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2018/07/18

速報 成熟足細胞の完成!

 ハーバード大のWyss研究所といえば、人工脾臓とか人工腎臓などの開発研究をつづけているカッティング・エッジなところというイメージがあるかもしれない。そこから、新しい成果がでた。

 なんと、成熟足細胞を作った(Nature Protocols 2018 13 1662)。



 以前から同研究所はiPS細胞から腎の前駆細胞や、いろんな腎の細胞が混じったorganoidを作る技術はあった。しかし今回のプロトコルは、本物と90%相同の足細胞を大量につくるものだ。

 その詳細なやり方が「キドニービーンズのレシピブック」のように論文に載っているのだから、すごい時代だ。なんでも、匠の技で未分化iPSを「糸球体チップ」という糸球体内皮細胞を模したmicrofluidic cell culture systemに作りあげるのだとか。



 もちろん腎臓は複雑だから、足細胞を糸球体に植え込むのと、たとえば心筋に心筋細胞を植え込むのとでは話がちがってくる。それでも、足細胞は極めて分化が高くすばらしい機能をもった「賢い」細胞だから(あと、「優しい」から)、荒廃した糸球体に降り立っても、天使のように瀕死の内皮細胞を抱きしめて、ネフロンを作り直してくれるかもしれない。
 
 

 足細胞が作れるのなら、足細胞以外の細胞も作れるだろう。日本もふくめて世界中で競うように研究しているわけだし、再生腎臓ができるXデーは近いのかもしれない。また、つくった足細胞から足細胞病の理解も進むことが期待される。

 まだあまり(少なくとも日本語では)報道されていないが、価値あるニュースとしてとりあげた。続報に期待したい。





2017/08/29

赤ちゃんに学ぶ 4

 腎臓のFcRnとIgGについては、とくに足細胞の研究が知られている(PNAS 2008 105 967)。足細胞のFcRnは、基底膜からIgGを取り込み除去する働きがある。基底膜をすり抜けるが足細胞(のスリット)をすり抜けないIgGのような物質は、理論上基底膜を詰まらせる。透析膜の孔がつまるのと同じ考えだ。

 そしてIgGが基底膜に詰まっては、免疫複合体とか補体とかが沈着して炎症など面倒なことになる。腎生検の電子顕微鏡で腎炎・ネフローゼにみられるelectron dense deposit(高電子密度沈着物、図は日本病理学会による病理コア画像から)など、まさに基底膜に沈着した免疫複合体をみている。





 それでは困るので、足細胞が基底膜からIgGを除去していると、この論文からは考えられる。実際マウスに高濃度のIgG注射をおこなうと、(足細胞のFcRnが飽和するためか)基底膜にIgGが沈着した。またアルブミンを注射した(FcRnの飽和を意図した)マウスにネフローゼをおこす抗体を極少量注射しただけでも、蛋白尿がみられた。

 蛋白尿=基底膜の異常=基底膜の病気、というわけでは必ずしもなくて、内皮細胞や足細胞の病気(足細胞病、という言葉もある)ととらえなおされている、という枠におさまるお話だなと思う。前の投稿によれば、そこにさらに近位尿細管も加わるのかもしれない(たとえば、糖尿病性腎症やAlport症候群に治験されているバルドキソロンは糸球体の炎症を抑えるが、尿細管ではmegalin発現をさげて蛋白尿を起こす;JASN 2012 23 1663)。

 なお、その近位尿細管は足細胞を通り抜けたIgGをアルブミンのように再吸収するかと言うと、そうではないらしい(JASN 2009 20 1941)。これが、尿路の免疫として身体を守っているという説を唱える人もいる(J Immunol 2015 194 4595)が、いまだ推測の域をでていない。

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ここまで赤ちゃんがお母さんから免疫をもらう話にはじまり、FcRnをテーマに創薬、免疫疾患、腎臓でのアルブミンやIgGのろ過や再吸収まで、領域横断的にみてきた。ワーズワースはMy Heart Leaps Upという詩の中で子供は大人の父である(The Child is the father of the Man)と言ったが、赤ちゃんから学べることはたくさんある。

 そしてこの詩はこう終る;

I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

 (虹をみて心が躍る少年のように)自然を敬う心に満ちた日々を送れますように、というような意味だ。

 


2016/06/09

DN as microangiopathy

 糖尿病性腎症(DN)はいまでこそ雑多な原因を集めてDKDというが、本来はmicroangiopathyの一つ(腎症、神経症、網膜症を合わせたtriopathyというのは和製英語かもしれない、海外では通じないのではないか)であるから、いくら足細胞病と言われても内皮細胞障害を起こしていることは間違いない。

 内皮細胞障害といえばpre-eclampsiaで有名なsFlt-1(可溶性VEGFR1)、Endothelin-1、NO synthase、活性酸素、glycocalyx障害とかいろいろ聞くし、レビュー(J Diabetes Invest 2015 6 3)を読むとAGE(andvanced glycated endproducts)、TGFβ経路、VCAM障害、DAG(diacylglycerol)/PKC経路、polyol pathway経路(sorbitolの蓄積)、Angiopoietin 2 (Tek/Tie-2というチロシンキナーゼにつながる;内皮細胞のオルガネラWeibel-Palade bodiesにP-selectin、vWF、IL-8と一緒に詰まっている)などがでてくる。

