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2021/11/26

症例から考える電解質異常

 今回は症例から酸塩基平衡異常と電解質異常について考えてみる。


症例:

50歳男性、経口血糖降下薬使用中で、COVID-19による呼吸不全で救急搬送。挿管管理が必要と判断され、救急外来で施行。胸部CT所見上は、両側肺野の陰影を認めARDS(急性呼吸急迫症候群)の所見が有り、集中治療室に入院。ノルエピネフリンとバソプレッシンを血圧維持に使用、鎮静目的でプロポフォールを使用した。

入院3日目に腎臓内科医が急性腎不全と代謝性アシドーシスにてコンサルト。

入院3日目データ (入院初日)

Alb 4.0g/dL (4.2)、Na 133 mEq/L (134)、K 3.8mEq/L(3.7)、Cl 97mEq/L(97)、HCO3 17mmol/L (23)、BUN 31 mg/dl (14)、Cr 1.7mg/dl (0.8)、血糖 133mg/dl (123)


コンサルトを受けて、何が異常と考えるか?

まずは、代謝性アシドーシスの悪化と新規の急性腎不全があることを異常と捉える。そして、おそらくは循環不全もあるので、その影響?と考える。


続いて何を検査するか?

*血液ガス検査を行う。

pH 7.14、pCO2 39mmHg、pO2 80mmHg、HCO3 17mmol/L


では、この血液ガス異常の解釈は?

① pH 7.14でありアシデミアの状態と判断。アシデミアの原因として、HCO3 16mmol/Lであり、代謝性アシドーシスによって起こされている。

② アニオンギャップはどうか? アニオンギャップ= Na- (Cl + HCO3)

なので、AG = 133 - (97 +17) →19

AG開大と判断する。

③ 代謝性アシドーシスに対しての呼吸性代償はしっかり働いているか?

予想pC02 = [(1.5 × HCO3) +8] ±2 なので、予想pCO2は30~34となり実測が39であり、呼吸性アシドーシスの併存があることがわかる。

④補正HCO3の計算(ΔAG/ΔHCO3でも可)。隠れた酸塩基平衡異常がないか?

補正HCO3 =実測 HCO3 + ΔAG

補正HCO3 = 17 + 7 →24であり、他の隠れた電解質異常はなし。


この症例の電解質異常はAG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスとなる。


この症例のAG開大の原因は?

AG開大性代謝性アシドーシスの鑑別にGOLDMARK (LANCET 2008)がある。

Glycols (ethylene, propylene)
Oxoproline
Lactic acidosis
D-lactic acidosis
Methanol
Aspirin
Renal Failure – sulfate, phosphate
Ketoacidosis
Propofol Infusion Syndrome


この症例の場合の鑑別は?

・腎不全

・プロポフォール注入症候群(PRIS)

・糖尿病ケトアシドーシス

この症例では、血糖131mg/dLであり急性腎不全に加え、硫酸塩やリン酸塩の蓄積はなかった。βヒドロキシ酪酸: 2.9mmol/L。そのため、PRISが原因?と考えられた。

また、呼吸性アシドーシスに関してはCOVID19感染による影響が考慮された。


では、PRISとは何か?(参考資料はこちらがわかりやすい)

PRISは稀ではあるが、高容量のプロポフォールの使用によって引き起こされるものになる。48時間以上4mg/kg/hr以上の使用はリスクとなる。症状としては、徐脈や横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、腎不全を引き起こし、死亡に至る。ATPが低下し、ピルビン酸が増加し、乳酸が増加する。

この症例では、乳酸の増加はなくPRISに関しては??となってしまった。



入院4日目:プロポフォールは中止

Na 148 mEq/L 、K 4.6mEq/L、Cl 108mEq/L、HCO3 16mmol/L 、BUN 33 mg/dl 、Cr 0.99mg/dl、血糖 210mg/dl 

pH 7.17、pCO2 39.2mmHg、pO2 69mmHg、HCO3 16mmol/L

Anion-Gap: 24、βヒドロキシ酪酸: 6.9mmol/L


入院3日目から4日目で変化したことは?

・AGがさらに開大した。

・プロポフォール中止し、重炭酸製剤投与にかかわらず重炭酸濃度減少

・血糖上昇

・βヒドロキシ酪酸が増加 (2.9→6.9)


この時点での鑑別:

βヒドロキシ酪酸が増加、血糖も上昇していることからケトアシドーシスを考える。


頭の中では・・・

アニオンギャップはβヒドロキシ酪酸によって開大が考えられる。プロポフォールは24時間以上中止したが、改善乏しい。患者さんはもともと糖尿病の管理でSGLT2内服していたが、入院と同時にOFFにしてしまっていた。この症例の場合は正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスではないか?インスリン治療も開始してみよう。


インスリン投与後:

Na 153 mEq/L 、K 4.1mEq/L、Cl 111mEq/L、HCO3 26mmol/L 、BUN 43 mg/dl 、Cr 1.0mg/dl、血糖 176mg/dl 

pH 7.43、pCO2 40mmHg、pO2 108mmHg、HCO3 26mmol/L

Anion-Gap: 14、βヒドロキシ酪酸: 0.9mmol/L

となった。


この症例の最終診断は、Euglycemic DKA (EDKA)


EDKAとは?

