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2020/10/01

速報 The 2020 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease

 腎臓内科医にとって重要な診療指針の1つであるKDIGOの新しいガイドラインが発表された. CKDと糖尿病の関係はこれまでも, そしてこれからもきっと続いていくだろう.

 ガイドラインは5つのチャプター, 3つのポイント(エビデンスはないが概念的に重要),  12個の推奨(エビデンスあり)より構成されており, 昨今話題のSGLT2阻害薬の使用についても当然に言及されている. 

 下記, 一部抜粋 

 CKDとDMが認められる患者さんへ集学的治療を行う理由は, CKDの悪化の進展の抑制と心血管イベントの抑制のためである.

 集学的治療とは具体的には下記である.

 ・全例:血糖管理, 血圧管理, 脂質異常症への対応, 運動, 栄養, 禁煙

 ・大部分の患者:SGLT2阻害薬, RAS阻害薬

 ・ごく一部の患者:抗血小板薬

 ではさらに一部を細かくみてみる. 

 RAS阻害薬は, DM+高血圧+アルブミン尿が認められる場合は可能な限り最大量を投与する. 特に初回投与後2-4週間後に血清K値とCr値を確認しCr上昇とK値の変動がないか確認する. また, アルブミン尿のみでも投与を検討して良い. しかし, 高血圧もアルブミン尿もなければ投与の意味合いは薄いだろう. RAS阻害薬の開始量, 調整すべき点が具体的に記載された表があり参考にする(下記参照).

 血糖管理に関しては, HbA1cは年2回ないし血糖管理が悪い時はその都度行う. 目標値は<6.5-8.0%で個別化して対応する. HbA1cは腎機能障害の進行と共に正確性が低下する為, 注意する. よって腎機能が高度低下した症例ではHbA1cの代わりにCGMを行うことが血糖コントロールに有効となりうる.

 食事運動に関しては, タンパク摂取は0.8g/日, 透析始まれば1.0-1.2g/kgである. 塩分はNaClで5g<日. 中等度の運動を≧150分/週行う.

 具体的な治療に関しては, 食事運動で体重を落とすことに加えて, 2型糖尿尿の場合は薬剤ではメトフォルミン, SGLT2阻害薬が第1選択である. どちらの薬を最初に投与するかは決まっていないが, メトフォルミンが多いようだ. さらに, メトフォルミン単剤で治療が達成されてもSGLT2阻害薬の投与の余地を検討しても良いようだ. 

 なお上記2剤の使用に関してだが, メトフォルミンの投与はeGFR<45で減量, eGFR<30または透析開始では中止であり, SGLT2阻害薬はeGFR<30では開始せず, 透析開始で中止となっている. 

 その次の薬剤は患者の好み, 合併症, eGFR, 費用までを考慮するがGLP1受容体作動薬が好まれるようである(ここでのeGFR cut offは30であるが, SGLT2阻害薬に関しては, DAPA-CKDの結果を受けて引き下げられる可能性もある.). 他の薬剤の組み合わせについても図がガイドラインの中に記載されている.

 これだけでもまだ抜粋である. 情報量がとても多い. 

 個人的な意見としては, 今回の改定は本文を読まなくてもかなり理解が進むよう図が多様されている点と, 具体性を重視した記載をされている点が素晴らしいと思った. 例えば, RAS阻害薬という括りだけでなく具体的なACEI阻害薬の中での薬剤別の使い方まで詳細に記載されているのが印象的であった. どこから読んでも勉強になるようなガイドラインだなと思うので皆様も是非一読をされると良いだろう.


図:ARB/ ACEIの薬剤別の投与量と注意点(日本の保険用量との差異に注意)
 

 

 



 

 

 

2020/06/18

速報 KDIGO 2020 GNガイドライン案

 KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)と聞けば、腎臓内科医師は必ず振り返る。代表的な腎臓疾患に対するその時点でのエビデンスを集約したガイドラインを作ってくれるからだ。

 様々な分野に対するガイドラインがあり、世界中の多くのガイドラインも参考にしている由緒正しいものである。しかしながら、トピック毎にアップデートの速度は様々だ。

 そんななか、ついに満を持してKDIGO CLINICAL PRACTICE GUIDELINE ON GLOMERULAR DISEASESのpublic review draftが公開された!

