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2020/04/20

少し時代に乗って~COVID-19と腎臓 Part4~

今回は少しCOVID-19の腎病理の話に触れていきたいと思う。
主には中国からのKidney internationalの報告をまとめたいと思う。

まず、この報告ではCOVID-19の病理解剖26例を検討している
(死亡率に関しては、国ごとにも異なるが、0.3-10%程度である)。
■患者は平均69歳で、男性19人、女性7人。
■死亡は全例呼吸不全で、7症例が多臓器不全を併発(死亡時点での腎不全はわかっていないものも多い。)
病理所見としては
 ・全例で急性尿細管障害・壊死(ATI/N)が認められた(9症例は重度であった)。←これは以前の報告でも同様であった。
 ・2症例は炎症浸潤や細菌などの所見もあり、腎盂腎炎を認めた
 ・3症例に糸球体血栓症が認められた。
 ・全例に高血圧に伴う血管変化が見られた(18症例は中等度〜重度であった)。
 ・免疫複合体沈着は1症例のIgA腎症を除いては明らかなものはなかった。


上の表が26名の患者さんの左から光学顕微鏡所見、電子顕微鏡所見、蛍光抗体検査所見になっている。興味深いのは、全例にATI/Nが認められていること、年齢平均からも当然かもしれないが、動脈硬化がある症例が全例であるということである。

続いての上表が患者の採血結果や尿所見や既往歴になる。
・得られていない情報もあるがCrが正常な患者さん(単位がμmol/Lなので、mg/dlにするには88.4で割ればいい)も多い(実際に報告でAKIの割合は感染者の0.9-29%と幅広い)。
・既往歴としては、基礎疾患をもっている人が多い。
・尿所見に関しては得られているケースは少ないが、得られている中ではかなりの割合で尿異常所見をきたしている可能性がある。


では、実際の画像所見を見ていこう。


上記は光学顕微鏡所見になる。
一番上段のa,bでは近位尿細管に注目している。aでは近位尿細管のBrush borderの脱落を認めておりATI/Nの所見と判断できる。bでは、尿細管細胞の空胞化(vacuolization)を認める。これは、ATI/Nの際にも認めるが、これらの症例の場合には重症症例に対するマンニトールや免疫グロブリン製剤の投与に伴う二次性の変化が考えられる。
c,dでは炎症細胞浸潤を見ている。cでは尿細管にdでは血管への浸潤を示している。
eでは尿潜血陽性の4症例に見られた尿細管上皮内のhemodsiderinの沈着を見ている。
fでは、横紋筋融解症に伴うものと考えられるpigmented castが認められる。
gでは、3症例に認められた糸球体内血栓を示している。
hでは、7症例で、pseudocrescent(ボーマン嚢スペースに血漿の滲出物) の所見を認めている。

*ATI/Nは多種の原因で起こりうることには注意する必要がある。これは、COVID-19の別の報告でも言われている。
*COVID-19は血栓リスクも増加させ、今回の採血検査データでもあったようにD-dimerの上昇を認めることも一つの特徴である。
*また、別の報告になるが、黒人においてCOVID-19感染でAPOL1 nephropathyの増悪を起こしCollapsing glomerulopathyを起こすことが示唆されている(Toll-like receptorを介したりや樹状細胞の活性化によって全身の炎症反応を惹起し、これがAPOL1 nephropathyのsecond hitになっていると考えられている)。


続いて電顕所見を示す。
a-dはVirion(細胞外のウイルス本体)であり、大きさは65-136nmで、周囲に20-25nmの独特のspikeを認める。aは近位尿細管、bは遠位尿細管、c,dはpodocyteの部分にあることをしめしている。
TMAで認めるようなFibrin factoidsや血小板の集合体はCOVID-19の症例では認められていない。


最後は蛍光染色であるが、これで注目するのはACE2の染色である。基本的にはACE2は近位尿細管に発現しているが、COVID-19感染では過剰発現をしている。発現の主体はATIが生じる近位尿細管の部分だが、ボーマン嚢上皮やPodocyteにも染色されていた。dはCOVID-19の核蛋白に対する染色を見ているが、尿細管上皮に発現が見られていた。


まだ報告症例が26例と少ないというところ、全症例のデータが完全ではないところ、コントロールがないところなどはlimitationとしては挙げられるが、本邦でも症例は増加しており、非常に参考になるのではないだろうか?
個人的には、全身状態が悪化している症例に対して、通常通りだが過剰な輸液は避けつつ全身管理を行うことは非常に重要だなと改めて感じた。

少しずつみんながコロナに慣れてきて、甘くなるときが本当に危険である。このような腎障害は起こさないほうがベストである!


2016/07/07

It's not that simple

 腎臓内科医をしていてなんとなく居心地が悪いのが泌尿器科のお話と血管外科(ブラッドアクセス)のお話だ。きちんと教わる機会がないのでもどかしい。ほんとうは腎瘻・尿管ステント留置・シャント造設・グラフト造設はひとりでは難しくても、せめてシャントエコー・シャントPTAくらいできたほうがいいなと思う。ASNのOpen Forumでも最近「フェローシップではinterventional nephrologyは教えないわけ?」というinterventional nephrologistからの問題提起があって、教えたほうがいいよねという意見が多く出ていた。

 さてその泌尿器科関連で、腎の単純のう胞は感染するか?という話題が出た。理論上のう胞は尿細管とつながっているので尿路感染で菌が入り込むことはあり得るけれど、ADPKDでもないとあまり聞いたことがない。システマティックレビュー(NDT 2015 30 744)によれば、119例(81例:definite、38例:probable)の感染のう胞のうち、definiteの68%、probableの91%がADPKDだった。逆にdefiniteの32%は単純なのう胞(29%が単一のう胞、3%が複数のう胞)だった。けっこう多いが、ADPKDののう胞感染ぐらいで報告しないだろうから単純のう胞の報告がover-representされているかもしれない。別のレビュー(JASN 2009 20 1874)には単純のう胞の総合併症率(出血・感染・破裂など)が2−4%と書いてある。

