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2020/05/21

SIADHの診断、6つの質問

 79歳男性、高血圧と高脂血症にサイアザイド・ACE阻害薬・スタチンを内服中。数週つづく倦怠感と左上肢・顔面の不随意運動あり、精査目的に入院。発熱なし、血圧156/76mmHg、脈拍56/min。体重74.8kg(2.2kg増)、浮腫なし。検査所見は以下のようであった。

Na 123mEq/l
Cr 0.89mg/dl
BUN 14mg/dl
血糖 103mg/dl
尿酸 3.1mg/dl
血清浸透圧 256mOsm/kgH2O
尿浸透圧 720mOsm/kgH2O 
尿Na 124mEq/l

Q:診断は?


 本例はマサチューセッツ総合病院のケースカンファ症例(NEJM 2020 382 1943、バイタル・身体所見は入院前のもの)だが、腎臓内科医なら「SIADHっぽい、不随意運動もあるから脳疾患か?」と診断すること自体は難しくないだろう。

 しかしこのカンファで学ぶべきは、症例提示の後に登壇したシンシア・クーパー先生の明快で美しい診断過程にある。腎臓内科医として、思考過程を(研修医や他科の先生方に)分かりやすく伝えていますか?と問われているかのようだ。

 それもそのはず、クーパー先生は腎臓内科医だが、マサチューセッツ総合病院の総合内科でinpatient clinician educatorとして研修医を教え、ハーバード大学医学部の臨床教育も司る、教育のプロだ(賞も多数受賞している、こちらも参照)。

 そんな先生は、どんな低ナトリウム血症であっても、原因を調べ鑑別を絞るときには、系統的にいくつかの質問に答えていくことにしているという。まずそれらを紹介すると:


1. 高血糖はあるか? 尿素と違ってグルコースには張力(tonicity)があるので、著明な高血糖があれば細胞内液から水を引き込み低ナトリウム血症になる。本例は血糖は100台mg/dlであり、除外できる。

2. 血清浸透圧はどうか? グルコースだけでなく、マニトールやIVIGも張力があるので、細胞内液から水を引き込む。こうした物質があれば血清浸透圧は高くなるが、本例は256mOsm/kgH2Oと低く、除外できる。

3. 腎に異常はあるか? 上記を除外した低浸透圧性低ナトリウム血症では、細胞内外を問わず水・ナトリウムのバランスが崩れている。腎臓は水分摂取量に応じて尿を希釈(濃縮)するが、それには十分な糸球体ろ過量と希釈(濃縮)能が必要だ。

 本例は腎機能正常で、サイアザイド中止後もナトリウム値は不変なことから、除外できる。

4. ADHはでているか? 尿浸透圧が血清浸透圧より高いので、ADHがでている。ADHは通常血清浸透圧が高くないと出ない(センサーがある)が、本例のように血清浸透圧が低くても出ているのは異常だ。その原因としてまず、体液減少(volume depletion)がないか確認しなければならない。

5. 体液量はどうか? 本例では、バイタル・体重・身体所見に明らかな体液減少はみられない。微妙な体液減少と適切体液量(euvolemia)を見分けるのは難しいが、もし体液減少があればRAA系が亢進して尿Naは低くなり(本例は100mEq/l以上)、尿酸値も高くなるはずだ(本例は4mg/dl未満)。また、入院後の輸液でもナトリウム値は上がらなかった。

6. 副腎不全・甲状腺機能低下症はないか? 血清浸透圧が低く体液減少がないにもかかわらずADHが出ているのだから、不適切ADH分泌症候群(SIADH)に矛盾しない。ただし、ここに挙げた2疾患は同様の所見を呈することがある。本例でも検索され、除外された。


 このあと先生はSIADHの原因を①悪性疾患、②肺疾患、③脳疾患、④薬剤、⑤その他(痛み・嘔吐・激しい運動など)に大別した。本症例では③が疑われたが、脳MRI所見は非特異的で、不随意運動はナトリウム値でも説明がつかなかった。

 そこで、"face"、"arm"、"dystonic"、"hyponatremia"の4語でPubMed検索し、こちらの診断に至ったことは、すでによく知られている通りだ(日本腎臓学会のメーリングリストでも、先週紹介された)。




 
 いかがであろうか?よく目にするアルゴリズムを正統的に解説してくれる安心感、そしてPubMed検索というクライマックスで迎える衝撃の結末。筆者のように「キラキラ星変奏曲がじつはどれだけ凄い曲か」をプロのピアニストに解説されたかのような感銘を受けたかはともかく、こう思った方は多いだろう。


 クリニシャン・エデュケーターって、かっこいい!



Lang Langさんによる解説
動画はこちら


 

2020/02/18

ナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)の時の計算式、ADHの重要性。

みなさんの興味のあるナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)

今回は、AJKDのcore curriculum seriesのを紹介したいと思う。
このseriesは、無料で提供されており非常に内容もまとまっている。また、Essential readingという読んでおくべき論文も提示してあり、個人的には大好きなSeriesである。

今回ナトリウム異常症に関しての論文が出ていたので少しかいつまんで。

個人的には、まずはナトリウム異常症に必要な公式から。
下記が主なものになる。

■Plasma osmolality(血漿浸透圧), mOsm/kg H2O:
  =(2 × [Na+] (mEq/L)) + BUN (mg/dL)/2.8 + glucose (mg/dL)/18

■Plasma tonicity(血漿張度), mOsm/kg H2O: 下記のどちらでも
   =Measured plasma osmolality (mOsm/kg H2O) − BUN (mg/dL)/2.8
   =(2 × [Na+] (mEq/L)) + glucose (mg/dL)/18

■Edelman formula, simplified:
     [Na+] = (eNa+ + eK+)/TBW(体液量)*
                                  *TBW=0.6×体重

■Urine to serum electrolyte ratio: Ratio>1では、飲水制限でも悪化し、生食投与でも
                               悪化することを示唆
     =(UNa + UK)/[Na+]


■Infusion rate, hypertonic saline solution: 1 mL/kg/h増加させるためには
    = [Na+] 1 mEq/L/h

■Infusion rate, D5W, to relower [Na+]:高Na血症のときに低下させるには0.5mEq/hr
                        ( 12mEq/day )で低下させる場合
    =2 mL/kg/h

■Free-water deficit:
    =TBW (L) × (([Na+]/140 mEq/L) − 1)
        *TBW=0.6×体重

■Electrolyte-free water input(EFWI)
     =Infusion volume × (1 - (INa + IK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water clearance(EFWC):
     =Urine Volume × (1 − (UNa + UK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water balance(EFWB):
     =EFWI ー EFWC

Front med 2018より引用
生体はEFWBをうまくコントロールしながらナトリウム異常を起こさせないように働いている。

やはり、ナトリウム異常症に重要なADHについて。
ADHの分泌刺激としては、ご存知のように一番は張度の変化である。
下の図の白丸(○)に記載してあるように、高張度になることによってADH分泌が生じる。
次の刺激が血管内循環血液量の減少である。
これは下の、黒丸(●)に記載してあるように血管内循環血液量の減少が刺激になる。


