2013/11/28

SES(socio-economic status)とCKD

 フェローシップのマッチングに参加したレジデンシー2年目の冬(いまは3年目だが)、そのあとボスになる恩師の先生と面接して「どうして腎臓内科には最近breakthroughがないのですか?」と聞いた。今思うと生意気な質問だが、そのとき先生がいくつか説明してくれた中に”kidney patients are poor”というのがあった。その時は分からなかったが、こないだ学会で「SES(socio-economic status)とCKD」というお話があって、納得した。
 お話でいちばん衝撃だったのは、USRDSによる米国のESRDマップと、US Census Bureauによる貧困マップが酷似していたことだ。どちらも濃厚なのは南部(とくにミシシッピデルタ)、アパラチア山系、メキシコ国境など。実際、地域で貧困の率とESRDの有病率を見ると相関していた(JASN 2008 19 356)。
 米国内の地域もさることながら、都市の中でも低教育、低収入、悪いneighborhood、移民・マイノリティの多い地域に疾患(と犯罪)が集積する。San Franciscoのsafety-net clinicでCKD患者さんを調べたら貧しいマイノリティ優位だったというデータもある(CJASN 2010 5 828)。私も街は違うがレジデンシー時代にクリニックがそういうエリアにあったので、保険がなかったり言葉が通じなかったりする患者さん達に行き届いたケアを提供するのに苦労した。
 で、どうすればよいのか?ACA(affordable care act、別名Obama Care)がvulnerableな群の医療アクセスを改善するだろうか?医療アクセスがあがっても、人種・遺伝子・持って生まれたネフロンの数など変えられない要素もあるのだろうか?高貧困neighborhoodから低貧困neighborhoodに移るとsubjective well-beingが変わるという研究はあるが(Science 2012 337 1505)、objectiveな話はこれからみたいだ。

2013/11/25

Soda and CKD

 私が初めて米国の病院を訪れたときに、入院中の患者さんがソーダ(茶色くて甘い炭酸飲料水)を飲んでいるのに気づいた。しかも、年齢性別を問わずである。「米国ではソーダがお茶代わりなのか」と、アメリカ文化がアメリカ人に染み付いているという事に感心した。
 さて、今回の学会では「ソーダ(あるいはダイエットソーダ)はCKDを進行させるか?」というお話が聴けた。HFCS(high-fructose corn syrup)は関税などにより砂糖の輸入価格が上昇したため、米国が自国で安価に生産できる代替品として生まれ、1970年代以降に使用量が激増した。ちょうどその時期から肥満が増えたため、原因として指差されている。
 CKDでは、動物実験レベルで糸球体高血圧や内皮細胞ダメージ(Am J Physiol Renal Physiol 2007 292 F423)、ひいては糸球体硬化や尿細管障害をきたす(Am J Physiol Renal Physiol 2007 293 F1256)という。しかし、動物実験での摂取量はアメリカでの平均的な果糖摂取量よりはるかに高いので当てはまらないと主張する人達もいる(Adv Nutr 2013 4 246)。
 ただ、食事カロリーの25%を果糖飲料にした群はグルコース飲料の群に比べてインスリン抵抗性が高まり内臓脂肪が増えたというヒトの実験データ(JCI 2009 19 1322)もあるし、痛風との相関を示したNHANESのデータ(JAMA 2010 304 2270)もある。機序は複雑だが、fructokinaseにより生じたfructose-1-phosphateが肝ATPを枯渇させ核酸分解を促進するという。
 CKDについてはどうか?スタディ(KI 2010 77 609、CJASN 2011 6 160)によれば、一日2本以上ソーダを飲む群でeGFR低下との弱い相関があるかないか、という程度(レビューはACKD 2013 20 157)。しかし一日2本以上ソーダを飲む人達というのは、一緒にハンバーガーやピッツァも摂取していると思われる。
 というわけで、皆が同意できそうな「ソーダの飲みすぎは不健康な食生活のマーカーで、健康な食生活をしたほうがよい」という結論で話は終わった。アトランタでWorld of Coca-Colaに行った後なので「やべ」と思ったが、「たまにならいいか」と思った。それから、NYCのBloomberg市長が提唱した映画館でのビッグサイズソーダ販売禁止案が通らなかったのを思い出し、「ソーダはアメリカ人の魂だな」と思った。

2013/11/13

開会式で

 学会のopening sessionは、会長による危機感のある挨拶で始まった。押し寄せるAKI・CKD・ESRDの波と、後継者不足。いまだ少ない一般の認知不足、予防への理解不足、そして研究資金不足。しかしここはアメリカ、挨拶は再建の柱をいろいろと提案してポジティブに力強く終わった。

 たとえば認知を広めるためにさまざまな取り組みがあって、New York TimesにもWall Street Journalにも記事が出た。米国腎臓財団(NKF)も積極的に活動しているし、クスリなどによる腎障害を予防するためのKHI(Kidney Health Initiative)も、FDAとASN、それに世界各国の腎臓内科コミュニティを巻き込んで活動しているようだ(パートナーの一覧に聖マリアンナ医科大学と東京大学を見つけた)。

 スピーチのあとは腎臓内科界に貢献した医師や団体、会社らが表彰されたが、そのなかに一人の女性がいた。名前は覚えていないが、彼女は若くして腎臓病になり、透析後に移植を受け、何度かの移植での拒絶反応のあとcPRA 100%になっても「いつかテクノロジーが進歩して新しい治療があるはず」と諦めず、脱感作によりもう一度の移植に成功し、いまでも透析なしで暮らしている。

 彼女はpatient advocateとして同じ病気に苦しむ患者達を支えたいとpatient support groupを作った。透析の患者さんに「諦めないで、いつか治療が進歩するから」と説いてまわっているという。並み居る参加者を前に「you guys are doing great、keep up good work」と言い、最後にこんな中国の諺を引用して締めくくった。

 一時間幸せになりたければ、昼寝しなさい。
 一日幸せになりたければ、魚釣りに行きなさい。
 一ヶ月幸せになりたければ、結婚しなさい(聴衆失笑)。
 一年幸せになりたければ、遺産を受け継ぎなさい。
 一生幸せになりたければ、人を助けなさい。

 聴衆はスタンディングオベーションで答えた。しかし私にはほろ苦い思いもあった。というのも正直、末期腎臓病治療は透析・移植が登場したきりで、少なくとも私が生まれてからの数十年はブレイクスルーがない。循環器領域で人々がLVAD、Impala®、TAHなどと精力的に新しい治療を希求しているのと対照的だ(もっともそれは、透析と腎移植が生命予後に関してはこれらの循環器デバイスよりずっと勝っているからなのだが)。

 そんな複雑な思いと共に開会式は終わった。しかし、その次にstate-of-the-art talkで再生医療の話がはじまり「次の方向はこっちか?」というエキサイトメントを感じた。講演の先生も再生腎臓がまだ初歩なことは認めていたが、透析しないで済むレベルのGFRを生み出すことなら10-20年以内で可能になるかもしれない印象を受けた。また、このような新しいテクノロジーを笑うのではなくembraceする柔軟な自分でありたいと思った。

