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2020/04/21

PDの除水不足

 腹膜透析患者さんが血液透析に移行する理由として、腹膜炎やカテーテルの不具合と並び挙げられる、「透析不足」。米国の統計では、HD移行患者の18%もあった(図はKI 2006 70 S21-S26)。




 透析不足には溶質除去不足と除水不足がある。しかし、前者にKt/VやWeekly CCrなどの指標があるのに対して、後者は曖昧な印象の読者も多いかもしれない。そこで以下に、腹膜透析の除水不全(PD ultrafiltration failure)について、定義・原因・検査・治療をまとめる。


1. 定義


 除水が問題になるのは、外来で診察するたびに体重や浮腫が増加してくるような場合だ。しかし、そうした際には塩分・水分摂取制限が不十分だったり、自尿が減ったりしているだけで、UF量じたいは減っていないことも多い。

 それに対して、真の除水不全は「グルコース4.25%のPD液を4時間貯留したUF量が0.4L未満」なことを言う(Blood Purif 2015 39 70)。そして、この条件でも引けない場合には、下記のように腹膜性能に問題があることが多い。


2. 原因


 前掲レビューは主な原因を4つに分類している。


①有効な腹膜面積の増加・・腹膜の血管新生亢進などでPD液中のグルコースが速やかに体内に吸収され、浸透圧差がなくなってしまう。PET検査でいう「ハイ・トランスポーター」にあたる(こちらも参照)。

 こうした腹膜変化の原因には糖や糖代謝産物への曝露のほか、PD液の酸性pHもあるとされ、現在ではPD液のpHは中性が一般的だ。

 予防には血管新生を抑制するACE阻害薬やARBが示唆され(ACE阻害薬の報告はNDT 2009 24 272)、治療には腹膜を休めること(4週休んだ報告はAdv Perit Dial 1993 9 56)で腹膜機能が回復したという報告があるようだ。


②グルコースによるコンダクタンスの低下・・グルコースによる除水の約半分は、内皮細胞のAQP1からH2O分子が移動して行われる(図はKI 2014 85 750)が、浸透圧差にもかかわらずH2Oの「抜けが悪い」こと。


AQP:アクアポリン
SP:スモール・ポア、LP:ラージ・ポア


 「抜けの悪さ」の原因はAQP1の機能不全(数は変わらなかったという報告はAJKD 1999 33 383)が通説であったが、現在は腹膜の血管新生や線維化などが主因と考えられているようだ(JASN 2010 21 1077)。

 抜けの指標には、貯留60分後のPD液Na濃度がある。AQP1から水が抜けてもNa分子は抜けない(ふるいにかけられるようなもので、Na sievingと呼ばれる)ので、貯留初期にはPDのNa濃度が下がる(図はKI 2000 57 1704)。抜けが悪いと、下がりにくい。


下2つの線がグルコースPD液
(上2つは、Na sievingのないイコデキストラン液)


 治療にはステロイドの有効性が確認されているが、この目的で投与されることはない(腎移植でステロイドを受けたPD患者の報告はNDT 2011 26 4142)。AQP1を開ける新薬でフロセミド誘導体のAqF026は、動物実験で効果が確認されている(JASN 2013 24 1045)。

 


③有効な腹膜面積の減少・・腹膜が線維化して除水ができなくなること。多くの場合、溶質除去もできなくなる。その最終形態であるEPSや、そのリスクとなりうる腹膜炎については、過去の投稿も参照されたい(EPSはこちら、腹膜炎はこちら)。


④PD液喪失速度の増加・・腹膜からPD液が「吸われて」しまうこと。従来はリンパ吸収速度(lymphatic absorption rate)と呼ばれていたが、現在ではリンパ管からの吸収は多くても全体の3割程度とわかっている(Contrib Nephrol 2006 150 28)。

 「吸われる」速度の測定は困難だ(アイソトープで標識したアルブミンを用いる)。しかし、リンパ管吸収が亢進するとイコデキストリン分子も吸収されてしまうので、イコデキストリンPD液でも除水できない時にはこの病態も考えたい。