ちなみに、低ナトリウム血症でADHが出ている場合は、低ナトリウム血症自体多くは低張度であり、ADH刺激としては循環血液量減少が関与しているか不適切にADHが分泌している場合(SIADH)であるとわかる。

低ナトリウム血症の際にADHがでているかを判断する材料としては、Uosmになる。
1:Uosmが上昇している場合にはAVPが何らかの関連をしているんではないか?と考えることが重要である。
2:その後に、UNaを測定して循環血液量がどうかを判断する。UNa>30mEq/Lであれば、尿中にいらないNaを出している状態(利尿剤などは使用していないことが前提であるが。)なので、循環血液量減少はないと判断することができる。


なんにせよ、ナトリウム異常症はADHの概念を掴むことが非常に重要になる。


2019/07/26

夏休み「腎」由研究

 いよいよ世間は夏休み。時には気分転換に、普段と違う「ふっ切れた」話をしてみたい。そこで、自由研究ならぬ「腎」由研究と題し、腎臓とゆるく関連するいくつかのトピックをまとめてお届けしたい。


1.元素の当て字


 中国語には元素の当て字があり、金属(釒)、固体(石)、液体(氵)、気体(气)の属性を表す部首に、元素の発音または意味を表す部分を加えてつくる。たとえば、腎臓内科に身近な元素のうち、次のものは発音を当てている。

ナトリウム  金+内
カリウム   金+甲
カルシウム  金+丐(カイ)
マグネシウム 金+美 
亜鉛(zinc)  金+辛
ランタン   金+闌

 いっぽう、以下のものは意味を当てている。

水素 气+圣(軽、軽い)
酸素 气+羊(養、生き物に必要)
窒素 气+炎(淡、酸素を薄め窒息させる)
塩素 气+录(緑、塩素ガスが黄緑色)
リン 石+粦(燐、リン光を発する)
炭素 石+炭

 すべての元素を知りたい方は、こちらの周期表を参照されたい。なお「イオン」は「离子」(電離の離)なので、「K+」は「鉀离子」などというようだ。


2.ナトリウムとソディウム


 英語でナトリウムは、ソディウム(sodium)。これは、単体のナトリウム金属を1807年に発見した英国化学者のハンフリー・デービーがそう命名したからだ。フランス語も「ソディウム」とデービーの命名を尊重しているが、これには歴史的背景が推察される。

 というのも、1813年、デービーはフランス皇帝ナポレオンに功績を称えられ、当時敵国だったフランスに貴賓として招かれているのだ。彼はそこで電磁気学の祖アンペールら、フランスの科学者たちと交流している(詳細はこちらも参照されたい)。
  
 しかし、日本を含むほかの多くの国々は「ナトリウム」だ。1809年にはドイツの化学者ルードヴィッヒ・ギルベルトがドイツ語名称を「ナトリウム」とし、1811年にはスウェーデンのイェンス・ベルセリウスが元素記号を「Na」としたため、「ナトリウム」のほうが一般的になった。

 それぞれの語源である「ソーダ」と「ナトロン」は、いずれも炭酸ナトリウムなどのナトリウム化合物。名前は違うが同じという意味では、「アドレナリン」と「エピネフリン」のようなものかもしれない。なお今年は周期表ができて150周年。その歴史とドラマについて知りたい方は、こちらも参照されたい。


3.皇帝ペンギンと橈骨静脈

 
 前腕内シャントの手術で橈骨動脈を露出する際みえる、動脈に並走する2本のヒョロっとした細い橈骨静脈。還流量もわずかで、動脈の拍動に流れを依存しているほど無力なこの静脈が、なんの役に立つのかと思うかもしれない。しかし実は、対向流熱交換(countercurrent heat exchange)の役に立っているのだ。

 動静脈が対向するように流れていると、動脈が運んできた熱が静脈にうつるので、体外に逃げにくい。この仕組みがあるからこそ、皇帝ペンギンの足は氷の上でも凍傷にならないし、クジラは冷たい海水を吸い込んでも熱を奪われない(舌の動脈の周囲に6本の伴行静脈が走る、こちらも参照)。

 しかし、それでもエサを摂らずにずっと卵を抱いていれば、皇帝ペンギンの身体はいずれ凍ってしまう。彼らの壮絶な生き様を知りたい方は、映画『皇帝ペンギン(2005年)』、または続編の『皇帝ペンギン ただいま(2017年)』を是非ご覧いただきたい。感動だけでなく、謙虚さと涼しさを得られるだろう。


4.腎臓の方程式


 最後に、読者も大好きであろう数学のお話をひとつ。「腎臓の方程式」というのは、存在する。嘘だと思うのも無理ないので、まず載せる。




 半径aの小さな円と半径2aの大きな円が接していて、小さな円が大きな円に沿って廻ったときに、接していた点が小さな円と一緒にうごく軌跡を「腎臓形(nephroid)」とよび、上の6次方程式であわらすことができる(こちらの図も参照)。さらに腎臓形を大きな円に対して反転(inversion)したのが下の式で、二つを合わせるといかにも腎臓だ。しかも、二つあるではないか!


(前掲リンクより)


★ ☆ ★


 いかがであろうか、お楽しみいただけたであろうか?読者の皆さまの何かを豊かにしたなら(「キセキ」が起きたなら)、望外の喜びである。では皆さまも、有意義な夏休みを過ごされますよう(写真は、ナトリウムなどの炎色反応を応用した花火)。







2019/04/16

びっくりする低ナトリウム血症

 低ナトリウム血症の相談を受けると、いつでも心が引き締まる。その理由のひとつは、「プロ」としてみっともない真似はできない、という思い。自意識過剰かもしれないが、「腎臓内科のお手並みを拝見しましょう」と周囲から注目されているような気になる。

 もうひとつは、過補正のリアルな「リスク」だ。高ナトリウム血症のほうは、従来の0.5mEq/l/h(10mEq/l/d)未満より急速な群でも合併症に有意差が見られなかったという報告がCJASNにでた(doi.org/10.2215/CJN.10640918)が、低ナトリウム血症は別だ。

 しかし、そうはいっても鑑別疾患はだいたい決まっているので、順を追って診断していけばそう滅多なことは起きないと思っていたら、びっくりするような低ナトリウム血症の原因があることを発見した。

 それは、「尿閉」である。

 別に、びっくりしなかった読者もおられるかもしれない。たしかに、尿閉で尿が出なければ水が出せないのだから、低ナトリウム血症になるのは当たり前かもしれない。しかし、ここでいう低ナトリウム血症は、水腎症や腎後性の腎障害を伴わない。
 
