2012/02/25

肝臓 and/or 腎臓

肝腎症候群の患者さんでは、肝臓のせいで腎臓がうまく働けないだけで、肝移植したら腎臓は正常に機能するはずである、というのが理論上の説明だ。実際、昔の論文で上手くいった例はある。一つは(NEJM 1969 280 1367)肝腎症候群で亡くなった患者さんの腎臓を別の人に移植したらちゃんと機能したというもの。もう一つは(NEJM 1973:289 1155)肝腎症候群の患者さんの腎機能が肝移植後に回復したというもの。

 注目すべきはazotemiaの期間が5-104日と比較的短かったことだ。今の指導医によれば、透析導入して3カ月たったような場合にはいくら肝腎症候群であっても、患者さんの腎が肝移植後に回復することは余りないという(要出典)。それでどんな場合に腎機能回復が見込まれ、どんな場合に見込まれないのか調べた人がいないかなと思って調べてみた。

 一つの文献(NDT 2006 21 478、single-center retrospective study)では、28人中16人で肝移植後に腎機能が改善した(透析依存にならずScrが1.5mg/dl以下)。腎機能が回復した患者さんのほうが若く術後7日目のビリルビン値が低かった。そして腎機能が回復しなかった患者さんのほうが原疾患としてアルコール性肝炎が多く、術後により透析を必要としていた。non-responderのほうが移植前のScrが少し高かったが、これは統計的にnon-significantだった。

 どうしてこんなことを調べていたかと言うと、肝硬変に腎不全を合併してGFRが25ml/minくらいまで低下した人がいて、移植外科医が「この人に(肝臓のみならず)腎臓も移植したほうがいいかな?」と聞かれたからだ。この人は肝腎症候群とはっきり言えない面があるし、GFR 25ml/min程度ですでに3か月が経過している。それで移植後に体液バランスの崩れや免疫抑制剤(calcineurin inhibitorの腎毒性)などで腎機能は低下すると考えられ、腎臓も移植するようにリコメンドした。

 肝臓だけ移植して、腎機能が悪化して透析導入になれば、そこで別のドナーからの腎移植を考えなければならないが、ドナーの数は少ないほうが免疫上都合がよい。そしてKAL(kidney after liver)移植は肝腎同時移植にくらべて成績が悪いことが分かっている。でも、肝腎移植したはいいが患者さんのnative kidneyが働き始めたら、あげた腎臓は不要だったということになる。もっとも外から見ただけでは、どちらの腎臓が働いて尿を作っているか分からないのであるが(differential GFRを調べれば別)。