2015/12/22

Wunderlich Syndrome

 外傷のない腰痛の症例で撮ったCTにこんなのが写っていたらどうするか。よく「腰痛です…腎臓からでしょうか?」と訊かれた患者さんに「腎臓が痛むのはたいてい感染した時か石がある時です(腎機能の低下で痛みがでることはほとんどない、という意味で)」と答えていたが、これからは「出血したとき(それも、自然に出血したとき)」もくわえなければならない。



 自発的腎周囲出血(spontaneous perirenal hemorrhage, SPH)にはWunderlich Syndromeという別名がついている。Carl Reinhold August Wunderlich先生というのは19世紀のドイツ人医師で、平熱(mean、oral)が37C、正常上限が38Cだと測定したことでも知られている。20世紀に測定しなおしたら平熱は36.8C、正常上限は37.7C(朝は37.2C)、性別や人種や年齢によっても異なるとわかったが(JAMA 1992 268 1578)。なお日本の感染症法では37.5Cを発熱、38C以上を高熱と定義している(テルモ『知っておきたい体温の話』)。
 さてSPHの原因は7割ちかくが腫瘍(血腫内に脂肪があれば筋脂肪血管腫)、2割ちかくが血管炎、感染によるものが数%というメタアナリシスがある(J Urol 2002 167 1593)。感染のなかではKlebsiella pneumoniaeによるものが報告されていた(BMJ Case Rep 2013, bcr2012007523)。血圧が高いだけで起こったとする報告(Urol Ann 2011 3 44)もある。一旦出血すれば、レニンアンジオテンシン系が亢進してどのみち高血圧になる。
 SPHをおこす血管炎のなかでもっとも多いのはPAN。PANの腎病変は、PANが中径動脈を炎症の首座としていることから、毛細血管でできた糸球体の腎炎よりもやや径の太い腎細動脈瘤の破裂とそれにともなう梗塞のほうがおおいようだ。PANはANCA陰性で、血液検査で診断することは難しく、血管造影が診断のgold standardで、皮膚病変があれば皮膚生検で血管炎を証明することもできる(が特異度は低い)。
 昔はSPHに対しては出血のコントロールと(ほとんどの場合腫瘍によるものだったので)腫瘍の切除の意味で腎摘していたそうだが、いまでは画像検査もあるしIVRもあるのでそういうことは少ないし、出血も自然に消退することが多いようだ。ただ感染にともなう出血の場合は腎膿瘍に準じた治療が必要なので、経皮的ドレナージ、それが困難(で感染のコントロールがつかないなら)ならやっぱり「慎重に(prudently)」腎摘をすべきとされている。
 

2015/12/19

Blood Substitutes

 アメリカで内科レジデントをしていた時、指導医に「どうしてそうしたの?」ときかれて「フェローの先生に言われて…」と答えた研修医に指導医が「君はNuremberg裁判を知っているかね」と言った。第二次世界大戦中に捕虜や市民に対してナチの医師が生体実験や安楽死、大量殺人を行ったことを連合軍が裁判にかけたとき、医師たちが「上官や軍の命令でやりました」と言ったが結局刑を受けたことを指している。ただこの時にはまだ人体実験の害から被験者をまもるルールがなかったので、Nuremberg CodeとDeclaration of Helsinkiができた。
 日本における生体実験では731部隊やトラック島での海軍による生体実験が有名だが、1945年5月~6月に当時の九州帝国大学医学部第一外科教授のグループと陸軍が行った米兵捕虜への生体実験がある。どこまで臓器を摘出しても人は生きられるかとか、どれだけ出血したら人は死亡するかとか、あきらかに死亡する可能性の高い実験とも言えない実験だ。医学水準が違うとはいえ、理解に苦しむ。またいくら彼らがB29爆撃機で無差別空襲していたとはいえ、捕虜の扱いは当時から国際法があったので違反している。
 さてこの自殺した元教授の研究テーマの一つは海水から代替血液を作ることだった。現代でも、人類は一滴の血液も人工では作れない。晶質液は要は塩水、膠質液はデンプンだ(アルブミンは血液製剤だ)。ガス結合能のあるperfluorocarboneのエマルジョンが一時期試されたが結合曲線がヘモグロビンと異なり直線的なので効率が悪いのと、アメリカのIII相試験で脳梗塞が多く止めになった。Decafluoropentaneは酸素結合能は強い(Artif Cells Blood Substit Immobil Biotechnol 2009 37 156)そうだが。
 そのあと、やっぱり生体にあるものを使おうとヘモグロビン製剤がつくられた。期限切れ輸血製剤をもらっているので本当に血液型、感染リスクなど考慮しなくてよいのかわからないが、放射線照射しているのと、いまでは遺伝子組み換えで大腸菌からも作れる。二量化したり多量化したりして試した(単量体だとすぐに腎排泄されるか網内系に取り込まれる)が、高血圧や心機能低下など副作用が多く(Anesth Analg 2014 119 766)、現在ではPEG付ヘモグロビン(Hemospan®またはMP4OX)、pyridoxylated hemoglobin polyoxyethylene conjugate(PHP)が治験中だ。
 生ヘモグロビンではなくいろんな酵素とかといっしょに人工赤血球(小胞体)のなかに入れてあげたらどうかというのも、ナノテクノロジーを用いて研究されている。Liposome-encapsulated hemoglobinというのがそれで、とくに日本で研究が進められているようだ(日本血液代替物学会というのがあって、この分野の学会は日本にしかないらしい)。実は人工血小板H12-(ADP)リポソームというのも研究されている(血小板を増やすのではなく血小板凝集を惹起する小分子だ;止血能はあるらしいが全身で血小板凝集のコントロールが効かなくなったり血小板が消耗したりしないかが心配だ)。まだ動物実験のレベルだが、これらがいずれ臨床応用のために治験されるかもしれない。そのときは、70年前の過ちを繰り返さないでほしい。