 実にKDIGO2012から8年越しの改訂である(もちろん抜粋であり、あくまでもdraftである点には注意が必要である)。項目としては以下があり、どれも魅力がいっぱいである。
 
  1. 糸球体疾患の全体のマネジメント
  2. IgA腎症/IgA血管炎
  3. 膜性腎症
  4. 小児のネフローゼ症候群
  5. 成人の微小変化群
  6. 成人の巣状糸球体硬化症
  7. 感染関連糸球体腎炎
  8. MPGN関連の免疫グロブリンや補体関連腎症
  9. ANCA関連血管炎
  10. ループス腎炎
  11. 抗GBM抗体糸球体腎炎

 特に注目すべきは、どんな点だろうか?一部を紹介すると:

・膜性腎症とMPGN関連のところは、治療のスタイルが変わるだろう。

・ステロイドを用いた免疫抑制療法に対するスタンスが、この8年でだいぶ変化したと感じるだろう。

・IgA腎症に対する扁桃摘出術の記載が変更されたことにも、気づくだろう。

 筆者たちも、これからしっかり目を通したい。なお、まだpublic review draftであるから、上記KDIGOサイトからは(各章についてと、全体についての)コメントやフィードバックを6月30日まで提出できるようになっている。




 



2018/10/09

ある外来の症例から

 65歳男性。健康診断でクレアチニンと尿酸の高値を指摘され受診。eGFRは45ml/min/1.73m2、尿蛋白・尿潜血は陰性。尿酸値は7.8mg/dl、痛風の既往はない。




Q:高尿酸血症の治療を推奨しますか?


 上記のような症例は日常よく経験されるし、尿酸値をさげてCKDの進行が遅らせられればよいなと思う。FEATHERスタディ(doi: 10.1053/j.ajkd.2018.06.028)は、そんな思いを確信にしてくれるはずの研究だった。

 しかし、2年間観察して介入群の尿酸値を4mg/dlにしっかり下げても、eGFRのスロープに有意差は見られなかった。両群ともにCKDの進行がゆっくりすぎて有意差がつかなかったのだとすれば、患者さんにとってはよかったのかもしれないが。

 ただし、CKD3a期・Cr値が全コホートの平均より低い・蛋白尿陰性などの例では介入群のeGFRスロープに右肩上がりの傾向が見られた。だから、これらの群では尿酸をさげる治療が正当化されやすいかもしれない。

 高尿酸血症の薬にはそれぞれにさまざまな売りと弱みがあるが、そもそも治療するかどうかの部分で「推奨する、しない、いずれのエビデンスも不十分(KDIGOガイドライン)」だ。がっかりされるかもしれないが、治療するにせよしないにせよ、患者さんにはそれを知ってもらう必要がある。

 

2018/07/15

最新の高血圧ガイドラインを振り返って 2

 今回は少し具体的な数字と我々が悩ましい分野について触れたいと思う。

 個人的に悩ましいなと考えるのが妊娠と高血圧である。

 カナダのガイドラインにおいても、この妊娠と高血圧の部分に関しては別の論文に記載されている。

 妊娠と高血圧に関しては、まずは2つの論文がキーの論文となる。

 一つはCHIPS(Control of Hypertension in Pregnancy Study)である。

 →これは、拡張期血圧を100mmHg未満とtightではないものと85mmHg未満とtightにした
 ものと比較したものである。この研究では、血圧のコントロールが悪いものでは、胎児
 の出生体重、早産児、前子癇、血小板低下、肝機能上昇、入院期間などで優位差を持っ
 て大きかった。

 →血圧のコントロールの重要性が示された。

 もう一つはこのCHIP trialのsecondary analysisであるが、上記の血圧コントロールを行う場合に薬剤をラベタロールで行う場合とメチルドーパで行う場合を比較している。

 →結論としては、薬剤でどちらがいいかの有用性に関しては、示されなかった。

 薬剤の際にいつも迷うのがカルシウム拮抗薬はどうなのか?

 →日本の高血圧ガイドライン 2014では妊娠20週以降であれば、メチルドーパ、ヒドララ
  ジン、ラベタノールに加えて、ニフェジピンも第一選択にいれてもいいとしている。

 しかし、長時間作用型のニフェジピンは様々なトライアルやsysytematic reviewで安全性や効果が証明されてはいるが、安心して過度に使うのは良くない。

 カナダのガイドラインでは下記の指摘を行っている。

 ・収縮期血圧≧140mmHgか拡張期血圧≧90mmHgで妊娠中の人は降圧薬の開始を検討する。
 ・最初の降圧薬は単剤で。降圧薬としては経口ラベタロール、経口メチルドーパ、長時間作用型の経口ニフェジピンや他の経口β拮抗薬を推奨している。
 ・単剤でも十分な降圧が得られない場合にはfirstlineの薬剤を併用して用いる。
 ・その他の降圧薬(ヒドララジン、サイアザイドなど)はsecond lineとして考慮する。
 ・ACE-IやARBは妊娠中の患者では使用するべきではない。
 ・収縮期血圧≧160mmHgか拡張期血圧≧110mmHgの妊娠中の人はugentの降圧治療を必要とする。