2013/11/10

Nephrology Quiz 1

 米国腎臓内科学会の悩みの一つ、深刻な後継者不足を解決しようと、毎年学会にはたくさんの医学生やレジデントが(発表するしないに関わらず)travel grantで招待される。それでか、今年はセッションも「盛り上がっていこう」という気持ちの伝わるものが多かった。なかでも"Nephrology Quiz and Questionnaire"は秀逸だったし、会場も満員だった。
 このセッションは、master clinicianと呼ばれる先生方が4人登場し、それぞれ2症例をクイズ形式で提示しその答えを説明することで思考過程とエビデンスを聴衆と共有する。腎炎を担当したMayoのFervenza先生は大御所中の大御所だが、とても気さくで、知的なユーモアで会場を和やかな笑いに包んだ。さて、全部は書かないが、私にとって勉強になったことを紹介する。
 最初の先生は、昨年の講演『電解質診療のEBM』も分かりやすかった。1例目は、低K、尿AG陽性のAG+非AG代謝性アシドーシス(+呼吸性アシドーシス)で、トルエン中毒だった(レビューはJASN 1991 1 1019)。尿AG陽性は「尿NH4+減少」だけでなく「尿アニオン(この場合hippurate)増加」もあり、尿OG(osmolar gap)が有用かもしれないと学んだ。
 2例目は褥創治療に砂糖を塗布されたあと低Na血症と腎障害を起こした例。Sucrose(ショ糖)は血中に直接はいるとすぐには分解されないので、尿細管細胞にたまって腎障害が起こる。ショ糖だけでなくマニトールなどその他の浸透圧物質でも起こり、osmotic nephrosisと総称される(レビューはAJKD 2008 51 491)。浸透圧ギャップにより診断を疑う。腎生検すると、特徴的な尿細管のvacuolizationがみられる。治療は浸透圧物質を止めること。
 それにしても、傷口に砂糖を塗るなんて私は知らなかった。蜂蜜を塗る例は古代からあるというが、「高浸透圧にして殺菌+砂糖で治癒促進」ということらしい(J Wound Care 2011 20 206)。なんだかべとべとしそうだが、有効で腎機能が保たれアリが寄ってこなければ、いいか。つづく。

Nephrology Quiz 2

 二人目がFervenza先生で、その1例目はステロイド依存で多薬にも依存になってしまった難治性の微小変化群をどうするかだった。エビデンスと経験をもとにCyclophosphamideは12週の経口でないと再発しやすい、CNIは一日一回でも腎障害は来る、MMFはステロイドを切るまでは至らないデータが多い、Rituximabは今のところ良さそうだが使い方は未確定(レビューはdoi: 10.1093/ndt/gft366)、など論文をたくさん引いてお話された。
 2例目はFSGSについてだったが、彼の「nephrotic-range proteinuriaとnephrotic syndromeは違う病態」という意見が目を引いた。これを言う人には以前にも会ったことがあるが、そういうものなのかもしれない。彼によれば、FSGSについて前者は二次性、後者は原発性(いわゆるpodocytopathy)を示唆するという。ついでに、3.5g/dで線引きをした(4g/dでもいいけど)経緯に関連した論文も紹介され(Am J Med 1958 24 249)、読もうと思った。
 三人目の先生は透析についてお話した。その1例目は腹膜透析で二週間前に腹膜炎をおこし、今度は別の(やはり皮膚の常在菌による)腹膜炎を起こしたケース。別の菌だから、recurrentだ(同じ菌で4週間以内ならrelapse、4週間以上ならrepeat、AJKD 2011 58 429)。Touch contaminationが疑われるが、治療は?
 実はこの方(実はと言うか、最初から提示されていたが)最近いろいろあって情緒不安定で、抑うつだった。だから正解はsertralineの内服。ESRD患者さんの1/4は抑うつというデータもある(KI 2013 84 179 )し、治療したらアドヒアランスが向上したというデータも出始めた(doi: 10.1681/ASN.2012111134)。つづく。

Nephrology Quiz 3

 2例目はナーシングホームに暮らす虚弱で既往の多い高齢ESRD患者のケースで、AVF(内シャント)が閉塞したあと右内頚静脈に長期留置カテーテルをいれたあとで右上肢が腫脹し、超音波でカテ周囲の血栓がみられた。どうする?正解は、透析をカテーテルで続け、抗凝固を始める。
 左に入れても右カテーテル周囲に血栓があり閉塞しているので有効な透析がおそらくできない。いきなり右カテーテルを抜くと、血栓が肺に飛ぶかもしれない。カテーテルに血栓ができる仕組みは、この論文(Lancet 2009 374 159)に美しい図があることを知った。カテーテル関連の血栓についての治療ガイドライン(Chest 2008 133 6 Suppl 454S)も知った。
 4人目の先生は、移植について。その1例目は、東南アジアからの移民高齢者で、原因不明のESRDに対してDDKT(deceased donor kidney transplant、献腎移植)3ヶ月後にグラフト周囲の痛みを訴えたが、精査すると肋骨周囲の腫瘍と胸腔内リンパ節がみつかったケース。BK DNA 17000 copies/ml。免疫抑制が効きすぎた、肺外結核。ESRDにおける結核をレビューした文献(AJKD 2013 61 33)が紹介された。そして、もちろんRFPとCNIの相互作用も。
 その2例目は、若いAB型のレシピエントがDDKT→DGF(移植後しばらく尿が出ない)後のacute rejection 2Aに対してステロイドとIVIGを受けたら、溶血性貧血になった。正解は、IVIGに含まれる抗A、抗B抗体による溶血。知らなかったが、IVIGは約1000人のドナーからの血清を集めてつくられ、会社にもよるが抗A、抗B抗体は多い(CJASN 2009 4 1993)。
 なおこの方は若いからCNI-sparingレジメンでsirolimusを内服していたが、CNIもsirolimusもTMA的な溶血は起こす(が本例はタイミングが合わない)。やっぱりCNIをキープしておいたほうが良かったのか?そもそもアドヒアランスが悪かったかもしれない。IVIGよりATG(抗胸腺グロブリン)?施設によって治療が違うのが、移植業界。つづく。

Nephrology Quiz 4(aka ARS)

 とまあ、Nephrology Quizは明日から役立つことが勉強になった。もう一つ、効果的なやり方と思ったのは、ARS(audience response system)だ。日本でも使われ始めているが、今回は聴衆全体、TPD(training program director)、フェローの三群に分けて、それぞれのレスポンスを見ていた。だから、たとえばTPDはほとんど正解でもフェローは答えが完全に分かれたりして、そういうフェローの苦手分野はもっと教えようとか活かせそうだった。