 報告は(Saudi J Kidney Dis Transpl 2017 28 392、JAGS 2014 62 1199、Gerontology 2007 53 121)いずれも、①膀胱が過伸展しており、②尿浸透圧は血清浸透圧より高くSIADHが示唆され、③尿道カテーテルの挿入で軽快し、④カテーテルの抜去で増悪する、といった特徴を持っている。

 膀胱の過伸展は心因性多飲における低ナトリウム血症の増悪因子としても知られている(J Urol 1992 147 1611)。機序は不明だが、これら論文はいずれも「膀胱の過伸展による(交感神経刺激を介するかもしれない)ADH分泌」と推察している。

 筆者も経験したことがあるが、尿閉による低ナトリウム血症は、知らないと驚きの連続になる。

 尿検しようにも「尿がでない」というのでCTを撮ると信じられないほど拡張し壁の薄い(下写真の紙風船のような)膀胱が写っていたり、尿カテーテルを挿入すると尿崩症かと思うような希釈尿が出て急激なナトリウム濃度上昇が心配されたり、抜去するとストンとナトリウム濃度が下がったりする(そして、再挿入するとまた上がる・・!)。





 それは、結局のところカテーテルでなおってしまうことで、低ナトリウム血症の「高尚な病態生理を操って頭を使う、レベルの高い疾患」、というイメージが崩れる驚きでもある。

 筆者は研修医時代に「低ナトリウム血症だけは永遠に理解できないだろう」と思った。難解なことを例えるのに「それは低ナトリウム血症のようなものだ」と言っていたこともある。

 しかしそのうち(それなら飽きないかも)と思い始め、気づけば腎臓内科医になっていた。

 やはり、これだから低ナトリウム血症はやめられない。



2019/02/14

ナトリウムで語る低ナトリウム血症

 ST合剤といえば、Tのほう(トリメトプリム)にENaC阻害作用があって、スピロノラクトンやトリアムテレンなどのK保持性利尿薬と同様に高カリウム血症を起こすことはよく知られている(こちらも参照)。

 しかし、同じように低ナトリウム血症も起こすことは、正直初めて知った。AJKDのティーチング・ケース(AJKD 2013 62 1188)に取り上げられたニューモシスチス肺炎に対する高用量ST(トリメトプリムとして15mg/kg/d)で発症した症例では、SIADHとして水分制限とトルバプタンで治療しても体液喪失になり、塩分負荷で改善していた。

 そして、彼らが参考文献に挙げていた2つの論文はいずれも日本内科学会の英字誌、Internal Medicineからだった(図は同誌ウェブサイトより)!




 一つ目(Intern Med 1995 34 96)はホジキン病の化学療法後に発症したニューモシスチス肺炎で12g/d(トリメトプリムとして960mg/d)のSTを用いて120未満mEq/lの低ナトリウム血症をきたし、380mmol/dのナトリウム(22g/dの食塩)を点滴し改善を認めている。STを予防量にして軽快した。

 二つ目(Intern Med 2003 42 665)はニューモシスチス予防や尿路感染症などのため比較的少ない用量でSTを処方された53人について電解質異常(135mEq/l未満の低Na血症、5mEq/l以上の高K血症)の頻度を調べたもので、トリメトプリムとして平均68mg/d、82mg/d、315mg/dの三群にわけるとそれぞれ9、22、46%に異常がみられた。

 どうして起きるのか直接には証明されていないが、AJKDの例も一つ目の日本の例もナトリウムの喪失が機序なことを十分に示唆しており、簡単に言えば「ENaCをおさえるからナトリウムが抜ける」ということらしい。これで、利尿薬について

 サイアザイド 低ナトリウム血症
       (SIADHないしPGトランスポーターの異常)
       (こちらも参照)
 フロセミド  高ナトリウム血症
       (浸透圧勾配をなくし低張尿がでて水が抜ける)
 バプタン   高ナトリウム血症
       (集合管の水再吸収ができず水が抜ける)
 ST合剤    低ナトリウム血症
       (ENaCをおさえてナトリウムが抜ける)

 という4通りのナトリウムへの影響がリストできるようになった。

 では、やはりENaCに効くトリアムテレンや(わが国にはないが)アミロライドなども同様に低ナトリウム血症になるのだろうか?トリテレン®の添付文書には副作用に食欲不振などしかないが、「減塩療法を受けている患者」は低ナトリウム血症を起こしうるので慎重投与となっている。
 
 筆者の受けたトレーニングでは、低ナトリウム血症は水の量とADHの効きぐあいで説明されてきた。なので、「ナトリウムが抜ける低ナトリウム血症」というトピックは苦手というか避けてきた感もある(クリアカットに説明できない感じがするのは、私だけだろうか・・)。

 しかし実際にはCSW(脳疾患による塩類喪失)、RSW(腎疾患による塩類喪失)、副腎不全、MRHE(高齢者に起こる鉱質コルチコイド反応性の低ナトリウム血症)などについてもよく学び経験を積まなければならないと、じっさいにST合剤による低ナトリウム血症を経験して痛感した。



2018/12/02

Na摂取が高血圧の要因になる!なんで??

 投稿の日は僕の大好きな電解質セミナーが開かれている日なので、今日は電解質に関しての投稿にしようかなと思います(ほぼ電解質ではないですが。。)。

 まず、高血圧は成人の中で4300万人が罹患しているとされている(本邦で)。

 高血圧単独で亡くなることは少ないが、高血圧は心血管疾患の最大危険因子であり、脳卒中・心血管死亡の半数以上が高血圧に関連すると言われている。




 高血圧の原因でよく言われるのが塩分摂取過剰である。

 特に、この塩分摂取に伴う高血圧は日本人では起こりやすいと言われている。

 この原因としては

 以前は

 塩分摂取過剰→腎臓からの尿中へのNa+排泄が追いつかず体液中Na+上昇→血液浸透圧の上昇→血管内に浸透圧勾配で水の流入→血液量が増加し高血圧

 最近は

 全身の血管の交感神経の活性化→血管収縮→高血圧を発症

 という説が有力になっている。

 この最近の説は降圧薬の機序を考えてもCa拮抗薬などは血管拡張作用があり、理にはかなっている。

 ただ、交感神経活性化はどこで感知しているのか??というのが今まで未解明であった。


体内のNa濃度上昇→??→交感神経活性化


 今回日本人のグループがこれを解明して論文に報告されていたので簡潔に記載しようと思う。ぜひ、論文を読んでくださいね。

 まず、キーワードは

・Nax:

 ナトリウムチャネルの一つで細胞外ナトリウム濃度の上昇に応じて開口し細胞内にナトリウムを流入させる機能を持つ。

・OVLT(終板脈管器官):

 脳内器官の一つで交感神経や血圧の制御に関与。

・PVN(視床下部傍核):

 脳内器官の一つで同様に交感神経や血圧の制御に関与。

・ASIC1(酸感受性イオンチャンネル1):

 細胞外のpH低下に反応して開口する陽イオンチャンネル

 わかりやすい図として、今回の論文のキーになるものを下図に示す。





 もともとこのグループは細胞外液Na+濃度上昇に応じて開口するNaxを見出していた

 その後、Nax欠損マウスでは脳脊髄液のNa+濃度を上昇させても交感神経活性化や血圧上昇は起こらなかった。

 →Naxが脳内センサーとして関連しているとわかった。

 では、どの領域で起こっているのかと言うことを次に調べた。

→結論として、OVLTのグリア細胞に発現するNaxが活性化しH+が放出され、ASIC1を開始OVLTニューロンを活性化し交感神経上昇し血圧上昇に関連していることがわかった。また、OVLT→PVN→RVLM(頭側延髄外側野)→脊髄でも同様に交感神経活性化することがわかった(上図参照)。

 今後ここから発展することとしては、降圧薬開発なのではないか?

