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2020/12/01

低ナトリウム血症の基礎的な症例を通して~全部Pseudohyponatremiaではない~

 今回は通常よくみる低ナトリウム血症のケースを一つ取り上げて、考え方の共有などができればなと思う。

症例:

特に大きな既往のない45歳男性が、全身性の強直間代性痙攣で救急搬送。到着時は痙攣は頓挫していた。病歴は言えずに、また友人、家族や目撃者はいなかった。身体所見上、意識は混濁あるが、神経学的に大きな異常所見はなかった。

血液検査所見

白血球:11000、Hb:12.6、血小板:32万、BUN:50、Cr:2.7、血清Na:102、K:3.6、Cl:56、血糖:2150 mg/dL、乳酸:9.2

静脈血液ガス:pH 7.26、pCO2:59、HCO3:27

尿ケトン:陰性

比較する前値の検査所見はなし。

まず、この症例を見て異常な高血糖に驚くが、解釈を一つずつしていこう。

今回の血液ガス所見は、呼吸性アシドーシスとアニオンギャップ上昇代謝性アシドーシスの合併が認められる。呼吸性アシドーシスは意識障害に伴うものが考慮された。

低ナトリウム血症で腎臓内科がコンサルトを受けた。


では、低ナトリウム血症を考えるにあたって、基礎的な用語を再度復習する。

・Osmoles:液体中の分子またはイオンの粒子

・Osmolality:kgあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)

・Osmolarity:literあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)

・Osmosis:単純な水の動き(tonicityの低い方から高い方への水の移動)

・Tonicity:kgあたりの有効物質の数でOsmosisを決定している。


OsmolalityとOsmolarityは基本的には、Osmolalityのほうが正確は高いと言われる。理由は体重は変動が少なく、literだと水が揮発した場合など変動があるためである。PracticalなのはOsmolarityといわれている(ここの概念はこのYoutubeがおすすめ!)。

有効物質と非有効物質に関しては、細胞間同士の半透膜を通過する物質か、しない物質かによって分かれる。通過しない物質は有効浸透圧(Tonicity)格差を形成する有効物質になる。

有効物質としては、ナトリウムがあり、非有効物質としては尿素、エタノール、グリシン、他のアルコールなど。

今回問題になっているに関しては、適切なインスリンがあれば糖は速やかに細胞内に吸収されるため、非有効物質となるが、インスリン欠乏の状態だと血糖が有効物質になってしまう。


今回の症例の採血での浸透圧は350mOsm/kgであった。

低ナトリウム血症の際には、ナトリウムが有効浸透圧形成物質であり、通常は低張性(、もしくは等張性)になることが多い。低ナトリウム血症の際に、まず血清浸透圧をチェックする必要がある理由は、他に何か有効物質がないかを鑑別に考える必要があるためだ。

通常、低張性低ナトリウム血症が多いが、低張性でない場合には、次のステップで考える。

高血糖の存在がないかを確認。(この場合は等張性もしくは高張性)

②通常非有効物質である、尿素、エタノール、グリシンやそのほかのエチレングリコールなどの中毒性のアルコールなどはないか?(この場合は等張性もしくは高張性)

③上の原因がない場合に偽性低ナトリウム血症を考慮して、脂質(TG,TC)やタンパクなどをチェックする(下図参照)。


血漿中に固体の成分(脂質や蛋白)が多いために、フレーム発光分光分析法による測定ではナトリウム濃度が低下しているように測定されてしまう。

この症例では、高血糖が著明にありそのほかの原因は採血検査では否定された。


では、この症例の場合に測定浸透圧は350mOsm/kgで、血糖が実際はどれくらいなのかを考えたときに、

計算浸透圧=(2×Na)+ (GLU (mg/dl) / 18) + (BUN (mg/dL) / 2.8)

となる。浸透圧ギャップが10として測定浸透圧ー計算浸透圧=10と考えると

350 - 10 = 2×102 + 50 /2.8 + GLU/18

→GLU = 2124 mg/dLとなる。ほぼ血清と合致する。ちなみにギネス記録は2656mg/dLらしい。


では、この低ナトリウムが血糖によってどれほど変化しているのか?

