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2017/05/19

仮説の検証(塩を捨てても水は捨てない仕組み)

 火星有人探査のための訓練プロジェクト(JCI 2017 127 1932、解説はこちらも参照)から、いくつかの仮説がうまれた。

A. 塩分摂取がふえると尿素が間質にたまり、尿濃縮で水を保存する
B. 塩分摂取がふえると飲水量のかわりに代謝水がふえる
C. 塩分摂取がふえると糖質コルチコイド作用でたんぱく異化が亢進して尿素合成がふえる
D. 間質への尿素の取り込みにはUT-A1が関与している
 
 これらを検証するべく、マウスで実験が行われた(JCI 2017 127 1944)。まずマウスで実験系を確立し、低塩から高塩にするとUNaVが増える分UKVとUUreaVが減ってNa利尿を防いでいること、糖質コルチコイド排泄量がおおいとき尿量がふえ飲水量が減ることなどが有人探査の訓練クルーと程度の差はあれ同じ傾向なことを示した。

 そのあといろいろ調べた結果、おおくのことが分かった。まず、塩分摂取がふえると:

・腎髄質の尿素量がふえる。
・髄質内層のUT-A1発現がふえる。

 ことでAとDが示された。さらに、

・血中の尿素濃度がふえる。
・肝臓と筋肉での尿素合成酵素が活性化する。
・筋細胞で糖質コルチコイド受容体が活性化する。
・筋細胞でオートファジーが活性化する(たんぱく分解を示唆)。

 などでCも示された。これで、火星探査の訓練クルーの実験(JCI 2017 127 1932)では推論だったalternative natriuretic-ureotelic conceptの図から、クエスチョンマークが消えた(Bが残っているので代謝水のところはまだ?な気もするが)。


 このあとこのグループは研究を進めて腎外、とくに肝臓と筋肉の代謝について詳しく調べた。結果、塩分がふえると:

・呼吸商がさがる(エネルギー源のβ酸化へのスイッチを示唆)。
・アラニンなど窒素ドナーになるアミノ酸が筋から失われる。
・アスパラギン酸、グルタミンなどのアミノ酸が肝臓にふえる。
・アラニンをとりこむトランスポーターが肝臓にふえる。
・肝臓で糖新生がさがりケトン体合成があがる。
・筋でβ酸化を促進するAMP、p-AMPK、p-ACCなどがふえる。

 とわかった。これらをまとめると、塩分負荷で肝臓と筋に図のような動きがおきることがわかった(緑は塩分負荷によりふえる・亢進するのに対して青はへる・抑制される)。




 筋がグルコースからできたピルビン酸にアミノ基をつけてアラニンにして肝臓に届ける。アラニンは肝臓に届き、ATPを消費して尿素とピルビン酸がつくられる。ピルビン酸は、ATPを食う糖新生に行かずに、節電モードでアセチルCoAからケトン体になる。ケトン体が筋に届き、エネルギー源がβ酸化に切り替わる。この動きはアラニンーグルコースー窒素シャトルともよばれる。

 このエネルギーの切り替えが論文タイトルにあるreprioritization of energy metabolismだが、じつはこの現象じたいは以前から知られていた。なんと、夏眠(estivation、aestivation)だ。夏眠とは、生物がとくに夏期の乾燥にたえるため仮眠状態になること。カタツムリ、カメ、アフリカハイギョなどのほか、哺乳類でもマダガスカルに住むfat-tailed dwarf lemur(写真)が行っているという。




 アフリカハイギョの夏眠については、あのホーマー・スミス博士も研究していたらしい(J Bio Chem 1930 88 97)。アフリカハイギョは、夏眠で水を身体にためるために尿素を作っている間に、心血管系のエネルギー消費(要は脈拍と血圧のこと)を減らすことが知られている(J Exp Biol 1974 61 111)。

 そこで、夏眠とおなじようなエネルギー消費・産生モードになっている塩分負荷時にも同じ傾向が見られるかをしらべた。すると塩分がふえたマウスはその直後に脈拍があがるが、4日以内には脈拍も血圧もさがり、脈拍パターンは副交感神経優位を示唆し夏眠中のハイギョと似ていた(直後の反応は、糖質コルチコイドがふえることと関係あるかもしれない)。

 塩を捨てないRAA系、水を捨てないバソプレシンに対して、今回わかったシステムは「塩を捨てても水は捨てない」仕組みといえそうだ。これまで塩も水も捨てて心血管系を守りたい、というのでRAA系やバソプレシンを抑制する薬をたくさんつくってきたが、この仕組みがフロンティアなのかもしれない。