1973年にMunroらが211症例の正常血糖のケトアシドーシスが報告された。最近の報告だと、2017年に報告がある。EDKAの定義としては、血糖が250mg/dL未満で、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスがあり、ケトン血症、ケトン尿になる。EDKAの原因は、SGLT2阻害薬の使用、来院前のインスリン接種、食事摂取制限、嘔吐などがある。SGLT2使用患者のCOVID19罹患患者のEDKAの5症例も報告されている。


あまり、個人的にはEDKAの概念を知らなかった。とても勉強になった。


今回のように、血糖が正常でもケトアシドーシスをきたしている例もあるということは、是非知ってもらいたいと思う。



2020/05/22

電解質異常は好きですか?代謝性アシドーシス症例を検討。

腎臓内科領域でどこが好きかに関しては人それぞれだと思う。
私は全然できていないことは承知しているが、電解質異常が大好きである。

皆さんもご存知のようにSkeleton Key Group(全世界の腎臓内科フェローが電解質異常に対して症例を出しているグループ)が、いくつか電解質異常について症例を提示している。
とっても教育的で興味深いのでぜひ参考にしてもらいたい。

今回は、このグループからの症例で自分なりにも解釈を加えながら解説していきたい。

症例:
30歳女性で鎌状赤血球症がありハイドロキシウレアで治療、HIVがあり抗レトロウイルス薬で治療。2年前のCD4は410 cell/microL。現在、急性の腹痛、胸痛、両側のすねの痛みで入院中。
内服薬:テノホビル(HIVの薬)、ラミブジン(HIVの薬)、エファビレンツ(HIVの薬)、ヒドロモルフォン(オピオイド系鎮痛薬)、市販薬の内服はなし
痛みは高流量酸素投与とヒドロモルフィンでコントロールされていた。痛みはSick cell crisisによるもの(Sick cell crisisは血管閉塞によって疼痛が生じるものである。)

入院時採血
Alb 4.0mg/dL、BUN 10mg/dL、血清Cr:0.7mg/dL(GFR 78mL/min/1.73m2)、Na 140mmol/L、K 3.0mmol/L、 Cl 115mmol/L、HCO3 15mmol/L、血糖 90mg/dL

血液ガス検査
pH 7.38、pCO2 30mmHg、pO2 138mmHg(nasal 5L)、HCO3 14mmol/L

まず、この症例にある電解質異常と酸塩基平行異常を見てみる。

採血検査からは、低カリウム血症、高クロール血症

血液ガス検査からは、代謝性アシドーシスがあり、AG(Anion gap)はNa-(Cl+HCO3)で計算すると10となり、AG非開大性の代謝性アシドーシスがあるとわかる。
代償に関しては、予想pCO2=1.5×HCO3+8±2で計算すると、29±2となり実際は30であり予想範囲内である。
なので、この症例ではAG非開大性の代謝性アシドーシス、低カリウム血症となる。

皆さんはこの症例から何故このような電解質異常が生まれたのかわかるだろうか?

代謝性アシドーシス+低カリウムの原因として一番多いのは、下痢であるがこの症例では下痢は有していない。次の鑑別としては尿細管性アシドーシスがあがる。
内服薬の中でテノホビルはproximal RTAを起こし、鎌状赤血球はdistal RTAを起こしうる。

非AG開大性代謝性アシドーシスの原因として語呂での覚え方がある。
一つはHARD UP(生活が苦しいという意味)
Hyperventilation(過換気)
Acetazolamide(アセタゾラミド)
 Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Diarrhea(下痢)
Ureterosigmoidostomy(尿管S状結腸瘻)
Parental Saline(NaCl大量輸液)


もう一つはUSED PART(中古という意味)
Utero enterostomy(尿管結腸瘻)
Small bowell fistula(小腸瘻)
Extra chloride(NaCl大量輸液),
Diarrhea(下痢)
Pancreatic fistula(膵液瘻)
Addison's disease(アジソン病)、Acetazolamide(アセタゾラミド)
Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Tenofovir and topiramate(テノホビルやトピラマート(抗てんかん薬))

続いて、非AG開大性代謝性アシドーシスの際は尿中アニオンギャップ(尿AG)と尿浸透圧ギャップの計算は鑑別に重要になる。

尿AGは尿中アンモニアの排泄の指標となる。
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
    =未測定陰イオン−未測定陽イオン(アンモニアイオンも未測定陽イオンに含まれる)

つまり、代謝性アシドーシスの際には尿から酸がしっかりと排泄される(=尿アンモニアが排泄される)ので、尿中AGは負(<0)になる。正常は−20〜−50μEq/Lである。


尿中AGが正(>0)になる場合には、遠位型RTAなどの尿アンモニア排泄障害を考えなければならない。

この有用な尿中AGであるが、限界があるということも知っておく必要性がある。
・未測定陽イオン(ケトン、重炭酸、馬尿酸(トルエン中毒)など)の存在が尿AGを上昇させている場合
・リチウム高値が尿AGを低下させている場合
・腎機能低下でアンモニア排泄が抑えられている場合
などは、尿中AGの信頼性が落ちることも認識しておく。

