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2018/06/15

ひとつの答えと、たくさんの質問

 アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。

 前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。




 このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。

 それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。

 実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。

 通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。

 しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。




 今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。

 結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。

 


 プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。

 もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。

 なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。

 質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。



2016/12/24

利尿剤が効かない!?(利尿剤抵抗性について考える) パート3

利尿薬抵抗性の症例を見たときにアルゴリズムがあるといいなと思うのは僕だけだろうか?
アルゴリズムはその流れに乗ればある程度うまくできるので好きなのだが、もちろんしっかりとなぜこのようなアルゴリズムになっているかなどを考えなくてはいけないと思う。
今回、アルゴリズムを乗せる。

1:アドヒアランスの不良やNSAIDsの使用はないかチェック!!
2:食事で塩分制限はできているか?
3:症例のPK,PDの点から考えて一回の利尿薬の投与量を増量したほうがいいのか回数を増やしたほうがいいのかを考える。
4:経口のループ利尿薬を使用し、ダメなら違う作用の利尿薬を加える(遠位尿細管の薬や近位尿細管作動薬など)
5:点滴投与を考える。ダメなら持続投与も考える。

パート2を読んでいただいた方にはスッと内容が理解できるであろう。

利尿薬抵抗性を乗り越えるために重要な点は
・2つの作用タイプの利尿薬を使用する(ループ利尿薬がファーストライン治療薬)。
・肝硬変症例であればフロセミドとスピロノラクトンの併用が様々なデータの蓄積がある。
・肝硬変以外の併用薬に関してはエビデンスが少ない。なので、小規模の研究からサイアザイドをセカンドラインの治療薬をして推奨されている。
・タンパク尿が出ている症例ではプラスミンの働きでENaCの活性が生じているので、ENaC阻害薬がいいかもしれない。

また、アセタゾラミドがペンドリンの阻害を起こすのでセカンドラインではどうだろうという意見もある。

本当に浮腫は悩まされるし、難しい。

ちなみに今回の症例はフロセミドの投与を行いつつ(しっかりと量と回数を注意して)、あとENaCを阻害するトリアムテレンを使用し、浮腫の改善を認めた。
つまり、今回の症例は
ネフローゼ、慢性腎不全、ENaC亢進などが主に利尿薬抵抗性に関連していたのだろう。


あと、ポイントとして利尿薬はスピロノラクトンとトルバプタン以外は糸球体濾過を受けずに近位尿細管から基本的には分泌されて作用するのはポイントだろう!

どうであろうか?
かなり深く抵抗性に関してかかせていただいた。腎臓内科は利尿薬使用のスペシャリストとしてしっかりと把握しなくてはと常に思う。


2016/12/22

利尿剤が効かない!?(利尿剤抵抗性について考える) パート1

利尿剤は腎臓内科がよく使う薬の一つである。
薬の選択に関してはもちろんであるが、効かない時にどうしよう?と迷うことが多いと思う。今回、AJKDに利尿剤抵抗性についての総評があったので読んでみた。

利尿薬の抵抗性に関しては定義としては
「利尿剤投与を最大量使用しているが、望んだ浮腫の改善がない。」
ものである。

利尿剤抵抗性の原因としては
・診断が間違っている(浮腫が静脈うっ滞やリンパ浮腫など)
・塩分制限や水分の制限が守られていない。
・薬が腎臓に届いていない。
 -アドヒアランスが悪い
 -量が少なすぎる、投与回数が適切でない
 -吸収が悪い(腸管吸収など:ネフローゼ症候群)
・利尿薬分泌の低下
 -尿毒素による利尿薬の吸収障害
 -腎血流の低下
 -腎の機能している範囲の低下
・薬物に腎臓が働かない
 -GFRの低下(心不全や肝不全など)
 -有効循環血液量の低下
 -RAA系の活性化
 -NSAIDsの使用(遠位の尿細管での代償性Na再吸収亢進)