 交感神経のブロック薬や新規の薬が高血圧治療に出てくる可能性がある。

 是非、Twitterもフォローしてください!

 https://twitter.com/Kiseki_jinzo







2018/06/15

ひとつの答えと、たくさんの質問

 アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。

 前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。




 このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。

 それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。

 実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。

 通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。

 しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。




 今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。

 結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。

 


 プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。

 もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。

 なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。

 質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。



2018/03/23

低ナトリウム血症を考える③

前回CSWSの話をしたが、尿中Naが高い場合にCSWSとSIADHを比較して多いのはSIADHである。

あるケースシリーズで、187人の神経外科領域の低ナトリウム血症の原因を検証した場合であるが、7人がCSWSで123人がSIADHであったという報告がある。
なので、脳外科手術後低ナトリウム血症≠CSWSは非常に重要である。

では、SIADHとはどんな病態であろう?
まず、ADHに関しては身体にとっては浸透圧変化に対しての重要な調整因子であり、また循環血液量の変化に対しても重要な調整因子である。調整因子というのは、変化に対して調整しようと働くホルモンであるということである。
下図は低ナトリウム血症のキーな図である。


まず、低ナトリウム血症は基本的には水の異常(自由水過多=低ナトリウム血症、自由水不足=高ナトリウム血症)である。水の異常は浸透圧の異常と相関する。なので、低ナトリウム血症を見た際には、まずは浸透圧の異常は大丈夫かな?と尿中浸透圧を見る。
ここで、ADHは浸透圧(Osmo)と循環血液量(volume)の両方の調整因子であるので、もし浸透圧系の異常があった場合に、volume系はどうなのだろう?と考えて、尿中Naの変化をみる。このアルゴリズムが今のガイドラインの診断アルゴリズムである。

話は脱線してしまったが、SIADHはADHが浸透圧変化やvolume変化に関係なく不適切に分泌する疾患である。
不適切に分泌する理由としては、疼痛や嘔気に伴うもの、小細胞肺癌に伴うものなど様々な理由がある。


また、ADHの血中濃度測定に関しては、参考程度にはなるが必ずしも必要はないということは認識する必要がある。

SIAHDでは、
・有効浸透圧の低下(275mOsm/kg・H2O)
・血清浸透圧が低い割には尿の浸透圧が高張(Uosm>100mOsm/kg・H2O)
・臨床的に循環血液量で脱水所見(起立性低血圧・頻脈・皮膚の乾燥・口腔内乾燥)や過剰所見(腹水・浮腫)は乏しく、正常である。
・正常の塩分摂取・水分摂取の状況でも尿中Naの上昇がある(UNa>20-30mmol/L)
・甲状腺機能低下症や副腎不全などの似たような病態を取るものが否定されている。
・腎機能は正常、利尿剤の使用(特にサイアザイド)はない。

ことが診断には重要である。
治療は
・基本的に重篤な症状(痙攣や意識障害など)のある場合には、高張食塩水を使用
その際には、体重あたりの量を1時間で投与をすると約1mmol/LのNaの上昇が見込める。
・飲水制限は一番推奨度は高い:尿量よりも500mL程度少ないくらいの飲水制限が一つ推奨されている。
・トルバプタンも一つの治療のオプションである。バプタンに関しては自由水の排泄からの急速なNaの補正がかかり、これが患者のアウトカムをどこまで改善させたかは現時点では定かではなく、これが米国と欧州のSIADHに対するバプタン使用の差にもなっている。
・尿素の投与も一つの選択で、急速な上昇はないが飲むのが不快で非常に苦みがある。
・デメクロサイクリンも一つのオプションであり、腎性尿崩症を生じうる。


今回の教訓としては、CSWSが状況的に(脳外科手術後など)で疑われたとしても、SIADHは非常に多いので注意をするという事である!!


下の図は飲水制限をしている人の絵である。









2018/03/20

低ナトリウム血症を考える②

今回は悩ましいCSWS(cerebral salt wasting syndrome)とSIADHについて簡単に記載をしようと思う。

この2つを分ける理由はやはり治療をしたとしても、それがもう一方の疾患だった場合に低ナトリウム血症を悪化させるためである。

★飲水制限:SIADHの治療であるが、CSWSの患者では低ナトリウム血症進行
★生理食塩水投与:CSWSの治療であるが、SIADHの患者では低ナトリウム血症進行

■CSWSに関して
やはり軸は脳と腎臓になる。
つまり、くも膜下出血や外傷や外科手術などの脳のダメージによって引き起こされる場合が多い。
神経ホルモンの変化が最終的に尿細管に変化を引き起こし低ナトリウムを引き起こす。

ちなみに、CSWSはSIADHよりも7年前に報告されているらしいが、広く認知されるようになったのは1980年の論文からのようだ。

CSWSは通常のNa異常とは異なると考える必要がある。
低ナトリウム血症は基本的には水の異常である。(Naの異常は浮腫や循環血液量減少など)
しかし、CSWSでは明らかに尿からの塩類喪失でありNaの異常になる。なので、治療はNaを補充する生理食塩水である。
尿からのNa喪失であるが多い症例では600mmol/day(35g/dayの塩)というから驚きである。

注目をされた1980年の論文では、12人のケースシリーズで神経手術前後のvolumeの状態をみて、ナトリウムの数値を見て、10人に中等度低ナトリウム血症が発生し、しかも循環血液量は減少していたというものである。

なので、①尿からNa排泄増加、②循環血液量減少の2つがあれば、CSWSの報告などに用いていたが、循環血液量の評価は非常に難しく、SIADHも尿中Na多くなるので、判断に迷う場合が今でも多い。
たとえば、循環血液量評価の点で中心静脈圧(CVP)などは心機能は正常で、頭部外傷のある若い人では正常であってもCVPは低く出やすいので、CVPの測定は循環血漿量の評価には向いていない。

