2020/07/30

重症AKI時の透析緊急導入に対する現時点での考え方

今回は、急性腎不全における透析開始時期に関して触れたいと思う。これは数年前から腎臓内科領域ではとてもHotな話題である。

この話をするときに2020年の2つの論文は要チェックしておく必要がある。
1つ目はSTARRT-AKI(NEJM 2020)である。

この研究はICU患者で重度AKI(KDIGO 2・3)の患者に対して積極的透析導入群と通常導入群を比較したRCTになっている。
対象患者は18歳以上。積極的導入群で1465人、通常導入群で1462人であった。
各導入群の詳細に関して:
・積極的導入群:
  研究に組み込まれて12時間以内に透析導入をした群

・通常導入群:
  いわゆる透析導入のAEIOU(A:Acidosis、E:Electrolyte disorder、I:Intoxication、O:Overload、U:Uremia)を満たしたもの+AKIが72時間以上持続するもの。具体的には下記を満たしたものである。
 ・K > 6.1mmol/L、pH < 7.21、HCO3 < 12.1mmol/L、臨床で体液過剰を疑いP/F ratio <
201、AKIが72時間以上持続する場合に導入とした。

結果:
積極的導入群の96.8%、標準導入群の61.8%が透析が実施された。
・90日死亡率では差がなく
・90日時点で生存している患者の透析依存率は積極的導入群で10.4%、通常導入群で6.0%(有意差有り)であった。
・有害事象は積極的導入群の23%、通常導入群の16.5%(有意差有り)に生じている。

この試験の結論として、重症AKIに対しての積極的な透析導入は有効ではないことが示された。


過去の大規模試験ではELAIN試験(JAMA 2016)では有効、AKIKI試験(NEJM 2016)では無効、IDEAL-ICU試験(NEJM 2018)では無効という結果が出ている。


他にも規模は小さいが、同じような研究が行われておりそれをまとめたのが
2つ目の論文(LANCET 2020)になる。

このSystematic reviewでは、2008/4/1〜2019/12/20までの重度急性腎不全に対する積極的透析開始と通常透析開始の有用性を見ている研究を対象に行なっている。
下記の10個の研究(2083人の患者)を組み入れて行なっている。

LANCETより引用
LANCETより引用
LANCETより引用
・Primary outcomeはランダム後28日での全死亡率

・Secondary outcomeは28日後以降の死亡、60日・90日後での全死亡率、院内死亡率、入院期間、28日以降での透析してない日数、退院時の透析依存数、退院時の血清クレアチニン、28日以降での人工呼吸器や昇圧剤未使用日数を見ている。

研究は異質性も少なく、Appendixを見てもFunnel plotも出版バイアスも少ない研究である。
結論としても、Primary, secondary outcomeとも違いは出なかった。
下記が結果になる。
LANCETより引用

LANCETより引用

つまり、2020年の段階では重症AKIに対して積極的導入を推奨することはできず、しっかりと患者モニタリングをしながら透析が必要な場合に透析を行うことが現段階の流れである。

これらの研究は、非常に腎臓内科・集中治療領域にとっても重要であると思う。
なんでも早めに透析をすればいいものではないし、しっかりと透析が必要な時期に透析を行う。そして、大事なのは見極める臨床の力であり、我々も日々それを鍛えながら診療をしていかなくてはならない。



2020/07/20

ADPKDに対する尿路結石、トルバプタン使用でどうなるのか?

今回、この話題に触れるのはあまり自分が考えたことがなかったためである。
まず、一般的にADPKDと結石に関して取り上げてみる。
・ADPKDにおける結石の割合:10-36%程度と言われる(Urol Ann 2012

・結石の成分:尿酸結石(40-60%)かシュウ酸カルシウム結石が多い(AJKD 1988)これは、一般の尿路結石に比べて明らかに尿酸結石の割合が高い。

・ADPKDにおける結石を有している場合の特徴:嚢胞が大きく、全腎容積量が非常に大きい。加えて、低クエン酸尿、高シュウ酸尿、高尿酸尿、アンモニア排泄が低く尿中pHが低いという特徴がある(CJASN 2009

このようにADPKDでは結石症は合併しやすいことがわかる。

我々は、ADPKDの治療にトルバプタンを選択する場合がある。このトルバプタンを使用することで尿路結石はどうなるのであろうか?増えるのか、減るのか?