通常は血糖が高値の際に下表のように計算を行う。




そうすると、この症例では血清Naは、 {(2124-100)×1.6}/100 + 102 mEq/L =134mEq/Lとなる。


なので、この症例がコンサルトされた場合に、高血糖による低ナトリウム血症  (偽性低ナトリウム血症ではないので注意!!)であるとわかる。


高血糖の場合の低ナトリウム血症は、有効浸透圧格差により細胞内から細胞外へ水移動が生じる。それに伴い希釈され低ナトリウム血症になっている。


低ナトリウム血症を見たときに、SIADHやBeer potomaniaなどのかっこいい名前の鑑別をまず挙げるのではなく、しっかりと基礎的なことから考えていくのはとても大切なのかなと感じる。

ちなみに症例はHHSの症例であった。



2020/05/29

電解質異常は好きですか? 代謝性アルカローシス+低カリウム血症

今回も電解質・酸塩基平衡異常について考えてみたいと思う。

症例:
34歳男性(マリファナ常習者)
嘔気と嘔吐で来院。嘔吐は5回/日で4日間持続。吐物に血清のものはなし。
食事はこの2日間取れてない。下痢はなく悪心を伴う腹痛のため入院。
マリファナは入院2日前に使用したのが最後で、それまでは2−3日ごとに使用していた。

身体所見
血圧:131/87mmHg、心拍数:142回/分、呼吸数:20回/分、体温:36.5℃、SpO2:97%
体重:58kg
倦怠感、質問は答えられるが無気力、軽度意識混濁、病院に居ることは言えるが、名前や曜日をいうことは困難、年は答えられる。
咽頭は問題なく、粘膜は湿潤、皮膚のツルゴールは正常、下肢浮腫を認める。

救急外来で1L補液投与

採血検査:(来院時補液投与前)
BUN 46mg/dL、血清Cr:4.3mg/dL、Na 121mmol/L、K 2.3mmol/L、 Cl <50mmol/L、CO2 43.6mmHg、血糖 88mg/dL、白血球 3400/μl、Hb 15.3g/dl、Ht 45.2%、血小板 41万/μl

採血検査:(3ヶ月前)
BUN 7mg/dL、血清Cr:0.91mg/dL、Na 137mmol/L、K 3.2mmol/L、 Cl 105mmol/L、CO2 26mmHg、血糖 81mg/dL

ここまでである異常所見としては
急性腎不全、低カリウム血症、低ナトリウム血症

心電図:

心電図は前のと比較することが最も大切であるが、この心電図では比較対象はない。所見としては、
・U波出現(T波の後に出現する陽性波で、基本的にT波を超えることはない。T波の半分を超えて高くなる場合は低K血症を考える。)
・T波の陰性化
が認められる。

低カリウム血症でみられる心電図としては、
U波(胸部誘導で見られる、血清K 3mEq/L未満ではU波の方が高くなる)、QT延長、T波の平坦化/陰転化 、ST-T低下、異所性心室興奮(VT、VF、PVC。AVブロックに関してはまれ)
がある。

その他の検査所見(補液投与後)
血液ガス(静脈):pH 7.61 HCO3 56 CO2 7.1
乳酸 >15mmol/L、血清浸透圧 263mOsm/kg、尿中浸透圧 211mOsm/kg、尿Na 37mEq/L、尿K 36mEq/L、尿Cl <20mEq/L、Uurea 150mg/dL、Ucr 71.4mg/dL
FeNa 1.8%、FeUrea 19.6%、FeK 9.4%、Urine K/Cr比 5.7mmol/mmol