2013/11/08

DKDと血糖管理

 DKDの進行予防にどのような血糖管理が有効か?という問いに答えるのに、1時間は余裕で掛けることが出来るだろう。多くのスタディ(DCCT、そのフォローアップEDIC、UKPDS、ACCORDなど)が組まれたし、現時点での推奨は以前に書いた。
 これにDKDにおける心血管系死亡の予防にどのような治療が有効か?という問いを付ければさらにHOPE、ADVANCE、RENAAL、IDNT、ONTARGET、ALTITUDE、VA NEPHRON-D、PPP、4D、AURORA、SHARP、FIELDなどきりがない。
 今回の学会でもこれらのレビューをしてくれ、関心が高い分野だから大きな会場が超満員だった。それから、経口血糖降下薬とインスリンのCKDにおける用量調節についてもレビューがあり、KDIGOガイドライン(AJKD 2012 60 85)を参照していた。

Mgのいろいろ

 Mgのお話はEGFのところで止まっていたが、他にもCNNM2とかHNF1βとかZXYD2とか色々ある。全部書くのは大変だから、今回勉強になった中で二つ紹介する。一つは遠位集合管にあるMgの再吸収チャネルTRPM6がインスリンにより活性化されること(PNAS 2012 109 11324)。インスリンが間質側のインスリン受容体に結合することで細胞内のCDK5を活性化してTRPM6をリン酸化することで、TRPM6を含む小胞を移動させTRMP6を内腔側に表出させるのだという。

 もう一つは、MgはTRPM6だけでなくparacecullarにも再吸収され、それにはClaudin 16や19などが関わっていることだ。タイトジャンクションがイオンチャネルの役目をしているなんて知らなかった。聴けば、タイトジャンクションといっても壁ではなく、フェンスとでも言おうか、イオンくらいは通れるのだそうだ(Curr Opin Nephrol Hypertens 2010 19 456)。Mg2+、やはり奥が深くてこれからも目が離せない。

DKD

 AKI、CKDが提唱されて間がないのに、今度はDKD(diabetic kidney disease)だ。これは、実は糖尿病性腎症といってもetiologyが多彩なので、それらをひっくるめた概念として主にリサーチの便宜上から提唱されたと私は想像している。たしかに、教科書的な「過剰ろ過→微量アルブミン尿→顕性アルブミン尿→GFR低下」というモデルは、1型糖尿病で当てはまることがあるものの、そうでない病態も多い。腎生検したら別の病変がみられることもあるだろう。

 しかしそれで治療が変わることは余りないということで腎生検を控えることも多いわけだし、そういう人でも腎機能の進行・心血管系イベントなど予後は悪いだろうから、全部一緒にしようというわけだ。この定義だと、実は蛋白尿がなくeGFR低下のみというDKDも結構ある(JAMA 2011 305 2532のNHANES解析によれば、DKDの1/4~1/3)。もっとも、これが抗RAAS薬による蛋白尿の抑制+eGFRの低下なのか?などと言いはじめると話はややこしくなるが。

 どういう人がアルブミン尿のでるDKDで、どういう人がでないDKDなのか?演者の作った表によればおおまかに前者はCKDの進行が早く(CJASN 2012 7 78)心血管系リスクが高い一方、後者は男性や高齢者に多いという。こういった話があるからKDIGOもCKDをCGA(原因、GFR、アルブミン尿)二次元分類しているのだろうが、「アルブミン尿がないなら降圧剤は抗RAAS薬でなくてもよいの?」といった問いに答えるデータは少ないようだ。

2013/11/07

Geriatric Neprhology 24

 ここまで濃密な学びであったが、いままでずっと知りたかった内容だし、教育方法も工夫されていたのでついて来れた。そして、最後を締めくくるのがなんとdebateだった。お題は:

 75歳の患者さん、CKD-EPIのeGFR 50 ml/min/1.73m2、U-alb/U-Cr 25 mg/g。彼女はCKD3期ですか?

 事の発端は、CKDが導入されて生じた患者さんへの不安にある。上記患者さんのような人が米国だけで800万人いるだろうが、今後の腎機能低下の進行は最小限と思われるし、平均寿命にもほとんど影響はみられないと思われる。
 しかし、かかりつけ医が患者さんに「あなたはCKD(慢性腎臓病)3期です、腎臓内科を受診してください」というものだから「え!?腎臓が病気なの?しかも5期までの3期ってことは、あと少しで透析ってこと?」ととても心配してしまう。
 これについて賛成と反対それぞれの立場で主張があった(実際この議論はKDIGOガイドラインを決めるときにもexpert同士であったらしい)。賛成側は、以下の点を指摘した:

①加齢によるGFR低下だけにしては低めなわけだし(JCI 1950 29 496)、そういう状態として名前をつけるのは許されるのではないか
②たとえ進行しなくても、腎機能正常群に対して死亡率・心血管系イベント・ESRDのリスクは2倍程度上がる
③目に見えない腎機能低下とそのもたらす危険について啓蒙活動は必要
④腎機能低下を防ぐためにクスリを避けたり調節したりする注意を喚起できる

 などの点を指摘した。それに対して反対側は以下の点を指摘した:

①Oxford辞典の定義からいってもdiseaseではない
②患者さんに不要な不安を与える、不要な検査を強いることになる
③死亡率・心血管系イベント・ESRDのリスクは、年齢で層化するとごくわずかに下がる(JAMA 2012 308 2349)
④上記リスクは、GFRよりもアルブミン尿がより相関している

 それから測定方法についての話も少し出た。KDIGOにはクレアチニンベースのeGFRが信頼できなければCystatin CあるいはCystatin C + Crで確認せよとある。Cystatin Cは予後予測により有効だが、反対の立場の演者によればそれはeGFR以外の因子を反映しているからで、eGFRをより正確に測定するからではないのだという(JASN 2013 22 147)。
 両者の主張を聞いた後、rebuttalがあり(水掛け論になるのを防ごうのに、Can we move on?とより本質的な問題点を指摘したりこれからすべきことに話を移すのが自然な様子だった)、フロアからのコメントや質問があり、最終的にフロアの投票を行った(debate前と比較した)。結果はさておき、こんな試みは初めてでとても興奮した。

Geriatric Nephrology 23(aka Journal Club)

 腎臓関係の主要誌で「geriatric、elderly、kidney」と検索してみつかった、興味深いいくつかの論文について取り上げ批判的考察を加えるjournal clubまでしてくれるなんて、面倒見のいい学会だ。たくさんレビューしすぎて議論は駈足だったが、フロアから有益なコメントも多かった。

BMC Public Health 2012 12 343(ドイツ)
高齢者にCKDは多い、Cystatin Cでみるとすこし少ない

CJASN 2013 8 33(台湾)
高雄郡は、透析患者の有病率が世界で最も高いらしい
リスク因子の一つ、Long Dan Xie Gan Tangという漢方薬

CJASN 2013 8 939(韓国)
高齢者ではCKD-EPIのeGFR低下による死亡率hazard ratioが若年者より低い*
*数字は小さいが、absolute riskはもっと高いのではないか?