循環血液量減少時は通常は尿酸や尿素の尿細管での再吸収が増加する。
しかし、CSWSではおそらくはNa再吸収を阻害する因子が、同じように尿酸や尿素の再吸収を阻害するため尿中に漏れる。たとえ、低ナトリウム血症を補正してもFEureaは増加したままであるのは非常に面白い。
下の図は2009年のCJASNの論文のグラフであるが非常にわかりやすい。
これは、尿中の浸透圧の変化をみていて生理食塩水の投与での両方の変化を見ている。




この経過からもわかるように、CSWSもSIADHも尿中Naは出ていて、かつ循環血液量の評価は非常に難しく、最初に患者さんをみた段階での即座の判断は非常に難しいということは把握しておくべきである。
その中で、暫定診断で治療をした時に患者さんがどちらの方向にいくのか?をみて判断する事が重要である。

そこで、CSWSと診断した時にん?この人頭の病変ないな?と言った時にRSWS(renal salt wasting syndrome)はどうかなというのが一つ考えると思う。
これに関してとSIADHに関しては、次回お話しをしようかなと思う。



2018/03/19

低ナトリウム血症をもう一度まとめる ①

低ナトリウム血症に関しては、以前にも様々書いている(Reset Osmostat, 尿素投与, Free water clearanceなど)
しかし、振り返ってみると、majorな項目はそこまで記載していなかった。

今回、Neph maddness 2018(腎臓の分野で何が重要だったかをみるもの)で低ナトリウム血症が取り上げられていたので、少し触れたいなと思う。

まず、低ナトリウム血症のガイドラインとしては、欧州のガイドライン米国のガイドラインがある。
主に用いられるのは、欧州のガイドラインかもしれないがしっかりと両者を理解しておくことは重要である。
Nephmadnessの図に非常にわかりやすい図があったので添付する。
Nephmadness 2018より

基本は患者の重症度の把握を行う。
→緊急性の対応が必要であれば高張食塩水投与を行う(ヨーロッパガイドラインでは5mEq/Lあげる、米国ガイドラインでは4-6mEq/Lあげる)。

高張食塩水の作り方は生理食塩水500mlから100ml抜き、そこに10%生理食塩水を120ml追加することで作成できる。

治療においては、やはりover correction(過補正)を防ぐことが一番である。
そのため厳密な尿量管理やNa管理が必要となる。とくに、その中でODS(浸透圧性脱髄症候群)を発生するリスクが高い患者(重症低ナトリウム血症、低カリウム血症、肝硬変、低栄養、アルコール依存)は補正のスピードを通常よりもゆっくりとしたほうがいい。

もし、過補正になった場合には再誘導する必要がある。
Neph madness2018より
図は非常にわかりやすく、通常であれば24時間以内に8mEq/L以下にする。しかし、上記のようなリスクが高ければ6mEq/L以下にする必要がある。

次回はCSWSとかに関してふれたい。
頑張れ低ナトリウム血症!!

2017/07/09

あたらしいMRIの使い方

 デンマーク人の女流作家Isak Dinesen(本名はKaren Blixen)の引用句に"The cure for anything is salt water: sweat, tears or the sea.(どんなものも塩水がなおしてくれる:汗、涙、あるいは海)" というのがある。塩水を扱う者(写真は塩水のなかで働くトレーナー)としては、味わい深い文章だ。




 いままでも汗と涙に注目してきた(それぞれ、こちらこちら)が、今回もその筋のお話。今月のJASNに皮膚のナトリウム量が左室の筋肉量と相関する論文がでた(JASN 2017 28 1867、図)。しかも、血圧よりも相関したという。対象はドイツのCKD患者さんたち(eGFRは平均51ml/min/1.73m2、尿アルブミン・クレアチニン比は平均432mg/g)。



 左室の筋肉量が体表面積で補正されていないなどの問題もあるが、皮膚にナトリウムがたまっていると心臓に負担がかかるという結論は直観的だ。著者は、尿ナトリウム排泄量は日によって変動する(ここでも「火星だより」などでふれた)から、皮膚ナトリウムのほうが正確かもしれないといっている。

 皮膚ナトリウムに変動がないという保証もないわけだが、もしそんなによいメトリクスなのだとしたら測ってみたくなる。これはナトリウム23のボリューム・コイルをつかい、3テスラのMRIで、2D-FLASHシーケンスというソフトで13分くらいかけて測る。何のことかわからないが、筆者は「この測定方法は世界でも数施設しかできない」と言っている。

 でも、我が国は高性能MRIの数において世界トップレベルなのだから、その気になれば測れるのではないか。アナログな体重や血圧、浮腫よりも「あなたの皮膚ナトリウムは40mmol/lで多いです」というほうがファンシーだ。いっそ、CKD外来でMRIをやって、皮膚ナトリウム量と左室筋量と冠動脈を全部評価する「トリプル(写真)」な時代が来るかもしれない。そのコストが生命予後や心血管系イベント予防に見合う計算ができれば。




2017/06/14

滝を追いかける 3

 移植がうまくいくとみんながハッピーで、人類愛に満たされ心があたたまる。しかし移植後は危険も潜んでいるから注意が必要だ。移植後多尿に関するそんな論文が、ふたつあったので紹介する。

 一つ目(doi:10.1111/j.1432-2277.2005.00221.x)は155cm45kgの30代女性が195cm111kgの夫から腎グラフトを受けたケース。体格ミスマッチの移植には独特の問題がある(こちらも参照)が、ともかくフロセミドとマニトールも使ったので、この例は術後に1-2L/hの尿が出た。

 それをハーフ生食で補充していたが、移植9時間後にけいれんを起こし、調べるとNaが140mEq/lから113mEq/lに低下。Na欠乏量を体重×0.5×(140-113)で計算し602mEqと見積もったが、一気に戻すわけにもいかないので12時間で120mEq/lに戻そうと、体重×0.5×(120-113)の155mEqに近い量を3%食塩水で投与した(25mlを12時間で153mEq)。

 けいれんは止まり、12時間後には122mEq/lになった。その間にも尿は出ていたはずだが、尿については補充をつづけ、Na補正は3%食塩水でおこなったのかもしれない。そのあと0.9%食塩水に切り替え、予後良好で退院した。

 ふたつ目(CKJ 2016 9 180)は44歳男性で献腎移植を受けたケース。移植後の多尿がおさまらない。この方は多尿の家族歴があって幼い頃「腎性尿崩症」と言われたそうだが、腎臓を移植しても腎性尿崩症がつづくだろうか?