*FeNa<1%は腎前性を示唆、しかし前提として乏尿を呈するAKIの場合。FeNaはGFRに反比例して基準値が増加する。なので、GFRが仮に100であれば、純粋に腎前性の場合には0.1%未満が腎前性を示唆する。また、利尿剤使用下では影響を受けにくいFeUreaを用いる。FeUrea(FeUN)<35%で示唆する。
*UK/Cr <1.5mmol/mmol(13mEq/g)は正常値である。FEKの基準値は4~16%であるが、腎機能低下すると反比例にFEKの基準値は上昇する。

話が脱線したが、症例の現時点でのものを分析してみる。
・代謝性アルカローシス
・AG開大性代謝性アシドーシス(乳酸アシドーシス )
・低カリウム血症
・低ナトリウム血症
・急性腎不全

では、この患者の病態に関して少し解説:
①:嘔吐によってなぜ代謝性アルカローシス?の理由
通常は胃酸のH+を十二指腸でHCO3が産生され、中和をしている。
嘔吐では、
嘔吐によるH+喪失→緩衝作用のあるHCO3が増加し代謝性アルカローシスが生じる。

②:この症例では、なぜ低カリウム血症になったのか?
嘔吐によって失われたのか?と思うかもしれない。
下記の図を見ていただきたい。腸管液に含まれている電解質は、NaClとHClがほとんどで、Kの含有はわずか5-20mEq/L程度である。
この患者は血清Kが2.4mEq/Lなので、200~400mEqのKを失う必要があり、これには仮に消化管液のKが20mEqだとしても10~20Lも嘔吐をしないといけない。これは現実的には考えられない。

ではどこからと言うと、この症例では、カリウムは尿から失われている。尿でのカリウム喪失は遠位尿細管や集合管で行われる。その中心となるのはアルドステロンである。高アルドステロンによって、ENacやNa/K ATPaseが働き、Kの排泄が促進される。また、アルドステロンはPendrinやH/K ATPaseも活性化させる。
Roy et al, CJASN 2015.
この症例で低カリウム症例を引き起こした原因としては、下記が考えられる。
・代謝性アルカローシスで、多くの重炭酸が濾過され近位尿細管での最大再吸収量を上回るとNaHCO3として遠位尿細管にいき、Na流入量増加で尿にK排泄が増加する(フロセミドなどで低カリウムになる原理と同じ。)
・低クロール血症もvoltage gated Kチャネルによって、電位平衡を保つためにK排泄を惹起する。



③:代謝性アルカローシスと低カリウム血症の関連性は?
両者とも密接に関連している。
これは、代謝性アルカローシスの原因と維持する機構を再認識する必要がある(詳細な解説は聖書を参考にしていただきたい)。
原因としては、
・消化管からのH+喪失
・尿からのH+喪失
・細胞内へのH+移行
・アルカリの投与

維持としては、
・有効循環血液量減少
・低カリウム血症
・低クロール血症
・急性腎不全
・高アルドステロン血症
がある。

非常に関連が強いことがわかる。

④:代謝性アルカローシスの治療目標と症状
重度代謝性アルカローシスで生じうる症状の痙攣、意識混濁、心血管拍出量低下や血管狭窄などがある。これらの症状が、代謝性アルカローシスよりも低Cl血症によって惹起されていると考えている人もいる。代謝性アルカローシスに関しては、治療目標として早期にpH7.55未満、血清HCO3 40-50未満にすることを推奨している。


⑤:この症例の治療に関してはどうすればいいか?
→安易にNaCL+KCLの補液と選択してしまっていないか?