CJASN 2012 7 949(米国)
CKD患者にはECG異常が多く、大きな異常*だと死亡率のリスクが高い
*心室伝導遅延、Q+ST異常、LVH、Afib、1AVB

CJASN 2012 7 588(米国)
CKD-EPIのeGFR低下はインスリン抵抗性と相関していた
(個人的にはLancet 2012 380 601と関連して考えた)

KI 2012 82 482(イタリア)
死亡とESRD、どちらが先に来るか調べた
65歳+35ml/min/1.73m2が目安の点、詳しくは論文の図参照

AJKD 2010 56 122(米国)
AKI*は高齢者に多く、ESRDと死亡の因子
*ベースライン腎機能がしばしば不明なことに注意

KI 2012 82 920(台湾)
高齢者の術後AKI(ICU)は、Crがあまり上昇しなくても予後が悪い?

JASN 2013 24 1166(米国)
高齢HD患者の脳梗塞発症リスクは数ヶ月前に高くなり、透析月がピーク
以後数ヶ月で減るが12ヵ月後も以前より高く維持
Afibはリスク因子として有意でなかった
透析前後というのは不安定な時期だし、透析そのものとの因果関係は不明

JASN 2013 24 1297(米国)
高齢のESRD患者でAVF(内シャント)がベストでないかもしれない*
*USRDSデータの解析

CJASN 2012 7 1163(米国)
ECD(extended criteria donor)腎を移植された高齢者は生命・腎予後が不良だった
→そりゃそうだ

Geriatric Nephrology 22

 Active Medical Management(AMM)とは何か(演者によるレビューはSemin Dial 2012 25 617)?ESRDにたいして透析をせず、かといって緩和ケアでもなく、透析をしない代わりに内科治療をアグレッシブにすることだ。透析を受けた患者さんの2/3が後悔しているというデータもあるし(AJKD 2010 5 195)、治療選択肢をいろいろ説明することはとても重要なことだ。しかし、透析しない場合に看取り以外にAMMもあるとは正直知らなかった。
 ただ、聞いてみると頻回なフォローアップ、アグレッシブな貧血・MBDなどの治療、体液貯留を避ける、タンパク制限、精神・社会的なサポートという訳で、べつに目新しいことじゃない。ただ「日本の透析患者さんは透析を受けながらAMMも受けているのではないか?」という気づきはあった。それでHDとHD+AMMを比較したスタディがあるか演者に訊いたが、ないらしい。HDとAMMを比較したスタディはあるが(NDT 2007 22 1955)。

Geriatric Nephrology 20

 よく「英国には透析の年齢制限がある」というが、そんなことはないようだ。それはさておき、超高齢者であっても透析してからの生存期間には個人差がある。それを美しく示したのがDr. Kurella Tamuraのスタディだ(KI 2012 82 261)。末期腎不全の高齢者が治療選択するのをどのようにサポートするか、そのframeworkを作ろうというのが彼女のテーマの一つで、私はいつか彼女に日本に来てお話をしてほしいなと密かに願っている。
 それはさておき、高齢者の治療選択においては①個人の志向を尊重すること、②エビデンスの有無を調べること(除外されていることも多いから)、③達成したいアウトカムの質を吟味すること、④副作用・負担・煩雑さなどマイナス面も考慮すること、などの原則が提唱されている(JAMA 2005 294 716)。長期生存については、平均寿命や予後(血液透析患者における、おそらく欧米のデータを参照につくられた計算ツールもある)などが参考になる。
 たとえば、AVF(内シャント)とAVG(グラフト)とCVC(長期留置カテーテル)では、CVCで感染リスクが高いことは論を待たない。しかし、余命が2.5年の高齢者を見た場合に、菌血症のリスクはAVFで0.06件/人・年、CVCで0.1件/人・年で、NNTは17だ。ポイントは「高齢者の余命を考えると必ずしもfistula firstではないかもしれない」というように、治療選択には余命やco-morbiditiesを考慮する必要があるということだ。Vascular accessについては、つづく。
 

Geriatric Nephrology 21

 北アメリカでの高齢末期腎不全患者に対するvascular accessの議論は、「カテーテルじゃいけないの?」という質問に答えるためにあるようなものだ。内シャント手術をするのは大変だし、お金も掛かるし、作っても成長しないかもしれないし、せっかく成長しても「内シャントを作っても、腎臓病が悪化して透析が必要になる前に患者さんが亡くなる」というシナリオもある。65歳以上のESRD患者ではアクセスの種類によって死亡率が変わらなかったというスタディ(CJASN 2005 16 1449)もあるようだ。
 ただ、日本の透析患者さんの成績は欧米とぜんぜん違う(だから、不安を与えないよう余命計算モデルのリンクはここに載せていない)。それに、内シャントも日本は術後2-3週間で使うし、使用可否は腎臓内科で判断するし、血液速度もゆっくり(米国は350-400ml/minが普通)など、事情がぜんぜん違う。もっと言うと、お風呂文化とかも関係しているかもしれない(カテーテルだとお風呂に完全にはつかれないだろう)!
 こういう違いは、私も帰国してから気づいた。だから、日本にもUSRDSのようなレジストリがあるなら、いろいろデータを世界に発信したら色々お互いに変わるのではないかと思う。そして、いま私はこうして日本語で日本語を理解する人たちに発信しているが、今回学会で日本との米国の違いを話すたび「面白い」「どっかに書いて送るべきだ」と言われて、世界に日本のことを知らせるのも私の役目かもしれないと考えた。

Geriatric Nephrology 19(aka SGD)

 ちょっと期待はしていたが、まさか本当に米国腎臓内科学会で3-4人のSGD(Small Group Discussion)、さらにロールプレイまですることになるとは思わなかった。こないだの日本腎臓内科学会東部会も新しい試みがたくさんあって楽しかったが、教育もどんどん進化していく。
 SGDで自己紹介してみると欧州、南米、アジアなどさまざまな国から参加者がきており、うちとけてお話できて楽しかった。みんなの意見を聴くのも参考になったし、自分も話をした。来年は日本の学会でもこのようなSGDが取り入れられたら面白いだろうなと思った。
 さて、ディスカッションでは透析導入をためらう症例について、SPIRES frameworkで考察した。SPIRESのSはSet-up。PはPerceptions and perspectives。IはInvitation、RはRecommendation、EはEmpathize、SはSummary。そしてどのようなopen-ended questionsを問いかけるか考えた。
 さらにそれを踏まえてロールプレイをした。私は医師役だったが、患者さんのニーズや望みを聞き出すのに時間が掛かるのを実感した。まあ3分しかもらえなかったので仕方ないが、recommendationまでたどり着かなかった。それから、この手のマニュアルにいえることだが、意外と使いづらく、参考にして自分なりのアプローチを作るのだろうなと思った。

Geriatric Nephrology 17

 ICUせん妄が長期死亡率に相関する(JAMA 2004 291 1753)と聞いてもあまり驚かないかもしれないが、質問は「ICUが終わった後も引き続き鎮静薬などが不必要に続けられたことが関係しているのか」だ(J Am Geriatric Soc 2013 61 1128)。薬の副作用による入院はとても多く、その約半数は80歳以上だった(NEJM 2011 365 2002)。なお、高齢者で注意すべき薬をまとめたのにBeer Criteriaがある。
 ICUせん妄のリスクは数多くあるが、腎機能低下はどうだろうか?スタディによれば相関する(Arch Int Med 2007 167 1629、OR 2.1)。鎮静薬などの排泄が低下するから、患者さんが透析中に寝ていたらまずクスリをチェックしたい。低・高Na血症も関係しているかもしれない、Na濃度変化と死亡率は以前に書いた
 ICUせん妄は一時のことだろうか?丁寧に長期フォロー(ICU入院前の認知機能を確かめたり、うつを除外したりして)したデータによれば、多くの患者さんはMCI(mild cognitive impairment)、TBI(traumatic brain injury)、Alzheimerレベルにまで低下していた(NEJM 2013 369 14)。

