2018/01/31

あなたのネフロンを数えましょう 4

 このシリーズ初回に紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)では、生体腎ドナーのSNGFRを測ってみると、年代ごとに差がなかった(図は表2より作成;70歳以上についてはセレクション・バイアスだろうと言っている)。




 SNGFRを保ちながら少しずつネフロンが減って、全体のGFRが下がっていくのは、老化であって病気ではないということだろうか?CKDのヒート・マップが広まり始めた頃、「高齢者で、蛋白尿などもなく、eGFRだけでCKD3期になった方は、ほんとうにCKDと呼ぶべきなのか?」という議論があった。SNGFRの概念は、この問題をより明確にしてくれるかもしれない。

 また、上図で70-75歳のSNGFRが際だって高いのはエラーだというが、高齢者・後期高齢者のネフロン数、SNGFRがどのように推移するのかはまだ調べられていないのかもしれない。ネフロンエンダウメントというと子宮内・妊娠中のイベント、出生体重など出産前後の話が多いが、老年医学についても、剖検症例などから学べることがあるかもしれない。

・ ・ ・

 ここまで、ネフロン数、ネフロンエンダウメント、SNGFRなどについて基本的なことを概述してきた。今回の切り口に含まれなかった、出生前後にネフロン数をさげるイベント・機序・遺伝子などについて、また、ネフロンを増やす試み(再生医学が発達すれば自分のiPS細胞からつくったネフロンを移植することも可能になるかもしれない)などについて詳しく知りたい方は、成書など参照されたい。機会があれば触れられると思う。

 ネフロンにも命(写真はカワセミ)にも限りがある。かけがえのない日々を大切に送りたいものだ。



2018/01/30

あなたのネフロンを数えましょう 3

 前回、「ネフロンの数が減っても、一個一個のネフロンが何割増かで働けば、GFRは保たれるのではないか?」という話をした。ここでいう一個一個のネフロンの働きを、シングル・ネフロン・GFR(SNGFR)という。

 SNGFRは、理論上は輸入細動脈、輸出細動脈の圧(静水圧差ΔP、浸透圧πcap)や糸球体のろ過係数Kfなどでスターリンの法則に基づいて以下のように決められる。

SNGFR = Kf x (ΔP - πcap)

 これはこれで、血圧が下がっても輸入細動脈を締める(ΔPをあげる)ことでGFRを維持する、など糸球体を一個取り出してその調節機能を研究するときには役立つ式だ。

 しかし、あなたのネフロン何十万個それぞれのSNGFRがどんなかを一個一個測るのは今のところ現実には無理だ。そこで、GFRをネフロン数で割った平均のSNGFRが代用される。

 SNGFR = GFR / ネフロン数

 本稿の冒頭であげた問題提起にあるように、実際ネフロン数の小さい(と思われる、低出生体重の)動物モデルでは、SNGFRが高くなっているので全体のGFRはかわらない(Hypertens 2003 41 457など)。

 しかし、このようにSNGFRを増やして代償した動物たちを観察すると、高血圧だったり、尿たんぱくが出ていたり、困ったことも起きていた。それで現在では、SNGFRが高くなる→腎臓の負担が増える→ネフロンがさらに(糸球体硬化などで)失われる→さらにSNGFRが高くなる、という悪循環が考えられている(図はBrenner9版22章より)。




 あなたのネフロンを数えましょうの初回に紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)も、その流れに符合するものだ。続く(写真はOfficially missing youを2012年にアレンジしてカバーした韓国のGeeksとSoyou)。



2018/01/29

マイフォーティック (Mycophenolate sodium)~免疫抑制剤~

 移植の外来をしていて、海外で移植をしてその後のフォローをするときにしばしば内服薬で「プログラフ、プレドニン、マイフォーティック」の内服をしているという場面に遭遇する事が多い。




 当初はマイフォーティックと聞いて何かのアニメなのか?と思ってしまった。このマイフォーティックに関してまとめたいと思う。

 マイフォーテックはMycophenolate sodiumの事であり、まず特徴としてはMMFに比べて腸管での吸収を遅くしている特徴がある。

 MMFを内服していて一定頻度で困るのは消化器症状(下痢)である。この消化器症状を少なくすることは患者の内服コンプライアンスを上げる上で重要である。

 マイフォーティックは移植後の下痢の症状などをMMFに比べて優位に減らしたという報告がされている(Transplant Proc 2009)。しかし、現時点ではマイフォーティックとMMFで移植患者の有用性の違いに関しては報告されていない(Transplant Proc 2010)。