その場合には尿中浸透圧ギャップが非常に鑑別に有用な手段になる。

尿浸透圧ギャップ=測定尿浸透圧 − [2×(UNa+Uk) + UGlu/18 + Uua/2.8]
となり、正常は10〜100mOsm/kgである。尿中アンモニアは尿浸透圧ギャップの半分であり、正常は5〜50mmol/Lになる。
なので、
尿浸透圧ギャップ/2 < 150では、尿アンモニア排出ができていないので腎臓由来の遠位型RTAを鑑別にあげる必要がある。
尿浸透圧ギャップ/2 > 400では、尿アンモニア排出が問題なく腎臓以外の原因(下痢など)を考える必要がある。

なので、トルエン中毒や糖尿病性ケトアシドーシスでは積極的に尿浸透圧ギャップを用いる必要がある。

尿浸透圧ギャップの限界としては、
・ウレアーゼ産生菌がいる場合には尿中アンモニアと尿浸透圧ギャップの関連が乏しくなる。
・アルコールやマンニトールなどの浸透圧物質の尿中排泄がある場合に尿アンモニアが増加していない割に尿中浸透圧ギャップは大きくなる。
・尿中Naや尿中Kが異常な場合


今回の尿所見としては
尿pH 7.1、尿糖 2+、尿蛋白定量 100mg/dL、尿蛋白/Cr比 0.42 mg/mg、尿Na 130mmol/L、尿K 42mmol/L、尿Cl 94mmol/L

今回の症例では尿糖や尿Uaなどはなく尿浸透圧ギャップは計算できなかったが、
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
          =130+42-94
          =78
となった。つまりアンモニア排泄がうまくできていないことがわかる。

ここで、想起される疾患は尿細管性アシドーシスである。

尿細管性アシドーシスの際に
尿AGが正になるのは基本的にdistal RTAである。

distal RTAでは尿中pH >5.3で、尿中AGが正になる特徴がある。
Proximal RTAでは尿中pH <5.3で尿中AGは負である。重炭酸などの治療で尿中pHが上昇し、尿中AGが正になる。

この症例では、尿中pH7.1で尿AGが正であり、distal RTAと判断する。

採血で下記のものが追加された。
尿酸:2.1 mg/dL
血清リン:2.9mg/dL

ここで、ふと疑問が出る。尿糖陽性、尿酸低下、血清リン低下があり、近位尿細管での再吸収が阻害されているのでは?と考える必要がある。つまり、proximal RTAの存在も考える必要がある。

この症例では画像検査で両側の腎結石を認めた。
distal RTAではアルカリ尿であり、かつ尿中カルシウム 排泄が亢進。それによってリン酸とカルシウムが結合してリン酸カルシウム結石ができたと考える。また、結石形成を阻害するクエン酸が代謝性アシドーシスと低カリウム血によって減少する。それによって、より結石を形成しやすくなる。

最終的に今回の症例は

・鎌状赤血球によるDistal RTA
・テノホビル±鎌状赤血球によるProximal RTA

によって生じていると考える。

今回の症例のように深くアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスを考える機会も少ないのではないか?
なので、個人的には非常に勉強になった。


2020/02/07

救急室と酸塩基 後編

前編からのつづき:AG開大・浸透圧ギャップの開大した著明なアシドーシス症例で、尿馬尿酸が陽性。どういうことですか?)


 馬尿酸といえば、トルエンの代謝産物だ。体内に曝露されたトルエンは、肝臓でメチル水酸化・酸化されて安息香酸となり、さらにグリシン抱合により馬尿酸になる(下図も参照)。そして、主に馬尿酸として腎から排泄される。





 体内に入った有機物質のうち、荷電していない分子は、浸透圧ギャップを上げる。しかし、代謝されて陰イオンになってしまえば、そのぶん血中からHCO3-イオンが減るので、浸透圧ギャップは閉じる。そして、そのかわりにアニオンギャップが上がる。

 だから、トルエン分子じたいは浸透圧ギャップを上げるし、代謝された馬尿酸イオン(hippurate)はアニオンギャップを上げる。

 ただし、通常は肝臓がすばやくトルエンを代謝してしまうので体内にトルエンは残らない(浸透圧ギャップはあがらない)ことが多い。また、馬尿酸イオンも腎臓がすばやく排泄してしまう(糸球体ろ過だけでなく、尿細管から能動的にも排泄される)ので、アニオンギャップも上がらない。

 しかし、摂取後短時間であった場合や、摂取が大量の場合、さらに、肝機能や腎機能が低下している場合(搬送後まもなくショック・無尿となった、など)には、体内にまだまだ代謝前のトルエンや排泄前の馬尿酸イオンが残り、両ギャップは上昇する。


Q5:尿アニオンギャップは、いくつですか?

