ネフロンの各部分をフェローが担当して発表する"physiology lecture series"で、私は遠位尿細管を担当することになり、さっそくBrenner(腎臓内科の最も有名な教科書)を図書館のeBookで読み始めた。基本的には組織学的な話、ナトリウムの再吸収とその制御の話、カルシウムの再吸収とその制御の話がメインになりそうだ。
臨床的にはthiazide利尿薬の話、高カルシウム尿による尿管結石とその治療の話、Gitelman症候群の話などがメインになりそうだと思っていたら、NCC(Na-Cl cotransporter)を制御するWNK kinases(WNKはWith-No-Lysine [K]の略)の異常をきたすGordon syndrome、そこからさらに話が広がりそうだ。
Gordon syndromeとはfamilial hyperkalemic hypertension (FHHt)とも言い、WNK遺伝子のgain-of-functionな変異によるものだ。つまりNCCが出過ぎてしまい、高血圧、高K血症、高Ca尿、代謝性アシドーシスなどちょうどGitelman症候群あるいはthiazide服用患者の正反対な病態をきたす。
さらにここから、こないだJournal clubで紹介された論文(Nat Med 7 1304 2011)につながった。これは免疫抑制剤tacrolimusが高血圧、高K血症などGordon syndromeとよく似た副作用を起こすことから、これらは元来腎のafferent arterioleの血管収縮によるものと考えられていたが実はNCCの制御に関係しているのではないかと調べた研究だ。
研究結果をみる限り、tacrolimusがどうやらWNK kinaseを活性化させNCCをupragulateすることが分かった。それで、いままでの「移植腎は脱水を嫌うので高血圧に利尿薬は避けよう」という思い込みに反して、実はthiazideを使うほうが理にかなっている可能性が出て来た。やがてcontrol trialが組まれるだろう。
[2016年6月追加]同じグループがタクロリムスの高血圧機序について掘り下げた論文を発表した(JASN 2016 27 1456)。ネフロン特異的FKBP12 deletionによってタクロリムスによる血圧上昇・dipping消失が緩和されNCCリン酸化が抑制されたことと、SPAKとNCCを強制発現させたHEK細胞でタクロリムスがNCCの脱リン酸化を抑制したことから、この現象に腎(ネフロン細胞)のcalcineurinが直接関与している可能性が高まった。