FcRnは腎臓のどこにあるか?血管内皮、足細胞、皮質の集合管、そして近位尿細管に発現している(JASN 2000 11 632)。なかでも近位尿細管では刷子縁にあって、アルブミンを再吸収することができる。
というのも、FcRnはIgGだけでなくアルブミンにも結合するからだ。血中に最も多く、IgGと同様に半減期のながいアルブミンも、FcRnと結合して分解を免れている(結合のしかたや場所はIgGと少しことなり、IgGのようにFcRnとのあいだに塩橋をつくったりはしないが)。
とくにS1とよばれるより近位の部分では、clathrin-dependent endocytosisやfluid-phase endocytosis(pinocytosis、飲作用とも)によって尿細管内腔のさまざまな溶質分子が取り込まれる。このとき、リソソームによる分解からアルブミンを守り間質側に届けるのにFcRnが大事と考えられている(図はJASN 2014 25 443)。
近位尿細管のFcRnには、糖化やカルバミル化をうけた処分すべきアルブミンをリソソームに送る働きもある。無傷のアルブミンとは内腔pHがさがるまで結合しないが、これらの不要なアルブミンとはpHが下がる前に結合し、リソソームに引っ張り込んで内腔pHがさがると離して分解させる(図は前掲論文)。
しかし、そもそも糸球体はアルブミンを通過させないはずでは?教科書にも、陰性荷電とサイズによって糸球体はアルブミンをブロックすると書いてある。なので、前掲論文のタイトルは「近位尿細管とたんぱく尿:まじで!」だし、「このレビューには、糸球体バリアの役割が重要かどうかを議論する意図はない」と予防線を張るように前置きしている。
FcRnから外れるから詳しくは論文を参照されたいが、アルブミンのGSC(糸球体ふるい係数)はいままで思っていたよりずっと高い(つまり漏れやすい)という研究結果もでている。近位尿細管の再吸収異常でアルブミン尿が出るのは事実だし(ラットでFcRnのない腎臓を野生型に移植するとネフローゼ様になる;JASN 2009 20 1941)、内皮細胞をコーティングするglycocalyxの関与もわかってきた。この領域は、これからも目が離せない。
いっぽう、腎臓のFcRnとIgGの関係はどうか?つづく。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/08/28
2016/06/09
DN as microangiopathy
糖尿病性腎症(DN)はいまでこそ雑多な原因を集めてDKDというが、本来はmicroangiopathyの一つ(腎症、神経症、網膜症を合わせたtriopathyというのは和製英語かもしれない、海外では通じないのではないか)であるから、いくら足細胞病と言われても内皮細胞障害を起こしていることは間違いない。
内皮細胞障害といえばpre-eclampsiaで有名なsFlt-1(可溶性VEGFR1)、Endothelin-1、NO synthase、活性酸素、glycocalyx障害とかいろいろ聞くし、レビュー(J Diabetes Invest 2015 6 3)を読むとAGE(andvanced glycated endproducts)、TGFβ経路、VCAM障害、DAG(diacylglycerol)/PKC経路、polyol pathway経路(sorbitolの蓄積)、Angiopoietin 2 (Tek/Tie-2というチロシンキナーゼにつながる;内皮細胞のオルガネラWeibel-Palade bodiesにP-selectin、vWF、IL-8と一緒に詰まっている)などがでてくる。
それに新たにCathepsin S/PAR-2(protease-activated receptor)系が加わるかもしれない。Cathepsin Sは知らなくてもCystatin CはeGFRのことで知っているかもしれない。Cystatin CはCys-statinすなわちcysteine protease inhibitorで、Cathepsin Sは数あるcysteine cathepsinsのひとつ(ちなみにパパインもcysteine protease)。Cathepsinは通常リソソーム内にあってごみ処理をしているが、Cathepsin Sはいくつかの特別な役割がある。
たとえばマクロファージにおける抗原処理とMHCIIの抗原提示、平滑筋でAGIIに誘導され炎症・細胞死・動脈硬化を起こす。また細胞外基質のリモデリングに関与するのでTGFα・IFN-γなどのサイトカインに誘導されエラスチン、ラミニン、コラーゲンなどを分解して動脈瘤を進展させる。変わったところではBEN(Balkan Endemic Nephropathy、チュニジアでも報告がある;原因は真菌毒のOchratoxin Aが有力だ)で近位尿細管にCathepsin Sが大量発現していたという話もある。
