2016/09/27

IgA腎症の治療って

IgA腎症の治療は2015年にSTOP-IgAN(N Engl J Med 2015;373:2225-36)がNEJMにでて色々衝撃を与えた分野である。
簡単に書くとSTOP-IgANは腎生検で診断されたIgA腎症においてACE-IやARBを用いて血圧を125/75mmHg未満にするなどの支持療法を6ヶ月しても蛋白尿≧0.75g/day以上の症例を対象としたRCTである。
支持療法群と免疫抑制療法併用群と比較している。免疫抑制療法群に関してはeGFRの値(60未満と以上)で異なる治療を行っている。
結果としては明らかな有意差はなく、ステロイド使用群で副作用でステロイド性糖尿病や体重増加のリスクが増加し感染症のリスクが増加した。
つまり、この群(蛋白尿≧0.75g/day以上)でも支持療法しましょうというものであった。

今回、JASNで[Corticosteroids in IgA Nephropathy: Lessons from Recent Studies]というbrief review(doi: 10.1681/ASN.2016060647)があり、よくまとまっていた。

現在のIgANの治療はKDIGO ガイドライン(KDIGO 2012)では
血圧コントロールは, ACE阻害薬やARBで行い,蛋白尿 <1g/dでは<130/80mmHgを目標、
蛋白尿 >1g/dでは<125/75mmHgを目標としましょう!

免疫抑制療法に関しては:3-6ヶ月のACE阻害薬やARBによる治療で、蛋白尿≥1g/dの場合は免疫抑制療法を行いましょう。免疫抑制療法はステロイドを主に使用しましょう
(Pozzi protocol:1gステロイドパルス3回(1,3,5ヶ月目)と隔日投与のPSL0.5mg/kg、
または0.8-1mg/kgの毎日の経口ステロイド内服)となっている。

様々なスタディが免疫抑制療法はどうなのか検証されている。
VALIGA cohort trial(Kidney Int 2014; 86: 828–836)ではRAS阻害薬単独よりもRAS阻害薬+ステロイド投与が蛋白尿>1g/dayの症例にはよく、eGFR<50の症例にもいいのではと言っている。

TESTING study( (ClinicalTrials.gov no. 01560052)はIgANで蛋白尿>1g/dayの症例でeGFRが20-120までの症例を集めステロイド治療(0.8mg/kg経口で2ヶ月でその後6-8か月で減量)の効果を見ている。
この症例では副作用で1.5年で中止になっている。副作用としては感染症である。ただ、ステロイド治療によって蛋白尿の減少含めた腎機能保護には優位に働いたという結果も得られている。

その他現在様々なスタディが進んでいる(直近ではIgANの病態で消化管の免疫の関連があるのではないかということで注目が集まっている、NEFIGAN trial: ClinicalTrials.gov no. 01738035)。これらは今後の結論を待ちたい。

なので、現状のIgANの治療判断としては難しいが、自分はこの論文の作者たちと同じ意見だが、KDIGOのガイドラインがなんだかんだいってバランスは取れていると考えそれを実践している。その中で、患者の状態や年齢を含めて考え、これらのスタディを活かせていけたらなと思う。

次回は日本の扁桃摘出パルスについて触れてみたいと思う。




             
                腎臓はやはり奥が深い。。



2016/09/06

O Captain My Captain

 手を動かして患者さんに管を入れたり抜いたり針を刺したり糸を縫ったりすることを「手技」というが、これは医学用語だからスマホに「しゅぎ」と話しかけても「主義」がでる。「企業会計原則」も「貸借対照表」もでるから、使用頻度の問題だろう。で、手技をあまりしないと非日常なものに感じられてくる。物品をそろえるのも場所を確保するのも一大事で、決められた時間に決められたことをやるという「お仕事感」が乏しい。しかし同じ病院の手術室やカテ室や透視室や透析室では日常的に手技手術が行われている。

 米国内科専門医をとるのに必要なのは末梢静脈ルート5本、末梢静脈採血5回、動脈ガス採血5回、動脈ライン5本、Papスメアと培養提出(婦人科領域)5回だったはず。中心静脈ルートも胸腔穿刺ももちろんやるが、理解して説明できればよく必須ではない。そこには手技は手技の人に任せるという文化があるからで、よく知られているだろうがたとえば末梢静脈の採血や穿刺はphlebotomist(和訳は「瀉血専門医」だの「静脈切開する人」だの追いついてないのでフレボトミストという)がやる。

 しかし、これから頭が人工知能に敵わなくなるかもしれないし、手は動かしていたい。腎臓内科なら透析カテーテル留置と腎生検に満足せず、インターベンショナル・ネフロロジー、とくにVAIVT(vascular access interventional therapy、たぶん和製英語)の世界に出て行きたい。まず末梢静脈、シャント・グラフト、動脈に穿刺ができて、ハッピーキャス®の種類に精通しないといけない(手技のデバイスは商品名でないといけない、そしてその会社の担当者さんがチームの一員としてモノを術場に出してくれる)。

 そのあと、留置用透析カテーテル挿入用トンネラーだの、5Frシースだの0.035インチのホッケー型ガイドワイヤーだの、CONQUEST®バルーンカテーテルだのMUSTANG®(アメリカの野生馬の意味)バルーンカテーテルだの、インデフレーターで16atmを1分だのと言われてわかるようになる。作法も、造影剤を生理食塩水と1:1で割ったら絶対に「ヘパ生(へぱせい、ヘパリン入り生理食塩水)」と間違えないようにするとか、透視室に入る時には透視を出していない時でも必ず放射線防護の服、甲状腺プロテクタ、水晶体プロテクタをつける(いつ不意に放射線が出るかわからない)とか習う。

 しかし一番だいじなのは、手技の術者は艦長や機長といっしょだということだ。とにかく離陸した以上は何があっても安全に着陸しなければならない。手術するからには手術する理由があるわけだから、困難があっても目的を達しなければならないが、目的が変わったときには臨機応変に動かなければならない。どちらも優しいスタッフの協力でやっていける(写真はドラマGOOD LUCK!で航空整備士を演じた柴咲コウさん)。唯一の違いは、機長は乗客と命を共にするが術者はしないということ(燃え尽きや針刺し事故や放射線被曝はあるが)。





2016/09/01

Canons and Apocrypha

 オーストラリア、ニュージーランドはけっこう自前でスタディを組み、その結果が斬新なことが多い。こないだAJKDにでたメタアナリシスも、腎不全患者さんにおいてリン吸着剤と生命予後に「相関はない」というもの(DOI:10.1053/j.ajkd.2016.05.015、日本のスタディもはいっている)。リン吸着剤は心血管病患者さんにおける抗高脂血症薬のようなキードラッグなだけに、真逆な結果すぎてしばらくは無視されるのではないかと思う。
 ただ、カルシウム含有吸着剤が非含有(セベラマーだけで、ほかはサンプル数が少ないためか有意差がなかったが)にくらべて生存率が低いという結果はほかの試験でも確認されているので、非含有の吸着剤が標準的になっていくのかなと思う。個人的には、リン値をmmol/lからmg/dlに変えるときには3.095975倍すればいいというのが発見だった。
 ガイドラインは質の高くないスタディが根拠なこともおおいが、載れば正典だ。ただ載らない外典にも、ある患者層には役立つのかもしれない。たとえば、毎食前に飲まなければないリン吸着剤を1回にしてみても、結構な人たちでリン値がかわらなかったというスタディがある(AJKD 2006 48 437、対象はセベラマー内服の白人とアフリカ系透析患者、平均年齢は72歳)。