尿素の歴史はふるい。。
1950年代に提唱され(この時は受け入れられなかったよう)、1960年代には頭蓋内圧や眼球内圧をあげる治療として標準治療となった。尿素は点滴で投与されていたとのことで、今では想像がつかない。(Urovertという点滴:糖を含有し溶血を防いでいた。)
その後、マンニトールなどが簡便であるということで使用され、Urovertは過去のものとなってしまったらしい。
尿素の点滴は問題が色々とあり、尿素は腸管吸収も良かったことから経口薬として1892年に利尿薬として初めて使用されたまた、1926年の報告では心不全で使用された報告がある。
このように尿素負荷は注目を浴びている。

尿素は有効浸透圧か?
→尿素は非有効浸透圧である。アルコールやエタノールと同じである。
有効浸透圧としてはブドウ糖やマンニトールや高張性造影剤などがある。

血液に尿素が入ると:
尿素に関しては血液中に入っても筋肉細胞や脳細胞などに分布し、血清浸透圧はわずかに上昇はさせ(20mOsm程度)、BBBを介して脳細胞から水が移行する。
しかし、浸透圧格差はすぐに是正される。
理由としては
1:脳細胞内にゆっくりであるが尿素が移行する。
2:尿から尿素排出で尿素が下がる。

尿からの尿素は:
尿素投与ですぐに尿素の排泄が亢進される。腎機能が問題ない方であれば12時間で全てが排泄される。最大尿希釈力から最大排泄尿量がわかるが、溶質負荷に伴い最大排泄尿量が増加する。その際に自由水の排泄が亢進する。

尿素負荷に伴うNa上昇に関しては自由水排泄に伴うものである。

実際3%生理食塩水と比較するとどうかも乗っていたが、3%に関しては希釈尿が上昇した際にovershootする可能性があるが、尿素では少ないとされている。

しかし、尿素の内服はどのようにすればいいのか?美味しくないそうである。
アミノレバンも一つの方法である。これも美味しくないそうである。
美味しくないため患者さんのQOLが極端に落ちたそうである。

とても勉強になる。患者さんにとって一番いい治療が選択できればいいと感じる。



2012/09/05

water restriction

 SIADHにおける水分制限を少しでも科学的にする方法はないかと思ったら、New England Journal of MedicineのClinical Practice記事に自由水クリアランスを用いた方法が提案されていた(NEJM 356 2064 2007)。自由水クリアランスは、次のように表される(尿素は細胞内外を自由に出入りするので、"effective solutes"の電解質を用いている)。前の項は、尿中への溶質排泄が増えると自由水排泄が増えることを説明する。尿素によるSIADHの治療でもお馴染だ。

                              solute excretion / Uosm x (1 - (U-Na + U-K) / P-Na)

 今回は後の項に着目する。(U-Na + U-K)がP-Naより小さい時、自由水クリアランスは正となる。この場合、少しは自由水排泄ができるので、水分制限は甘めでもよく、論文では1L以下/日という。それに対して(U-Na + U-K)がP-Naと同じ位か大きい時、自由水クリアランスはゼロか負となる。この場合、腎臓はより水を貯め込むモードなので、水分制限は厳しめ。論文には(自由水クリアランスがゼロで)500-700ml/日、(負で)500ml以下/日とある。

2012/06/29

ユリア 1/3

 今回は、面白いJournal Clubをする事ができた。おそらくトピックがよかった。また、通常30分のトークを、たまたま他に話す人がいないので内容と時間を増量することができたのもよかった。Academic positionを目指すなら、どこに行こうとも面接とレクチャがセットになっているので、こういうチャンスを逃さずに長いトークの練習をすることが大切だ。

 さて今回取り上げた論文は、"Efficacy and Tolerance of Urea Compared with Vaptans for Long-Term Treatment of Patients with SIADH"(CJASN 2012 7 742)だ。ユリア(urea、尿素)もバプタン(vaptan、バソプレシン受容体拮抗薬)もうちの病院では滅多に使わない。とくにユリアはもはや米国ではすたれた診療で、簡単には手に入らない。

 慢性で中等度のSIADHに外来でバプタンを処方すれば患者さんに莫大なお金がかかる。それで、利尿剤と水分制限と塩でなんとかやるわけだが、ベルギーのグループは米国では忘れられたユリアを使い続けており、今こそそれを再び世界に問う時期だとこの論文を発表した。CJASNのeditorialまで付いた注目記事だ。

 ベルギーのある病院では、バプタン登場とともに慢性SIADHの患者さんをSALT-2などの治験に参加させていたのが、治験が終わると製薬会社が薬をくれなくなり困っていた。そこで、バプタンとユリア、どちらが有効なのか比べてみようと始まったのがこのスタディだ。13人の患者さんに、1年間バプタンを試し、約一週間バプタンを止め、Naレベルが下がってから1年間ユリアを試した。

 結果は、基本的にNaの上昇率に差はなかった。バプタン治療は一人が口渇が強すぎてやめてしまったが、ユリアは全員が中止せずに飲み続けた。血中尿素窒素(BUN)は人によって100mg/dlを越えたが、ユリア自体は尿毒物質ではないので何も起こらなかった。ユリア内服中の一人、89歳の男性が肺炎に掛かってNa 155mEq/lになったが、Naは何事もなく下がり、肺炎治療後にユリアの内服を再開した。つづく。