今回、これを見た研究がCJASN 2020で出ている。
今回の研究では18歳以上でRavine criteria(LANCET 2014)でADPKDと診断された125人の患者を対象にしている。
治療投与前のベースラインと年のフォローアップの際に24時間蓄尿検査を行っている。
125人の患者で38人がトルバプタン治療・87人が非トルバプタン治療群であった。

トルバプタン治療群では、シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、尿酸の尿中排泄量が減少し、尿中クエン酸や尿中カルシウム排泄量が増加した。
CJASN 2020より引用

また、尿中の酸排泄も低下し消化管からのアルカリ再吸収が増加した。
CJASN 2020より引用
ちなみに一般論として、尿路結石の予防としては、下記のものがある。
・水分を十分に摂る(1日尿量を2L以上にすることで結石再発リスクを減少できる)

・カルシウムを摂る(カルシウムは腸管内でシュウ酸と結合して便に排泄させ、尿中シュウ酸を減少)

・クエン酸を摂る(シュウ酸とカルシウム、リン酸とカルシウムが結合するのを抑制、また尿中pHを上昇させ酸性尿を是正させ尿酸結石、シスチン結石の予防に有効)

・シュウ酸摂取量を抑える(ほうれん草、キャベツ、ブロッコリー、竹の子、バナナ、玉露や抹茶や煎茶などのお茶、ココア、チョコレート、コーヒー、紅茶などを控える)

・ブリン体の多く含まれる食品や飲料を控える(プリン体は体内で代謝され尿酸となり、過剰摂取で高尿酸血症や酸性尿を引き起こす。)

・動物性のタンパクや脂肪の摂取を控える。(動物性タンパク質が多くなると尿中尿酸が多くなる、動物性脂肪が多いと腸内脂肪酸が増えてカルシウムと結合し、シュウ酸がカルシウムと結合困難になり、尿中にシュウ酸が多くなり結石ができやすくなる)



今回の論文結果からは、ADPKDに対してトルバプタンを使用することで結石の発祥というリスクを減らすことが示された。
個人的にはトルバプタンをあまりこの視点から見ていなかったので非常に参考になった。


2020/07/09

電解質異常は好きですか? 知っておくべき低リン血症

今回も大好きな電解質シリーズ。今回はリンにフォーカスをしてみようと思う。

症例:
41歳女性でSLE罹患中。レイノー現象、偏頭痛、抑うつがあり。今回腎臓内科に繰り返す低リン血症にて紹介。

現病歴:
2週間前、リウマチ科に2−3ヶ月持続する気分不良、嘔気、便秘で相談。
採血で血清リンが1.1mg/dlであり、救急外来にループス腎炎などの関与も疑われ紹介された。
そこで、経口でのリンの処方を受け、5日後にフォローの予定にしていた。5日後に来院し再度採血しても血清リンは1.3mg/dlであり、腎臓内科に紹介となった。

診察室で疲労感、新規の鼻血、嘔気、関節痛、筋力低下を伴わない針で刺されるような痛みを手と足に自覚していると訴えた。
患者は数ヶ月前の鉄欠乏の指摘があり、点滴での鉄補充のために入院加療していた。
とくにReview of systemで引っかかるものはなかった。

バイタルサイン:
血圧:113/77mmHg、心拍数:79回/分(整)、体温:37.1℃、呼吸数:20回/分、BMI:26.5

身体所見:
頭頸部:異常所見なし
胸部:心音異常なし、リズム異常なし、肺音異常なし(特に労作時呼吸困難なし)
神経:上腕と四肢の筋力が4/5と低下

採血所見:
WBC:9200、Hb:15.1、Ht:45.7、Plt:251000
Alb:3.8、BUN:17、Cr:0.86、CK:66、Na:138、K:4.3、Cl:105、P:1.3、Ca:8.0、Mg:2.1
pH:7.41、PaCO2:30

採血検査異常としては低リン血症が目につく。
まず、低リン血症で実際にどんな症状が来るのかをまとめる

①リンの数値と症状(下図参照):
・2-2.5 mg/dL:無症状
・1-1.9 mg/dL:倦怠感、筋障害
・1未満:けいれん、感覚異常、溶血性貧血、鼻血、心筋収縮低下、不整脈、骨痛


②では、この症例の場合になぜ低リン血症になったのであろうか?また、低リン血症を鑑別するときにどのように考えればいいかを見てい。
まず、原因の鑑別を考えてみる。大きく分けると下記のものになる。(下図も参照)
・偽性低リン血症
・細胞内移行
・摂取量減少 or 吸収低下
・腎性喪失