Geriatric Nephrology 18(aka RRT in the ICU)

 ICU、入院中にRRTすべきかを議論するときの困難は枚挙に暇がない。患者さんの意識がないし、advanced directiveもないし、ICUチームが話をして腎臓内科が参加しないことも多いし、ICUチームに治療の一環と言われて彼らを助けるためにやるのは難しくないが、患者さんにとってベストの治療が何なのかを考えようと思ったら大変だ。
 家族からいただく質問の一つは、患者さんのAKIが回復して透析導入しても党籍離脱できるか?というものだ。まず「患者さんが生きて病院から帰れるか分からない」というのが前提だが、壇上の演者に質問したらAKIの回復についてはいくつかのスタディがあり、高齢者ほど回復は厳しいらしい。ただそれも原因にもよるから、ケースバイケースだ。

Geriatric nephrology 16

 ドラマでICUというと、若い患者(主人公)が静かに寝ており、恋人が手を握ると静かに目を開けるシーンを想像するかもしれない。しかし、スタディによればICUの患者さんの60%以上は65歳以上だ(Crit Care Med 2006 34 1016)。そして、透析患者さんも多い(あるスタディでは3%、JASN 2009 20 2441)。透析患者さんは入院率が高く、入室時に非透析患者よりもsickerだ(CJASN 2011 6 613、カナダのデータ)。
 AKI患者さんも、高齢者が多い。Dialysis-requiring AKIのデータ(JASN 2013 24 37)が衝撃的だった。そのメカニズムはいくつかある(JASN 2011 22 28によくレビューされている)が、加齢だけでなく薬剤(KI 2012 81 1172によくまとめられている)や慢性炎症や低栄養などさまざまだ。筋肉量低下によりCrが低く(eGFRが高く)見積もられ薬や輸液が過剰になったり、止められるべき薬が与えられてしまう事もあろう(CJASN 2013 8 1070)。腎臓内科の役目はこれらを防ぐことだが、残念ながらあとの祭りなこともある。

2013/11/06

Geriatric Nephrology 15

 以前に別の学会で学んだときの演者で声がエレガントで印象的だった方が、ふたたび今回も(やはりエレガントな声で)お話された。彼女は当時、「リハビリ集中治療」によって機能障害を回復させて自宅に帰すという診療を紹介していた。今回も、透析患者のphysical decline and frailtyについてお話していた。
 腎機能低下と身体機能低下は相関し(Arch Int Med 2009 169 2116)、透析後にとくに著明に低下する(NEJM 2009 361 1539)。その理由として入院による不動、低栄養、体液貯留などあろうが、透析回診すればすぐにも分かるのは「透析治療によるもの(疲労、痛み、喪失感)」だろう。
 転倒は、転倒による身体障害も心配だが、転ぶのではないかという恐れや不安も見逃せない。そして、よく調べられているように死亡率に相関している(血液透析患者では、NDT 2008 23 1396)。そういえばこのあいだAJKDにESRD患者における大腿骨頚部骨折リスクをみたスタディがあった(AJKD 2013 62 747)、そしてそこでもfrailtyが考察されていた。
 Frailty、何と訳してよいかわらないが、Fried definitionによれば以下の三つ以上がある状態を言う:①体重減少、②疲労、③筋力低下、④歩行速度の低下、⑤活動性の低下。患者さん自身は気づいていないこともある。Frailtyがあると、死亡率とか転倒とかいろいろよくない。いろんな程度があって、CSHA Clinical Frailty Scaleというスケールがある。
 どうしたらいいか?①予防、②治せるなら治す、③あるものでそれなりにやる。①②も大事だが、③のリハビリ的な考えが私は好きだ。立って料理できない人に椅子をあげるような考え方だ。帰ったらリハビリの皆さんとよりよいケアについてお話したい。

Geriatric Nephrology 14

 重要なことを繰り返し説明するのは常識だ。だから二日目も繰り返し大事なことが繰り返された。高齢化は移民を受け入れる米国でさえ進んでいる。Medicareが始まった頃の平均寿命は60歳台だった。いま、いろんなことのおかげで長生きでき(男性76歳、女性80歳)、退職後の生活も変わった。
 米国にCKD患者はどれだけいるのか?3期が760万人、4期が40万人、5期が30万人(AJKD 2003 41 1)。ESRDは高齢者の病気、80歳人口の2000人/100万人(1/5000)がESRD患者だ。だから腎臓内科医は高齢者のケアを知らなければらならない。認知、目や耳、心、セルフケアなど。
 だから、geriatric assessment(GA)が有用かもしれない。医療と直接関係しないところも多いし、全部医師が一人でやる必要はない。GAは長生きを目標にしているのではなく、元気でおり、機能を維持し、できるだけ在宅できることを目標にしている。
 認知低下のことは以前に書いたが、多くは血管性と考えられ、GFR低下に相関しているからスクリーニングしなければならない。米国にはMMSE、日本には長谷川式があるが、ここではMOCA(Montreal Cognitive Assessment)が紹介されていた、作業能力を問うらしい。うつも大事。
 セルフケア、何が出来ますか?予約、移動、薬、食事、など。これらを含めたKEL(Kohlman Evaluation of Living Skills)というスクリーニングがあり、OT療法士さんにお願いするとスコアが返ってくる。スコアが6より多いと自宅で独立して暮らすことは難しいそうだ。転ばないには?透析室に歩いてくるかどうかを見るのもよいし、Timed-up-and-goという簡単なテストもある。
 透析医はかかりつけ医か?米国でもそうらしい(ASAIO J 1992 38 M279)、もっとも週三回診察することはないが。そして、主治医であるからこそACP(Advanced Care Planning)を始めなければならない。ESRD患者の死亡率は一般の6倍だ。困難な会話でも、後悔しないように、患者と家族に話しかけなければならない。