尿Na    97mEq/l
尿K      60mEq/l
尿Cl     73mEq/l

 尿アニオンギャップは、尿Na+K-Clで、84mEq/l。信じられない値である。そもそも尿アニオンギャップは、陽イオンであるNH4+を推定するためのもので、酸排泄に問題がなければ負の値になる。

 それがここまでプラスに振り切れているのは、尿中にNH4+がないからではなく、未知の陰イオンが溜まっているからだ(血液のアニオンギャップと同様に考えればよい)。本例では、馬尿酸イオンや安息香酸イオンと考えられる。


Q5:尿浸透圧ギャップは、いくつですか?

尿浸透圧     602mOsm/kg
尿尿素         245mg/dl
(尿糖      陰性)

 計算から求められる尿浸透圧は、尿尿素/2.8+(尿Na+尿K)×2で、401mOsm/kg。よって、実測値と201mOsm/kgのギャップがある(正常値は10-100mOsm/kg)。このうち半分が陽イオンのNH4+と考えられ、のこりの半分に馬尿酸イオンや安息香酸イオンがふくまれる。よって本例では、NH4+濃度は100mEq/l程度と考えられる。

 トルエン中毒による典型的な「AG非開大」代謝性アシドーシスでは、大量のNH4+イオンが場尿酸イオンとセットで排泄されるので、ギャップが400mOsm/kg以上(尿NH4+が200mEq/l以上)に振り切れることも珍しくない。本例は、そうなる前なのだろう。


 なお、トルエンによる「AG非開大」代謝性アシドーシスは、世界中で腎臓内科のクイズや試験として頻出される、超人気トピックだ(米国腎臓学会でのクイズは、CJASN 2014 9 1132など)。本ブログでも何度か言及しているので、こちらこちらも参照されたい。


Q6:それで、どうしますか?


 典型的なAG非開大性代謝性アシドーシスでは、馬尿酸イオンとともに大量に排泄されるNa+とK+を補うことが治療の本幹となる。そのため、輸液による体液補充も、最初は重曹が避けられるほどだ(低K血症を増悪させるため)。

 しかし、本例のようにAG開大・浸透圧ギャップ開大症例の治療となると、趣きが異なる。未代謝のトルエンが大量に溜まっており、しかも尿中排泄もできず、全身状態が不良となると、やはり透析で除去するしかない。

 さらに、意識状態悪化や痙攣重積にでもなれば(トルエンは、言うまでもなく中枢神経にも影響をおよぼす)、呼吸性アシドーシスの予防と治療に、気道確保と人工換気(強制的な過換気)も避けられないだろう。

 こうしてアシドーシスを治療しているうちに、ショックを脱して腎機能が回復して脳予後良好に回復してくれればよいが、そのように救えるタイム・ウィンドウが限られていることもある。

 Kussmaul呼吸を診断するのには1分も掛からないし、血液ガスの結果が出るのも数分。そのあと、ABCを保ちながら最短・最適に動けるか。救急室の酸塩基は、スリリングだ。







2020/02/05

救急室と酸塩基 前編

 50歳男性、呼吸苦で救急要請。以前に過換気症候群で搬送歴あり。体温36C、血圧110/60mmHg、脈拍70/min、呼吸数28/min(SpO2 100%RA)、深く大きな呼吸。傾眠がち。検査室から、血液ガス分析の異常値が報告された:

pH          6.80
pCO2     29Torr
HCO3    4mEq/l



Q1:アシドーシスは、代謝性ですか?呼吸性ですか?


 呼吸数が多いときには、過換気症候群や呼吸不全だけでなく、代謝性アシドーシスの呼吸性代償(二次性変化)も疑う必要がある。アドルフ・クスマウル先生(1822‐1902、写真)が糖尿病性ケトアシドーシスの症例で報告したことでもお馴染み、Kussmaul呼吸だ。


(出典はこちら

 
 本例も、著明な代謝性アシドーシスがあり、pCO2も正常範囲から下がっているので、呼吸性代償が起きていると思われる。しかし、代償が不十分なことは、あまりにも低いpHからも明らかだ。

 代償で期待されるpCO2は、ウィンターの式をつかえば14Torr(4×1.5+8)。ΔHCO3とΔpCO2との関係から求めても、16Torr(40-20×1.2)であり、それ以上にpCO2がたまっている。このことから、呼吸性アシドーシスも合併している。


Q2:アニオン・ギャップは開大していますか?いませんか?

Na     144mEq/l
K       4.4mEq/l
Cl      104mEq/l
Alb    4.7g/dl 

 アニオン・ギャップは、Na+ClーHCO3とすれば、36mEq/lで開大している(カリウムを含める方もいる;低アルブミン血症はないので、その補正は不要だ)。ΔAGは24、ΔHCO3は20だから、ほぼAG開大代謝性アシドーシスといってよさそうだ(こちらも参照)。

 pHが7未満でショックも心肺停止もない、意識障害を伴う、AGの著明開大・・。なにか飲んだのだろうか?患者に聞いても、答えてくれない。様子を知る付き添いの方もいない。酒臭くもない。中毒に詳しい救急スタッフもいない。狭める方法はないか。
  

Q3:浸透圧ギャップは、開大していますか?いませんか? 