 最後に2018年のESH/ESCもガイドラインを出しており、それをまとめたものを表で掲示する。

 これを見ていると全世界に衝撃を及ぼしたACC/AHAの2017年度のガイドラインもうまく踏襲しながら、各国でガイドラインを設定している。

 やはり心血管リスクがある症例ではしっかりと降圧を行うことが推奨されている。





 日本のガイドラインもどのようになるかは非常に楽しみである。



2018/07/11

最新の高血圧ガイドラインを振り返って 1

 ご無沙汰しております。

 今日は高血圧のガイドラインについて最新のものを含めて話したいと思う。

 現状の最新(2018年7月現在)のガイドラインは日本のはまだ発行されておらず、2014年のが一番新しい。

 この1〜2年は高血圧診療に関しては世界的にも大きく変わったことは非常に重要な事実である。

 今回は2018年に出たカナダの高血圧のガイドラインを中心に話す。




 まず、血圧測定方法に関してはAOBP(Automated Oscillometric Blood Pressure)という方法が推奨されている。

 では、AOBPとはなんなのか?についてだが、これは「医師や看護師のいない状況で、血圧計内蔵のタイマーを用いて5分間安静にした後に,1分間隔で3回測定する」ものである。
これをすることのメリットは患者の不安の軽減、測定者による測定経験や誤差の軽減につながると言われている。

 この方法が、この高血圧診療を変えている論文の測定方法に用いられている。SPRINT trialACCORD trialはこの方法を用いられている。

 では、この測定が用いることができる血圧計としては

 BPTru ( カナダ、入手できなくなる )
 OMRON HEM 907XL (SPRINTでも使用された、日本でもおなじみ)
 the MicroLife WatchBP Office (台湾 )
 the PRO BP2400

 がある。

 測定場所に関しては、ガイドラインではGrade Cではあるが手首より上腕での測定が推奨されている。

→ただ、全例が手首の測定がダメというわけではない。

 特に肥満患者には、上腕の測定時に腕に比して血圧測定部分が細く狭くなりやすく血圧上昇をしやすくなってしまう。そのため腕での血圧測定が推奨されている。

 これは、カナダのガイドラインでもGrade Dではあるが推奨されている。

 では、ABPM(Ambulatory BP monitoring:24時間血圧測定器)とAOBPはどちらがいいのか??

→これに関しては、カナダのガイドラインではABPMや家庭血圧測定が患者のフォローアップ血圧にはいいということがGrade Dではあるが推奨されている(白衣高血圧のため)

 このABPMかAOBPの比較に関しては2017年にsystematic reviewが出されている。これによるとAOBPはABPMに取って代わることはできないとなっている。

 一つ話題にもなっているneprilysin阻害薬について触れたいと思う。

 これは、収縮機能低下の心不全患者さんに対する薬物として2014年のNEJMで注目されたものである。

 neprilysin阻害薬:ナトリウム利尿ペプチド,ブラジキニンなどの血管作動性ペプチドを分解する酵素である、neprilysinを阻害し、分解を妨げることで血管収縮やナトリウム貯留、リモデリングなどをもたらす神経ホルモンの過剰な活性化を妨げる。

 2014年のNEJMでは、収縮力低下の心不全患者に対してアンギオテンシン受容体拮抗薬とNeprilysin阻害薬の合剤(ARNI:angiotensin receptor blocker-neprilysin inhibition)が死亡および心不全による入院のリスクが有意に低かった。

 カナダのガイドラインでは、Grade Aで適切な治療(β阻害薬やACE-I/ARBなど)をしているにも関わらず症状の残っているような収縮力低下(EF<40%)の心不全患者にARNIの使用を推奨すべきとしている。

 その際に、副作用のことも考えてこれもGrade Aで血清K<5.2mmol/L、eGFR≧30ml/min/1.73m2の人に使用することが推奨されている。

 次は実際の数字の比較などをしたいと思う。

 ただ、我々もどうしても数字に目が行きがちにはなるが、それがどのようにして測定されたか?を常に考えてあげることが重要である。






2018/05/02

腹膜透析(PD)における悩ましい点 3

 今回は腹膜透析で常に難しいなと感じる出口部感染と腹膜炎の話題に触れようと思う。今回の投稿では出口部感染とトンネル感染。

 まず、世界的にはISPDのガイドラインは2016年のものが出ている(日本語版も出ている)。

 この世界的なガイドラインは1983年に出され、その後1989年、1993年、1996年、2000年、2005年、2010年と改定されている。

 出口部感染に関しては、日常の腹膜透析の外来を行っていると遭遇する場面は非常に多い。

 出口部感染で重要なことは

 1:予防(消毒など)
 2:評価
 3:治療

 である。

 1.予防

 一番大切なのはPD管理の教育である。PD導入時の教育と教育が不十分な場合には再教育を行う必要性がある。特に手指消毒は非常に重要である(RCTでの証明はない)。

 出口部のケアに関しては、現時点では優れた洗浄剤の指摘はないが、ポピドンヨード群で出口部感染が減少したという報告もあるが、強く支持できるだけのエビデンスに至っていない。