症例を提示しよう。
55歳男性で浮腫と呼吸困難で入院。
肝硬変にはいたっていない慢性C型肝炎があり、MPGNで2回再発がある。
MPGNの再発はステロイドと利尿剤の併用で改善していた。
ただ、再発の影響か腎機能に関しては低下して、GFRが37mL/min/1.73m2まで低下。

今回は体重が20kg増加して、腹水も伴っていた。血圧は145/110mmHg
今回の診断としてはネフローゼ症候群の再発と考えられた。

腎生検が施行されて、C型肝炎関連のMPGNの再発が考えられた。

治療でフロセミドの投与を行い、持続まで行ったが体重減少に関してしっかりとした反応がなく、サイアザイド利尿薬なども使用するも反応が乏しい状態であった。

どう考えよう?利尿薬も最大に使ってるのに、、
上の抵抗性のに当てはまるものはあるのか??

次回少しずつ紐解いてみる。


2016/08/12

R and D

 こないだEテレを見ていたら、ドラッグ・リポジショニングという考え方が流行っていると言っていた。新規薬を開発するのにはお金がかかってリターンの保証がなく採算がとれない。そこで既存薬に新しい適応みつけようということだ。たしかにシルデナフィルが心筋梗塞の薬として開発されたがEDの治療薬に生まれ変わったり、複数の効能がみつかることはある。ただ、1番目の効能に比べて2番目の効能は眉唾じゃないかと思ってしまう(ロサルタンの尿酸低下作用とか、カンデサルタン・オルメサルタン・テルミサルタンのPPARγ活性化を介したインスリン抵抗改善作用とか)。新薬は高いから医療費的にはいいことだが。

 そんななか地道にR and B(写真はレイ・チャールズ)、じゃなかったR and D(研究開発)をしているのはボストンやベイエリアの大学からスピンアウトしたベンチャーくらいなのか。わが国は数字は知らないが薬の多くが海外うまれのものを委託販売するかライセンスを買って生産するかで、医療費すなわち税金などをどんどん海外にロイヤルティーとして垂れ流しているのが個人的には憂慮される。欧米が国益を保護している(トルバプタンのFDA却下だって、どこまで医学的な判断だか)ので、日本は東南アジアとインドあたりに活路を見出すつもりなのだろうか。

 ただこういう話は基本的に抗がん剤だのモノクローナル抗体だのと思っていた。が、JASNの速報でPendrin/NDCBE阻害薬の実験結果がでた(doi:10.1681/ASN.2015121312)。それぞれ集合管のB型介在細胞と非A非B介在細胞にあるCl-/HCO3-交換体、Na+依存のCl-/HCO3-交換体だ(以前にここここで触れた)。これらだけを単独で阻害しても利尿効果はみられなかったが、フロセミドとの併用や、慢性的なフロセミド使用モデル(遠位ネフロンが代償的にNa再吸収を増やす)で利尿効果を増幅した。腎だけでなく副腎にもPendrinはある(Am J Physiol Endocrinol Metab 2015 309 E534)のでホルモン抑制に働いたかもしれない。

 で、これらを阻害する小分子をみつけるのがhigh throughput screeningというシステムだ。ロボット、データ処理、解析ソフトウェアを使って何百万という実験操作を一度に行うことができる(と英語版ウィキペディアにすら書いてあるが初めて知った)。エディトリアル(doi:10.1681/ASN.2016070720)によれば、Pendrin/NDCBEだけでなく尿素トランスポーターUT-A1選択的阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113、尿濃縮に必要な浸透圧勾配を消す)、ROMK(ROMKは先天異常で立派にType 2 Bartterを起こす、体液保存に重要なチャネル)阻害薬Compound Aも見つかっている(Expert Opin Ther Pat 2015 25 1035)。

 Compound Aが細胞質ドメインでROMKに結合してイオン通過孔をふさぐことや、[5-(2-(4-(2-(4-(1H-tetrazol-1-yl)phenyl)acetyl)piperazin-1-yl)ethyl)isobenzofuran-1(3H)-one)]という長い名前を持っていることはこの際擱いて、とにかく人工知能、ロボット工学、ビッグデータ処理能力の発達によって本来R&Dは容易になったはずである。まあこれらの投資にお金がかかるのかもしれないが、やっぱり技術立国の日本が、オリンピックの金メダルのように、オリジナルのお薬で世界に通用するタクロリムスやイベルメクチンのような奇跡をたくさん起こすことを個人的には期待してしまう。