Nephron Powerより引用

また、原因で薬物の関与は重要になる。下記に一例をあげる。
□腸管からの吸収阻害:リン吸着薬
□腎臓からの排泄亢進:利尿薬(フロセミド)、薬剤性Fanconi症候群(シスプラチン、テトラサイクリン、アミノグリコシド、バルプロ酸)、テオフィリン、アシクロビル、エストロゲン、アンホテリシンB
□分布異常:サリチル酸中毒、インスリン、カテコラミン、G-CSF、EPO製剤など
は考えておく必要がある。

③この症例の場合に次に知りたいことは薬物関与やリンの摂取量もあるが、腎臓からの排泄の促進がないかは把握しておきたい。下記に尿所見を記載する。

尿所見
尿量(24時間):3100 mL
尿中リン(24時間):1283 mg
尿中クレアチニン(24時間):1.11 g
随時尿中リン:16 mg/dL
随時尿中クレアチニン:32.1 mg/dL

FePiを計算してみる。
FePi = (Urine[Pi]×Serum[Cr]/Serum[Pi] × Urine[Cr])×100
で計算すると

FePi=32.9%となる。

腎臓でのリン排泄に関しては低リン血症において、下記のどちらかであれば腎臓からリン排泄が起きていると判断することができる。
・24時間尿のリン >100mg
・FePi >5%
AJKD2016のクイズのページは参考になる。)
この症例では尿中P排泄が明らかに亢進していることが分かった。

④では、腎臓からリン排泄が亢進する原因はどんな鑑別があるのだろうか?
上図でもわかるように腎排泄をしている場合に血清カルシウム濃度は重要である。

理由としては、リンをコントロールしているホルモンのPTHとVitDの関連のためである。
・PTHは骨融解を起こすことで血清カルシウム濃度を上昇させ、腎からのリン排泄を促進させる。
・VitDは腸管からのカルシウム・リンの吸収を促進させ、また腎からのカルシウム再吸収を促進させる。

・追加の検査・病歴:
intactPTH: 31pg/mL(正常:18.4-80.1 pg/mL)
PTHrp : <2.5 pmol/L
25 OH VitD : 51 ng/ml
1,25 OH VitD : <8 pg/ml
FGF23 : 285 RU/mL(正常<181RU/mL)
SPEP:異常なし
尿糖:なし

薬剤:利尿薬、ステロイドなど飲んでいない。

薬剤では突起すべきこともなく、Fanconiを疑うような尿糖所見も認めなかった。パラプロテイン血症を疑う所見もなし。

採血所見からはFGF23の上昇所見を認めている。

通常、上記のようにリン負荷が増大するとFGF23やPTHが上昇しリン排泄を促進させる。

しかし、症例ではリンが低いがFGF23の上昇が見られる。
なんらかの原因でFGF23が上昇し、それによって腎からのリン排泄が増大している事が考えられる。

⑤では、FGF23が増大した原因はなんだろう?
この原因は日本でも去年から発売されている静注用の鉄剤(カルボキシルマルトース第二鉄)である。これは添付文書にも記載があるのでぜひ参考にしていただきたい。
この鉄剤の投与によりFGF23上昇を認め低リン血症が惹起されたと考える。
しかし、この明確な機序に関してははっきりはしていない。

・鉄欠乏とFGF23の関連
鉄欠乏ではFGF23転写の亢進は生じるが、FGF23の非活性化も生じる。
鉄欠乏を改善することでFGD23転写は正常化し、非活性化も改善する。
カルボキシルマルトース第二鉄投与では加えて、FGF23の破壊が抑制されFGF23が上昇すると考えられている。特に投与後7日がピークになるので注意を払う必要がある(下図参照)。
JBMR 2013より
左下がカルボキシルマルトース鉄出ないものを投与した場合、右下がカルボキシルマルトース鉄を投与した場合
ASBMR 2013より
7日後にFGF23がピークになっていることがわかる。

ここまでで、話はおわりになってくるのだが追加の採血検査で1,25 OH VitD が抑制されていることにお気づきであろうか?理由に関して考えてみる。

⑥さきほどのFGF23、PTH、VitDの関連している図で、PTHやFGF23が働くことでリン利尿が生じ、その際にNapi2aが働くことが示されている。
まず、Napi2aの部分を説明する。これは近位尿細管にある受容体である。リンの再吸収は主に近位尿細管によって生じる。
CJASN 2015より
PTHとFGF23は近位尿細管のNapi2aと2cの活性を落とすことによって、リンの再吸収を抑制し、リン利尿を生じさせている。
AJKD2012より
FGF23はそれに加えて、近位尿細管の1-hydroxylaseの活性を低下させ1,25 OH VitDを低下させ消化管からのリンの吸収を抑制させ低リン血症をきたす。