2015/12/18

D5NS

 治療を即断して救命を図るのはやりがいのあることで、そういうのは英語でheroicと呼ばれるが、同時に一歩さがって冷静沈着な頭で考えることもとても重要だ。この二つを両立することは、いろんな脳内伝達物質がかけめぐっているなかで脳(あるいは脊髄)の別の場所を同時に働かせなければならないので容易ではない。だからOsler卿も平静の心を説いているわけだが、プロなら当然のこととしてやらなければならない。
 さてアルコール性ケトアシドーシス(AKA)には糖と細胞外液が必要だが、日本にはD5NSがなくて、糖入りの外液にはカリウムが入っているので、高カリウム血症があるときなどどうしているのかなと思う。単純に5%糖液と0.9%NaCl液を両方落としてもいいし、一号液(糖とNaClが中途半端に入って等浸透圧になっている)を落としてもいいし、糖入り外液(なんとかD)に含まれるカリウムはわずかなので無視してもいいのだが、0.9%NaCl液500mlに50%糖液40mlを混ぜるのがD5NSに近い(浸透圧は高くなるが)。
 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)にくらべて、AKAは糖をいれてあげるだけでインスリンが出るので高血糖で来院したのでもないかぎりインスリンはあまり必要ない。だからGI療法しなくても糖を入れればケトンの分解によるアシドーシスの是正と内因性のインスリン分泌によって高カリウム血症は治療できるはずである。そんなことを考えながら救急外来で50%糖液を点滴に混注しているとノルエピネフリンが出るが、DKAと同じでそのあと起こる低K、Mg、P血症を予測していなければならない。


2015/12/10

Rising Cr on CVVHDF

 ICUでCVVHDFをまわしているのにBUN、Cr、K、Pなどが上がってくる(腎機能はほぼない状態で考慮しなくて良い)というようなことは、まずない。まず疑うのはCVVHDFの回路異常や中断、カテ先異常などだがそういう場合は脱血圧や送血圧、TMPなどが異常になってアラームが鳴るだろう。鳴らないなら、recirculation。大腿静脈カテーテルは内頚静脈カテーテルに比べてrecirculationが多い。また透析カテーテルは側孔から脱血し先端から送血するようにできているので、スイッチ(送血ポートから脱血して脱血ポートから送血)した場合も起こる。
 Recirculationを疑ったら脱血と送血の場所を離してみる(透析カテーテルと別に返血ルートを取る)か、再循環率を尿素希釈法などで求める(動脈ポート、静脈ポート、血流量を落として遠位を駆血した動脈ポートからの尿素をそれぞれA、V、SとしたときにS-A / S-V x 100で求め20%以上を有意とするそうだ)。ほかにもHFの置換が前希釈、UFをかけすぎて末梢組織に尿素をはじめとする老廃物が残ってしまうperipheral urea sequestrationなどが考えられるが、問題になったことはほとんどない。前希釈は透析膜の凝固を防いでくれるし、peripheral urea sequestrationは間欠的透析(iHD)で起こる現象のようだ。
 上記がなくて、CVVHDFが「普通の」クリアランスを提供しているにもかかわらず数字が悪くなってくるときには、老廃物の産生速度がクリアランスを上回っていると言うしかない。たとえば異化が亢進している場合だ。あまり良いサインではなさそうだが…。CVVHDFで十分なクリアランスが提供できない場合、どうするか。フェロー時代に肺移植後の致死的高アンモニア血症に対して二台のCVVHDFを同時にまわすのを見たことがある。iHDはどうか。血行動態が許すように最初は小さな膜で透析液流量も小さく(といっても100mL/minとかでmL/hrのCVVHDFとは桁が違うが)。ただこれで数字を良くしたところでアウトカムが変わるかはわからないけど。