BUN      23mg/dl
血糖      197mg/dl
血清浸透圧(実測)   366mOsm/kg

血清浸透圧の基準値は280-290mOsm/kgであるから、あきらかに実測の血清浸透圧が高い。そして、それに見合ったナトリウムやBUN、血糖上昇がないことから、血中に未測定の浸透圧物質が存在すると考えられる。

 計算してみよう。予測される血清浸透圧は、327mOsm/kg(144×2+23/2.8+197/18)。したがって、実測浸透圧とのあいだに、39mOsm/kgのギャップがある。

 アニオンギャップと浸透圧ギャップがどちらも開大する物質として代表的なのは、メタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどだが・・。





Q4:これ、どういうことですか?

尿馬尿酸  1.29g/l

 つづく。



(hippoはギリシャ語ではウマ、英語ではカバ)



2019/04/22

Veverimer(ヴェヴェリマー)

 「薬のない製薬企業」というと、「薬ではなく幸せや健康、安心といった価値ををつくり提供する企業」、という意味の比喩表現かと思うかもしれない。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(2018年10月31日付)にそう報じられたTricida社は、文字通り認可された薬が一個もないが、Venture RoundsとIPOで数100万ドルの資金を集めた。

 これは市場(とFDA)が治験中の「ある薬」に期待しているからである。筆者は腎臓内科医なので、読者のご賢察どおりそれは腎臓内科領域の薬で、名前をVeverimerという。先月に第3相がLancetに発表された(Lancet 2019 393 1417)ので、ご存知の方も多いだろう。第2相がCJASN(CJASN 2018 13 26)だったことを考えると、(市場をふくめた)インパクトの大きさがうかがえる。

 まず薬の説明をすると、VeverimerとはH+とCl-をどちらも吸着する、いわば「新世代」の樹脂である。吸着は二段階で、まずアミノ基にH+を吸着し、それにひきつけられる陰イオンのうち(小さくて腸管に豊富な)Cl-がより選択的に吸着されるように分子構造を工夫している。

 こんな薬はよほどの高分子化学のノウハウを持った人でないと作れないだろうが、実際Tricida社のCEOであるGerritt Klaernerは、Max Planck Institute for Polymer Researchを卒業している。そして何を隠そう、昨年の米国腎臓学会で祭りを起こした(こちらも参照)カリウム吸着樹脂PatiromerのRelypsa社の創立者でもある。Tricida社も、その流れで最初はTrilypsa社と呼ばれていた。

 そして治験についてPICOフォーマットで説明すると、P(患者)の治験対象はブルガリア、クロアチア、ジョージア、ハンガリー、セルビア、スロベニア、ウクライナと米国(米国は全体の約10%)の保存期CKD患者200人余りで、介入群の各データ(中央値など)は以下の通り。

年齢 62歳
白人 98%
男性 60%
糖尿病 61%
高血圧 97%
ACEI/ARB内服 67%
利尿薬(ループないしサイアザイド) 60% 
eGFR 29ml/min/1.73m2
HCO3- 17.3mmol/l
アルブミン尿 241mg/gCr(24.8mg/mmolCr) 

 なお、国をこのような選択にした理由は明記されていない。EU内で治験基準が統一されているとすれば、治験参加費の問題だろうか(資金は当然、Tricida社がだしている)。あるいは、このコホートでは重曹使用者が8-10%と少数だったので、重曹使用率の高い国を避けたのかもしれない。

 I(介入)はveverimerを6g/d、12週間。C(対照)はプラセボで、HCO3-濃度が18未満/以上の比率が同じになるようランダム化され、クロスオーバーはしていない。O(アウトカム)はHCO3-濃度が①4mmol/l以上上昇、または②22-29mmol/lを達成した患者割合だった。ほかに、アシドーシスによる骨や筋肉への害をみるため、身体機能なども比較している。

 なお測定はAbbott社のiSTAT®で採血後ただちに行われ、患者は採血前4時間は絶食にされた。絶食の理由は、アルカライン・タイド(alkaline tide)と呼ばれる食後の胃酸分泌の「反作用」で血中にHCO3-が放出される現象による影響を除外するためだ。

 結果、上記アウトカム達成者の割合は介入群で59%、プラセボ群で22%にくらべ有意に高かった。椅子から立ち上がるなどの身体機能検査でも有意差が見られた。なお副作用では消化器症状が多く、とくに下痢は介入群で9%、プラセボ群で3%だった。

 効果のある薬が増えたのは喜ばしいことだ。今後、重曹との差や、よりハードなエンドポイント(腎予後、生命予後)での効果が検証されたときに、「価格に見合った価値があるか?」という話になるのだろう。欧米で認可されれば、Patiromerのように日本でも治験されるかもしれない(ただし、パチロマーのように透析患者で用いられることはまず考えにくいが)。

 ポリマー技術が今後さらに応用されて、「腸管分子標的薬(または、利尿薬ならぬ利便薬)」の開発がさらに進むことが予想される。腎臓内科医も、腸管の生理学やチャネル(こちらも参照)に詳しくなる必要があるだろう(上述のアルカライン・タイドも、筆者は正直最近まで知らなかった)。





 なお創薬という意味で、化学の次はなんだろう?おそらく生物製剤なのだろう(遺伝子もまた、書き換えと合成の可能な「ポリマー」のひとつだ)。倫理的な障壁や、環境面への影響が懸念されるのでその時代はすぐには来ないと思われるが、いずれ「降圧菌」「吸着菌」といった治療ができるようになるかもしれない。
 

2018/10/03

あるICUの症例から

 昨日からICUに入室している66歳男性。人工呼吸管理をうけ、P/F比220。昇圧薬を使用中で、SOFAスコアは10点。今朝の血液ガスは下記であった。

pH 7.15
pCO2 38Torr
HCO3 13mEq/l
Lactate 6mmol/l




Q:どうしますか?