 それに新たにCathepsin S/PAR-2(protease-activated receptor)系が加わるかもしれない。Cathepsin Sは知らなくてもCystatin CはeGFRのことで知っているかもしれない。Cystatin CはCys-statinすなわちcysteine protease inhibitorで、Cathepsin Sは数あるcysteine cathepsinsのひとつ(ちなみにパパインもcysteine protease)。Cathepsinは通常リソソーム内にあってごみ処理をしているが、Cathepsin Sはいくつかの特別な役割がある。

 たとえばマクロファージにおける抗原処理とMHCIIの抗原提示、平滑筋でAGIIに誘導され炎症・細胞死・動脈硬化を起こす。また細胞外基質のリモデリングに関与するのでTGFα・IFN-γなどのサイトカインに誘導されエラスチン、ラミニン、コラーゲンなどを分解して動脈瘤を進展させる。変わったところではBEN(Balkan Endemic Nephropathy、チュニジアでも報告がある;原因は真菌毒のOchratoxin Aが有力だ)で近位尿細管にCathepsin Sが大量発現していたという話もある。

 またCathepsin Sには活性pH域が広くリソソームの外でも働くことができる特徴がある。こんな劇薬な酵素を野放しにはできないのでふだんはCystatin Cがその活性を1%に抑えているのだが、糖尿病性腎症では腎に浸潤したマクロファージで産生され、内皮細胞のPAR-2を介して内皮細胞障害を起こすのではというのが最近出た論文(JASN 2016 27 1635)だ。Cathepsin Sをマウスに注射したり、Cathepsin S inhibitor、PAR-2 inhibitor、Cathepsin Sたんぱく発現+mRNA in situ hybridizationなどをしている。

 糖尿病性腎症にマクロファージが関与しているというのは、マクロファージのケモカインであるMCP-1(ケモカイン系譜のなかではCCL2と呼ばれる)が過剰発現していることなどから知られていた。マクロファージは抗原提示やサイトカインなどで炎症を掻き立てる元なので、Cathepsin Sもその一つなのだろう。でCathepsinはどうやってPAR-2を活性化しその先にはなにがあるのか。

 PARは1から4まであって、もともとthrombin受容体ファミリーとして見つかった。PARと呼ばれるのは、この受容体のN末端にactivated peptideが組み込んであり(英語では結わえ付けるを意味するtethered ligandという)、proteaseがN末端を切るとtethered ligandが露出しN末端ループと触れ合いG-proteinが活性化する仕組みだ(Front Endocrinol Lausanne 2014 5 67)。

 PAR-2は通常trypsinに切断されヒトではSLIGKV、マウスではSLIGRLが露出するのだが、Cathepsin Sはnon-canonicalまたはbiased cleavageといって通常と違うところを切断し通常と違うtethered ligandで受容体を活性化する。TVFSVDEFSAを露出するという論文もあれば(J Biol Chem 2014 289 27215)KVDGTSを露出するというのもある(PLoS One 2014 9 e99702)。

 Cathepsin Sによって活性化されたPAR-2がどうなるかについてはまだ分かっていない。動物では炎症、内臓知覚過敏(visceral hyperalgesia)、そう痒などが起こり、痛覚についてはGαサブユニットによるcAMP増産を介してTRPV4をupregulateすると言われている。TRPV4はosmoreceptorとしても機能するので、内皮細胞膨化などに関係しているのかもしれない。MCP-1(とその受容体CCR2)もCathepsin SもPAR-2も治療ターゲットとして研究はされている。既存薬ではpropagermanium(セロシオン®;免疫賦活作用でB型肝炎治療にもちいられる)にCCR2阻害作用があることが知られている。



2012/05/22

Diabetic kidney disease

こないだは、地域の開業医を招いて、最新の知識をアップデートする年に一度のCME(生涯学習)イベントがあった。なかでも目玉の講演はペンシルベニア大学の先生によるdiabetic nephropathyの分子生物学的な機序についてだった。糖尿病性腎症こそ腎臓病のなかで最も多いもので、その原因はmultifactorialで解明は難しいと思っていた。

 しかしこの先生は糖尿病性腎症の患者さんとそうでない人達の遺伝子発現の違いを調べて、主な違いはpodocyteに関する遺伝子だと発見した。それで糖尿病→podocyteのアポトーシス→糖尿病性腎性という動物モデルを作った(Diabetes 2006 55 225)。

 さらに、どうしてpodocyteのアポトーシスがおこるの?というのをこれまた遺伝子検索して、炎症とか、cell interactionとか、developmental pathway(Notch1)とか、色々研究しているらしい。炎症については、新薬bardoxoloneが抗炎症作用で腎症の進行を抑えようとしているし、MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1、研究論文はDiabetes 2009 58 2109)もそのantigonistの臨床応用が試みられている。