Geriatric Nephrology 13

 私がフェローのとき、今は亡き恩師が患者さんの家族に「全ての患者さんが透析を受けなければならないというわけではない」と説明していた。透析をしないという選択肢もあるのだということを端的に、かつ色をつけずに示すやり方だなと、横で感心した覚えがある。では、透析をしない・やめるというのはどういうことなのか(もっともこの二つは状況が大きくことなるので一括りにできないのだが)。
 ここでは透析をやめるということについて。じつは透析をやめるというのに、はっきりした定義がない。だから研究しようにもそこから始めなければならない。医学的な理由でできなくなったのか、ご本人の意向でしないのか、必要なくなったのか、必要になってもしないという方針で(もちろん変わってもいいわけだが)やめたのか。
 透析をやめてどれくらい生きられるのか?数多くのスタディがあるそうだが(NEJM 1986 314 14、NDT 1996 11 133、AJKD 1998 31 464、Arch Int Med 2000 160 2513、NDT 2004 19 686)、だいたい8日間だそうだ。短い場合も長い場合もあり、残腎機能によるのだろう。
 透析をやめるケースはどれくらいあるのか?USRDSは死因の報告を義務付けているのでデータがあるが、約20%。英国のRenal Registryによれば、14-15%だった(ただしこちらのレジストリは死因報告の義務がない)。
 いずれにせよ、これだけでは数字なので詳しいことが分からない。しかし今日いろいろ聴いて分かったのは、透析は始めるよりも始めない・そしてやめるほうがずっと難しいということだ。やめたほうがいいとかそういうことではないが、医療側が「しない」という選択肢を提示しないことによる苦痛もあるわけだから、透析に関わる者として説明できるようになるべきだと思っている。

Geriatric Nephrology 12(aka NURSE)

 感情をうまく受け止め力になってあげる技法に、NURSEがある。NはName、感情を名指しして口に出すこと。「これについて話すのは怖いことだろうと思います」。UはUnderstand、理解を示すこと。「今起こっていることについてご心配なさっておられることとお察しします」。RはRespect、相手のしていることや考えていることを尊重すること。「ご自分でいろいろ努力していらっしゃるのを知っていますし、それを尊敬しています」。SはSupport、「困難なときですが、一緒に乗り越えていきましょう」。EはExplore、「もう少しご心配について教えていただきたいのですが」。
 こういうのは、役立つように思われるし、実際役立つのだろうけれども、使わないとモノにならないだろう。モデルケースをビデオを観たり本を読んだりすれば、もっと身につくかもしれない。米国腎臓内科医会(学会ではなく、ロビー)と米国腎臓内科学会が一緒に出した"Shared Decision-Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis"(2010)や、英国政府が出したESRDにおけるEOLC(end-of-life care)についてのガイドラインもあるという。こらから経験を積んでいかねばと思っている。

Geriatric Nehrology 11(aka Ask-Tell-Ask)

 いろんなスキルを学んだ。一つはAsk-Tell-Ask。まず、透析になったらどうなるかを知ることが助けになるかを患者さんに尋ねる。先が分からないこと、知識がないことは不安の元であり、おおくの患者さんは自分の状況と予後を知りたいと思っている。しかし、どのように聴きたいかは人によって異なり、数字が良い人もいれば、最悪の場合と最善の場合をシナリオのように知りたい人もいれば、生活の質が具体的に変わるのかを知りたい人もいるだろう。
 ここで、知っていることを短時間で詰め込むのは効果的でない。ゆっくりと、一回に少しの内容を伝えるほうが伝わる。すべては、患者さん中心の医療のためであり、私達が話して楽になるためではない。不確定なときには、「もっとはっきりコレと確定的なことがいえたらいいのですが」とその気持ちを共有してもいい、あくまで目標は患者さんと一緒にやっていくという姿勢を示し不安を除くことにある。
 そして、再び尋ねる。ここで本当は「いま聴いたことをもう一度言ってください」といいたいところだが、これはテストみたいであまり気持ちよくないので「私はぜんぶを説明しきれないことがよくあるので、私がちゃんと言うべきことを言ったか確認するために、あなたの理解をあなたの言葉で教えてくれませんか?」とか「今日の内容をおうちに帰ってご家族に何と説明しますか?」とか聴くといいようだ。

Geriatric Nephrology 10

 患者さんに治療のゴールを聴くのは、時間とエネルギーを要することだ。ある施設では一回に90分かけるという。医師ひとりではできない。患者さん、家族、看護師、ソーシャルワーカー、場合によっては栄養師やリハ療法士など他業種が責任を分け合って行うチームワークだ。
 1.まず病気についての信念、目標、価値観を聴く。そして、well-beingについての考えを聞く。そして、将来の希望についてじっくり聴く。たとえば透析中の希望は移植を受けて透析から離脱することかもしれない。なるほど、それはよい希望ですね。では、移植が受けられなかったらどうありたいですか?透析しながら今の生活を維持したい。なるほど、それはよい希望ですね、では、透析が無理になったらどうありたいですか…?
 聴きながら、痛みがないことだったり、家族がそばにいることだったり、孫の結婚式に行くことだったり、本を書き上げることだったり、いろいろな人生の目標や希望が見えてくるだろう。それをじっくり聴くことが大事だ。そのうえで、いつか来る死を前に、身体的にも精神的にもスピリチュアルにも安らかな「大往生」をどうしたら迎えられるか考えていく。
 2.しかしいきなり「どんな死に方」についてなんて、聴くのも聴かれるのも苦痛だ。だから、いままで誰か親しい方の最期を経験なさいましたか?そしてそれはどうでしたか?と聴く。人のことならいくらか話しやすい。すると、たいていは「あれは大往生だった、私もあのようでありたい」か「あれは可哀相だった、ああはなりたくない」というどちらかの例が挙がるものだ。
 3.そのうえで、生命維持治療について話をする。1.と2.がなければ、3.は空虚だ。もっとも、おおくの場合時間がないから急性期にいきなり3.をしなければならない(から医療者も家族の感情的にとても疲れてしまうわけだが…)。4.話をまとめる、5.ニーズをどう満たすか、ギャップをどう埋めるかについて考え、フォローアップ計画をたてる。
 私は、この話を透析室で患者さんが透析を受けているときに周りの患者さんもいる前でするのに抵抗を感じた。しかし、壇上の(米国、カナダの)演者たちに質問したら、意外にも透析室でやっているらしい。透析日でない日に来てもらい個室でやることもあるが、そのオプションを示しても患者さんが「透析中でよい」と言う場合が多いそうだ。「その話、今度わたしにもしてほしい」となることもあるという。
(注:後日フロアの人達とこの話をしたら、やっぱりプライバシーのない透析室でこの話をするのはawkwardという方が多かった。)

Geriatric Nephrology 9

 Advanced care planning(ACP)とは何だろうか?それは一回で決まるものではない、熟慮と話し合いで生まれる。一人だけのものではない、本人・家族・医療者・社会のなかで生まれる。死の話というより、いかに最期を送るかにフォーカスする。その結果、絆を深め、希望と与え、平安をもたらすことができる。
 ACPとは、どのようにsettingすればよいのだろうか。まずACPがとくに必要な患者をみつけ、ACPの準備が出来ているかを見分け、ACPを始めていく。すべてのCKD患者、もっといえばすべての人間にACPは必要だが、とくに必要な方から始めるのが現実的だろう。年齢、栄養状態、Charlson Comborbidity Indexの高い(50% 1-year mortality)、所謂Surprise QuestionがYes(CJASN 2008 3 1379)の方から。
 誰に話せばいいだろうか?患者さん本人であるべきだが、実際には患者さんに意識も理解力もあるときにこのような質問を始めることはあまりないのが現状だろう。だから、どうして突然にこのような会話を始めるのかを説明する必要がある。そうでなければ後で「話しにくいことでも悩んで答えを出しておけばよかった」と後悔することになるかもしれない。
 (注:Surprise Questionとは、この患者さんが透析を始めて一年以内に亡くなったとして驚くだろうか、透析前に自問する質問のことを言う。上記引用を参照のこと)
 