 S. aureus(黄色ブドウ球菌)による出口部感染は頻度が多く、腹膜炎や腹膜透析の中断に繋がる。ムピロシン軟膏の塗布は多くの報告で有用性が示されている。

 2.評価

 出口部感染はカテーテル出口部や周囲の皮膚発赤の有無にかかわらず膿性の滲出物があることで診断される。


近森病院写真より引用(http://www.chikamori.com/page1011.html)

 トンネル感染は皮下トンネル部に発赤・腫脹・圧痛・硬結が認められる場合に診断される。通常は出口部感染を伴っている場合が多い。

 出口部感染は、そのため膿性滲出物の所見が重要になる。これがなくて培養だけ取ってみたら陽性だった場合は、おそらくは出口部の所にコロニー形成しており、感染とは評価し難い。

 また、出口部感染のアルゴリズムを下記に示す。





 ここで、一つ悩ましいのはカテーテル感染を疑って超音波検査を行うかであるが、超音波検査の適応としては

 ・トンネル感染が疑われる場合の初期評価
 ・トンネル感染の臨床所見が認められない出口部感染の初期評価(特に黄色ブドウ球菌)
 ・抗菌薬投与後の出口部感染およびトンネル感染の経過フォロー目的
 ・再燃性の腹膜炎のエピソードがある場合

 などが挙げられる。

 超音波が容易に利用できる場合には、一度トンネル感染の有無は見ておくのがいいと考える。

 3.治療
  
 治療に関しては経口抗菌薬が基本となり、期間は緑膿菌によるものを除き、最低2週間の治療期間が必要である。緑膿菌に関しては最低3週間の治療期間が必要である。

 今回詳細な抗菌薬などや菌については触れないが、グラム染色を行い起因菌がグラム陽性菌か陰性菌かを確認することは、治療薬の選択で非常に重要である。


http://www.rouringi.jpn.org/gakujutu/biseibutsu03.html より引用


 また、難治性(3週間の抗生剤投与でも治療が無効)の出口部感染やトンネル感染の場合には、カテーテル抜去・異なる出口部での再挿入が推奨されていることには留意する必要がある。

 次回は、腹膜炎の話を少し触れたい。その中でも培養陰性の腹膜炎について触れようと思う。






2018/05/01

腹膜透析に対する悩ましい点 2

 新年度も腹膜透析の話題から始めようと思う。4月はバタバタしてしまい、投稿できずに申し訳ない。
 
 前回、体液のコントロールの難しさをお話しした。

 今回は溶質のコントロールの難しさを考えてみる。

 溶質の除去として腹膜の性質を知っておく必要性がある。

 腹膜透析は透析液を腹膜に入れる。それがどのようにして溶質を除去しているのか?つまり、腹膜透析液と血管のなかの溶質がどのようにして交換をしているのか?である。

 重要な因子としては毛細血管壁、間質、中皮細胞がある。


京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 このなかで最も重要なのが毛細血管壁である。毛細血管壁は水と大分子量の溶質の障壁として働いている。

 間質も重要であり、小分子量の溶質の30%相当の障壁になると言われている。

 最も重要な毛細血管壁の部分には3つの細孔(pore)がある。

 1. Large pore:数は少ない。大きな分子の通過や水に寄与
 2. Small pore:数はたくさん。小分子や水の移動に寄与
 3. Ultrasmall pore:水の移動のみ(Aquaporin-1と呼ばれる水チャネルがある)





 腹膜の溶質除去に関わる因子としては

 ・有効腹膜表面積:有効腹膜毛細血管表面積(有効灌流された毛細血管の数)
 ・毛細血管:壁の透過性
 ・間質透過性
 ・腹膜荷電
 ・腹膜透析液と中皮細胞間の拡散距離