 さらに、この仕組みがストレスホルモンを増やすことはもっと興味ぶかく、それにより長期にどんな影響が身体にでるかも調べる価値がありそうだ。端的に言えば、糖質コルチコイドがでるんだから、糖尿病になりやすいかもしれない。私が知らないだけで既にもういろんなことが調べられているにちがいないから、今後に期待したい。





2017/05/18

火星だより 4

 同じ食塩量を摂っていても、アルドステロンとコルチゾンの1日排泄量(それぞれUAldoV、UCortisoneV)には波がある。高い日と低い日の差は、6g/d食でも9g/d食でも12g/d食でも大体同じで、UAldoVは7.6mcg/d、UCortisoneVは33.8mcg/dだった。

 UAldoVが多い日は、少ない日にくらべて飲水量がおおく、尿量がすくなく、水がたまった(体重も増えた)。ここでも、以前に書いた、尿浸透圧と尿量の変化から自由水どれだけたまった(または、捨てられた)かを計算する方法をつかっている。


 いっぽう、6g食から12g食にするとUAldoVは減る(平均5.1mcg/d)。上記変化はUAldoVが7.6mcg/d増えた結果なので、UAldoVが5.1mcg/d減った影響は上記に5.1/7.6を掛けて正負を反転させたものになるとグループは考えた。


 同様のことをUCortisoneVでもおこなうと、次のようになる。6g/d食から12g/dになってコルチゾンはふえるので、今回は正負が反転しない。ここでUAldoVの時と違う点のひとつは、体重が減らなかったことだ。コルチゾンがふえて自由水が捨てられたのに、飲水量がかわらないのだから、体重は減りそうなものだが減っていない。


 これをみてグループは、捨てられた自由水は内因的に作られた水、つまり代謝水だと推察している。食べ物から余計に水が作られれば、飲み水が増えなくてもいい。たしかに糖質コルチコイドには異化を亢進する作用があるから、それでいいのかもしれない。

 では、アルドステロンはどのように尿量をへらし、コルチゾンはどのように尿量をふやすのか?それを調べるのに、グループはそれぞれのホルモンが高い日と低い日の尿中溶質排泄と浸透圧をくらべてみた。

 するとアルドステロンが低い日は、高い時にくらべて尿Na排泄量(UNaV)がふえたが、尿K排泄量(UKV)は減り、尿素排泄量(UUreaV)も減ったので全体の溶質排泄量はかわらず、尿浸透圧はさがった。いっぽう、コルチゾンが高い日は、低い日にくらべてUNaV、UKV、UUreaVいずれもふえたが尿浸透圧はさがった。

 これらの現象でいまのところわかっているのは、アルドステロンがさがるとENaCによるNa再吸収がおちて、それに付随しておこるROMKによるK排泄も減ることくらいだ。これをグループはTraditional natriuretic conceptと呼んでいる(図)が、伝統的というだけあって目新しいことではない。RAA系ということだ。



 いっぽう、アルドステロンと尿素、糖質コルチコイドとNa、K、尿素の関係は、これから調べられるフロンティアだ。これを説明するのに、このグループは伝統的なコンセプトにかわるAlternative natriuretic-ureotelic conceptというコンセプトを提唱していて興味深い(図)。


 なお「-telic」はテロメアのテロと同語源で終末を意味するから、ureotelicとは尿素で終る、つまり「尿素排泄の」ということ。それに対して窒素の最終排泄物がアンモニアの場合をammonotelic、尿酸の場合をuricotelicという(それぞれ魚、鳥など;図はJournal of Experimental Biology 1995 198 273を改変)。


 Alternative natriuretic-ureotelic conceptは、ふえた塩分を排泄するとき一緒に水を失わない合理的な仕組みといえる。RAA系だけでは、塩分がふえるとENaCを介したNa再吸収が減って水が失われてしまう。しかしそれに平行して腎髄質の間質に尿素が蓄積し水を引き、抗利尿に働くかもしれない(推測)。また糖質コルチコイドの働きで代謝水がふえ、飲水量をふやさずに済むかもしれない(推測)。

 これらのメカニズムはいまだ不明だが、糖質コルチコイド作用がたかまってたんぱく異化により尿素が増えているのかもしれない(推測)。髄質への尿素の汲みだしには、UT-A1が関与しているかもしれない(推測)。

 さらに、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドが自由水の管理を互いに拮抗する働きを持ち、どちらも周期的にゆるやかに上下を繰り返していることから、両者はあたかも交感神経と副交感神経、RAA系とプロスタグランジンのように調節しあっているのかもしれない(推測、図)とグループは提唱する。