3. 検査と治療


 真の除水不全をうたがった場合、定義に従えば4.25%PD液による除水量測定が必要になるが、行う施設は少ない。海外では、PETを4.25%PD液で行い、60分後のPD液Na濃度も測る施設もあるようだ(4.25%PD液が2.5%PD液と遜色なかった報告は、Perit Dial Int 2002 22 365)。

 しかし、真の除水不全だった場合にできることは、残念ながら余り多くない。原因①なら、PD液の糖濃度を増やしたり、貯留時間を短くしたりしてもよいだろう。しかし、血糖コントロールの悪化や、Na sievingによる高Na血症・口渇にも注意が必要だ。

 原因②ならば、除水にアクアポリンを介しないイコデキストリンPD液が考慮されるだろう。しかし、原因③や④も合併していれば、イコデキストリンPD液でも除水しにくいだろう。そうなると、やはりPDだけでは限界・・ということになる。

 しかし、冒頭で述べたように、臨床では真の除水不全よりも、塩分摂取・利尿薬アドヒアランス・残腎機能などによる浮腫や体重増加のほうがよほど多い。「体重増加→除水不足→HD」と最初から決めつけずに、これらを確認して介入することが大切だ。



上善如水
(老子)


2018/06/15

ひとつの答えと、たくさんの質問

 アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。

 前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。




 このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。

 それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。

 実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。

 通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。

 しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。




 今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。

 結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。

 


 プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。

 もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。

 なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。

 質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。



2018/06/14

CaSR組曲 6

6. 集合管
 
 集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。




 そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。





 だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。

 まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。

 しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。

 つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。




 CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。

 AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。




 また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。

 そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。

 陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。




・おわりに
 
 ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。

 たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。

 あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
  

 それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?




 [2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。

 乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:




 筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。

 なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。

 結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。

 今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
 

2018/05/01

腹膜透析に対する悩ましい点 2

 新年度も腹膜透析の話題から始めようと思う。4月はバタバタしてしまい、投稿できずに申し訳ない。
 
 前回、体液のコントロールの難しさをお話しした。

 今回は溶質のコントロールの難しさを考えてみる。

 溶質の除去として腹膜の性質を知っておく必要性がある。

 腹膜透析は透析液を腹膜に入れる。それがどのようにして溶質を除去しているのか?つまり、腹膜透析液と血管のなかの溶質がどのようにして交換をしているのか?である。

 重要な因子としては毛細血管壁、間質、中皮細胞がある。


京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 このなかで最も重要なのが毛細血管壁である。毛細血管壁は水と大分子量の溶質の障壁として働いている。

 間質も重要であり、小分子量の溶質の30%相当の障壁になると言われている。

 最も重要な毛細血管壁の部分には3つの細孔(pore)がある。

 1. Large pore:数は少ない。大きな分子の通過や水に寄与
 2. Small pore:数はたくさん。小分子や水の移動に寄与
 3. Ultrasmall pore:水の移動のみ(Aquaporin-1と呼ばれる水チャネルがある)





 腹膜の溶質除去に関わる因子としては

 ・有効腹膜表面積:有効腹膜毛細血管表面積(有効灌流された毛細血管の数)
 ・毛細血管:壁の透過性
 ・間質透過性
 ・腹膜荷電
 ・腹膜透析液と中皮細胞間の拡散距離

 などがある。

 溶質で小分子(BUN、Cr)の除去の場合

 拡散(Diffusion)により除去される:そのため透析液濃度、腹膜透過性、有効腹膜表面積によって決定される。


http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph59.html より引用


 溶質で大分子(タンパクなど)の除去の場合

 拡散(Diffusion)と対流(Convection)の両方の働きによるが、基本的には移動速度は分子量が大きいほど移動速度は遅い。

 小分子量物質の腹膜移送率と限外濾過量を評価する目的で腹膜平衡試験(PET:Peritoneal Equilibration Test)が行われる。PET検査は、

 ・D/P CrでCr(溶質・尿毒素)の透析液への除去を評価する。
 ・D/D0 Glucose で血液内への再吸収を評価している。




 PET検査のやり方に関しては下記になる:


京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 注意点として、用いる液は主には2.5%ブドウ糖液を用いる。患者さんには前日からのプライミングを依頼する。

 かなり患者にとっても時間的な制約も出る検査であり、施設によって異なるが年に1-2回程度で行う場合が多い。

 PET検査に関しては、ブドウ糖が腹膜透析から血液に早く移行する場合にはHighになり、移行が遅い場合にはlowになる。

 移行が早いと早期に浸透圧勾配がなくなり、除水ができなくなるため透析液の貯留時間は短くすべきである。下記がまとめた表になる。



京阪PDネットワークより引用(https://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/


 溶質除去の効率としてKt/V ureaが用いられており、ISPDガイドラインでも1.7以上が推奨されている。これは、先行研究で1.6-1.7未満では死亡率が上昇したという報告があるのが一因である(PDI 2004

 では、このKt/Vが患者の死亡率にどこまで直結するかについては、下記の2つの研究が重要であるが、結論としては小分子の除去とアウトカムの直結はなかった。
CANUSA study(2001年 JASN:カナダ・米国での研究)




 ADEMEX study(2002年 JASN:メキシコでの研究)




 なので、現時点ではKt/Vに関しては、適切な物質除去が行えているかのマーカーになっているのみであると報告もされている(2016 Seminar in dialysis)。

 色々と内容が飛び飛びになってわかりづらいと思うが、次回も少し腹膜透析について続けようと思う。





2017/06/28

腎臓内科と五苓散 2

 五苓散がむくみをとる仕組みは科学的に説明できるのか。調べてみると、水チャネル、アクアポリンに関係しているようだ。しかも、バソプレシンの直接支配下にないアクアポリンに。Plot thickens(奥が深い)!

 アクアポリンの発見でPeter Agre先生、Roderick MacKinnon先生にノーベル化学賞が贈られたのは2003年のこと(写真はアクアポリン1を発現させたカエルの卵が低張液のなかで水を吸って膨れる様子、Annu Rev Biochem 1999 68 425より)。




 アクアポリンには家族がいて、アクアポリン1、2…など番号で呼ばれる。バソプレシン下に集合管細胞の内腔に出て水を保存するアクアポリン2が有名だが、他にもたくさんある。腎臓だけでもこれだけある(図、Physiol Rev 2002 82 205)。




 2以外のアクアポリンについては、まだわからないことが多い。それでも、これらが水以外の分子も通すこと(8がアンモニアを通すことは触れた)、病気にも関わること(4に対する自己抗体がNMOをおこすことは触れた)などわかってきた。

 五苓散は、調べた範囲でアクアポリン3-5抑制に関わることがわかった(漢方医学 2013 37 2 120、日本の礒濱洋一郎先生らの研究)。とくに4の抑制に働き、五苓散による脳浮腫治療(慢性硬膜下血腫、あるいは、写真のようなアルコール頭痛にアルピタン®が2016年秋から販売されている)の裏づけになっている。マンガンが関与しているらしいこともわかっている。




 では、腎臓ではどうか?上図のアクアポリン3-5に、どのように作用するのか?調べた限りでは見つからなかった。AQP発見のPeter Agre先生は米国腎臓内科学会誌に寄稿している(JASN 2000 11 764)。日本腎臓学会が、すでに研究しておられる先生方と協力して、世界に通じるあらたな水代謝メカニズムをみつけたらステキだなと思う。つづく。


(注:新しいシリーズが途中で始まる雨後のタケノコ形式なこともございます、引き続きお楽しみくださればさいわいです)






2017/06/16

滝を追いかける 4

 閉塞後多尿(POD)は、実験しやすいので昔からいろいろ調べられており、教科書にも割と深くその仕組みが書いてある。Brennerの37章がそれに当てられているが、著者の一人がMark L. Zeidel先生なことから話は少しdigress、つまり脱線する。