2015/12/08

Ten Commandments

 10 commandments for effective consultations(効果的なコンサルテーションのための十戒)というのは余りにも有名で(Arch Intern Med 1983 143 1753)、20年経って改訂された(Arch Intern Med 2007 167 271)が、原典のほうが書き下ろしでスカッとしている(改訂版には重要な変更点もあるが長ったらしいのと、どの科からコンサルトを受けたかによって対応が違ってくることを調査で示している)。日本でどれくらい有名かは知らないが、紹介しても損にはならないだろうし何より自分に言い聞かせなければならないことだから書くと、以下の10項目だ(原典)。

  1. Determine the question
  2. Establish urgency
  3. Look for yourself
  4. Be as brief as appropriate
  5. Be specific
  6. Provide contingency plans
  7. Honor thy turf (or thy shalt not covet thy neighbor's patient)
  8. Teach... with tact
  9. Talk is cheap... and effective
  10. Follow-up

 3番などは、プライマリサービス(あるいは主担当医)が考えたことや得た情報を尊重しつつ、でもやっぱり自分の頭で考えて自分で調べることで診断がついたりベターな治療ができるということで、その通りである。相手の言うことをすべて鵜呑みにしていたら新しい考えや診断は生まれない。というか、何かが足りないか間違っているからコンサルタントが必要な事態になっているわけで、コンサルトを受けた側はそれらを一から点検しなければならない。
 ただそうやって得たより正しい情報をどのようにフィードバックするかが問題で、後医は名医なくせに偉そうにカルテに大文字で書きなぐったりするのはよくない(8番にはwithout condescension、上から見下さずに、とある)。Web上のやりとりも本当はよくない、一番あとくされがないのは話すことだ(9番)。また最終的に判断するのはプライマリーサービスなのだから勝手に検査や治療を始められるのも困る(7番)が、この辺が曖昧な状況をよく目にする。
 あとは5番で、たとえば私は腎臓内科フェロー時代に腎機能のあわせた薬剤の用量調節がひつようなときに「腎機能のあわせた薬剤の用量調節」とレコメンドするのはご法度だと習った。ひとつひとつ使われている薬剤を調べて具体的にアドバイスするように、そのために私達はお金をもらっているのだと(日本は入院中のコンサルテーションにお金は発生しないが)。ただ、この問題については電子カルテと薬剤師さんの協力があればもっと漏れなくオートマチックにチェックできるのではないかと思う。


Equations

 Osmola-L-ityとosmola-R-ityは違う。前者は溶媒1kgに溶けた浸透圧物質のモルで、後者は溶質と溶媒を合わせた水溶液1Lに溶けた浸透圧物質のモル。ただ後者は溶質の量などで分母が変わるので、通常私達は前者をあつかい、単位はmOsm/kgH2Oだ。浸透圧ギャップを測るシチュエーションというのはあって、緊急透析(やfamepizoleやethanol)の適応が決まったりするのでこれが外注では困るのだが、測定はふつうの生化学と違い凝固点降下の原理を利用した特別な器械でされるので仕方ない。
 ところで血清浸透圧の計算式といえば[Na+] x 2 + [BUN] / 2.8 + [Glu] / 18が使われるが、他にもある。たとえば、36個の計算式を全部比べた論文がある(図、Intensive Care Med 2013 39 302)。すると従来のものはmeanの差が多いもので35mOsm/kgH2Oにも達したのに対し、新しいもの、たとえばZander's formula = ([Na+] + [K+] + [Cl-] + [lactate-] + [Glu] + [HCO3-] + [urea] + 6.5) x 0.985(ドイツなので単位はすべてmmol/l)はmeanの差が0.5mOsm/kgH2O(信頼区間-6.5 - +7.5)だったという。
 39個あるといっている論文もある(BMJ Open 2015 5 e008846)。ここでは高齢者が水を与えられずに脱水になっていることを問題視していて、水不足のdehydration(体液量不足によるvolume depletionとは異なる)を診断するスタンダードは血清浸透圧であると言っている。しかし浸透圧を直接測定するにはお金がかかるしナーシングホームなどで気軽にオーダーもできないので、簡便にオーダーできる項目をつかってできるだけ近似した計算式をみつけ、スクリーニングをかけ浸透圧が高ければ水分を取るようにアラートしようというのが論文の趣旨だ(こういう発想が出るのもやはりイギリスでSI単位系を使っているからだろうなと思う)。すると、もっとも正確だったのはKhajuriaとKrahn(Clin Biochem 2005 38 514)の式で、1.86 x ([Na+] + [K+])+ 1.15 x [Glu] + [urea] + 14だったそうだ。