またCathepsin Sには活性pH域が広くリソソームの外でも働くことができる特徴がある。こんな劇薬な酵素を野放しにはできないのでふだんはCystatin Cがその活性を1%に抑えているのだが、糖尿病性腎症では腎に浸潤したマクロファージで産生され、内皮細胞のPAR-2を介して内皮細胞障害を起こすのではというのが最近出た論文(JASN 2016 27 1635)だ。Cathepsin Sをマウスに注射したり、Cathepsin S inhibitor、PAR-2 inhibitor、Cathepsin Sたんぱく発現+mRNA in situ hybridizationなどをしている。
糖尿病性腎症にマクロファージが関与しているというのは、マクロファージのケモカインであるMCP-1(ケモカイン系譜のなかではCCL2と呼ばれる)が過剰発現していることなどから知られていた。マクロファージは抗原提示やサイトカインなどで炎症を掻き立てる元なので、Cathepsin Sもその一つなのだろう。でCathepsinはどうやってPAR-2を活性化しその先にはなにがあるのか。
PARは1から4まであって、もともとthrombin受容体ファミリーとして見つかった。PARと呼ばれるのは、この受容体のN末端にactivated peptideが組み込んであり(英語では結わえ付けるを意味するtethered ligandという)、proteaseがN末端を切るとtethered ligandが露出しN末端ループと触れ合いG-proteinが活性化する仕組みだ(Front Endocrinol Lausanne 2014 5 67)。
PAR-2は通常trypsinに切断されヒトではSLIGKV、マウスではSLIGRLが露出するのだが、Cathepsin Sはnon-canonicalまたはbiased cleavageといって通常と違うところを切断し通常と違うtethered ligandで受容体を活性化する。TVFSVDEFSAを露出するという論文もあれば(J Biol Chem 2014 289 27215)KVDGTSを露出するというのもある(PLoS One 2014 9 e99702)。
Cathepsin Sによって活性化されたPAR-2がどうなるかについてはまだ分かっていない。動物では炎症、内臓知覚過敏(visceral hyperalgesia)、そう痒などが起こり、痛覚についてはGαサブユニットによるcAMP増産を介してTRPV4をupregulateすると言われている。TRPV4はosmoreceptorとしても機能するので、内皮細胞膨化などに関係しているのかもしれない。MCP-1(とその受容体CCR2)もCathepsin SもPAR-2も治療ターゲットとして研究はされている。既存薬ではpropagermanium(セロシオン®;免疫賦活作用でB型肝炎治療にもちいられる)にCCR2阻害作用があることが知られている。
内皮細胞障害といえばpre-eclampsiaで有名なsFlt-1(可溶性VEGFR1)、Endothelin-1、NO synthase、活性酸素、glycocalyx障害とかいろいろ聞くし、レビュー(J Diabetes Invest 2015 6 3)を読むとAGE(andvanced glycated endproducts)、TGFβ経路、VCAM障害、DAG(diacylglycerol)/PKC経路、polyol pathway経路(sorbitolの蓄積)、Angiopoietin 2 (Tek/Tie-2というチロシンキナーゼにつながる;内皮細胞のオルガネラWeibel-Palade bodiesにP-selectin、vWF、IL-8と一緒に詰まっている)などがでてくる。
それに新たにCathepsin S/PAR-2(protease-activated receptor)系が加わるかもしれない。Cathepsin Sは知らなくてもCystatin CはeGFRのことで知っているかもしれない。Cystatin CはCys-statinすなわちcysteine protease inhibitorで、Cathepsin Sは数あるcysteine cathepsinsのひとつ(ちなみにパパインもcysteine protease)。Cathepsinは通常リソソーム内にあってごみ処理をしているが、Cathepsin Sはいくつかの特別な役割がある。
たとえばマクロファージにおける抗原処理とMHCIIの抗原提示、平滑筋でAGIIに誘導され炎症・細胞死・動脈硬化を起こす。また細胞外基質のリモデリングに関与するのでTGFα・IFN-γなどのサイトカインに誘導されエラスチン、ラミニン、コラーゲンなどを分解して動脈瘤を進展させる。変わったところではBEN(Balkan Endemic Nephropathy、チュニジアでも報告がある;原因は真菌毒のOchratoxin Aが有力だ)で近位尿細管にCathepsin Sが大量発現していたという話もある。
