2013/07/22

アンモニアと腎 2/2

 腎臓でアンモニアはどのような移動をしているか?まだ分かっていない部分もあるが参考文献(Advan in Physiol Edu 2009 33 275、Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11)を参照に興味深い事実を中心に書く。簡潔に言うと、アンモニアは近位尿細管で作られ、尿細管内に出て、ヘンレ上行脚で再吸収され、間質を移動して遠位ネフロンで再び尿中に排泄される。

 近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。

 ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.​1152/​ajprenal.​00609.​2012)。

 いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。

 間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。

 腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。

2013/07/18

アンモニアと腎 1/2

 我々は魚でないので、窒素老廃物をアンモニアのままにしておけない。1gのアンモニアを毒性レベル以下に希釈するには400mlもの水が必要だからだ(Journal of Experimental Biology 1995 198 273)。それで哺乳類は窒素排泄に尿素を用い、同時に尿素により腎の浸透圧勾配を形成し水保存を可能にしている。

 しかし私達はアンモニアに重要な役割を与えている。それは、酸排泄だ。H+をH+のまま尿に排泄するのには限界がある。尿pHを4まで下げても(血液・間質の約1000倍だ)0.1mEq/L、一日に1mEqも排泄できない。不揮発酸にbufferさせるのにも限界がある。それを越えた酸排泄は、NH4+で行われる(腎臓はNH4+をたくさん作ることが出来る)。

 Eastern Carolina UniversityのTejas Desai先生が主宰するNephrology On Demandの明快レクチャ10-minutes roundsでは尿細管を財布に例えて「H+(と不揮発酸)は現金、NH4+はクレジットカード」と説明する。支払うべきお金すべてを現金で財布に詰め込むのは不可能だから、大きなお金はクレジットカードで決済するというわけ。では、腎臓はNH4+をどのように産生・排泄しているのか?続く。

2013/07/15

Baking powder

 うちの腎臓内科(卒業したが)でbakeするのは私だけかと思ったらスタッフにもいて、leavening agents(膨張剤)のなかでもbaking powderの話になった。Baking sodaもbaking powderも見た目は白い粉だが、両者の組成はだいぶ異なる。ちなみに私はコーンブレッドを作るのにbaking powderと間違えてbaking sodaを使うという(文字通り)苦い思い出がある。
 Baking sodaは生地に酸を加えて膨張させるが、NaHCO3 + H+ → CO2 + H2O + Na+が直ちに起こるので生地を練ったらすぐさまオーブンに入れなければならない。それを解決するために、弱酸をあらかじめ混ぜておいて生地を練るのとオーブンで焼く二段階でCO2が出るように工夫したのがbaking powderだ。湿気に耐えるようでんぷんも含まれている。
 どんな弱酸が入っているのか?生地を混ぜた段階で働くのがtartaric acidやmonocalcium phosphate。オーブンで働くのがsodium aluminum sulfate、sodium aluminum phosphate、disodium pyrophosphateなど。というわけで、baking powderは隠れたリンの摂取源だ。アルミニウムというのも、腎臓内科としては気になる。
 というのも腎臓病患者さんはアルミニウム蓄積のリスクが高いからだ。もっともアルミニウムは効果的なphosphate binder(Ca×P bi-productが著しく高い例で短期にアルミニウムを用いることはある)なので、リンを吸着しているかもしれないが。ラットにビスケットを食べさせた実験データによれば食物含有アルミニウムのbioavailabilityは0.1%だった(Toxicology 2006 227 86)。

2013/07/11

皮膚と体液保持

 夏になれば汗をかく。発汗には体温調節の意味もあるが、その反面体液が失われているかもしれない。逆に言うと、汗を余りかかない人は体液貯留になりがちかもしれない。歴史を振り返れば、これを経験的に知った奴隷商人が航海を生き延びる奴隷を探すのに彼らの皮膚を舐めていた(塩気が強ければ体液喪失が多いと考えられた)という忌まわしい話もある。

 体液調節には腎臓だけでなく皮膚も関わっていることが徐々に明らかになっているが、先日JCIに新しい研究結果がでた(doi:10.1172/JCI60113)。皮膚の単球・マクロファージ・樹状細胞は塩負荷に対してTONEBP (tonicity-responsive enhancer-binding protein)を介してVEGFC発現を増やし、リンパ毛細管ネットワークを密にして塩を逃がす(受容体はVEGFR3)。

 この研究で興味深いのは、TONEBPノックアウトやVEGFR3を抗体でブロックした群に塩負荷すると皮膚間質のCl-濃度・量は増加したがNa+濃度・量は変化しなかったことだ。その意義は未だ不明だが、皮膚とCl-といえばCFTRもあることだし、今後の研究で「忘れられた電解質」などと言われることもあるCl-と体液保持の関係が明らかになるかもしれない。