 いろんな診断基準があって症状(腹痛:約半数ではないことも、持続する発熱、抗生剤に不応など)、炎症反応(WBC、CRP)、培養結果(血液、尿)、画像(CT:のう胞内のCT値50HU以下で出血を除外、超音波、MRI、18F-FDG CT/PET)などが項目にはいっている(日本のADPKDセンターがだしたのはClin Exp Nephrol 2012 16 892、ROCなどはないが)。画像でよく用いられ信頼度がたかいのは造影CT、超音波と単純CTでの診断はむずかしい、MRIもいいのだろうが経験が少ない、CT/PETは他のモダリティで証明できないが必要なとき、ということだった。ちなみに肝のう胞の感染にはCA19-9が提案されているが腎にはそのようなバイオマーカーはないようだ。

 起炎菌は大腸菌が多く、緑膿菌、Klebsiellaなどが続く。大腸菌の単純のう胞感染からの脳膿瘍まで報告されていて、あなどれない(BMC Neurology 2014 14 130)。大腸菌による二次性脳膿瘍、硬膜下膿瘍はまれだが、尿路、胆道、整形外科手術などで血行性におこる(in vitroの実験で脳微小血管内皮細胞にエンドソームとして取り込まれ脳に入ると考えられているらしい)。半分以上の場合は高齢者、ステロイド内服、脾摘後、糖尿病、化学療法中などの免疫低下リスクがあった。

 感染した単純のう胞をどうするか。ADPKDの場合、抗生剤で4−6週間押す、穿刺は①腎周囲膿瘍、②どののう胞が感染しているか明らかで、大きく(3−5cmより大きいと抗菌薬は届きにくいとされる)、かつ経皮的に穿刺可能な場合が慣例という。単純のう胞もそれに準じるが、どののう胞が感染しているかはわかりやすいと思われる(前述の脳膿瘍報告ではMEPM 6g/dを6週間と、のう胞穿刺をおこなっていた)。なお、単純のう胞をエタノールや酢酸などの硬化療法でつぶすことがあるが、これは痛みがコントロールできないときなどのレアケースだ。



2013/12/05

無尿の尿も尿は尿

 「無尿透析患者さんの尿路感染症」という言葉は一見矛盾している。しかし、pyocystisといって(pyonephritisの姉妹語)膀胱が溶けるほどの感染で死亡にいたることは、あるそうだ。私は経験ないが、実際、報告もある(J Urol 1985 134 716)。
 では、無尿患者さんの膿尿は、すべて感染症なのだろうか?これについてはレビュー論文(KI 2006 70 2035)があって、いくつかある小スタディをまとめると、膿尿が尿路感染症かについてはPPVが11-70%(当てにならない)、NPVは90%を越えていた。
 では膿尿+細菌尿(で培養まで陽性)だったら?症状があれば、感染と取るのがリーズナブルだ。症状がない場合、実際の臨床では治療しないこともあるが、それで膀胱が溶けたということもあるようだ(Int Urol Nephrol 2002 34 415)。
 いままで正直あまり気に留めなかった無尿患者さんの尿だが、「無尿の尿も尿は尿」なようだ。感染のフォーカスを絞れないときなど、NPVが高いので膿尿がなければ除外に使えるし、あって培養まで陽性なら注意しなければならない。

2013/09/12

Focal pyelonephritis

 ほんとうに学ぶことは尽きないもので、いままでのトレーニングで「尿所見が正常なfocal pyelonephritis」なんて、正直聴いたこともなかった…。それで「どういうこと?」とClinical Comprehensive Nephrologyを読み返すと、focal pyelonephritisという言葉はなかったが腎膿瘍の項があった。そこには、症状が非特異的で熱だけなことも多いとはあったが、尿培養は陽性なような記載だった。しかし、孫引きした文献(Korean J Int Med 2008 23 140)によれば膿尿は約60%の症例にしか見られなかった。

 それからClinical Comprehensive Nephrologyを読んで、腎乳頭壊死(私はanalgesic nephropathyとしてしか知らなかったが、とくに糖尿病患者の尿路感染症に合併するらしい)、気腫性腎炎(糖尿病患者に劇症でおこる、閉塞を機転にすることもあるガス産生菌による尿路感染)、renal malacoplakia(単球系の殺菌能異常が関係した、主にグラム陰性桿菌の慢性感染による尿路の肉芽腫性変化)、黄色肉芽腫性腎盂腎炎(典型的には中年女性の繰り返す側腹部痛や膀胱症状で気付かれる、脂肪の蓄積したマクロファージが腎間質を置換する尿路感染)などの関連疾患を学んだ。

2011/12/29

Geographic nephrology

 さきほどのBEN(Balkan endemic nephrology)の話をしていたとき、ボスが"geographic nephrology"という造語を使った。そしてKorean hemorrhagic fever(いまはHFRS、hemorrhagic fever with renal syndromeという)の話になった。これは朝鮮戦争時代に兵士が次々にかかった病気で、臨津江(イムジンガン、임진강)の支流漢灘江(ハンタンガン、한탄강)から名づけられたハンタウイルスによる。

 ハンタウイルスにも何種類かある(JASN 2005 16 3669)。アメリカのものは主に呼吸器症状を呈し、4-corner area(New Mexico、Arizona、Colorado、Utahといった南西部諸州)に多い。HFRSは主にScandinavia諸国、Balkan諸国、Koreaで報告されている。原因は不明だが、血管内皮細胞障害が主因と考えられている。