 しらべてみると、中枢性尿崩症だった。遺伝子検査をおこなうと、AVP遺伝子そのものではなくて、その9kb先にあるc.225>G point mutationが異常だった(flanking microsatellite markersを用いてわかったそうだ)。これが異常だと、AVP遺伝子のNeurophysin II部分(図はBrenner教科書)、75番目のアミノ残基がシステインからトリプトファンにかわるので、たんぱくの折りたたみが異常になるのかもしれない。




 たまっていた浸透圧物質と水が腎臓の尿濃縮能低下で排泄され多尿になる事態が、AKI後、移植後とべつに少なくとももうひとつある。もうお分かりかもしれないが、閉塞後多尿(post-obstructive diuresis、POD)だ。つづく(写真はヴィクトリアの滝)。



 

2017/06/06

低ナトリウム血症におけるreset osmostat(reset osmostat in hyponatremia)

 今回、低ナトリウム血症の中のreset osmostatについて触れたいと思う。

 僕はこの概念を知ったのは後期研修医になってからと比較的遅かった。最初はよくわからないなと感じて、今回この論文(AJKD 2017)をよんで色々と分かった部分もあり、つねに勉強することが重要だなと感じた。

 まず、入院患者の低ナトリウム血症で最多の原因としてはSIADHといわれている(Eur J Endocrinol 2010)。
 
 SIADHにおいてはADH調整パターンは下記のように4つあると言われている。

 ①:古典的SIADH:浸透圧とは関係なしにADHが出てしまう(悪性腫瘍などに多い)。
 ②:視床下部のバソプレシン抑制ニューロンの障害で持続的にバソプレシン(ADH)がでてしまう。
 ③:臨床的にはSIADHを疑うが、ADH増加はみとめていない。:まれだがバソプレシン受容体変異により不適切に抗利尿が働くパターン(大人にも子供にも表出)
 ④浸透圧調整系に対するバソプレシン反応も問題なく、集合管での濃縮希釈機能も問題ないが、ADH分泌の閾値が低い

 この中の④がいわゆるreset osmostatにあたる。

 これは、重度の神経学的な異常、肺疾患、感染症、アルコール依存、悪性腫瘍、外傷などでもみられる。

 古典的なSIADHとreset osmostatを分けることは治療にとっても非常に重要な部分である。SIADHであれば飲水制限が重要ではあるが、reset osmostatではそうではない。

 ・定義について

 基本的な事項として人間の体では、血清浸透圧は280-290mOsm/kgになるように調整されており、これが浸透圧系とよばれている。この調整に関わる因子がADHである。
血清浸透圧が<275mOsm/kgではADH分泌は抑制されるし、血清浸透圧が上昇すればADHが分泌し浸透圧を整える。

 しかし、reset osmostatでは、ADHの出る閾値が低く慢性的な低ナトリウム血症になっている。




 この図ははreset osmostatの患者で血清Naが低いのに尿浸透圧上昇しているのがわかる。



 この図はreset osmostatの患者の血清Naと尿浸透圧の推移であり、血清Na130前後で尿浸透圧の増加がある。

 ・検査について

 Reset osmostatの検査にはどんなものがあるかだが、水分負荷試験である。

 経口でも点滴でもかまわないが、10-15ml/kgの水分負荷をおこない、reset osmostatであれば4時間以内に水分負荷量の80%以上が尿から排出されるが、SIADHではこれがおこらない。

 これは、reset osmostatでは前述したように集合管の部分の機能は維持されているためである。

 ・機序について

 なぜ、これが起こるかに関しては様々なものが言われている。

 ①腫瘍浸潤や自律神経の疾患で抑制系に支障がきて低い浸透圧でADHがでてしまう。
 ②sick cellsといわれる細胞膜の障害で細胞内外の電解質のバランスが崩れてADHの早期分泌が生じる。

 妊娠はreset osmostatがしばしば生じるため注意をする。平均5mEq/L低下し、妊娠後8-10週で達する。

 ・治療について

 治療は前述した何らかの原因があるのであれば、そちらの治療を行う(結核が根底にあるならそちらの治療を)。

 補正をすることで、逆に狡猾が刺激される場合があるため無理に正常に戻す必要はない。

 今回の論文ではもともと中枢性尿崩症で慢性的にDDAVPを使用しており、その慢性的な使用がreset osmostatを生じたのではないかというものであった。

 DDAVPに関しては短期的な副作用で多いのは軽度の低ナトリウム血症や頭痛である。
長期的使用に伴う副作用の報告は少ない。

 慢性的にDDAVPを使う中枢性尿崩症などの症例に出会うことは腎臓内科医としては少ないかもしれない(内分泌科で管理が多いかと。)

 ただ、今回この論文からはreset osmostatについても勉強になる部分も多い。



2017/05/26

Na-Clを使って得た教訓

 個人的には、Na-ClではAGとHCO3-の和しかわからないので不十分と思っている。しかし生化学のTCO2が測れない以上、Na-Clをスクリーニングにして、正常範囲(36-38mEq/l)からの隔たりで血液ガスをとるしかない。

 Na-Clをスチュワート法のSIDaiとして考える人たちの間には、Na-ClがひくければSIDアシドーシス、高ければSIDアルカローシス、と考える向きもある(こちらも参照)。スチュワート法は優れて流行のよい方法だ、SIDaiで世界は回る、Na-Cl万歳…という考えを取り入れてみて、最近落とし穴にはまった。二度。

 1つ目、高ナトリウム血症のコンサルト。

 Na 155mEq/l
 Cl 125mEq/l

 おや、Na-Clが30しかない。アシドーシスか?しかし水分が摂れず脱水状態にある患者さんで、どちらかといえばアルカローシスを疑うけれど…。病棟におねがいして血液ガスを提出。
 
 HCO3 25mEq/l
 pCO2 33mmHg
 pH 7.50

 AGが5mEq/lと低下していた。IVIG後で、陽性荷電したグロブリンがたまっていた影響と思われる。

 2つ目、高カリウム血症のコンサルト。

 Na 134mEq/l
 Cl 88mEq/l

 おやおや、Na-Clが46もある。アルカローシスか?しかし、Cr 9mg/dl、K 7.7mEq/lのAKIでアルカローシス?ガスをすぐさま取ろうかとも思ったが、緊急透析を行うことにし透析カテーテルから採血。

 HCO3 16mEq/l
 pCO2 33mmHg
 pH 7.30

 AGが30mEq/lと開大していた。AKIのほかに、メトホルミン関連乳酸アシドーシスが疑われた(乳酸がでない血ガス分析器なので、外注で結果待ち)。デルタ・デルタ(以前ふれた)を考えれば代謝性アルカローシスも併存しているが。

 ことわっておくがスチュワート法が悪いわけでは、もちろんない。本来のスチュワート法はSIDaのほかにSIDe、SIGもあわせて考えるので、解釈は可能だ。それに、Na-Clが正常範囲からずれているからガスを取ろうと思ったんだから、Na-Clを見る意義はあったといえる。

 教訓:Na-Clを用いるなら、Na-Clが下がっていてもAGが低ければアルカローシス、Na-Clが上がっていてもAGがたかければアシドーシス、と知っておけばいいい。

 困るのはNa-Clが正常でもAGとHCO3-が異常(片方が下がった分もう片方が上がっているなど)のケースだが…。これは、TCO2がないと見逃すかもしれない。



 

2017/03/26

低ナトリウム血症を再度考える パート2 (Rethinking about hyponatremia from case record of MGH NEJM)

パート1での回答は各々の中で出ただろうか?