(なお、慢性腎臓病、DKA、消化管からのHCO3喪失はないものとします)
 
1.人工呼吸器の分時換気量を増やす
2.1.26%(150mEq/l)のNaHCO3輸液
3.8.4%(1000mEq/l)のNaHCO3輸液
4.4.2%(500mEq/l)のNaHCO3輸液
5.重曹はもちいず、アシドーシスが悪化すれば透析

 
 血液ガスをみるとHCO3がさがって代謝性アシドーシスがある。正常値からの差、ΔHCO3が9で、代償で期待されるpCO2の下がり幅は11程度とみこまれる。しかし正常の40Torrから3しかさがっていないので、本例は呼吸性アシドーシスもある。また、乳酸が高値なことからはAG開大アシドーシスがあると思われる。

 選択肢1は、呼吸性アシドーシスを改善させてpHをあげようという選択だ。人工呼吸器管理なのだから、分時換気量は1回換気量と呼吸回数で私達が設定できる。肺傷害を懸念して1回換気量を低く保つのなら、呼吸回数を高くするのがよいかもしれない。

 上記の点は、選択肢2-5を選んだとしても重要になる。結局、輸液や透析液から入る重曹はCO2になって、呼気から排泄しなければならないからだ。

 選択肢2-4はいずれも重曹で、ICUの代謝性アシドーシスで広く用いられる。選択肢2は等張で、筆者は米国腎臓内科フェロー時代よく使ったが、わが国ではあまりみかけない(ので混ぜて作る)。体液量が減っているときは使いやすいが、多いときにはむしろ容量負荷になってしまうのが難点だ。

 選択肢3-4は、高張だ。選択肢4は日本にないが、3は250mlバッグとして救急カートなどに入っている(メイロン®)。あまりにも高張なので高Na血症(低Na血症で注意深く使われる3%NaClの何倍もNa濃度が濃い!)、代謝性アルカローシスなどが心配だ。重曹必要量などを計算して、血液ガスでpHやNa値をモニターしながら最低限の使用にとどめたいところだ。

 選択肢5は、重曹輸液による細胞内アシドーシス増悪などを嫌う場合の選択肢といえる。0.9%NaClは高Cl輸液でアシドーシスを悪化させるが、アシドーシスの原因(ショックなど)を治療する戦略になるのだろう。

 ただし、「アシドーシスが悪化したら透析」というのはアバウトすぎる。呼吸性アシドーシスの悪化を透析で治療するわけにも行かない(選択肢1はやはり重要だ)。また、いくら早期介入といっても腎臓が働いているのに透析するのはどうか。HCO3、pHなど数字は目に見えてよくなるだろうが、透析で血圧や臓器血流がさがったり(すでに昇圧薬が流れているので、CRRTか)、害も心配される。


 この問題に答えはないが、選択肢4と5を比較したBICAR-ICUスタディが今夏でた(Lancet 2018 392 31)。お気づきの方も多いだろうが、上述の症例は本スタディのpatient characteristicsを元にしている(但し書きは、除外基準)。スタディ結果で目立つのは、以下の点だ。


1. 28日死亡率・臓器障害をあわせたプライマリ・アウトカムに有意差はなかった。
2. 介入開始時にAKIN2-3の群では、選択肢4のほうがすぐれていた。
3. 選択肢5群では、より多くより早期にRRTが必要となり、透析依存になった。
(透析開始理由はおおくがアシドーシスと高K血症で、もうひとつの開始基準だった無尿は少なかった)
4. 選択肢4群でみられた高Na血症と代謝性アルカローシスは、生命を脅かすほどではなかった。
5. 選択肢1については、情報を集めなかったのでどのようにされたか分からない。

  
 さまざまな考察があるだろうが、私の印象ではこのスタディは、「重曹の害よりも、避けられる透析の害のほうが重かった」ことを示したように思える。輸液量を最小限にして頻回に血液ガスをとり(pHが7.3を越えたらやめるなど)、重曹の害を「生命を脅かさない」レベルにとどめることができた、ともいえる。


 どの治療にもリスクとベネフィットがある。最初から「RRTは早期がよい」とか「重曹は害だ」と決めずに、その程度を状況ごとに勘案して最善のアウトカムをみつけるのが、臨床医の腕の見せ所と思う。だからこの論文も、重曹を押し付けるものではなくて、どちらを選ぶにしても臨床判断の後押しをしてくれる、そういう位置づけに使いたい。


[2019年11月29日追記]報道でもご存知の通り、上記選択肢2の1.26%炭酸水素ナトリウム液1Lのかわりに、選択肢3の8.4%炭酸水素ナトリウム液1L(250mlバッグ×4本)が投与された患者が、心停止をきたし、残念ながら救命できなかった。