そのため、この症例では1,25 OH VitDの低下を認めていた。

⑦治療:
重症の低リン血症(<1mg/dL)では不整脈を生じ生命に危険を及ぼしうる。
この症例では慢性経過であり、リンの補充治療を行っている。活性型VitD低下もあり、VitD製剤の内服治療で経過をみたが改善まで数ヶ月をようしたとのことである。

このような症例は今後日本でも多くなってくると思う。ぜひ知っておくといい知識だと思う。



2020/07/07

ADPKDと胆道系疾患

 ADPKDで血液透析を受ける患者さんが発熱したら、筆者は恥ずかしながら「1にのう胞感染、2にのう胞感染、3・4がなくて、5にのう胞感染」と思っていた。腎臓専門医試験のために提出する『先天性腎疾患』症例サマリも、のう胞感染にしたほどだ。

 しかし、当然ながら発熱を起こしうる原因疾患は他にもあり、なかでも胆道系感染や膵炎は、ADPKDが固有のリスク因子であることを覚えておかなければならない。根拠となる疫学スタディを二つあげると:

1. 1998年から2012年までの英国England Hospital Episode Statisticsデータから、PKD患者23454人と対照患者6412754人を抽出(うち末期腎不全患者は5813、62519人)したところ、胆道系疾患入院のリスクは以下のようであった(JASN 2017 28 2738;末期腎不全群は患者数が少ないことによる統計学的パワー不足もあるだろう)。

全患者 2.24(95%CI 2.05-2.20)
 男性 2.82(2.67-2.98)
 女性 1.85(1.75-1.95)
 40歳未満 1.82(1.62-2.03)
 40-60歳 2.04(1.90-2.18)
 60歳以上 2.50(2.16-2.33)
末期腎不全患者 1.19(1.08-1.31)
 男性 1.12(0.98-1.29)
 女性 1.26(1.11-1.44)
 40歳未満 1.35(0.95-1.92)
 40-60歳 1.04(0.90-1.20)
 60歳以上 1.36(1.18-1.55)

2. 2000年から2010年までの台湾健康保険データから、PKDコホート6031人と非PKDコホート23976人を抽出(約30%が血液透析患者)したところ、肝・胆・膵疾患入院の調整後サブハザード比が以下のように有意に高かった(Oncotarget 2017 8 80971)。

急性膵炎 2.36(95%CI 1.95-2.84)
胆管炎 2.41(1.93-3.01)
消化性潰瘍 2.41(2.17-2.67)
肝硬変 1.39(1.16-1.66)

 のう胞腎と胆道系疾患といえば、まず思い出すのはARPKDだろう(非閉塞の管内胆管拡張、Caroli病とも)。しかしADPKDでも腎外症状のひとつとして、大腸憩室などとともに胆道系疾患を想起しなければならないと痛感した。

 なお、1つ目の文献はオクスフォード大学の腎臓ユニットが「1967年から2015年まで1011人のADPKD患者さんを診てきたが、どう考えても胆道系疾患が多い!」と気づき、それを検証したものだ。ベッドサイドの経験を検証する方法として、ビッグデータの役割は今後ますます増えるだろう。





2020/07/02

ファブリー病のZebra bodies

 今日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンを目にされた方は、ご覧になったであろうこちらの画像(DOI: 10.1056/NEJMicm1912889より)。腎臓内科医にはお馴染み、ファブリー病でグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が沈着してできるZebra bodiesである。


上記論文より引用)

  
 ただ、これが選ばれた理由は「見逃されているファブリー病を診断しよう」という啓発にあるのだろう。ファブリー病はいままで考えられてきたよりも頻度が高いが(左室肥大男性患者の0.3%とも、NEJM 1995 333 288)、症状が非特異的なことも多い疾患からだ。

 それだけでなく、ファブリー病は治療可能な疾患でもある。日本でも2004年にアガルシダーゼベータ、2006年にアガルシダーゼアルファが保険収載され、分子シャペロンも研究が進む。早期に酵素補充療法を開始すれば臓器障害を予防できるかもしれないし、未発症の親族患者を早期に同定すればなおさらだ。