 日本で患者さんがMMFで下痢をした場合に、下痢止めを処方したり、それでも症状が治まらなければ、MMFをAZA(イムラン)に変更したりする。しかし、AZAのがGraft survivalは長期で見た場合に悪い事は既知の事実であり、なるべくならMMFを飲ませ続けたい(短期は違いは少ないので短期間だけの変更ならばいいかもしれないが)。




 そういう点でマイフォーテックはいい薬である。日本ではないため、患者さんにMMFに変更することを伝え、またそれにより下痢の出現があるかもしれない事を忘れずに伝える必要性がある。量に関しては180mgのマイフォーティックと250mgのMMFが同効果であるとされている。

 もうすぐ東京オリンピックも近づいている。その時に海外で移植した患者さんが急に来院する可能性もあり、内服薬に関してもしっかりと理解する事は重要である。




2018/01/28

カルシフィラキシス or CUAについて考える。 治療について

CUAだと分かった時に治療としてはどのような手があるか?


現時点でCUAに対する適切な治療に関しては分かっていない。ただ、これから示す治療で一つの治療よりも治療を組み合わせた方が良かったという事は分かっている。
アルゴリズムとしては下記のものがある。
Up To Dateより引用


1:チオ硫酸ナトリウム:デトキソール注射液
静脈投与が治療では最も使用される。
・透析患者の場合:透析の最後に100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・腹膜透析患者:週3回で100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・非透析患者:eGFRの値によって変更する。
eGFR>60mL/min/1.73m2 : 25gを週3-5回投与する
eGFR<60mL/min/1.73m2 : 初期量は12.5gで開始して、徐々に増量はするが25gで週3回は超えないように投与する。


治療期間:明確な決まりはないが、3カ月の静脈投与での治療期間が一つは推奨されている。疼痛の改善は2週間以内におこると言われている。


合併症:あまり使い慣れていないくすりだとやはりここが一番心配になる。
吐き気、嘔吐、代謝性アシドーシス、低血圧、低カルシウム血症、QT延長やvolume過多などが合併症としてはある。
とくに代謝性アシドーシスは重度である事が多く注意が必要である。


2:しっかりとした傷の管理;
傷のデブリードメン:これに関してはむやみにやる事で、その部位からの感染の波及のリスクがあるため、適応を判断して行う事が重要である。


3:しっかりとした疼痛管理;
麻薬をもちいた疼痛管理がしばしば行われる。


4:リン、カルシウム、PTHのコントロール
リン吸着薬などはCa非含有のものを用いる。
PTHが高い症例ではシナカルセルトの使用を考慮する。


5:透析処方:
適切な透析ができるような透析を組む。


6:薬剤の中止:
ワーファリンや活性VitD製剤やカルシウム製剤や鉄剤は中止できればする。


上記治療に反応しない場合のCUA
1:高圧酸素治療:


2:ビスフォスフォネート投与
パミドロネートを30mgで週3回投与。VitD活性を押さえ治療効果


3:その他:
VitK投与、t-PA、マゴット治療など


予後:
致死率も非常に高い。
特に感染症の合併で亡くなる症例が非常におおいため、感染の管理には気を付ける必要がある。


今回、CUAの話しを行いまずは透析患者であれば通常の透析管理が非常に重要であり、また非透析患者の場合は必要のない薬物の使用はさけることが重要であると認識した。



2018/01/27

カルシフィラキシス or CUAについて考える 病態と全体像

カルシフィラキシスという言葉はあまり聞く機会も見る機会も少ないと思う。


ただ、カルシフィラキシスは患者さんの死亡率が50%以上という報告もあり、しっかりと認知・治療にあたることは非常に重要である。


言葉:
CalciphylaxisよりCalcific uremic arteriolopathy (CUA) のほうがESRD(末期腎不全)の人の病態を正確に示している。