今回の論文では数々学ぶポイントがある。


A)低ナトリウムと尿浸透圧高値の所見からは何を考えるか?
-CSWS(cerebral salt wasting syndrome)、薬剤、ホルモンの変化に伴うもの、中毒、SIADHなど。


今回の症例では甲状腺機能は問題なく、薬剤使用もなく、CSWSを疑わせる所見もなく、もし他の鑑別があがらないとSIADHになる。


・ここで、ポイントは若年女性では妊娠は考えなくてはならず、また妊娠は程度として強くないが低ナトリウム血症を引き起こしうることである(相対的水分過剰)。
・SIADHは常に除外診断である事である。


B)利尿剤の乱用と低ナトリウム血症
今回の鑑別で若い女性で考えないといけないのは、利尿薬の乱用である。
利尿剤の中でサイアザイドの使用はループ利尿薬より低ナトリウム血症を来たす。


まず、サイアザイドが低ナトリウム血症を来たす機序を説明する前に、一つ知っておく必要性があるのが、countercurrent multiplication(対向還流)というヘンレループ特有の機序である。
これは、ヘンレの下降脚は電解質の移動を起こさずに、水の再吸収を行う。
逆にヘンレの上向脚はNa/Cl/Kなどの電解質の再吸収のみ行い水の再吸収はおこさない。これにより髄質で高い浸透圧を作ることが出来る。
また、ヘンレループは腎臓の髄質にあるということも重要な情報である。

ループ利尿薬ではヘンレの上行脚でNa再吸収が阻害され、腎髄質の浸透圧が下がる。
それにより、最終的に水の再吸収が行われる集合管でも浸透圧が下がり、浸透圧勾配にしたがって移動する水は再吸収されにくくなる結果、尿量は増加。
サイアザイドは腎髄質の浸透圧に影響を来さないので、尿量の増加は多くはなく、またADHに対する水貯留の反応が良好なため低ナトリウム血症を生じる。


サイアザイドによる低ナトリウム血症は治療開始後1-2週間で生じる。


多いのは痩せた高齢女性であり、volume statusは正常な場合が多い。


この症例では、女性は若年であり発生頻度の多い年齢には合わないが鑑別としては残る。



C)副腎不全と低ナトリウム血症


全ての副腎不全で低ナトリウム血症は生じやすいが、原発性の場合に最も多く生じる傾向にある。


副腎不全の中でも原発性の頻度は稀である。これは、腫瘍・炎症・出血などで副腎が>90%破壊されると生じる。Glucocorticoidと mineral-corticoid(アルドステロン)の両方が低下するというのがポイントである。


二次性では下垂体機能低下, ACTH分泌低下による機序である。


原発性で低ナトリウム血症になる機序は2つあげられる。
①コルチゾールの欠乏
-これがADH分泌を抑制させる機構を破綻させる(CRH産生亢進でADH分泌促進)。


②アルドステロン欠乏
-尿細管のNaバランスを調整する部分を変化させ、低ナトリウム血症をおこす。


volume statusは正常か低下の場合がおおい。


この症例では、可能性は否定はできない。


D)MDMAの使用と低ナトリウム血症
エクスタシーとよばれるもので合成麻薬である。使用による合併症として高血圧・頻脈・横紋筋融解症・セロトニン症候群・低ナトリウム血症・昏睡・死亡などがある。


低ナトリウム血症の機序としてはADH様物質の増加と口渇に伴う飲水過多が原因となる。
volume statusは正常か低下の場合が多い。


この症例では薬剤のチェックで引っかからず病歴的にも合致しなかった(薬剤服用して1-3日で陽性になる)。


結果的には・・・
この症例では利尿剤濫用・副腎不全が除外できていない。


この症例を鑑別していくときのキーポイントは
・低血圧、軽度高カリウム血症、代謝性アシドーシスの点である。
低血圧に関しては、輸液のみで改善している。この点では、副腎不全には少しそぐわない。


軽度高カリウム血症や代謝性アシドーシスは、利尿剤の乱用を行っていた場合には高アルドステロン状態になり、低カリウム血症・代謝性アルカローシスになる場合が多く合わない。


この症例では最終的には、検査も行い原発性副腎不全という結果になった。

最初コルチゾールの基礎値を測定した際には高値であった。しかし、これはストレス環境下であり、その場合には高値になる事が多い。






今回の症例とは関係ないが我々として覚えておかなくてはならないのが、3次性の副腎不全(長期ステロイドによる副腎不全)である。


これは、長期ステロイド内服による視床下部-下垂体-副腎(HPA axis)の萎縮である。20-30mg/日のステロイドを5日以上使用した患者は常にリスクがあるが、 短期投与の場合は抑制も数日で改善する。機能低下は先ず中枢性に起こり、その後副腎萎縮となる。抑制されたHPA axisが戻るのには9ヶ月以上かかることを知っておく必要がある。そのために、ステロイドを避ける治療があれば選択することは重要である。


この症例からは様々学ぶものがあると感じた。低ナトリウム血症を見た時のアセスメントは非常に重要である。




2017/03/14

新しい高リン血症の治療

 以前にふれた、NHE3阻害薬tenapanorが透析患者さんの高リン血症をさげるかを調べた治験の結果が発表された(doi: 10.1681/ASN.2016080855)。4週間の内服で用量依存性にリン濃度低下がみられ、10mg1日2回と30mg1日2回でプラセボに対して有意差があった(1.7-1.8mg/dlの効果)。ただし下痢の副作用が多く、30mg1日2回の群では半分が途中で薬をやめていた。TenapanorはLubiprostone(アミティーザ®)のように便秘薬として開発された薬だから無理もなく、著者は「便が硬く通過時間のながい透析患者さんにとっては有益かもしれない」と考えている。

 腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。

  このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。




 [2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。

 結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。

 安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。

 それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。

2016/12/14

低ナトリウム血症に尿素投与を考える。

低ナトリウム血症の治療は悩む部分が多いし、難しいことが多い。

ご存知のようにガイドラインが2014年に欧州と米国から出ており、欧州のガイドラインがよく引用されており、その中でSIADHの治療に尿素の負荷が推奨されている(推奨は2D)。

In moderate or profound hyponatraemia, we suggest the following can be considered equal second line treatments: increasing solute intake with 0.25–0.50 g/kg/day of urea or a combination of low dose loop diuretics and oral sodium chloride.