 などがある。

 溶質で小分子(BUN、Cr)の除去の場合

 拡散(Diffusion)により除去される:そのため透析液濃度、腹膜透過性、有効腹膜表面積によって決定される。


http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph59.html より引用


 溶質で大分子(タンパクなど)の除去の場合

 拡散(Diffusion)と対流(Convection)の両方の働きによるが、基本的には移動速度は分子量が大きいほど移動速度は遅い。

 小分子量物質の腹膜移送率と限外濾過量を評価する目的で腹膜平衡試験(PET:Peritoneal Equilibration Test)が行われる。PET検査は、

 ・D/P CrでCr(溶質・尿毒素)の透析液への除去を評価する。
 ・D/D0 Glucose で血液内への再吸収を評価している。




 PET検査のやり方に関しては下記になる:


京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 注意点として、用いる液は主には2.5%ブドウ糖液を用いる。患者さんには前日からのプライミングを依頼する。

 かなり患者にとっても時間的な制約も出る検査であり、施設によって異なるが年に1-2回程度で行う場合が多い。

 PET検査に関しては、ブドウ糖が腹膜透析から血液に早く移行する場合にはHighになり、移行が遅い場合にはlowになる。

 移行が早いと早期に浸透圧勾配がなくなり、除水ができなくなるため透析液の貯留時間は短くすべきである。下記がまとめた表になる。



京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 溶質除去の効率としてKt/V ureaが用いられており、ISPDガイドラインでも1.7以上が推奨されている。これは、先行研究で1.6-1.7未満では死亡率が上昇したという報告があるのが一因である(PDI 2004

 では、このKt/Vが患者の死亡率にどこまで直結するかについては、下記の2つの研究が重要であるが、結論としては小分子の除去とアウトカムの直結はなかった。
CANUSA study(2001年 JASN:カナダ・米国での研究)




 ADEMEX study(2002年 JASN:メキシコでの研究)




 なので、現時点ではKt/Vに関しては、適切な物質除去が行えているかのマーカーになっているのみであると報告もされている(2016 Seminar in dialysis)。

 色々と内容が飛び飛びになってわかりづらいと思うが、次回も少し腹膜透析について続けようと思う。





2018/03/19

低ナトリウム血症をもう一度まとめる ①

低ナトリウム血症に関しては、以前にも様々書いている(Reset Osmostat, 尿素投与, Free water clearanceなど)
しかし、振り返ってみると、majorな項目はそこまで記載していなかった。

今回、Neph maddness 2018(腎臓の分野で何が重要だったかをみるもの)で低ナトリウム血症が取り上げられていたので、少し触れたいなと思う。

まず、低ナトリウム血症のガイドラインとしては、欧州のガイドライン米国のガイドラインがある。
主に用いられるのは、欧州のガイドラインかもしれないがしっかりと両者を理解しておくことは重要である。
Nephmadnessの図に非常にわかりやすい図があったので添付する。
Nephmadness 2018より

基本は患者の重症度の把握を行う。
→緊急性の対応が必要であれば高張食塩水投与を行う(ヨーロッパガイドラインでは5mEq/Lあげる、米国ガイドラインでは4-6mEq/Lあげる)。

高張食塩水の作り方は生理食塩水500mlから100ml抜き、そこに10%生理食塩水を120ml追加することで作成できる。

治療においては、やはりover correction(過補正)を防ぐことが一番である。
そのため厳密な尿量管理やNa管理が必要となる。とくに、その中でODS(浸透圧性脱髄症候群)を発生するリスクが高い患者(重症低ナトリウム血症、低カリウム血症、肝硬変、低栄養、アルコール依存)は補正のスピードを通常よりもゆっくりとしたほうがいい。

もし、過補正になった場合には再誘導する必要がある。
Neph madness2018より
図は非常にわかりやすく、通常であれば24時間以内に8mEq/L以下にする。しかし、上記のようなリスクが高ければ6mEq/L以下にする必要がある。

次回はCSWSとかに関してふれたい。
頑張れ低ナトリウム血症!!

2018/02/12

腎臓内科にとっての糖尿病 ① :まずは基礎

腎臓内科をしていると糖尿病の患者さんの診察も必然的に多くなる。また、腎機能が悪くなった時に薬の相談も受ける頻度が増えるのではないかと思う。
その時にやはり相談を受ける頻度として上位に来るのは下記のようなコンサルトではないか?