2013/07/08

Uric acid and CKD

 CKDクリニックで議論になるのが痛風のない高尿酸血症の取り扱いだ。治療するべきか、しないべきか。言い換えれば、高尿酸血症はCKDとのマーカーなのか、増悪因子なのか。これは学界でも議論され、ここ一年で同じようなレビューが二つ(doi: 10.1093/ndt/gft029、ACKD 2012 19 386)でた。今私達はこれについて何を知っているのだろうか?
 Acute urate nephropathyという概念はあって、尿酸値が急激にとても高くなると(腎細動脈や間質の障害を介して)腎機能が悪くなる。動物実験でuricaseを阻害すると腎障害が起こるし、腫瘍崩壊症候群でも腎障害が起こるから多くの場合rasburicaseで尿酸を溶かして予防する(ヒトをはじめ霊長類にはなぜかuricaseがない)。
 いくつもの観察スタディが高尿酸血症とCKDの相関を示しているが、高尿酸血症がCKDの増悪因子かはまだ分からない。治療したい人は、スペインの小さなスタディ(CJASN 2010 5 1388)をよく引用する。eGFRが60ml/min以下で安定した113人のCKD患者を対象にしたこのスタディでは、24ヶ月のfollow-upでallopurinol 100mg/d投与群のeGFR declineが少なく(1.3 v. 3.3)、心疾患イベントも少なかった。
 ただし患者さんのmean 尿酸レベルは治療前で7.9mg/dlと軽度だったにも関わらずこの結果なので、尿酸を下げたせいなのかallopurinolによる独自の心・血管保護作用のせいなのか分からない。低用量のallopurinolには害があまりなさそうに思えるが、allopurinolによるStevens-Johnson syndromeは本当に起こるので、経験あるスタッフほどallopurinol投与に慎重だ。Febuxostatは尿酸レベルをよく下げるようだが、CKD進行や心血管疾患予防のデータがまだ余りない。
 なお私のボスは、高尿酸血症のCKD患者さんがいると「あなたには痛風や尿酸結石のリスクがある。しかし痛み止めのなかでもibuprofenなどは腎臓に良くないから気をつけて。それからERで間違ってもketolorac静注などもらわないよう、受診時はドクターにCKDのことを説明して」と注意を呼びかけていた。

2013/07/04

やっぱカルシウムでしょ

 Milk-alkali syndromeは歴史があり(1915年にシカゴのBertram Welton Sippy医師が始めた胃潰瘍治療Sippy dietの副作用が最初)、病歴で臨床診断でき、病態生理が多臓器にわたる興味深い疾患だが、実は高カルシウム血症の原因として悪性腫瘍、副甲状腺機能亢進症に続き三番目に多いとは知らなかった(Clinical Endocrinology 2005 63 566)。これは透析患者さんを除外したランキングだ(透析患者さんはphosphate binders、activated vitamin D、透析液のHCO3-などにより高リスク群)。
 といっても、Sippy dietが復刻ブームになったわけではない。理由は一つにはカルシウム(とビタミンD)補充が盛んになったためである。ことにpost-menopausalや高齢の方ではカルシウムのnet fluxがout of boneなので、カルシウムを大量摂取しても骨がreservoirになりにくい。もう一つには、この病態生理が広まるにつれミルクとアルカリ以外の症例にも広く適応されるようになったからだ。
 たとえば妊娠中は、placental lactogenやprolactinなどの影響で腸管のカルシウム吸収が高まり、悪阻などvolume depletionでmetabolic alkalosisと尿中カルシウム排泄低下をきたすので、GERD症状にカルシウムを内服して高カルシウム血症になることがある(JGIM 2011 26 939)。Betel nuts chewing(檳榔子を石灰と混ぜキンマの葉で包んで噛む台湾以南の東南アジアとインド地域の嗜好品)による高カルシウム血症なんてのもある(Tzu Chi Med J 2005 17 265)。
 これらを総して、Milk-Alkaline syndromeをCalcium-Alkali syndromeと改称しようという人もいる(JASN 2010 21 1440、Proc Bayl Univ Med Cent 2013 26 179)。JASN articleのタイトルは"GOT Calcium? Welcome to the Calcium-Alkali Syndrome"で、これは米国牛乳普及キャンペーン"Got Milk?(日本で昔やってた「やっぱ牛乳でしょ」のような)"のパロディだ。

2013/07/01

クンクンする腎臓

 私にとって腸管で興味深いことの一つは、それが無菌の水を吸収することだ。無菌の血液を受け取り処理する腎臓と違い、腸は魑魅魍魎な微生物達が跋扈する内腔からpure waterや栄養を吸収している。トランスポーターの選択性の高さと、細胞内の殺菌メカニズムが関与しているのだろう。

 さて私達と同居している億兆の腸内微生物達だが、実は彼らが私達の身体の働きに今まで知られている以上に多くの役割を果たしているらしいことが分かってきた。これは医学界だけでなく、昨年はThe Economist、今年はThe New York Times Magazineが特集したくらい関心が高い。

 私の知るところでは、5月に発表された論文(Nat Med 2013 19 576)が、L-carnitineを多く摂取していると腸細菌の構成が変わり代謝産物trimethylamine-N-oxide (TMAO)が多く作られ動脈硬化が進むことをマウスで示した。また血中L-carnitineレベルが高い(心疾患リスク群と考えられた)患者群のうちで、実際にリスクなのはTMAOレベルも一緒に高い群だけだったことも示した。

 さらに、先日のPNAS論文(doi: 10.1073/pnas.1215927110)によれば、腸細菌は私達の血圧までもコントロールしているかもしれない。腸内発酵により生じる短鎖脂肪酸レベルが血圧低下と相関することは知られていたが、この研究はさらに短鎖脂肪酸が腎臓のjuxtaglomerular apparatusにある化学受容体Olfr78を介しrenin産生を制御して、血圧を変化させていることをマウスで示した。

 話はこれで終わらない。なんとOlfr78とは、名前が示すように鼻腔の嗅細胞にある化学受容体(olfactory receptor、OR)と同じなのだ!つまり、腸管で細菌が作った短鎖脂肪酸が血中に入り腎臓に届き、腎臓はそれをクンクン嗅いでいるわけ。このグループによれば腎臓には少なくとも六つのORがあるらしい(PNAS 2009 106 2059)。

 [2016年7月追加]赤身肉とESRDの相関を調べたシンガポールのスタディ(doi: 10.1681/ASN.2016030248)がでた。結果赤身肉は量に比例してESRDと相関し、白身肉、魚介類、野菜たんぱくのリスク低減比が有意だった。食事摂取記録によるもので、交絡因子もあるかもしれないが、やはりTMAOか。