この場合に注意なのは、低ナトリウム血症の存在である。
低ナトリウム血症の補正の際にカリウム補正はナトリウム過剰補正のリスクになる。つまり、この症例でカリウムも補正しつつ、NaCLでNaの補正もすれば、ODSのリスクが増してしまう。なので、この症例ではKCLのみを治療選択して用いる必要がある。

□この症例の診断は?
カンナビノイド過多症候群(日本国内でもカンナビノイドは大麻やマリファナ、脱法ハーブとしても使用されている。)に伴うCl喪失性代謝性アルカローシス、低カリウム血症、低ナトリウム血症、急性腎不全である。

カンナビノイド過多症候群は朝方の嘔吐が7割を占める。暖かいシャワーを浴びることで90%の患者が症状改善すると言う特徴がある。

代謝性アルカローシスのこと、低カリウム血症のことナトリウム過補正のことを含め盛り沢山に学べるケースであった。



2020/02/18

ナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)の時の計算式、ADHの重要性。

みなさんの興味のあるナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)

今回は、AJKDのcore curriculum seriesのを紹介したいと思う。
このseriesは、無料で提供されており非常に内容もまとまっている。また、Essential readingという読んでおくべき論文も提示してあり、個人的には大好きなSeriesである。

今回ナトリウム異常症に関しての論文が出ていたので少しかいつまんで。

個人的には、まずはナトリウム異常症に必要な公式から。
下記が主なものになる。

■Plasma osmolality(血漿浸透圧), mOsm/kg H2O:
  =(2 × [Na+] (mEq/L)) + BUN (mg/dL)/2.8 + glucose (mg/dL)/18

■Plasma tonicity(血漿張度), mOsm/kg H2O: 下記のどちらでも
   =Measured plasma osmolality (mOsm/kg H2O) − BUN (mg/dL)/2.8
   =(2 × [Na+] (mEq/L)) + glucose (mg/dL)/18

■Edelman formula, simplified:
     [Na+] = (eNa+ + eK+)/TBW(体液量)*
                                  *TBW=0.6×体重

■Urine to serum electrolyte ratio: Ratio>1では、飲水制限でも悪化し、生食投与でも
                               悪化することを示唆
     =(UNa + UK)/[Na+]


■Infusion rate, hypertonic saline solution: 1 mL/kg/h増加させるためには
    = [Na+] 1 mEq/L/h

■Infusion rate, D5W, to relower [Na+]:高Na血症のときに低下させるには0.5mEq/hr
                        ( 12mEq/day )で低下させる場合
    =2 mL/kg/h

■Free-water deficit:
    =TBW (L) × (([Na+]/140 mEq/L) − 1)
        *TBW=0.6×体重

■Electrolyte-free water input(EFWI)
     =Infusion volume × (1 - (INa + IK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water clearance(EFWC):
     =Urine Volume × (1 − (UNa + UK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water balance(EFWB):
     =EFWI ー EFWC

Front med 2018より引用
生体はEFWBをうまくコントロールしながらナトリウム異常を起こさせないように働いている。

やはり、ナトリウム異常症に重要なADHについて。
ADHの分泌刺激としては、ご存知のように一番は張度の変化である。
下の図の白丸(○)に記載してあるように、高張度になることによってADH分泌が生じる。
次の刺激が血管内循環血液量の減少である。
これは下の、黒丸(●)に記載してあるように血管内循環血液量の減少が刺激になる。


ちなみに、低ナトリウム血症でADHが出ている場合は、低ナトリウム血症自体多くは低張度であり、ADH刺激としては循環血液量減少が関与しているか不適切にADHが分泌している場合(SIADH)であるとわかる。

低ナトリウム血症の際にADHがでているかを判断する材料としては、Uosmになる。
1:Uosmが上昇している場合にはAVPが何らかの関連をしているんではないか?と考えることが重要である。
2:その後に、UNaを測定して循環血液量がどうかを判断する。UNa>30mEq/Lであれば、尿中にいらないNaを出している状態(利尿剤などは使用していないことが前提であるが。)なので、循環血液量減少はないと判断することができる。


なんにせよ、ナトリウム異常症はADHの概念を掴むことが非常に重要になる。