 もっとも今あげたお薬は動物実験レベルなのでどう転ぶかわらない(英語でくるかもしれない新薬をin the pipelineといったりする;日本語なら「卵」か)。いま利尿剤扱いされるお薬はNCCをターゲットとするサイアザイド、NKCC2のループ、鉱質コルチコイド受容体のMRA(余談だがPMSのお薬ヤーズにはスピロノラクトンより受容体親和性が8-10倍高いがプロゲステロン受容体にも親和性を持つドロスピレノンが入っている)、ENaCのアミロライド、脱炭酸酵素のアセタゾラミド、そして新たにV2RのバプタンとSGLT2のグリフロジンが加わったところだ。今後、さまざまにネフロン標的をブロックする「受容体標的利尿」診療の時代がくるのだろうか。





2016/07/12

Predicting diuretic response

 ADHF(急性非代償性心不全)における利尿薬のボーラスと持続を比較した論文については書いたが、そのあとでた利尿薬と限外ろ過を比較するスタディ(CARRESS-HFトライアル、NEJM 2012 367 2296)は読んだだけで書いていなかった。Cr 1.5-2.5mg/dl程度の心不全増悪で入院した患者を、末梢カテーテルを用いるAquadex®というUFマシン群と、尿量や血圧に応じて利尿薬の量や種類、昇圧剤などを調節するstepped pharmacological care群にわけて96時間後の尿量と腎機能悪化を比較ところ、マシン群で腎機能悪化が多かった。マシンを使い慣れなかったのと、薬剤調節のアルゴリズムがけっこうよく出来ているのでそれが効いたのかなとも思う。一日尿量3リットル未満、3−5リットル、5リットル以上で治療を動かすかなり大味なものではあるが、これで腎機能が動かなかったんだからいいのかもしれない(日本人は体重も小さいし利尿薬の効きが倍くらいなので、そのままは当てはめられないが)。

 またTolvaptanを心不全症例につかったことはある(いま読み返すと相当抵抗しているが、すくなくとも私が向こうにいた時にこの薬をつかうことはほとんどなかった)が、Tolvaptanを入院患者に用いたEVERESTトライアル(JAMA 2007 297 1319)のことは書いていなかった。いまさらだが、ベースラインCr不明(3.5mg/dl以上は除外)のADHF患者を通常のケアと30mg/dのTolvaptan群とプラセボ群にわけたところ、all-cause mortalityで非劣性(プラセボと比較して非劣性というのもどうかと思うがまあ害はないということ)で、心血管系イベント、心不全再入院などに有意差が見られなかった。入院翌日の呼吸苦改善、退院時・7病日の浮腫改善は有意だった(利尿剤を追加したんだから当たり前といえば当たり前だが)。低Na血症の改善にも有意差があって(6mEq/l程度あがった)、高Na血症の頻度は有意差は不明だがTolvaptan群でたかかった(口渇も)。

 EVERESTスタディをみる限り、入院医療費がTolvaptanよりもずっと高くて、使うことで日数が短くなるなら使ってもいいのかなと思うが、それはアウトカムにみつけられなかった。あとNa値をあげて認知機能や歩行障害が改善するならいいが(先日SIADHを対象にしたINSIGHTトライアルのパイロット結果がでたが、3週間の介入で精神運動スピードに差があったものの総神経認知機能には差がなかった、AJKD 2016 67 893)。あとTolvaptanもhANPと同じで、急性期に使って効くのはいいけれど退院後も十分な利尿を得るために使い続けることが技術的に金銭的に難しいので、結局ループとサイアザイドでお帰しすることになる。やはり再入院を防ぐには患者教育(水分、塩分モニター、体重に応じた利尿薬調整またはこまめな訪問看護、外来フォロー)なのかなと思う。