またCathepsin Sには活性pH域が広くリソソームの外でも働くことができる特徴がある。こんな劇薬な酵素を野放しにはできないのでふだんはCystatin Cがその活性を1%に抑えているのだが、糖尿病性腎症では腎に浸潤したマクロファージで産生され、内皮細胞のPAR-2を介して内皮細胞障害を起こすのではというのが最近出た論文(JASN 2016 27 1635)だ。Cathepsin Sをマウスに注射したり、Cathepsin S inhibitor、PAR-2 inhibitor、Cathepsin Sたんぱく発現+mRNA in situ hybridizationなどをしている。
糖尿病性腎症にマクロファージが関与しているというのは、マクロファージのケモカインであるMCP-1(ケモカイン系譜のなかではCCL2と呼ばれる)が過剰発現していることなどから知られていた。マクロファージは抗原提示やサイトカインなどで炎症を掻き立てる元なので、Cathepsin Sもその一つなのだろう。でCathepsinはどうやってPAR-2を活性化しその先にはなにがあるのか。
PARは1から4まであって、もともとthrombin受容体ファミリーとして見つかった。PARと呼ばれるのは、この受容体のN末端にactivated peptideが組み込んであり(英語では結わえ付けるを意味するtethered ligandという)、proteaseがN末端を切るとtethered ligandが露出しN末端ループと触れ合いG-proteinが活性化する仕組みだ(Front Endocrinol Lausanne 2014 5 67)。
PAR-2は通常trypsinに切断されヒトではSLIGKV、マウスではSLIGRLが露出するのだが、Cathepsin Sはnon-canonicalまたはbiased cleavageといって通常と違うところを切断し通常と違うtethered ligandで受容体を活性化する。TVFSVDEFSAを露出するという論文もあれば(J Biol Chem 2014 289 27215)KVDGTSを露出するというのもある(PLoS One 2014 9 e99702)。
Cathepsin Sによって活性化されたPAR-2がどうなるかについてはまだ分かっていない。動物では炎症、内臓知覚過敏(visceral hyperalgesia)、そう痒などが起こり、痛覚についてはGαサブユニットによるcAMP増産を介してTRPV4をupregulateすると言われている。TRPV4はosmoreceptorとしても機能するので、内皮細胞膨化などに関係しているのかもしれない。MCP-1(とその受容体CCR2)もCathepsin SもPAR-2も治療ターゲットとして研究はされている。既存薬ではpropagermanium(セロシオン®;免疫賦活作用でB型肝炎治療にもちいられる)にCCR2阻害作用があることが知られている。
2012/10/15
Glycocalyx
糸球体で血液をろ過する仕組み、という基本的な腎の生理学トピックですら決着がついていないのが腎臓内科の興味深いところだ。一般的には「基底膜が分子量サイズと陰性電荷によってタンパク質の透過をブロックしている」と考えられている。しかし、長らく"retrieval hypothesis(アルブミンは完全に基底膜を透過し尿細管で再吸収されるとする)"と呼ばれる仮説が唱えられていた。
"retrieval hypothesis"は否定されたが、現在でも基底膜のみならず、血管内皮細胞、そこにあいたfenestration(窓)、基底膜を作るmesangial cell、それに足細胞とそこから伸びた足突起、など様々な要素が血液と尿のinterfaceで物質交換に関わっていると考えられている。現在注目されている一つは、内皮細胞を内側からコートするglycocalyxとESL(endothelial surface layer)だ。
レビュー(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 258)によれば、GlycocalyxやESLを染色する技術のおかげで、それらを除いて蛋白尿が出たという研究結果がどんどん出るようになった。最近のJASNにも出た(JASN 2012 23 1339)。足細胞の異常が報告されてきた糖尿病腎症だが、内皮細胞の異常もあることが分かってきた。内皮細胞・メザンジウム・足細胞のそれぞれが大事ということか。
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