前回、体液のコントロールの難しさをお話しした。
今回は溶質のコントロールの難しさを考えてみる。
溶質の除去として腹膜の性質を知っておく必要性がある。
腹膜透析は透析液を腹膜に入れる。それがどのようにして溶質を除去しているのか?つまり、腹膜透析液と血管のなかの溶質がどのようにして交換をしているのか?である。
重要な因子としては毛細血管壁、間質、中皮細胞がある。
京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/) |
このなかで最も重要なのが毛細血管壁である。毛細血管壁は水と大分子量の溶質の障壁として働いている。
間質も重要であり、小分子量の溶質の30%相当の障壁になると言われている。
最も重要な毛細血管壁の部分には3つの細孔(pore)がある。
1. Large pore:数は少ない。大きな分子の通過や水に寄与
2. Small pore:数はたくさん。小分子や水の移動に寄与
3. Ultrasmall pore:水の移動のみ(Aquaporin-1と呼ばれる水チャネルがある)
腹膜の溶質除去に関わる因子としては
・有効腹膜表面積:有効腹膜毛細血管表面積(有効灌流された毛細血管の数)
・毛細血管:壁の透過性
・間質透過性
・腹膜荷電
・腹膜透析液と中皮細胞間の拡散距離
などがある。
溶質で小分子(BUN、Cr)の除去の場合
拡散(Diffusion)により除去される:そのため透析液濃度、腹膜透過性、有効腹膜表面積によって決定される。
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph59.html より引用 |
溶質で大分子(タンパクなど)の除去の場合
拡散(Diffusion)と対流(Convection)の両方の働きによるが、基本的には移動速度は分子量が大きいほど移動速度は遅い。
小分子量物質の腹膜移送率と限外濾過量を評価する目的で腹膜平衡試験(PET:Peritoneal Equilibration Test)が行われる。PET検査は、
・D/P CrでCr(溶質・尿毒素)の透析液への除去を評価する。
・D/D0 Glucose で血液内への再吸収を評価している。
PET検査のやり方に関しては下記になる:
京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/) |
注意点として、用いる液は主には2.5%ブドウ糖液を用いる。患者さんには前日からのプライミングを依頼する。
かなり患者にとっても時間的な制約も出る検査であり、施設によって異なるが年に1-2回程度で行う場合が多い。
PET検査に関しては、ブドウ糖が腹膜透析から血液に早く移行する場合にはHighになり、移行が遅い場合にはlowになる。
移行が早いと早期に浸透圧勾配がなくなり、除水ができなくなるため透析液の貯留時間は短くすべきである。下記がまとめた表になる。
京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/) |
溶質除去の効率としてKt/V ureaが用いられており、ISPDガイドラインでも1.7以上が推奨されている。これは、先行研究で1.6-1.7未満では死亡率が上昇したという報告があるのが一因である(PDI 2004)
では、このKt/Vが患者の死亡率にどこまで直結するかについては、下記の2つの研究が重要であるが、結論としては小分子の除去とアウトカムの直結はなかった。
CANUSA study(2001年 JASN:カナダ・米国での研究)
ADEMEX study(2002年 JASN:メキシコでの研究)
なので、現時点ではKt/Vに関しては、適切な物質除去が行えているかのマーカーになっているのみであると報告もされている(2016 Seminar in dialysis)。
色々と内容が飛び飛びになってわかりづらいと思うが、次回も少し腹膜透析について続けようと思う。