 Zeidel先生と出会ったのは2003年のピッツバーグ(当時の写真はこちら;この投稿を書いたのは私ではないが)。そのときは、Zeidel先生が腎臓内科医なことも知らなかったし、そのあとこの街で研修することになるなんて思わなかった。

 2010年、ピッツバーグで研修医になりCCUをまわっていたとき、循環器フェローがボストンでZeidel先生に教わったと聞き、ピッツバーグから移られたのを知った。そして今年、この調べものをして先生の著作に会った。7年周期なのだろうか。

 医師のジェダイ道は、私は大事だと以前から思ってきた。そして、たくさんの恩師から心に刻む教えを受けた(たとえばこれ)。こういう質問に答えるのも、知識や智恵を共有するのも、ジェダイ・ナイトフッドの実践と思ってつづけていきたい(写真はオビ=ワン・ケノービ)。





 さて、そのZeidel先生は何と書いているか?閉塞解除後は、糸球体の機能が落ちてGFRが下がるのに尿細管機能もおちて再吸収と濃縮ができなくなり尿は多くなる(JCI 1978 62 1228、JCI 1982 69 165)。また両側閉塞では体液貯留の影響もある。

 遠位尿細管、ループ上行脚などネフロンほぼ全域にわたってNKCC2、ENaC、NHE3、NaPi-2など多くの輸送体遺伝子の転写とたんぱく発現が低下する。NKCC2の再吸収がおちれば対向交換系がはたらかず、ネフロンの浸透圧勾配と、それによる濃縮力がおちる。

 この仕組みもある程度調べられている。ミトコンドリアの密度が低下しATPが作れなくなるので、Na/K-ATPaseによる能動輸送にまでエネルギーを回せなくなる。閉塞で尿がとどかなくなるので、再吸収しなくてよくなるせいもある。COX-2誘導でPGE2が著明にふえる、単球が誘導され炎症サイトカインをだす、AGII-AT1Rの系も関係しているようだ。

 尿濃縮は浸透圧勾配と、集合管のAVP-V2R-AQP2系(図はEur J Physiol 2012 464 133)による水再吸収が大事なはたらきだ。閉塞後にはV2R自体も減っているが、その下流の細胞内cAMP濃度上昇を起こしてもAQP2は増えないし内腔側にも動いてくれない。PGE2濃度上昇がAQP2抑制に効いているという結果がでているらしい。




 両側閉塞のばあい、体液貯留が問題になる。その結果、浸透圧利尿もおこるし、ほかに交感神経低下、アルドステロン低下、ANP増加などがおこる。とくにANPはマクラデンサでreninを抑制し、近位尿細管でAGIIを抑制し、集合管でアルドステロンを抑制するらしい。


 このように仕組みがいろいろ分かっているのは素晴らしいが、具体的にどう治療すればいいのだろうか?つづく(写真はピッツバーグ近郊の落水荘)。




2017/05/15

火星だより 2

 前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。


 塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。

 6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。


 このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。


 尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。


 集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。

 IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。

 高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。

 それをふまえてみると・・。

 尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。

 ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。

 つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。




2017/04/21

近位尿細管とアンモニア 3

 近位尿細管でつくられたNH4+は、まずミトコンドリアから細胞質にでるが、その通過にアクアポリン8が関与すると考えられている。アクアポリンといえば水チャネルだが、水のように小さくて電気的に極性のある分子は通す。ただしアクアポリン8遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない報告もあるから、ほかの仕組みもあるのかもしれない。

 細胞質にでたNH4+が内腔に排泄されるにあたっては、細胞質と内腔の細胞膜にいくつかの調節の仕組みがある。まず細胞質にはNH4+をグルタミンにもどすglutamine synthetaseという酵素があってNH4+の排泄にブレーキをかけている。この酵素を削除した実験などから、アシドーシスのときにはこの酵素の活動が低下していると考えられる。