A先生「慢性腎不全の患者さんで患者さんの病態とかを考えると第一選択になっているメトホルミン製剤を使用したいのですが、乳酸アシドーシスはどこまで気にしなくてはならないのですか?どこの腎不全から使っちゃだめですか?」


少しこのあたりに関しての知識の整理ができればと思う。


まず、ガイドラインから振り返ってみる。
日本でも毎年糖尿病治療ガイドというものが出されており、非常に安価に情報をUP dateすることができる。


米国ではADAが毎年standard medical care in DMを出しており、今年も1月に改訂されている。


まず、糖尿病治療を行うときに重要なことは
①コントロール目標
②介入(今回は薬物中心)
③合併症管理


である。


①まずはコントロール目標である。
下図はADAのものであるが、目標としてはHbA1c<7.0未満である。
ちなみに7.0がどれくらいの血糖なのかは平均血糖で154程度である。これをみてこれを調べていて、このくらいのHbA1cでこのくらいの血糖なのかと知ることができたのは本当に勉強になった。
ADAガイドラインより
続いて日本では高齢者なども分けて下記のような目標値になっている。
高齢者のポイントはその人のADLや認知機能や合併症などを考慮しての数値目標になっている。
糖尿病ガイドより
糖尿病ガイドより
ただ、腎不全患者では腎性貧血などに伴い著明な貧血になった場合には血糖管理目標に関しては注意をする。その際にはGA(グリコアルブミン)を用いた管理をした方がいいという報告が多い。




次回に②を簡単にお話をして、最後に文献を用いてメトホルミンに関しての有用性などをお話ししたい。



2018/02/07

腎移植後の高血圧~どのようにして治療する?~

まず、腎移植後の高血圧に関しての血圧管理目標については、2017年度のACC/AHAのガイドラインでも130/80mmHg未満の推奨である。


降圧目標に関しては、ACC/AHAのガイドラインが新しくでて、日本のガイドラインも今後反映されるかもしれないが分かりづらいので下図を添付する。

Neph JCより引用
高血圧の患者の治療にあたって、まずは
①カルシニューリン阻害薬の内服で血中濃度はどうか?を確認する。
②薬剤でのコントロールを行う。
・カルシウム拮抗薬(CCB)
第一選択として好まれることが多い。
理由:降圧効果が確立しており、CNIによる血管収縮を最小限にするため。
Up To date より
カルシウム拮抗薬については2009年のsystematic reviewでも効果が証明されている。
この報告ではプラセボ、ACE-Iに比べて降圧効果としてはCCBが一番効果があったというものである。
カルシウム拮抗薬はジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系に分かれ、特に非ジヒドロピリジン系に関しては薬剤との相互作用に注意をする必要がある。
-ジヒドロピリジン系:アムロジピンヘシル酸塩、ペルジピンなど
-非ジヒドロピリジン系:ジルチアゼム塩酸塩、ベラパミル塩酸塩など


非ジヒドロピリジン系に関してはCYP3A/4の阻害を行う。
CYP3A/4はCNIやmTOR阻害薬の代謝に重要であり、非ジヒドロピリジン系の使用で血中濃度が上昇してしまうので注意する。


・ACE-I、ARB
追加薬として使用は検討すべきである。動物実験レベルではあるが、シクロスポリンによる腎症の予防に働く。
ACE-I/ARBに関してはCKDには有用であることが証明されているが、移植後の有用性の証明は乏しい。そして、いくつかの良くない点も指摘されている。
a)シクロスポリンとの併用で腎血管への影響を来し、GFRの低下をおこす。
b)シクロスポリン/タクロリムスは尿中K排泄低下を来し、高K傾向になりやすく、ACE-I/ARB使用でさらなる高Kになるリスクがある
c)ACE-Iによって移植患者の貧血を惹起する(5-10%に生じる)。それがシクロスポリン内服で顕著化する。

いい点としてはARBによって移植後の尿酸低下をもたらし痛風の予防や降圧・タンパク尿減少に役立つ。

なので、ACE-I/ARBは使用するにしても移植後すぐではなく、3-6か月以上たって安定した状態のほうが望ましい。

薬剤に関しては、やはり薬剤相互作用をしっかりと確認しておくことが非常に重要である。それに関しては、下の表を参考にしていただきたい!
JASN 2015より

移植の高血圧管理は非常に重要である。
レシピエントにとってもドナーにとっても腎臓は非常に大切であり、我々もしっかり高血圧の管理を知っておくことが重要である。







2017/12/28

腎臓内科 with B 2

 腎炎などに対して免疫抑制をかける時には、HBV再活性化が問題になる。歴史的にはリツキシマブでとくに問題になったようで、劇症B型肝炎にいたった症例もある。治療と副作用のリスクを勘案するのはどの病気でもおなじだが、この場合どうすればよいのか?