2015/12/01

CV catheter securement devices

 手技をするときに清潔野をつくって物品を置いていくが、CVラインキットなど大事なものはひとつひとつ気をつけて移さないといけない。小さな部品でもポロッと床に落ちてしまえば、それだけでキットすべてが台無しになって、もうひとつ新しいキットを出さなければならない。というようなことは誰もが失敗して申し訳ない声で「もうひとつキットください」と看護師さんにお願いして学んでいるわけだが、もったいない話だから(安いキットでも1万円ちかくするし)スーパーバイズする時には「気をつけてね!」と言ってあげなければならないなあと思う。
 さて気を取り直して、今回落ちた部品はCVラインの固定のためカテーテルに嵌めるゴム(一針ずつ縫合できるよう左右に羽がついて穴が開いているアレ)だったわけだが、古来から用いられている縫合について考えてみよう。縫合は患者の苦痛、術者の針刺しリスク、糸に雑菌がコロナイズする、縫合してもすこしは動く、など実は欠点も多い。そこでCV catheter securement deviceというのが開発されており、たとえば3M社はSecurement without Sacrificeというキャッチフレーズで糸を使わず固定しさらにクロルヘキシジンジェルで刺入部を覆ったものを売っている(1つ目の図;ただしこれはカテーテルを全部挿入しないといけないが)。
 薬剤で挿入部を覆うほうが感染症を予防するというのは、スタディがおおく今年9月にCochrane Reviewも出ている(DOI:10.1002/14651858.CD010367.pub2)。Securement deviceのほうが抜けにくいかどうかは、Interrad Medical社のSecurAcath®(2つ目の図;刺入部の皮下に錨をつけて固定する)がスタディを組んだ(NCT00903539)が症例数が少なすぎて結果が出なかった(Can J Anesth 2013 60 504)。現在、英国で抜けにくさをアウトカムにしたスタディが組まれている(スタディ番号18974、3M社のデバイスを使うようだ)。針刺しについてはBard Access Systems社のStatlock®(3つ目の図)を対照にCVライン挿入時の針刺し事故を考えた時の費用対効果を分析したスタディがある(doi:10.1136/bmjopen-2012-002327)。




Salicylamide

 PL顆粒はover-the-counterの総合感冒薬PyLon®を医療用にしたとき名前を残したからPLというそうだが、PyとLonがなんの略かは分からない(おそらくPyは解熱剤のantipyreticsを意味するのだろうが)。ところでこの中にはアセトアミノフェンとカフェインと抗ヒスタミン剤とサリチルアミドが入っている。サリチルアミドはサリチル酸にアミノ基がついたエステル(図:Conceptual Pharmacology by P. Jagadish Prasad, Universities Press, 2010)で、弱いがCOXを阻害するからNSAIDsはNSAIDsであり、あなどれない。

 NSAIDsだから輸入細動脈を締めてAKIを起こしたり、慢性使用で鎮痛剤腎症(以前に勉強した)を起こしたりはする。しかしoverdoseで教科書的に有名なサリチル酸中毒(嘔吐、意識障害、血小板減少、AG開大アシドーシス、呼吸性アルカローシス、腎機能低下)を起こすという報告はないようだ。サリチル酸中毒なら意識低下、乏尿、血中濃度100mg/dl以上などがあれば緊急透析適応になるから一安心。そもそも、サリチル酸濃度をオーダーしてもサリチルアミド濃度は測れない(「総サリチルアミド」というのが添付文書に書いてあるが)。


Iron-Based Phosphate Binders

 米国の腎臓内科雑誌にながらく広告されている新規リン吸着剤が、日本でも承認されていた。Sucroferric oxyhydroxide(米国名Velphoro®は2013年11月にFDA認可、日本名P-TOL®は2015年9月認可)と、ferric citrate(米国名Auryxia®は2014年9月にFDA認可、日本名Riona®は2014年1月認可というわけで日本のほうが認可が早くおりていた)。

 前者の鉄成分は不溶性なのにたいして後者は鉄として吸収される違いがあって、後者の使用により静注鉄やESAの使用が減ったというスタディもある(JASN 2015 26 2578)。ただ前者はchewableで食前一錠で済むのが便利なのと、相互作用のなかで後者はフルオロキノロンと結合してその作用を減弱させるのに対して前者は大丈夫なようだ。副作用でおおいのはどちらも下痢(ほかの吸着剤が便秘を起こすのと対照的だ)。

 しかしなぜ鉄なのか?それは無機リンが三価陰イオンで、三価陽イオンをとれる金属とよく結合するからだ。結合力が強い順にCrPO4、LaPO4、FePO4、AlPO4。しかしクロムやアルミニウムは毒性があるので現在ランサナムと鉄が実用化されている。