Geriatric Nephrology 8

 透析によって高齢(75歳以上)の慢性腎臓病患者が長生きするだろうか?海外データでは、しない(NDT 2011 26 1608)。では、透析をしないとは、どういうことなのだろうか?あなたはそれを説明できるだろうか?
 Supportive care、それは緩和ケアの専門家だけがすべきことではない。医師は検査を解釈するだけのためにいるのではない。痛みと症状を和らげ、悲しみと恐れをのぞき、苦しみを助けるためにいる。
 あなたは、患者さんと死について話すことが出来るだろうか?死に向かう人に、人生の最期を患者さんの望みに可能な限り沿って診療することが出来るだろうか?Mortalな存在である私達なのに、死は多くの場合「予想外の出来事」だ。前もって話すことは、ほとんどない(NDT 2012 27 1548)。
 「よき死」とは何だろうか?昔は、これは聖職者の仕事であり、家族や親しい者が関わってきた。しかしこの領域に必要な基本のスキルセットは、緩和科だけでなくすべての医師がもつべきだという主張が最近NEJMにあった(NEJM 2013 368 1173)。しかし、どんなスキルだろう?

Geriatric Nephrology 7

 DKD(diabetic kidney disease)で顕性アルブミン尿が出たら死亡率が倍になるし、GFRが下がったら10年死亡率は60%近い(JASN 2013 24 302)。それって、まずい。しかし、intensive controlは、usual careに比べてベネフィットがないにもかかわらず際だって低血糖が多かったので以前ほど薦められない。

 むしろ、昨年はKDIGOとADAが一緒に話し合い、「DKD患者のCKD進行予防にはHgbA1cを7%くらいにしよう」ということになった(AJKD 2012 60 850)。ADAはさらに、低血糖の心配があったりアグレッシブに治療する益が少ない場合にはHgbA1cを8%以下くらいでどうかといっている。

 実際、CKD3-4期のコホートを観察研究したらHgbA1c7-8%を底にした生存曲線が得られ、GFR 35ml/min/1.73m2を切ると血糖コントロールによるESRD予防が薄れていた(Arch Int Med 2011 171 1920)。

 DKD患者さんで浮腫が出たら、TZDクラスが入っていないか確認したほうがいい。Metforminの乳酸アシドーシスについては別に書きたいが、起こるし、FDAもCr 1.5mg/dl以上の人に禁忌としている。

 新規secretogogue(GLP1、DPP4)はどうか?Exenatideは長期フォローで腎不全患者にも使えるようだった(AJKD 2013 62 396)。DPP4は、それぞれGFR低下時の処方注意がある。SGLT2については前に書いた

Geriatric Nephrology 6

 血圧ゴールほど、ころころ変わるものもない。しかし知っておくべきは高齢化とともに脈圧があがる(SBPがあがり、DBPがさがる)ことだ。では、これらisolated systolic hypertensionをどうしたらいいのだろうか?加齢とともに血管が硬くなるのを、受け入れるべきなのか(NEJM 2007 357 789がレビューしているようだ)?

 多くのスタディは高齢者を除外しているから、この群についてモノを言う十分なpowerがない。SHEPスタディ、Syst-Eurスタディはどちらも高齢者を対象に収縮期血圧を下げ、脳梗塞についての美しいRRRを示した。しかし最近のSPS3(Lancet 2013 382 507)では有意差がなかった。一応、メタアナリシスでは75才以上の群で収縮期血圧を下げると死亡率は減らないが脳梗塞や心血管イベントは減っていたそうだ。

 85歳以上はどうか?有名なのはHYVETスタディだ(NEJM 2008 358 1887、実はCr >1.7mg/dlの群を除外している)。SBPを144mmHgにしてあげたら脳梗塞、all-cause mortalityが下がった(p=0.06)。しかし痴呆はどうか?Cochrane Meta-Analysisによれば、SBPを140-150mmHgにしても効果がなかった。

 腎保護はどうか?MDRDスタディでのBPターゲットは61-70歳群でMAPで98mmHg(SBPでだいたい145mmHg)以下だったことを思い出せば、71歳以上の高齢者で蛋白尿もわずかな場合に、SBPターゲットは145mmHg程度でもよいのではないか?まあデータはない。

 余りデータがない世界なので、現在SPRINTスタディが進行中だ。75歳以上のCKD(eGFR 29-59ml/min/1.73m2)で、SBP120以下と140以下というアグレッシブなスタディだ。結果がでるのを待とう。
 

Geriatric Nephrology 5

 RALSトライアルといえば、心不全におけるスピロノラクトンの有効性を美しく示したスタディだ(NEJM 1999 341 709)。そしてこのトライアルでもう一つ知られているのは、スタディを鵜呑みにして人々が薬を使いまくった結果、副作用がたくさん出た上にスタディほどの効果も出なかったというスタディを産んだことだ(NEJM 2004 351 543)。スタディは、その対象や使った薬の用量など、applicabilityに注意しなければならない。
 ひるがえって、いま私達が考えている高齢でco-mobiditiesの多いCKD患者はしばしばスタディから除外されている(高齢者がしばしばスタディで除外されていることについてのreviewはZulman JGIM 26 7 2011 )。また、CKDのスタディは多くの場合若く糖尿病で蛋白尿のある患者層を対称にしているが、私達が臨床で目にする高齢CKD患者には実は糖尿病もなく蛋白尿もない人が多い(Ann Int Med 2009 150 717)。
 そして、RRR(relative risk reduction)で表現されたスタディも、高齢CKD患者層の人たちでARR(absolute risk reduction)、NNT(number needed to treat)を見直すと効果がミニマルだったり、効果に差がみられる前に亡くなったりする。副作用が多かったり内服しなかったりするかもしれない(これを定量的に示した美しいスタディはArch Int Med 2011 171 923)。
 ここで、universal health outcomeという概念が紹介され(J Am Geriatr Soc 2012 60 2333)、興味深かった。血圧、血糖、認知、色々含めたということだろう。しかしそこに行く前に、個々のゴールについてみていくことになった。続く。
 

Geriatric Nephrology 4

 CKD患者のケアはsingle disease processでは済まず、貧血やら血圧やら骨やら多角的・集学的治療を要する。しかしそれに加えて、CKDの高齢者には老年医学的な視点が必要になる。つまり、彼らは認知、うつ、疲労・消耗、転倒、動けない、多薬など特有の問題を持っている。それについてどうしたらよいかは、米国老年医学学会の資料があるらしい(J Am Geriatr Soc 2012 60 E1)。
 それから、余命と余生について考えること。米国の余命データ(JAMA 2001 285 2750)。余生についてはこのスタディ(J Am Geriatr Soc 2005 53 306)が知られており、要は患者さんはLDLやA1cといった数字ではなく一人で暮らせることや自分で動けることをアウトカムに考えているということだ。
 またLife-space mobilityという新しいアウトカムモデルが興味深かった。ベッドから動ける、部屋から出られる、家から出られる、庭にいける、路上にいける、街にでられる、街から出られるというように移動できる範囲(とそれによる生活の違い)をアウトカムにしたもの。これを指標にしたスタディも出始めたようだ(AJKD 2013, in press)
 これらを含めて、高齢者のCKD診療はdisease-oriented approachからpatient-centered approachにシフトしつつあり(AJKD 2012 59 293)、これからも学会などで医療界・社会に啓蒙活動が進むだろう。それらを支える研究活動も盛んに行われているようだ。