 というわけで特別にいい薬とおもっているわけでもない(作用後の揺り戻しNa保持傾向、RAA系亢進なども指摘される)がやっぱりループ利尿薬が心不全治療の基本だ。しかしその効きは腎機能が低いほど悪くなる。というところへ、ループ利尿薬を少しでも使いやすくするために反応量を予測できないかと調べた論文がでた、と教えてもらった(Circ Heart Fail 2016 9 e002370)。どんな魔法かと思ったらコロンブスの卵で、クリアランスCがUcr x V / Pcr、変換してV = C x Pcr / Ucrなことを元にして得た式だった(Ucrには静注後2時間のスポット尿を用いた)。このVは微分的な尿生成速度(instantaneous rate)になるが、ここでCにCKD-EPIのeGFR(ml/min/1.73m2)を当て、時間を2.5時間に(静注ブメタニドの半減期 x2、よく効いているあいだということ)、また体表面積を補正(BMIが40kg/m2以上では理想体重を使用)すると、2.5時間あたりの尿量が次式で得られる。
 
V(ml/2.5h) = eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h

 さらに、この尿にいくらのNaが含まれているかを計算するには尿Na濃度(mmol/l)をかけてミリリットルとリットルを同じにすればよい。

Na(mmol/2.5h)= eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h x UNa / 1000

 ブメタニドを用いたのは薬理学的により計算予測がより立ちやすいためだという。で、ADHFの入院患者さんで蓄尿とスポット尿採取を行い、式と6時間反応Na利尿量(mmol)の相関に関わる信頼性をvalidateした。患者さんは多くがEF 40%以下、フロセミド静注換算量で平均100mg/dを使われており(25%でサイアザイドも)、Crは1-2mg/dlだった。なお留置カテーテルを使ったかは書いていないが「朝ブメタニドを打つ前に膀胱を空にしてもらった」とあるのでおそらく使っていない(こんな正確さを求める実験でも使わないんだから、いかに留置カテーテルが無駄に使われて合併症を起こしているかを改めて考えさせられる)。その結果、12%で大失敗した(とこっそり書いてある)が、うまくいった例を集めるとNa利尿量予測、Na利尿不良群予測、Na利尿良好群予測に関して非常にAUCが高いROCが得られた。式の定数2.5時間はコンピューティング予測で3.25時間にしたほうがよいとか細かいこともわかった。

 この臨床上の意義はなにか。ループ利尿薬は本来1日2回用いる薬なので、朝の反応をみて夕の用量を調節できるかもしれない。その際に午後まで蓄尿して看護師さんに6時間尿量を報告してもらうのを待たずに、より正確に(今回の論文は尿量や体重と式を比較しているが式のほうがNa利尿量の予測に優れていたという;ただし体重とNa利尿量でどちらが臨床的に意義があるかは疑問だが)回診の時点で静注2時間後のUNaの結果がでて予測が立つのは便利かもしれない。また、K利尿量もVにUKをかければ同様に求められるはずなので、K値低下の予測に応用できれば補正に活かせるかもしれない。高いミラクル薬がなくても、ちょっとした生理学の知識をつかって昔からの診療を洗練させることはできるのだな、そういうのかっこいいなと思った。Cardiorenalresearch.netにcalculatorが置いてある。



2013/05/07

Furosemide use in the Derby

 先日は米国競馬の三大レースのひとつKentucky Derbyが行われた。ダートが泥々で混戦だったが最後にはOrbという馬が勝った。Kentucky Derbyは1870年代から続く歴史あるレースで、観客はドレスアップ(女性はつばの広い帽子をかぶる)し、Kentucky whiskeyで作ったMint Julepを飲むなど特別な慣習がある。

 ところで、競走馬は心肺機能の極限を追求するし、大地を蹴るたび気道が強い衝撃を受けるので、どうしてもEIPH(exercise-induced pulmonary hemorrhage)が起こりやすい。それで米国の多くの州では1970年代からfurosemide 350-500mgがレース前に静注されている。というか、このpracticeはKentucky Derbyで始まった。