 だから、「蛋白尿や心肥大のある(どこにでもいそうな)症例でも、ファブリー病を忘れるなかれ!」という戒めをひろく腎臓内科以外にも周知しようということなのだろう。昨年の内科学会誌で『今月の症例』に取り上げられたのと、おなじ意図と思われる(日内会誌 2019 108 999、PDFはこちら)。

 
(前掲日内会誌論文より引用)


 本ブログでこれまで取り上げてこなかったが、啓発の一助となれば幸いである。



(NKFニューズレターの啓発広告より)


2020/07/01

肥満と腎障害について振り返ってみる。

肥満関連腎症(ORG : Obesity-related glomerulopathy)はかなり知られた疾患になっている。
今回はこのORGを整理していきたいと思う。

時間のない人は最初の「簡単なまとめ」だけを読んでいただければ概念はつかめると思う。

簡単なまとめ:
現在、CKD(慢性腎不全)は重大な社会健康問題になっている。
 肥満もCKD発展のリスク因子であることが報告されている(KI 2017)。肥満により、糸球体還流が増加し糸球体の肥大を生じることでORGを起こし、タンパク尿や二次性FSGSを引き起こしCKD進行に寄与することが知られている(Nephron 2017)。
 ORGはBMI≧30でFSGSの有無に関係なく糸球体肥大があれば診断される(Front med 2017)。
 治療は体重を落とすということが一番の治療になる。体重を落とすということに関していえば、食事療法と外科的手術療法がある。

□肥満関連腎症の臨床症状:
 蛋白尿の検出がもっとも典型的なパターンである(腎機能障害の併存がある場合とない場合がある)。
 蛋白尿に関しては30%でネフローゼレベルの蛋白尿になると言われているが、多くの場合はネフローゼレベルの蛋白尿には至らない(KI 2001)。興味深いのは高度のネフローゼレベルの蛋白尿になっても、血清アルブミンの低下がない症例も多い。この理由は明確にはわかってはいないが、そのような症例ではβ2ミクログロブリンやNAGなどの尿細管障害マーカーの尿中排泄が低下していることが報告されている(NDT 2001
 その他に合併するものとして高血圧(50-75%)、脂質異常症(70-80%)と言われている。また、先に述べたようにネフローゼレベルの蛋白尿でも浮腫をきたすことは稀ではあるが、長期で見ると徐々に蛋白尿が増加し、末期腎不全に至る割合が10-33%であることが報告されている(KI report 2017)。
 日本からも報告がでていて、20人の肥満関連腎症の2年フォローで7人の患者が腎機能の上昇を認め、2人(10%)が末期腎不全に至っている(CEN 2013)。やはり診断の遅れというのが一番の問題になるため、蛋白尿を手がかりに疑うことが非常に重要になる。

□肥満関連腎症の鑑別疾患と鑑別ポイント:
■高血圧腎症
・・高血圧腎症では糸球体のびまん性腎硬化が生じ、腎臓のサイズが正常腎に比べ小さくなる。硬化していない残っている糸球体はhypertrophyを生じるという特徴がある。高血圧と肥満は併存していることも多いが、中等度から高度血管病変に糸球体変化病変があった場合には高血圧性腎症を疑う。

■糖尿病性腎症
・・糖尿病性腎症では典型的にはメサンギウムの拡張と糸球体基底膜の肥厚所見を認め、これはORGの病変とは異なる。

■Primary FSGS
・・下記に表を記載するが、これは悩ましい。理由は先にも述べたようにORGによって2次性FSGSを生じるためである。
 臨床所見では蛋白尿出現が緩徐でネフローゼレベルでない蛋白尿がORGによるFSGSの特徴である。
 病理所見ではPrimary FSGSでは糸球体ボリュームが正常で、びまん性の足細胞の喪失所見が違いとして認められる。
Nat rev nephro 2016


ORGの病理所見:
 これは、先に述べているが正常腎に比べてORGでは病理解剖などでも腎臓の大きさ・重さが大きくなっている特徴がある。その原因としては糸球体肥大が主要な要因である。観察研究で正常腎に比べて糸球体ボリュームが3倍くらいになっているが、糸球体密度は低いという特徴があった(CJASN 2012)。
 FSGSに進展したものではPerihilar FSGSが一番多い。また、中等度巣状メサンギウム硬化、中等度糸球体基底膜肥厚化や尿細管基底膜肥厚化などの糖尿病様性変化(糖尿病の診断基準には至っていない)を認めるものもある。
 電子顕微鏡では、主に足細胞の数の減少と中等度の足細胞の癒合が認められる。また、蛋白と脂肪の吸収顆粒がメサンギウム細胞や尿細管上皮細胞に認められる。