 医療事故調査委員会の報告によりさまざまな問題点が検証・分析されているが、ここで強調したいのは、①1.26%炭酸水素ナトリウム液のマイナーさ、②8.4%炭酸水素ナトリウム液の危険さ、の二点だ。

 ①については、以前「そんな輸液が日本にもあるらしい」と知ってから、筆者はいまだ実物を見たことがない。「そんなのあるんだ」という腎臓内科医さえいるくらいだから、他科医師ならなおさらだろう。

 また②については、濃すぎる。「用法用量を守って使えば安全」な薬ではあっても、「100mlだけ入れてください」と指示したのに誤って250mlバッグ一本が投与されてしまう可能性と危険性は極めて高い。上記BICAR-ICUスタディだって、8.4%NaHCO3液を使っていたら、過補正による害はもっと増えていただろう。

 そもそも、どうしてこんなに濃いNaHCO3液があるのか?

 それは、心肺蘇生時に8.4%NaHCO3液の1ml/kgボーラス(1mEq/kgになる)が慣習的に使用されてきたからだ。たしかに心静止・PEAの原因疾患(H's and T's)にはアシドーシスや高カリウム血症が含まれるし、「生きるか死ぬか」の状況なら、失うものは余りないかもしれない。

 しかし、エビデンスが少ないとして、2010年版のACLSプロトコルからこの慣習はルーチンには推奨されなくなり(クラスIII、LOEはB)、「高カリウム血症または三環系抗うつ薬中毒による重症心毒性または心停止における、血行動態安定化とQRS狭小化」に限られた(クラスIIb、LOEはC)。

 もちろん、この薬がこの世にあるだけで事故が起こるわけではない。追記冒頭の件も、実にさまざまな要因が重なって起きた。ただ、8.4%はあまりにも濃いので、心肺蘇生時以外では薄いのを使ったほうが安全だと筆者は考える(筆者は、そうしている)。

 また、事故後に追記冒頭の施設は1.26%炭酸水素ナトリウム液に【造影用】と明記することしたが、むしろ1.26%のほうは造影時だけでなくアシドーシス治療などに幅広く用いられてよいように思われる。


 このような事故がいつかおきないかと心配していたので、他人事ではないし、心が痛い。みずからも他山の石とするのはもちろんだが、輸液・酸塩基平衡に関わる者として、敢えて少し踏み込んで書かせていただいた。何らかのお役に立てば幸いである。



2018/06/24

重曹とクエン酸のお話

 重曹とクエン酸、なんていうと、「お掃除のことかな?」と思うかもしれない(写真)が、今回はCKD、アシドーシスに対する重曹治療の研究で有名なグループからでたCJASNの最新論文(doi:10.2215/CJN.01830218)についてのお話だ。




 論文は、60歳くらいでBMI30くらい、eGFRは30ml/min/1.73m2くらいでHCO3-濃度は20-24mmol/lのCKDコホート20名(CJASN 2013 8 714と同じ)について、重曹群とプラセボ群(クロスオーバー)で尿・血液の代謝産物パターンにどんな違いがあるかを調べた。

 234の血中代謝産物と195の尿中代謝産物をスクリーンしたところ、厳格な(false discovery rateを20%とした)統計的有意差がみられたのはたった一つ、重曹群での尿中クエン酸(と、その異性体でクエン酸回路を構成するイソクエン酸)の増加だった。ほかのクエン酸回路の中間産物も、有意差はないが増加傾向であった。

 「重曹を飲むとクエン酸回路がまわる」と聞いても、「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいに、すぐには何のことか分からないかもしれない(図)。論文著者のディスカッションは、そこについてあまり考察していない。



 重曹を飲むと、血中に入ったHCO3-は有機酸のH+を受け取る。こうしてできたH2CO3はすぐさま(水と)CO2となり赤血球に乗って肺から排泄される。いっぽう、H+を渡した有機酸陰イオン(これをorganic anion、OA-という)は尿中から排泄される(これが結石予防になっていることは以前に触れた)が、OA-のなかで代表的なものが、何のことはないクエン酸イオンである。

 そう考えると、結局「重曹を飲むと尿中クエン酸がふえる」というのは「水を飲めば尿がでる」と言っているようなもので身も蓋もない。でもまあ、クエン酸イオンが腎臓の細胞に流入すると、その過程で細胞内のクエン酸回路は回りそうだし、回ればなにかいいこともあるかもしれない(論文著者も「DKD、non-DKDともにCKDではクエン酸回路が大事な役割をしているようだ」と書いている)。

 重曹が健康にいい(腎臓だけでなく、骨はもちろん、最近は脳にも;CJASN 2018 13 596)仕組みが、こうしたさまざまな研究によって解明されれば、他の治療にもつながるかもしれない。いろんな代謝経路(図はクエン酸回路)を復習しながら、それに備えていたい。