Geriatric Nephrology 3(aka RFT)

 とはいえ、高齢者のCKDをモニターし予防するのが私達の役目だ。そのために何を知っておくべきだろうか?日本でも米国でも「自分の腎臓がどれくらい働いているか知っていますか?」と訊いて答えられた人は少ないが、私はΔeGFR/yrをCKD進行のsurrogateにしているし、どうやら今はそれでいいようだ。問題はどのeGFRを使うかだが、これは別のときに書く。
 ΔeGFR/yrでは、slope-based methodといってグラフで線を引く(これを演者はRenal Function Trajectory、RFTと呼んでいた)。ふつうはまっすぐ下がっていくが、AASKデータを見直したスタディによれば全員がそうなわけではなく、人によっていろんなパターンがある(AJKD 2012 59 504)。ほかのスタディでも同様だ。
 スロープを急峻に下げるうち、最も大きな要因はタンパク尿で、糖尿病性だろうが非糖尿病性だろうがタンパク尿量でmatchするとeGFR低下率には差がない。で、血圧がありACEIがありARBがあり、ONTARGETスタディがあり(ACEI/ARBのコンビネーション、蛋白尿は下がったがGFRが下がった)、禁煙があり食事がありアルカリがあり集学的治療がある。
 AKIはどうか?AKIを起こした後、そのまま透析になる人もいれば、AKIを起こしても回復して、何事もなかったように以前のCKD進行率に戻る人がいる。これがどうしてなのかはあまり知られていないが、これからこの群をよく調べなければならない。
 そしてメインのお話が、高齢者でのeGFR低下についてだ。まず、彼らのeGFR低下は少ない(1ml/min/1.73m2以下)。75歳のCKD4患者の余命は3-4年。85歳のCKD5患者の余命は1.5年。だから、CKD進行で彼らが透析になることは、よほど進行が早くないと余りない。むしろ、彼らが透析になるのはAKIを合併したときだ(JASN 2009 20 223)。だから、AKIの予防と、AKIになったときどうするかのadvanced directiveと議論が必要なのだろう(AJKD 2010 56 122)。
 

Geriatric Nephrology 2

 そのあと、KDIGO 2012を振り返った。CKDステージングは、人々に腎臓病のことがよく知られるようになったのは大きな功績だ。しかし、原因を分けていないし、とくに高齢者では「正常クレアチニン」でも年齢だけでCKDになってしまうなど問題もある。
 それで昨年はCGA(原因、GFR、アルブミン尿)を分類に取り入れた。だから今は「糖尿病性腎症CKDステージG4A2(A2とは、U-alb/U-cr 30-299mg/g)」とか言う。それからKDIGO 2012にはいわゆる「ヒートマップ」が載った。これはGFRとU-alb/U-crを加味した予後予測だが、患者さんが赤いゾーンにいたら腎臓内科に相談しよう、というふうに使えると学んだ。
 GFR低下やアルブミン尿は高齢者であっても予後に影響するが、その影響は若年層に比べると小さい。それに、たくさんのcomorbiditiesをもつ彼らで、all-cause mortalityが高くなったとしても交絡因子が多すぎる(BMJ 2012 345 e6341の美しい表によれば、5個以上)。

2013/11/05

Geriatric Nephrology 1

 今回、ASNの本会が始まる前の特別プログラム(Early Program)に参加している。フェロー時代は仕事があってこれに参加したくてもできなかった。テーマは、米国にいたときからの興味と、日本で働いてからの切実なニーズで選んだGeriatric Nephrology。
 本講座はこの分野の祖で昨年亡くなったDimitrios G Oreopoulos Memorial Programでもある(私は彼をアイオワ大学に呼ぼうとしてうまくいかなかったので、いまこの講座が取れて嬉しい)。まず老年内科医による導入はこんなだった。
 高齢者は慢性疾患を数多くもち、全部一生懸命(ガイドラインにしたがって)治療すればとても手間とお金が掛かり実現が難しい(JAMA 2005 294 716)うえ、アウトカムも変わらないかもしれない。寧ろ、薬の副作用など害のほうが多いかもしれない。
 ではどうしよう。一言でいえば「患者さんの特性と意見に合わせて、予後を考慮して、Aの治療とBの治療の相互作用を知って、不要な薬を減らし、つかえるお金と制度を活用する」…教科書的だ。で、何を目指しているのか?
 たとえば、インスリンを1日3回打って、どうする?老健で打てるか(打てない)?低血糖になるだけでは?それで転んだり認知機能が低下したりするかもしれない。指先を刺して血糖を計るのは手間だし痛い。他にも一日1回、一包化、合剤、減らすなど工夫があるだろう。
 それが老年医学の困難さで、アウトカムを設定しにくい。EBMは長生きに集中し、薬が長生きさせるかに注目しているから、このグループはしばしば除外されているし、このグループに同じスタディをすべきかも分からない。ただ、知っておくべきは平均寿命と、主要疾患群の平均寿命。そのうえで、残りの時間をどう過ごすかではないだろうか。

2013/11/03

発表準備の助け

 フェローの院外プレゼンがうまく行くよう、準備から発表までサポートする機会に恵まれた。いままで自分で全部やってきたから、人のを助けるのは新鮮な経験だった。理想的には発表する人が自分で作り、その努力を褒め、こうしたいという希望を尊重して、わらからない部分を教えてあげるのだろう(コーチングというやつだ)。
 しかし、今回はそれを許さぬ時間的な制約があったし、「どうしてもこのほうががうまく行く」という私の方向性を身につけてもらおうとしたので、専門家が聴いたらあきれるようなアプローチを採用した。すなわち、いつまでに何をどうしたらいいのか全て指示し、出来なかった場合は手伝った。
 これはこれで、新しいやり方や知識を効率よくインストールするには有効だったと思う。結果的に発表はどちらも成功(大成功)で、成功体験がさらなる成長と動機づけになった。これをうけて、より学習者主導で、教える側の負担も少ない方法を自分なりに作りたいと思った。手始めは、発表の準備についてのレクチャ。
 それから、今回の経験で自分に誇れることがあるとしたら、①発表者が緊張しないよう発表の最初を笑顔とtwo thumbs upで聴いたこと、②発表前に「大丈夫だよ、失敗してもいいから自分らしくやってごらん」とメッセージを伝えたこと、③発表までの間に「きっとうまくいく」と信じ続けたことだ。これらは続けていきたい。