 このモデルによれば、鉱質コルチコイドがふえると塩と水が身体にたまる(図の環が6時から12時にまわる)。すると今度は糖質コルチコイドが増えて塩と水を捨てる(環が12時から6時にまわる)。塩分摂取がすくなければ塩と水を守る方向、すなわち鉱質コルチコイドが優位になる(図の左半分)。塩分摂取がおおければ逆で、糖質コルチコイドが優位になる(図の右半分)。

 推察ばっかりだが、糖質コルチコイドが体液バランスにおよぼす影響や、尿濃縮に大事な役割をもっているのにいままで(電解質でないためか)あまり掘り下げられてこなかった尿素の仕組みについて考えるきっかけになった。バソプレシン(と血漿浸透圧)を考えなくてもここまで説明できるのは、目からウロコだった。

 ここまで推論したら、あとは実証すればいいというわけで、JCI5月号にもうひとつ載った論文(JCI 2017 127 1944)がそのアンサーソングになっている。これは、べつに紹介する。もしこれからこの領域の知見が増えてくれば、高血圧や腎疾患などの診療が別次元に深まるのかもしれない。UT-A1阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113)とかそういうレベルではなく、それこそ「火星に人が着陸する」くらい、変わるかもしれない。それにしても、宇宙開発はその過程でいろんな科学の副産物をもたらしてくれる。






2017/05/17

火星だより 3

 火星探査訓練の被験者を対象にしたデータが2013年アトランタのASNのKidney Weekで口頭発表されているときには、センセーションだけで何のことだか分からなかった。いま論文を読み返すと(Cell metab 2013 17 125)、JCIの論文がこれを発展させたものだと分かる。

 このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。



 さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。



 何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。


 どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。

 さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。


 「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。

 …という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。

 そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。


 

 

2013/03/17

Conquest of land 2/2

 初めてaldosteroneを手にした脊椎動物、肉鰭類。お陰でハイギョは住む沼が乾季に干からびても生き延びることができる。しかしこの分野のレビュー論文(J Endocrinol Invest 2006 29 373)は、原始肉鰭類にとってステロイドは体液保持だけでなく低酸素に対するストレス反応に重要だったと推察している。かれらが初めて呼吸した4億年前の地球の空気には、酸素が現在の半分しかなかったのだ。

 両生類になるとステロイド代謝が大きく変化し、糖質コルチコイドのcortisolやcortisoneはCYP17がブロックされて産生が抑えられ、代わりに(17番炭素が水酸化されない代謝経路にある)aldosteroneとその前駆体corticosteroneが中心になる(なんとaldosteroneが鉱質・糖質コルチコイドを兼ねている)。これにより、両生類は皮膚と膀胱の上皮からNa+を再吸収することで体液を保持できるようになった。

 このステロイド代謝シフトはsauropsids(竜弓類、爬虫類と鳥類と恐竜の総称)で完成し、彼らではCYP17が完全にブロックされている。しかしaldosterone濃度は両生類の1/1000まで低下する。これが受容体の感度が高まったためか、前駆体のcorticosteroneに依存しているためかは分からない。いずれにせよ鉱質コルチコイドは腎臓と総排泄腔(鳥類にはダチョウを除き膀胱がない)でNa+を再吸収する。海鳥類では鼻と眼窩にある塩類腺からのNa+排泄調節も行う。

 哺乳類になっても、9600年前に分化したげっ歯類までは副腎でのCYP17が止まっている(corticosteroneがメインの糖質コルチコイド)。しかしそれ以降ではCYP17遺伝子発現が再開し、cortisolやcortisoneを利用できるようになる。ここにきて糖質・鉱質ステロイドの区別は明確になり、MR(鉱質コルチコイド受容体)のあるところでは糖質コルチコイド(MRと親和性あり)が11b-HSDにより分解される(この臨床的側面はこちら)。

 そんな哺乳類が、今度は海に戻る。5000万年前にシカのような動物がクジラ類に、2200万年前にクマのような動物が鰭脚類(アザラシなど)になる。生物の適応たるや、何でもありだ。高浸透圧の海で暮らす彼らにとってはナトリウム排泄が課題であり、ナトリウム保持のaldosteroneなど必要ない。だから、彼らの副腎を調べるとaldosterone産生が皆無か痕跡的らしい。

 "Nothing in biology makes sense except in the light of evolution"とは米国で活躍したロシア人生物学者Theosodius Dobzhanskyが1973年に発表したエッセーだ。大局的で進化論的な見方は生理学の理解を助けるし、なによりダイナミックで興味が尽きない。ここではaldosterone中心に論じたが、steroid receptorは?reninとangiotensinは?ADHは?質問が次々に生まれ、どんどん調べたくなる。