2018/01/26

戌年にあたり

 今年は戌(いぬ)年だ。巳(み)年にはヘビの話をしたから、今年も何か干支にちなんだ話をしよう。アステカ文明ではイヌはXolotlという神の化身で、これは稲妻と死の象徴であり、夜に地下世界を見回り太陽を守護するそうだ。

 そして、水を意味する言葉はAlt。この二つをあわせたAxolotl(アホロートル)は「水のイヌ」ということになるが、これはメキシコサンショウウオのことだ。日本ではこの一種のアルビノが「ウーパールーパー(写真はぬいぐるみ)」と呼ばれていたこともある。




 さて、アホロートルには腹膜とつながった(糸球体のない)「オープン」ネフロンと、糸球体とつながった「クローズド」ネフロンの二種類がある。それで、蛋白尿が腎障害を起こすかどうかの実験に用いられたことがある(Kidney Int 2002 62 51)。この話は、Oxfordの腎臓の教科書(137章)に載っているので興味ある方は参照されたい。

 アホロートルの腹腔内に子牛のアルブミンを注射すれば、オープンネフロンの尿細管だけが蛋白尿に曝され、クローズドネフロンは曝されない。そうして各尿細管の炎症マーカーや組織障害などを比較したところ、蛋白尿に曝されたほうがTGF-βが高く、組織の線維化も進んでいた。

 異種のたんぱくなら抗原性などもあるかもしれないが、この実験は「蛋白尿じたいが腎臓にわるいのか、蛋白尿を出させるようなプロセス(糸球体の異常など)がわるいのか」という議論に一石を投じることになった。現在では、たんぱく質が近位尿細管でCCL2(以前にふれた)やCCL5などを分泌させ炎症を惹起し、補体活性化などさまざまな機序で尿細管障害を起こすと考えられている。

 その一方、以前にふれたBardoxoloneのように蛋白尿が悪化しても炎症を抑えれば腎障害を抑えられるという仮説で試されている薬もある。この薬は現在、Alport症候群での治験CARDINALが第3相に入り、米国腎臓内科界をざわつかせている。

 たとえば「バルドキソロンは不死鳥か?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017121317)、「Alport症候群でバルドキソロンによってGFRをあげるべきなのか?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017101062)などが、JASNに載ったばかりだ。

 また日本でも、糖尿病性腎症を対象にして失敗した米国BEACONトライアルを改良したというTSUBAKIトライアルがひそかに進行中で、こちらも日本腎臓内科界をざわつかせている。

 そんなわけで2018年は、腎臓病の進行を抑えるとはどういうことなのか?何をすればいいのか?というその方法論が根本から問い直される年になるかもしれない(写真はイヌの概念を問い直すaibo)。