□ORGの病因:下記の要因だけではないが、説明していく。
・血行動態の変化、RAA系、ホルモン反応不全・脂質代謝異常がメインの病因になっている。
■血行動態の変化
→腎血漿流量、糸球体灌流量の増加などを引き起こし糸球体腫大を生じる(Nat rev nephro 2012)。また、尿細管でのNa再吸収が亢進している。
■RAA系
→RAAS(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系)が亢進しており、それにともない循環動態の変化をもたらす(KI supp 2015)。
■ホルモン反応性不全、脂質代謝異常
→直接的、もしくは間接的に腎細胞の形態や機能の障害を起こし、糸球体腫大・糸球体数の減少をおこす(NDT 2013)。

+αの知識:
□肥満に伴う循環動態の変化
Nat rev nephro 2016
・輸入細動脈の拡張によるGFR増加、TGF(尿細管糸球体フィードバック)の減少によるGFR増加、RAASの増加などにより糸球体灌流増加により糸球体腫大・糸球体内圧の上昇をきたし足細胞の欠損が生じ二次性FSGSを生じる。

□脂質の異所性蓄積にともなうORG
メサンギウム細胞、足細胞、尿細管に蓄積することでORG発症につながる。


□ORGの治療
・体重を減らす
・・体重減少は蛋白尿の減少に寄与する。体重減少と比例して蛋白尿も減少する事が言われている。体重減少はカロリーの低下や減量手術で達成する必要がある。

・RAAS阻害薬
・・肥満を伴う蛋白尿患者では蛋白尿の減量を認め、十分効果が認められている(Curr hyperten Rep 2015)。

・血糖降下薬
・・DPP4阻害薬やGLP1受容体作動薬などのインクレチン関連治療は高脂質によって発症したORGの発展を抑制したことがネズミの実験でわかっている(Am J Physiol Renal Physiol 2018)。
 メトホルミンに関しては腎の線維化を抑制する可能性が示唆されているがはっきりとはしていない(Nephron 2018)。

・脂質代謝調整の治療
・・ネズミの実験でINT-777というTGR5受容体の選択的作動薬が蛋白尿を減らし、足細胞障害、メサンギウム拡張、線維化を障害し、マクロファージの腎の発言が減少したことが報告されている(JASN 2016)。また、ミトコンドリアの発生を生じ酸化ストレスも減少したと報告している。
 Lipoxin A4というIL-12の産生を減少させる重要な因子がORGマウスに対してNF-κBとERK/p38 MARK経路の活性阻害によって、腎の炎症を抑えることが報告され、将来的な治療に注目されている(Life sci 2018)。

・新規治療
・・SS31というミトコンドリアに対しての抗酸化作用をもつものが、糸球体の内皮細胞や足細胞の保護をして、メサンギウム拡大、糸球体硬化、マクロファージの流入、炎症因子や脂肪による毒性からのミトコンドリア障害を防ぐことがわかり、ORGの治療薬への期待がある(KI 2016)。
 亜鉛がP38 MARK関連炎症反応を低下させ、ORGの進展抑制が報告されている(Obesity 2016)。
 クルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール化合物)がWnt/β-catenin経路を阻害することによって足細胞に対するレプチン毒性を減少させ、これがORgの治療に寄与するのではと考えられている(Evid based Complement Akternat Med. 2015)。

下の2つはORG患者の治療になりうる可能性があると考えられている。
・mTOR阻害薬が腎臓への脂肪蓄積を抑制させるのに有効であると報告がある(Lancet Diabetes Endocri 2014)。
・選択的エンドセリンA受容体阻害薬は糖尿病患者の尿蛋白減少と腎機能保護に寄与することが報告されている(Lancet 2019)。


なので、治療に関しては現時点では体重コントロールというのがメインにはなってくる。高血圧があればRAS阻害薬、DMがあればDPP4阻害薬やGLP1作動薬を選択することがプランになるのではないか。
もちろんORG単独の治療だけでなく、ORGを発症しやすい患者では心血管合併症も多くなりうる。そのためASCVD riskは計算しておく必要性はあり、それに対しての積極的な介入も行うことは非常に重要となりうる。