私にとって腸管で興味深いことの一つは、それが無菌の水を吸収することだ。無菌の血液を受け取り処理する腎臓と違い、腸は魑魅魍魎な微生物達が跋扈する内腔からpure waterや栄養を吸収している。トランスポーターの選択性の高さと、細胞内の殺菌メカニズムが関与しているのだろう。
さて私達と同居している億兆の腸内微生物達だが、実は彼らが私達の身体の働きに今まで知られている以上に多くの役割を果たしているらしいことが分かってきた。これは医学界だけでなく、昨年はThe Economist、今年はThe New York Times Magazineが特集したくらい関心が高い。
私の知るところでは、5月に発表された論文(Nat Med 2013 19 576)が、L-carnitineを多く摂取していると腸細菌の構成が変わり代謝産物trimethylamine-N-oxide (TMAO)が多く作られ動脈硬化が進むことをマウスで示した。また血中L-carnitineレベルが高い(心疾患リスク群と考えられた)患者群のうちで、実際にリスクなのはTMAOレベルも一緒に高い群だけだったことも示した。
さらに、先日のPNAS論文(doi: 10.1073/pnas.1215927110)によれば、腸細菌は私達の血圧までもコントロールしているかもしれない。腸内発酵により生じる短鎖脂肪酸レベルが血圧低下と相関することは知られていたが、この研究はさらに短鎖脂肪酸が腎臓のjuxtaglomerular apparatusにある化学受容体Olfr78を介しrenin産生を制御して、血圧を変化させていることをマウスで示した。
話はこれで終わらない。なんとOlfr78とは、名前が示すように鼻腔の嗅細胞にある化学受容体(olfactory receptor、OR)と同じなのだ!つまり、腸管で細菌が作った短鎖脂肪酸が血中に入り腎臓に届き、腎臓はそれをクンクン嗅いでいるわけ。このグループによれば腎臓には少なくとも六つのORがあるらしい(PNAS 2009 106 2059)。
[2016年7月追加]赤身肉とESRDの相関を調べたシンガポールのスタディ(doi: 10.1681/ASN.2016030248)がでた。結果赤身肉は量に比例してESRDと相関し、白身肉、魚介類、野菜たんぱくのリスク低減比が有意だった。食事摂取記録によるもので、交絡因子もあるかもしれないが、やはりTMAOか。