病態:
正確な部分は不明な所が多いが、全身の血管や軟部組織の石灰化によって生じると考えられている。ただ、血液透析患者などは石灰化が強い症例が全例CUAをおこさないため、他の要因があると考えられる(リスクファクター参照)。


中等度の動脈の石灰化→血管内皮障害の進行→血管の狭窄や過凝固→組織壊死


となる。


リスクファクター:
・透析期間>6~7年
・女性
・肥満(BMI>30)
・糖尿病
・高リン血症
・高カルシウム血症
・高PTH血症
・低アルブミン血症
・薬剤:ワーファリン、カルシウム含有リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、鉄剤投与、全身のステロイド投与


★しかし、ESRDがなくてもカルシフィラキシスは生じる。
下記の図で示したように原発性副甲状腺亢進症や悪性腫瘍での割合は高い。
また、表にはないがカルシフィラキシスを発症した60%の患者でステロイド投与歴があり、25%にワーファリン投与歴がある。
なので、ESRDがなくても薬剤暴露(ステロイド、ワーファリン)や下表の疾患の患者の皮膚病変をみたら鑑別に上げる事は重要である!
CJASN 2008より
どのような所見か?:
皮膚病変は一言で言うと疼痛をともなった虚血性壊死である。
先程の病態にあったように虚血に伴って生じるので、治りづらい。
Am J Kid Dise 2015より
病理に関して:
下図のように一つの特徴は血管の石灰化である。
もうひとつは間質のカルシウム沈着が特徴である。
Am J Kid Dise 2015より
採血検査は何かわかる?:
特異的な採血検査項目に関してはない。PTHが高かったり、リンが高かったりなどの原因の推定には繋がる可能性がある。


★診断:
疼痛病変で非潰瘍性の病変があればCUAを疑う
→Ca×PやPTHの濃度を見て病変の悪化に直結する変化がないかを見る
→病変の皮膚生検は推奨(しかし、感染の併発をしている場合などは感染の助長をしてしまうため行われない場合も多い)
※ここで上記のように生検をせずに治療をする場合があるが、CUAににて違う疾患のこともある!なので生検はなるべくしたほうがいい(下表のような疾患を見逃す可能性も)。
表:カルシフィラキシスの鑑別
Am J Kid Dise 2015より
日本の診断基準もあるのでのせる。
病理はもちろん必須ではないが、やったほうがいいのではないかということがわかる。




好発部位:
下肢が最多であり、腹部や乳房や陰部などにも生じる。


まずは、カルシフィラキシス or CUAについて全体的に触れた。


次は治療について触れたい。

写真はカルシフィラキシスを提唱したProffessor Selye





2018/01/26

戌年にあたり

 今年は戌(いぬ)年だ。巳(み)年にはヘビの話をしたから、今年も何か干支にちなんだ話をしよう。アステカ文明ではイヌはXolotlという神の化身で、これは稲妻と死の象徴であり、夜に地下世界を見回り太陽を守護するそうだ。

 そして、水を意味する言葉はAlt。この二つをあわせたAxolotl(アホロートル)は「水のイヌ」ということになるが、これはメキシコサンショウウオのことだ。日本ではこの一種のアルビノが「ウーパールーパー(写真はぬいぐるみ)」と呼ばれていたこともある。




 さて、アホロートルには腹膜とつながった(糸球体のない)「オープン」ネフロンと、糸球体とつながった「クローズド」ネフロンの二種類がある。それで、蛋白尿が腎障害を起こすかどうかの実験に用いられたことがある(Kidney Int 2002 62 51)。この話は、Oxfordの腎臓の教科書(137章)に載っているので興味ある方は参照されたい。

 アホロートルの腹腔内に子牛のアルブミンを注射すれば、オープンネフロンの尿細管だけが蛋白尿に曝され、クローズドネフロンは曝されない。そうして各尿細管の炎症マーカーや組織障害などを比較したところ、蛋白尿に曝されたほうがTGF-βが高く、組織の線維化も進んでいた。

 異種のたんぱくなら抗原性などもあるかもしれないが、この実験は「蛋白尿じたいが腎臓にわるいのか、蛋白尿を出させるようなプロセス(糸球体の異常など)がわるいのか」という議論に一石を投じることになった。現在では、たんぱく質が近位尿細管でCCL2(以前にふれた)やCCL5などを分泌させ炎症を惹起し、補体活性化などさまざまな機序で尿細管障害を起こすと考えられている。