 これについて調べるのはそんなに難しくなくて、「リツキシマブ B型肝炎」とでも検索すればいくらでも資料がみつかると思う。ここでは、日本のガイドラインに載っているアルゴリズムを添付しておく。


 
 ほかにも、HBV感染腎移植レシピエントのマネジメント(肝生検の意義、肝腎移植の選択肢、抗ウイルス薬の選択など)や、透析患者へのHBVワクチンで留意すべきこと(反応がよくない、用量をふやす)なども考慮が必要だ。ちゃんとbrush upしておかなければならない。







2017/12/26

腎臓内科が必要とされるとき~急性血液浄化を考える~下巻

今回、下巻として、まずはどんな透析方法を用いるかについて話したいと思う。


透析方法に関しては大きく分けるとIRRT(intermittent renal replacement therapy)、CRRT(continuous renal replacement therapy)に分かれる。
まず、この両方のmodarityについてであるが、一般的にはCRRTのほうが血圧変動が少ないので血圧が低い場合に用いられることが多い。


注意点:
※CRRTであっても透析を開始してすぐの血圧低下(initial drop)は生じるという事は念頭に置く必要がある。
※血圧変動がある場合でも効率をあげる必要がある病態(重度高カリウム血症、重度尿毒症など)は血圧を維持して、IRRTを選択する必要がある。


まず、CRRTとIRRTに関しては2007年の論文では血行動態が安定しているものに対しての差は出ていなかった。2013年のsystematic reviewでも大きな差はみられなかった。ほとんどのRCTでの論文でもCRRTの有用性を示している論文はなかった。SSCG(surviving sepsis campaign gudeline)でも、重症感染症とAKIの患者に対しての短期死亡率を比較した場合にCRRTとIRRTの差はなかったとしている。
しかし、2017年のGMSの論文ではCRRTのほうが腎回復や経済学的な面でも良かったという事が言われている。


まだ、どちらのmodarityがいいかに関しては、明確な結論は出てはいないが、KDIGO2012のガイドラインではCRRTは血行動態が不安定な患者や、急性脳卒中や他の頭蓋内圧亢進を生じさせる病態があるAKIや脳浮腫があるAKIの患者には適応となる。


自分の施設でもCRRTの稼働に関しては少ないが、それで困った事は少ないと感じている。
ちなみに日本で多く用いられる血流量などを下図に示す。
日本内科雑誌 103巻 5号より

では、CRRTになった場合に治療量をどのように決めればいいのか?は悩む部分であろう。


CRRTで決める必要性があるのは血液流量(Qb)、透析液流量(Qd)、濾液流量(Qf)である。


まず、設定するにあたって浄化量(Qd+Qf)のことが悩ましいのではないだろうか?
CRRTの中で、CHFであればQd=0、CHDであればQf=0、CHDFではQd+Qfとなる。


これらの3つに関しては一般的に小分子量物質のクリアランスはほとんど差がないが、中分子量物質のクリアランスに関してはCHF>CHDF>CHDとなる。そのため、目的物質に対してQfをおおくするのか、Qdを多くするのかは変えるのは一つである(たとえば、サイトカインを除きたいならばQfを多くしたりする。)。


注意点:
※血液濃縮や膜劣化を防ぐためにQfはQbの30%未満に設定する必要がある。
※浄化量の保険上限に関しては15-20L/日までになっている。


まず、浄化量をどのくらいにすればいいのかは悩むかと思う。
これについては歴史を知っておく必要性がある。
2000年にC Roncoらの報告で浄化量を25ml/kg/hr、35ml/kg/hr、45ml/kg/hrで比較した際に25ml/kg/mlに比して有意に35ml/kg/hrや45ml/kg/hrが予後が良かった。
そのため、この時点では高流量の浄化量の方が予後がいいという風潮になっていた。

その後、2つのRCTが2008年と2009年に出された。
一つはATN(Acute Renal Failure Trial Network) studyで、1124人をintensive therapy群(循環動態安定:週6回のHD、循環動態不安定:35ml/kg/hrのCVVHDF、または週6回のSLED)とless-intensive therapy群(循環動態安定:週3回のHD、循環動態不安定:25ml/kg/hrのCVVHDF、または週3回のSLED)を施行し、結論としては60日死亡率に差は認めなかった。



もう一つはRENAL(Randomized Evaluation of Normal Versus Augmented Level Replacement Therapy) studyである。これはオーストラリアとニュージーランドで行われ、1508例のAKIをhigher intensive therapy(浄化量が35ml/kg/hrのCHDF)とlower intensive therapy(浄化量が25ml/kg/hrのCHDF)にわけて、90日死亡率を見ているが有意な差は認めなかった。



なので、それまで主流であった浄化量は大容量ほどいいというのではなく、現在の至適の浄化量はKDIGOのガイドラインでの20〜25ml/kg/hrを推奨量としている。

Crit care 15:207,2011より

つまり、患者が50kgで浄化量を20ml/kg/hrで設定した場合には、浄化量は1000ml/hrとなる。その浄化量を病態に合わせて、QdとQfに分ければいいということになる。