では、尿素の負荷はどのように作用するのか?を少し考えてみたいなと思う。

調べてみると意外に尿素の歴史はふるい。。
1950年代に提唱され(この時は受け入れられなかったよう)、1960年代には頭蓋内圧や眼球内圧をあげる治療として標準治療となった。尿素は点滴で投与されていたとのことで、今では想像がつかない。(Urovertという点滴:糖を含有し溶血を防いでいた。)
その後、マンニトールなどが簡便であるということで使用され、Urovertは過去のものとなってしまったらしい。
尿素の点滴は問題が色々とあり、尿素は腸管吸収も良かったことから経口薬として1892年に利尿薬として初めて使用されたまた、1926年の報告では心不全で使用された報告がある。
このように尿素負荷は注目を浴びている。

尿素は有効浸透圧か?
→尿素は非有効浸透圧である。アルコールやエタノールと同じである。
有効浸透圧としてはブドウ糖やマンニトールや高張性造影剤などがある。

血液に尿素が入ると:
尿素に関しては血液中に入っても筋肉細胞や脳細胞などに分布し、血清浸透圧はわずかに上昇はさせ(20mOsm程度)、BBBを介して脳細胞から水が移行する。
しかし、浸透圧格差はすぐに是正される。
理由としては
1:脳細胞内にゆっくりであるが尿素が移行する。
2:尿から尿素排出で尿素が下がる。

尿からの尿素は:
尿素投与ですぐに尿素の排泄が亢進される。腎機能が問題ない方であれば12時間で全てが排泄される。最大尿希釈力から最大排泄尿量がわかるが、溶質負荷に伴い最大排泄尿量が増加する。その際に自由水の排泄が亢進する。

尿素負荷に伴うNa上昇に関しては自由水排泄に伴うものである。

実際3%生理食塩水と比較するとどうかも乗っていたが、3%に関しては希釈尿が上昇した際にovershootする可能性があるが、尿素では少ないとされている。

しかし、尿素の内服はどのようにすればいいのか?美味しくないそうである。
アミノレバンも一つの方法である。これも美味しくないそうである。
美味しくないため患者さんのQOLが極端に落ちたそうである。

とても勉強になる。患者さんにとって一番いい治療が選択できればいいと感じる。



2016/10/27

Free water clearance(FWC 自由水クリアランス ), Electrolyte free water clearance(EFWC)

以前にもこのブログに書いてあるが、今回自分の勉強も兼ねて再度書かせていただく。

腎臓でどのくらいfree waterを排出していることを知ることは、低ナトリウム血症の治療予測や高ナトリウム血症の治療計画に有用である。

尿中の全溶質が排出されるのに必要な分時あたりの血漿量を浸透圧クリアランス(Cosm)という。
Cosm(ml/min)=(Uosm×UV)÷Posm となる。
                    ※ Uosm:尿中浸透圧、UV:尿量、Posm:血漿浸透圧である。

FWCを考えるときにわかりやすいのは、尿を溶質の部分と自由水(free water)の部分に分けるとわかりやすい。
つまり尿量と浸透圧クリアランスの差が溶質を含まないFWCになる。
FWC =UV−Cosm
          =UV−(Uosm×UV)÷Posm
          =UV(1−Uosm/Posm)
となる。

通常は原尿は尿細管で再吸収されて濃縮尿になるため −0.5ml/min以下が正常とされる。
そのため、例えば自由水クリアランスがプラスになれば尿の溶質を等張尿で排泄した時より多くの尿が出ていることになる。

しかし、尿素などは細胞膜を介して自由に移動するし、浸透圧物質は均等には動いてはくれない。そのため、張度の概念を用いてNaとKを主に用いてFWCを表したものがEFWCとなる。そうすれば均一な動きをすると考えられる。
EFWC = UV(1−尿張度/血漿張度)になる。
            = UV[1−(UNa+UK)/PNa]
となる。

これにより色々なことがわかってくる。
腎臓は細かな計算が多いが、少しでも理論的に物事を考えられるようになりたい。


2016/05/28

Impressive

 以前に競走馬のことを書いたが、その馬の左腎はハート型をしている。なぜかは知らない。馬は優しい動物だからということにしておくか。重量に統計的な左右差はない(Anat Histol Embryol 2013 42 448;数値上は左が少し大きいが)。

 それはさておき、アメリカにImpressiveという名前の馬がいた。馬に詳しい人には説明はいらないだろうが、ImpressiveはAmerican quarter horseという短距離(quarterはquarter mileに由来する)、乗馬、ロデオなどに使われる品種で1969年に産まれ、競争馬としては怪我のために脱落したが肉付きが良いためHalter(breederたちが種牡馬としての優秀さを見定めるショー)で人気を博し、種牡馬として2500以上の仔を産ませた。

 ところが80年代にはいりImpressiveの産駒に原因不明の麻痺を繰り返すものが多発した。痙攣でもなく、ウマ運動性横紋筋融解症でもなく、意識もあるのに突然ガクンと脚が立たなくなり、ひどいと呼吸筋麻痺で死に至る。痛みもなく、馬もどうして立てないのかわからず混乱する。乗馬している人も落馬する可能性があるので危ない。

 いまではSCN4A遺伝子(神経筋接合部にあって再分極をおこすvoltage-gated Na channel Nav1.4をコード)のコドン変異によるとわかっている。この変異により筋は常に収縮していることになるが、再分極しにくく不応になると麻痺が起こる。とくに高K血症(トレーニング後、アルファルファなど高Kの餌を食べた時)があるとKの筋からの流出が妨げられより再分極しにくくなる。このためこの病気はhyperkalemic periodic paralysisと呼ばれる。治療には炭水化物食、利尿剤など(Kを下げる)が行われる。

 常染色体優性遺伝でquarter horseの50頭に1頭の割合で生まれるが、その遺伝子変異がすべてImpressiveに行き着くと言われている。いまはホモ接合体を種牡馬にすることは禁じられていて、ヘテロ接合体についても各団体が登録抹消するかを検討しているが、業界としてはこの遺伝子を残したくないもののあまりにも数が多いので対応はまちまちなようだ。ただImpressiveの遺伝子すべてが抹消されるわけではない、あくまでもSCN4A遺伝子変異がH/H、H/Nなものだけだ。



2015/11/30

Weekend Without Water

 入院患者さんが十分な栄養を与えられず飢えて、ひょっとすると命を落としているという注意喚起は何十年も前からされている。しかしいまだに軽々しくそして不必要に長くNPOオーダーがだされている(doi:10.1136/bmjqs-2015-004395)。それもさることながら、入院患者さんがケアがゆきとどきにくい週末に十分な水分を与えられず月曜日にそろって高Na血症になる(なかには意識障害を伴うものも)というのもまずい。ひとつには「自由水をいれると体液過剰になる」という半ば恐水症のような意識が(とくに医師に)ある。あと経管栄養は100%が水分ではないということを知らない、という基本的なものもある。私は「高Na血症は拷問だ」と習った。口渇はとても苦しいし、高Na血症は(中枢性尿崩症でもない限り)医原性だからだ。というかthirst tortureという拷問が本当にある。私は患者さんが苦しんだり不利益を被るのをヘラヘラ見過ごすことはできないから、教育しなければならない。