ネフロンというのは便利な言葉過ぎて、言い換えるのが難しい(filtering unitという言葉を使ったこともあるが)。だれが名づけ親なのだろう?ネフロン発見の歴史は以前に書いた(Adv Physiol Educ 2014 38 286も参照)が、ここに登場する誰かが名づけた、という確証はないようだ。ニュートリノ(写真は2008年『グラン・トリノ』)のように、発見される前から想定されていたのだろうか。
さて、そのネフロンは「ひとつの腎臓に約100万個」と教わるが、これらはむかし酸によるmaceration(浸して柔らかくすること)、立体解析などを使って数えたものでバイアスが多かったらしい。その後fractonator-sampling/dissector-countingというより正確な方法ができたが、これは献体腎のネフロンを体外で解剖的に数えるもので臨床応用は難しかった(以上、Brennerの教科書より)。
そこで、腎生検と画像を組み合わせて掛け算する方法が試みられたが、当初イヌにMRIを行なった(KI 1994 45 1668)ときには精度が悪かった。だから前回紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)はヒトでネフロン数を体内でかぞえた、画期的なものだった。数をかぞえただけでも大変なことだったのだ。
さて、そのネフロン数にはどんな意味があるのか?
これについての仮説で、「ネフロンというのは天からの大事な授かりものだ(から、自分の持って生まれたネフロンを大切に)」という考え方をネフロン・エンダウメント(endowは授けるという意味)という。その根拠としてよく挙げられるのは、ネフロンが少ない低出生体重児と高血圧の相関だ。出生体重が1kgすくないと、収縮血圧が数~10数mmHg高い関係がある(J Hypertens 2000 18 815)。
とくに出生後「追いつくように」体重が増えた群で思春期・成人期に高血圧にになりやすく、これについてネフロン・エンダウメント仮説は「ネフロンが少ないのに負担が増えるから血圧が上がる」と説明する(「腎虚」の証とでも言えようか)。
また高血圧家系のドナーから腎移植をうけたレシピエントは、高血圧家系でないドナーから受けたのに比べて高血圧になりやすいというイタリアの論文(JASN 1996 7 1131)もある。免疫抑制剤にCNIを使っていない頃のデータだが、ステロイド量や腎機能などを考慮しても差が見られた。
この論文は「腎臓と一緒に血圧も移植している」という刺激的なタイトルがつき、当時は話題になったようで、さらにドイツでネフロン数と高血圧の相関を示した論文(NEJM 2003 348 101)もでている。あくまで相関なので、ネフロンが少ない→高血圧だけでなく、高血圧→(糸球体硬化)→ネフロンが減る、もあると思われるが。
そんなわけでネフロン数が少ないとあまり身体によくなさそうである。しかし、生体腎移植ドナーはネフロン数が半分になっても腎機能は半分以上あるし、(少なくともドナー評価が厳格な米国のデータでは)天寿を全うする。
これについてはどう考えればよいのだろう?ネフロンの数もさることながら、一つ一つのネフロンの働きも大事なのではないか?つづく(写真は"Officially missing you"を2012年にカバーした、オーストラリア出身で双子のJayeslee)。