※CRRTでの透析での注意点として透析液に注意する必要がある。透析液にはリンは含まれていなく、またKは2であり、Mgは1に設定されており下がりやすいため注意する必要がある。

腎臓内科は急性血液浄化ではやはり第一線に立って治療をしていく必要がある。少しでも自信を持って第一線で戦って欲しいと思う。


2017/12/09

ADPKD~少し知っておいていいこと~

T 「ADPKDのこと好きになりました!色々と他に知りたいこともあって。。嚢胞ってプスッと穿刺して水抜いて小さくするのはどうなんですか?あと、トルバプタンに関しても具体的な使い方や保険も教えてくれませんか?」


M 「とても大事な疑問ですね。やはり、実際に机上の話だけでは臨床の応用はできないので、今日はしっかりと実践にもつながる事を含めて話しましょう!」


★腎嚢胞穿刺吸引について
前提として、腎嚢胞穿刺吸引によって腎機能が保たれたりするエビデンスは現時点では認めていない。そのため、無症状の患者に腎機能を良くするために穿刺吸引を行う事はすすめられない。
基本的に適応になるのは、症候性(嚢胞に伴う慢性疼痛。腹部圧迫症状)の改善のための一つの手段として使用される(J Endo 2013)。
海外のものでは、吸引ドレナージにはなるが感染性嚢胞で抗菌薬治療に奏功しない場合には適応となっている
下記はADPKD2014のガイドラインにある、Flemingらの症候性ADPKDの治療アルゴリズムである。

ADPKD ガイドラインより抜粋
どのように手技を行うか:
エコー下経皮的腎嚢胞穿刺吸引療法が使用されている。
通常の単純嚢胞であれば穿刺して、縮小効果を維持するためにエタノールなどの硬化剤を使用する事が多い。
しかし、ADPKDなどであれば、基本的には全ての嚢胞へのアプローチはできないため安全性を考慮して、疼痛を来たしていると考えられる、1つないし少数の大きな嚢胞をターゲットとして治療する事が多い。


合併症は嚢胞出血・血尿・嚢胞感染・気胸などがあるため、注意する!


★トルバプタンの具体方法
トルバプタンの使用適応
①両側総腎容積が750ml以上
②腎容積増大速度が概ね5%/年以上


では、腎容積に関してはどのように測定するのがいいのか?
検査機械のmodarityは基本はMRIやCTを用いて検索する。測定に関しては下記のように計算をして腎容積をもとめる。


杏林大学ページより引用


なので、腎臓の容積をもとめ、年毎の増大速度を計算する。
そこから、年齢・両側総腎容積・腎増大速度/年をもちいて患者の腎機能低下を予測する(下図:大塚製薬資料より)。
大塚製薬資料より引用



大塚製薬資料より引用
なので、これによって患者さんには個別化した治療になる。
80歳の高齢者に腎予後をのばす事を目標としてトルバプタンの導入をすることは個人的には、適応は無いと考える。


もし、患者さんがトルバプタンの導入をしようと思った場合には原則は入院加療でおこなうべきである。用法・用量に関しては、色々とあるが一例としては、


160mg2回(朝45mg夕方15mg投与開始


160mgの用量で1週間以上投与忍容性があれば190mg(朝60mg30mg)へ増量


③最高用量を1120mg(朝90mg30mg)と1週間以上の間隔を空けて段階的に増量する。
    最高用量は1120mgまで


入院中の指導として大事なのは尿量が非常に増えるため、水分補給をしっかりとして頂くことが重要となる。また、肝機能障害の有無に関しては検査をする必要がある。


また、本邦ではADPKDに対するトルバプタンの処方にあたっては、高用量であり大塚製薬のe-learningを受講する必要があり、その受講後にもらえるサムスカカードが重要になる。
(e-learningの受講は担当MRに確認してください。)


また、大事なのは難病申請である。
難病申請を行う事で自己負担の軽減につながる。下図のように所得によってことなるが、自己負担額が3割→2割になり、軽減される。


大塚ホームページより
トルバプタンは30mg:4000円/錠で、60mg内服で8000円/日となる。
単純計算で(1か月を28日とした場合)
3割負担で67200円、2割負担で44800円となる。


そのうえで、上限が下図のようになる。そのため、難病申請は患者負担という意味では非常に重要である。
大塚ホームページより


T 「ありがとうございます!長々と話していただいてすみませんでした。腎嚢胞の穿刺吸引のこと、ADPKDの周囲の状況などよくわかりました。」


M 「日常の臨床では、患者さんの病態のこと周囲の保険のことの把握も非常に大事です!なので、患者さんの常に視点にたって医療をできるようにしましょう!」