 その一方、以前にふれたBardoxoloneのように蛋白尿が悪化しても炎症を抑えれば腎障害を抑えられるという仮説で試されている薬もある。この薬は現在、Alport症候群での治験CARDINALが第3相に入り、米国腎臓内科界をざわつかせている。

 たとえば「バルドキソロンは不死鳥か?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017121317)、「Alport症候群でバルドキソロンによってGFRをあげるべきなのか?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017101062)などが、JASNに載ったばかりだ。

 また日本でも、糖尿病性腎症を対象にして失敗した米国BEACONトライアルを改良したというTSUBAKIトライアルがひそかに進行中で、こちらも日本腎臓内科界をざわつかせている。

 そんなわけで2018年は、腎臓病の進行を抑えるとはどういうことなのか?何をすればいいのか?というその方法論が根本から問い直される年になるかもしれない(写真はイヌの概念を問い直すaibo)。






2018/01/10

高リン血症にナイアシン?

今回、高リン血症にナイアシンやニコチン酸アミドを使用することについて話題を触れたい。

これに関しては、いくつかのトライアルが行われ透析患者の高リン血症を下げるなどが示されているが、問題点としては治療期間が短かったり、サンプルサイズが小さかったり、研究デザインが悪かったりなどがあり、疑問視されていた。

それに対して二つの研究がしめされた。

1:Malhotra 達が報告したもので、CKD stage 3~4の患者352人をナイアシン投与群(1500-2000mg/dl)と少量投与群(50mg)に分けた。投与群ではリンが3.4→3.3mg/dl、少量群では3.4→3.6mg/dlとなり、一応統計学的な有意差はあったが、他のFGF、PTH、Ca、VitDなどの改善には寄与しなかった。この報告では、血清リンは軽度低下あるものの顔面紅潮の副作用が多く目立ったというものでnegativeな報告であった。(Clin J Am Soc Nephrol 13: XXX–XXX, 2018、doi: 10.2215/​CJN.05440517)

2:Lenglet 達が報告したもので100人の血液透析患者に経口のナイアシンかセベラマーの投与を24週間行なった。結果としては、ナイアシンではリンが6.5→5.6mg/dl、セベラマーでは7.1→5.3mg/dlとなった。リンに関しては低下はしたが、FGF23はセベラマーでは低下したが、ナイアシンでは増加し、Klothoはセベラマーで増加し、ナイアシンでは低下した。また、研究も副作用で途中で終了となっていた。(Nephrol DialTransplant 32: 870–879, 2017)

ナイアシンなどが、高リン血症に効果があるのは下図に示されるように消化管のNaPi2b受容体に阻害的に働き、Pの吸収を抑えるためと考えられている。

CJASN 2017より

現時点では、ナイアシンなどは有効な結果は出ていない。
現在少量投与のナイアシンがどうかという下記のstudyが走っている。

COMBINE
NOPHOS 

これらの結果にもよるが現段階では残念ながらナイアシンの使用を積極的には推奨はされない。




[おまけ]ナイアシンについて触れた2012年の投稿もご参照ください、当時の米国(大学病院)でどんなふうに議論されていたかの参考になるかもしれません。


2018/01/09

尿AGプラス

 AASKコホートで酸摂取量・酸排泄量などと腎・生命予後をみているグループ(以前の論文はこちらにまとめた)から、あたらしい論文がCJASNにでた(doi.org/10.2215/CJN.0377417)。尿アンモニア排泄量と、尿アニオンギャップの相関を調べたもので、「相関しない」という結論だった。以前も書いたように尿アニオンギャップは


[測定されない陰イオン] - [測定されない陽イオン]

 なので、NH4+だけでなく測定されない陰イオンの影響も受けるからだ。測定されない陰イオンのなかでは、硫酸イオン(SO42-)、リン酸イオン(HPO42-、H2PO4-)がおおきい(不揮発酸)。HCO3-は尿pHが6.5以下では尿中には有意な濃度で存在しないのであまり問題にならない。

 硫酸イオン、リン酸イオンを測った「尿AGプラス」を以下のように求めると、尿アンモニアと相関する。


尿AGプラス = ([尿Na] + [尿K]) - ([尿Cl] + [尿硫酸イオン] + [尿リン酸イオン])