 しかしこれにはEIPHの予防という意味もあるが、馬のperformanceを上げるという意味もある(軽くなるから)。低K血症、Ca2+喪失も心配される(レース翌日にカルシウムを注射するらしい)。それで、禁止している国も多いし、米国競馬界でもfurosemide禁止と容認で議論が続いている(New York Times Horse Racing Blog 2012/5/5)。

2012/12/13

Furosemide v. HCTZ

 腎機能が低下するとHCTZの降圧・利尿作用は下がり、furosemideが推奨される。このfactoid(事実のように言われていること)は批判されることなく日常臨床で応用されているが、「本当にそうかな?」と調べた人達がフランスにいる(NDT 2005 20 349)。

 このGFRが16-41ml/minの7人を対象にしたスタディでは、furosemide、HCTZ、併用で降圧効果に有意差がみられなかった。しかし利尿作用はfurosemideのほうがHCTZより優れ、併用はさらに効果的だった(HCTZが遠位尿細管による代償的なNa再吸収をブロックするから)。

 このスタディはKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 5 337)にも引用され、CKD患者でもHCTZによる降圧作用は保たれ(おそらく利尿のみならず血管拡張効果があるのだろう)、しかしCKD進行による浮腫を除くにはfurosemideのほうが優れているというよに書かれている。

2012/02/04

NCC

 ネフロンの各部分をフェローが担当して発表する"physiology lecture series"で、私は遠位尿細管を担当することになり、さっそくBrenner(腎臓内科の最も有名な教科書)を図書館のeBookで読み始めた。基本的には組織学的な話、ナトリウムの再吸収とその制御の話、カルシウムの再吸収とその制御の話がメインになりそうだ。

 臨床的にはthiazide利尿薬の話、高カルシウム尿による尿管結石とその治療の話、Gitelman症候群の話などがメインになりそうだと思っていたら、NCC(Na-Cl cotransporter)を制御するWNK kinases(WNKはWith-No-Lysine [K]の略)の異常をきたすGordon syndrome、そこからさらに話が広がりそうだ。

 Gordon syndromeとはfamilial hyperkalemic hypertension (FHHt)とも言い、WNK遺伝子のgain-of-functionな変異によるものだ。つまりNCCが出過ぎてしまい、高血圧、高K血症、高Ca尿、代謝性アシドーシスなどちょうどGitelman症候群あるいはthiazide服用患者の正反対な病態をきたす。

 さらにここから、こないだJournal clubで紹介された論文(Nat Med 7 1304 2011)につながった。これは免疫抑制剤tacrolimusが高血圧、高K血症などGordon syndromeとよく似た副作用を起こすことから、これらは元来腎のafferent arterioleの血管収縮によるものと考えられていたが実はNCCの制御に関係しているのではないかと調べた研究だ。

 研究結果をみる限り、tacrolimusがどうやらWNK kinaseを活性化させNCCをupragulateすることが分かった。それで、いままでの「移植腎は脱水を嫌うので高血圧に利尿薬は避けよう」という思い込みに反して、実はthiazideを使うほうが理にかなっている可能性が出て来た。やがてcontrol trialが組まれるだろう。

 [2016年6月追加]同じグループがタクロリムスの高血圧機序について掘り下げた論文を発表した(JASN 2016 27 1456)。ネフロン特異的FKBP12 deletionによってタクロリムスによる血圧上昇・dipping消失が緩和されNCCリン酸化が抑制されたことと、SPAKとNCCを強制発現させたHEK細胞でタクロリムスがNCCの脱リン酸化を抑制したことから、この現象に腎(ネフロン細胞)のcalcineurinが直接関与している可能性が高まった。


2011/07/30

Osmotic gradient

 Furosemideがヘンレ上行脚のNa-K-2Clトランスポーターを阻害することは知られているが、そこで水の再吸収が行われているわけではない。ではなぜ、Furosemideによって水排泄が促進されるのだろうか。このように、現象としては常識なことも生理学的に問われると答えに詰まる。

 正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。

 この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。