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2017/12/05

甘い水はお好き?中心静脈栄養と腎臓内科

 「あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という言葉をご存知だろうか。『ホタル取り』という唄の歌詞だそうだ(わたしはてっきり、おばあさんのこの言葉で川を流れていた桃太郎の桃が寄ってきたのかと勘違いしていた)。実際にホタルが甘い水を好むかは知らないが、いかにも風雅な慣習だ。

 日本ではあまり見られなくなったホタルだが、米国ではfirefly(lightning bugとも)と呼ばれ、初夏のちょっとした芝生や木立にたくさんいる(写真)。風物詩として、Rodney Atkinsの"It's America"にもfireflies in June and kids sellin' lemonadeという歌詞がでてくる。こちらは軽快な愛国カントリーだ。




 さて、腎臓内科の輸液といえば電解質ばかり考えているイメージかもしれないが、じっさいには糖とか他のものも入っている。というわけで、そんな輸液の代表である中心静脈栄養をオーダーしていたら、組成のところにこう書いてあるのに気づいた。

・1000mlあたりの電解質

Na+ 50mEq
K+ 22mEq
Mg2+ 4mEq
Ca2+ 4mEq
Cl- 50mEq
SO42- 4mEq
Acetate- 41mEq
L-Lactate- 12mEq
Citrate3- 8mEq
P 5mmol

 陽イオンの和は80mEq。陰イオンの和は、115mEqだから、あわない。どういうことか?これについて添付文書は明示していないが、おそらく差である「陽イオン・ギャップ」はunmeasured cationで、その多くはアミノ酸と思われる。アミノ酸は陽性荷電するアミノ基と陰性荷電するカルボキシル基をもっているけれど、輸液のpHがひくいので多くが陽性に荷電していると考えられるからだ。

 以前は、アミノ酸の陽性荷電にマッチする陰イオンの多くはCl-で、身体に入るとアミノ酸が分解されるのにCl-が残って高Clアシドーシスの原因になっていた。しかし、酢酸やクエン酸などの有機酸イオンにしてアシドーシスが避けられたという論文(Nutrition 2000 16 260、日本の研究)もでて、Cl-でマッチさせる製剤はあまり見なくなった。

 ほかにも中心静脈栄養には、アシドーシスを起こしうるメカニズムがいくつかあるので参考文献(Indian J Crit Care Med 2015 19 270)なども参考にしてほしい。私は上室と下室というように隔てて保存され、直前に混ぜるようになっている理由すら知らなかった(知らない人がもしいたら、メイラード反応を避けるため)ので、反省だ。腎臓内科に関係ないもんねと思っていた。

 「蛍の光」といえば日本では卒業式(英国では大晦日で、蛍は関係ない)だが、腎臓内科の卒業は遠い。苦手分野の克服しながら一歩一歩学んでいきたい。



 

2017/05/10

カチオンとアニオン

 カチオンとアニオン(英語でキャタイオンとアナイオン)といわれても、語源がわからないとどちらが陽イオンで陰イオンかわからない。それは英語圏の人でも一緒で、CATion(ネコ)はPAWsitive(pawは動物の足というか肉球、写真)、アニオンはA Negative IONという語呂合わせがあるくらいだ。




 カチオンは古代ギリシャ語で「おりる(down)」を意味するkataに由来する。カテーテルのcathも同じで、管を通じて液体を下に送りだしていくイメージだ。一方アニオンは「あがる(up)」を意味するanaに由来する。

 では、どうして陽イオンは「おりるイオン」、陰イオンは「あがるイオン」なのか?イギリスの物理学者ファラデーと関係ある。彼が電気分解で電極(electrode)をつないだ線に電流が流れる実験を行ったが、上流の電極をcathode(おりる極)、下流をanode(のぼる極)と名づけた(図)。



 いまでは電流はe-の流れの反対と分かっているから、電流がcathodeからanodeに流れる時にはe-がanodeからcathodeに流れている。Cathodeにe-があつまると、電極を浸す水溶液中の陽イオンがあつまる。これがcat-ion(カチオン)。Anodeには逆に陰イオンがあつまり、これがan-ion(アニオン)。

 このような歴史的な経緯は興味深いが、はっきりいって混乱のもと。陽イオンと陰イオンのほうがわかりやすい。英語にはpositvely-charged ion、negatively-charged ionを略した言葉がないから、いまでも大変だ。東洋の陰陽思想(yin and yang、図)も広まっているし、いっそyinion, yangionと呼んではどうか。





[2019年10月10日追記]2019年のノーベル化学賞がリチウムイオン二次電池の発明で、Goodenough先生、Whittingham先生、そして日本から吉野彰先生に贈られた!

 この業績の恩恵に浴していない人はほとんどいないだろう。ただ、ここに追記したのには別の理由がある。それは、先生方の業績が、電池のanodeとcathodeの工夫にあったからだ。

 まず、Whittingham先生はcathodeに硫化チタンを、anodeにリチウム金属を用いた。つぎにGoodenough先生が、cathodeを酸化コバルトに改良。そして吉野先生が、anodeを炭素化合物に改良した(軽量化と何百回という再充電も可能になった)。

 分かりにくいが、ここでいうcathodeが「プラス(正)極」、anodeが「マイナス(負)極」で、放電時に電流はcathodeからanodeに流れる。


ブログ「リチウム電池の豆知識」より引用


 筆者にはもはや何が「のぼって」何が「おりて」いるのか分からないが、このブログが書けるのも、ノートパソコンにリチウム電池が内蔵されているおかげ。「キセキ」にも思える偉大な業績に、ただ感謝である。