 細胞膜をどう越えて内腔にでるか?じつは正確にはわかっていない。以前はアンモニア分子が拡散すると考えられていたが、現在はNa+とH+を交換するNHE3チャネルがH+のかわりにNH4+を通すというのが通説だ。アシドーシスで近位尿細管のNHE3発現量が
ふえて、それにはアンジオテンシンII(AT1を介した)、エンドセリン1(エンドセリンB受容体を介した)がかかわっていることがわかっている。

 ただしNHE3遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない(が、Na+再吸収がおちて血圧を保てない。10.1016/j.kint.2017.02.001)。ほかのチャネルを介しているのだろうか。たとえばK+チャネルは、NH4+とK+の流体力学半径が1.14オングストロームで同一で荷電も1価だからNH4+を通す。近位尿細管にはKCNA10、KCNQ1/KCNE1、TWIK-1などたくさんのカリウムチャネルがあって、基底側のNa+/K+-ATPaseだってNH4+を通す。これらを無差別に阻害するバリウムイオンで近位尿細管のアンモニア輸送は止まる。もっとも実験ではNH4+の排泄ではなく再吸収が止まった。
 
 じつはNH4+を通せるチャネルというのはたくさんある(アクアポリン1とか)。渋谷駅の交差点(写真)のような複雑な流れを一本の矢印で説明(図)できるのはすばらしいことだが、これからこの領域の研究がすすむと生理学の理解が変わるかもしれない、と思ったりする。




 
 おまけ:NHE3阻害薬Tenapanorのことを以前に書いた(便中のNa・P排泄をふやし透析患者さんでリン値をさげた)ので参照されたい。

2015/05/25

Anti-AQP4 IgG

 NMO(neuromyelitis optica)で陽性の自己抗体がAQP4をターゲットにしているということが分かるにつれ、この抗体が陽性な疾患群をNMO spectrum disorderと呼ぶようになったそうだ(たとえばAsian optic spinal multiple sclerosisなど)。NMOは自己免疫疾患に続発することが多く、典型的には視神経と脊髄の脱髄(ただし広汎に中枢神経系の脱髄を起こすこともある)と浮腫・壊死、好中球・好酸球優位の浸潤、病変部細胞表面のAQP4消失などを特徴とする(Nat Clin Pract Neuro 2008 4 202)。

 抗AQP4-IgGは、脳血管バリアを越えてAQP4を攻撃しているらしく、抗体価と病勢が相関することがわかっているが、なぜ中枢神経系の、それも視神経と脊髄にあるAQP4を好んで標的にするのかは分かっていない(腎臓においてもAQP4は集合管の間質側に表出している;Physiol Rev 2002 82 205)。

 いずれにせよ抗AQP4-IgGないしそれを産生するB細胞を対象にした治療が行われ(Nat Rev Neuro 2010 6 383)、ステロイドパルス±血漿交換(重症例、不応例に;比較スタディがArch Ophthalmol 2012 130 858;血漿交換追加群で視力がより回復した←以前書いた血漿交換適応疾患リストには載っていないが)。しかし再発する経過を取ることが多く、予防にはAZA+RTX+MMFが慣習的に行われるそうだが、RTX単剤も試されているようだ。



2012/05/04

AQP2

 腎性尿崩症と深部静脈塞栓症をきたす家族性の疾患と言われれば、AQP2の変異だ(J Clin Endocrinol Metab 1997 82 686)。これはV2 receptorの変異(もっとも多い、そしてX-linked)の次いで多い家族性の腎性尿崩症だ。文献ではautosomal recessiveとされているが、日本の医科歯科大グループがautosomal dominantの症例を報告している(Am J Hum Genet 2001 69 738)。

 Aquaporinは疎水性の細胞膜にあって唯一水の出入りを司るとても大事なチャネル分子だが、ADH支配下にあるのはAQP2だけだ。AQPが機能しないので下垂体は頑張ってADHをたくさん作るが、V2 receptorは機能しているので、血管内皮細胞ではADH支配下にFactor VIIIaとvWFが放出され塞栓症をきたす。