 ここまでするなら尿アンモニアを直接測れば?と思われるだろうし、これだけやっても蓄尿容器にクエン酸がはいって尿pHが測れない、など問題がある。エディトリアルも「CKDの実臨床では尿AGプラスの価値はほとんどない」とそっけなく書いている。結局、血液検査と随時尿でわかるHCO3-と尿pH以上に使いやすく情報量の多いマーカーが現れるかはわからない。





 [おまけ]今回の論文で、尿リン酸はモリブデン酸塩(MoO42−)の光度計法、尿硫酸は硫酸バリウム(BaSO4)の沈降法で測定している。尿といえば、尿酸濃度は昔リンタングステン酸(H3PW12O40)の還元を利用して測定していた。元素が好きな方は、Ag、P、Sなどと合わせ周期表(下図)のなかに探してみてはいかが。なお尿アンモニア濃度はグルタミン酸脱水素酵素法で測定している。





2018/01/05

あなたのネフロンを数えましょう 2

 ネフロンというのは便利な言葉過ぎて、言い換えるのが難しい(filtering unitという言葉を使ったこともあるが)。だれが名づけ親なのだろう?ネフロン発見の歴史は以前に書いた(Adv Physiol Educ 2014 38 286も参照)が、ここに登場する誰かが名づけた、という確証はないようだ。ニュートリノ(写真は2008年『グラン・トリノ』)のように、発見される前から想定されていたのだろうか。



 さて、そのネフロンは「ひとつの腎臓に約100万個」と教わるが、これらはむかし酸によるmaceration(浸して柔らかくすること)、立体解析などを使って数えたものでバイアスが多かったらしい。その後fractonator-sampling/dissector-countingというより正確な方法ができたが、これは献体腎のネフロンを体外で解剖的に数えるもので臨床応用は難しかった(以上、Brennerの教科書より)。

 そこで、腎生検と画像を組み合わせて掛け算する方法が試みられたが、当初イヌにMRIを行なった(KI 1994 45 1668)ときには精度が悪かった。だから前回紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)はヒトでネフロン数を体内でかぞえた、画期的なものだった。数をかぞえただけでも大変なことだったのだ。

 さて、そのネフロン数にはどんな意味があるのか?

 これについての仮説で、「ネフロンというのは天からの大事な授かりものだ(から、自分の持って生まれたネフロンを大切に)」という考え方をネフロン・エンダウメント(endowは授けるという意味)という。その根拠としてよく挙げられるのは、ネフロンが少ない低出生体重児と高血圧の相関だ。出生体重が1kgすくないと、収縮血圧が数~10数mmHg高い関係がある(J Hypertens 2000 18 815)。

 とくに出生後「追いつくように」体重が増えた群で思春期・成人期に高血圧にになりやすく、これについてネフロン・エンダウメント仮説は「ネフロンが少ないのに負担が増えるから血圧が上がる」と説明する(「腎虚」の証とでも言えようか)。

 また高血圧家系のドナーから腎移植をうけたレシピエントは、高血圧家系でないドナーから受けたのに比べて高血圧になりやすいというイタリアの論文(JASN 1996 7 1131)もある。免疫抑制剤にCNIを使っていない頃のデータだが、ステロイド量や腎機能などを考慮しても差が見られた。

 この論文は「腎臓と一緒に血圧も移植している」という刺激的なタイトルがつき、当時は話題になったようで、さらにドイツでネフロン数と高血圧の相関を示した論文(NEJM 2003 348 101)もでている。あくまで相関なので、ネフロンが少ない→高血圧だけでなく、高血圧→(糸球体硬化)→ネフロンが減る、もあると思われるが。 

 そんなわけでネフロン数が少ないとあまり身体によくなさそうである。しかし、生体腎移植ドナーはネフロン数が半分になっても腎機能は半分以上あるし、(少なくともドナー評価が厳格な米国のデータでは)天寿を全うする。

 これについてはどう考えればよいのだろう?ネフロンの数もさることながら、一つ一つのネフロンの働きも大事なのではないか?つづく(写真は"Officially missing you"を2012年にカバーした、オーストラリア出身で双子のJayeslee)。