2018/01/09

尿AGプラス

 AASKコホートで酸摂取量・酸排泄量などと腎・生命予後をみているグループ(以前の論文はこちらにまとめた)から、あたらしい論文がCJASNにでた(doi.org/10.2215/CJN.0377417)。尿アンモニア排泄量と、尿アニオンギャップの相関を調べたもので、「相関しない」という結論だった。以前も書いたように尿アニオンギャップは


[測定されない陰イオン] - [測定されない陽イオン]

 なので、NH4+だけでなく測定されない陰イオンの影響も受けるからだ。測定されない陰イオンのなかでは、硫酸イオン(SO42-)、リン酸イオン(HPO42-、H2PO4-)がおおきい(不揮発酸)。HCO3-は尿pHが6.5以下では尿中には有意な濃度で存在しないのであまり問題にならない。

 硫酸イオン、リン酸イオンを測った「尿AGプラス」を以下のように求めると、尿アンモニアと相関する。


尿AGプラス = ([尿Na] + [尿K]) - ([尿Cl] + [尿硫酸イオン] + [尿リン酸イオン])

 ここまでするなら尿アンモニアを直接測れば?と思われるだろうし、これだけやっても蓄尿容器にクエン酸がはいって尿pHが測れない、など問題がある。エディトリアルも「CKDの実臨床では尿AGプラスの価値はほとんどない」とそっけなく書いている。結局、血液検査と随時尿でわかるHCO3-と尿pH以上に使いやすく情報量の多いマーカーが現れるかはわからない。





 [おまけ]今回の論文で、尿リン酸はモリブデン酸塩(MoO42−)の光度計法、尿硫酸は硫酸バリウム(BaSO4)の沈降法で測定している。尿といえば、尿酸濃度は昔リンタングステン酸(H3PW12O40)の還元を利用して測定していた。元素が好きな方は、Ag、P、Sなどと合わせ周期表(下図)のなかに探してみてはいかが。なお尿アンモニア濃度はグルタミン酸脱水素酵素法で測定している。





2017/05/06

透析液のHCO3濃度

 腎臓から酸を排泄できない血液透析患者さんではどのように酸のバランスをたもつか。からだにたまった酸が透析によって排泄できればいいが、抜けにくいものもおおい。それで、透析液からアルカリを体内にバッファーすることで酸を中和するのがメインの方法になる。

 透析液のアルカリはもともと酢酸イオンで肝臓でHCO3に変換されていたが、透析中の低血圧や心筋抑制などの副作用が懸念された。それでアルカリの大部分は重炭酸イオンにおきかえられた。それでも、カルシウムと重炭酸が沈殿しないよう少量の有機酸が必要なので、酢酸や酢酸ナトリウム、クエン酸がまぜてありこれらも体内でアルカリとなる。

 透析膜の内と外で重炭酸がどのような動きをするかは複雑だが、透析患者さんにおける酸塩基バランスはおおまかに図のようになる(KI 2016 89 1008)。透析しないあいだに酸がたまり体液貯留でHCO3-濃度がさがり、透析するとHCO3がバッファーされHCO3濃度があがる。


 こうしてくわえるアルカリ量が次の透析までに摂取や産生でためる酸の量とほぼ等しくなって、透析前のHCO3が一定に保たれる。…はずであるが、実際はそうでもない。透析間隔や食事量、体重の増えなどあり同じ患者さんでも一定しないし、体格や透析膜、血液流量などの違いで患者さんどうしでもばらつきがある。

 透析HCO3濃度(以下D-BIC)は各国で大きく差がある。2002-2011年のDOPPSデータ(AJKD 2013 62 738)をみると、北米でたかく(アメリカでは半数近くが38mEq/l以上)、欧州は大半の患者さんで33-37mEq/l(ドイツは32mEq/l以下の患者さんも多い)、そして日本では30mEq/l以下の患者さんが83%だ。

 米国でこんなにD-BICが高いのは、2000年に透析患者さんでHCO3濃度を毎月測り22mEq/lを維持しようという推奨がKDOQIからでてみんながD-BICを上げていったからだ。しかし、たかいD-BICで一気にpHをあげると低K血症、血管石灰化などにともなう血行動態の不安定や不整脈(突然死)や、免疫機能低下にともなう感染症などたくさんの心配がある(図、前掲KI論文)。



 実際透析大手FreseniusデータでD-BICが28mmol/l以上の群は突然死のリスクが高かったので透析前HCO3が24mEq/l以上の患者さんではD-BICを下げる方針にした。D-BICそのものではないが、FDAは2012年に透析液に含まれるクエン酸や酢酸もアルカリの一部として考慮するよう、安全に関する通達をだした。

 そもそも、KDOQIの推奨はアシドーシスの筋肉や骨にたいする影響を懸念してだされた。しかし、透析前HCO3濃度がひくい透析患者さんは酸摂取がおおい、つまりたんぱく摂取がおおい患者さんとも言えるから、彼らのほうがPEWがなくて栄養状態はいいのかもしれない。

 2006年にでた米透析施設最大手DaVitaコホートの研究(CJASN 2006 1 70)がこれを示唆している。栄養状態を考慮しないと透析前HCO3濃度がたかいほど死亡率が高かったが(図左)、栄養状態とcase-mixで補正すると2015カーブが反転しHCO3濃度が低いほど死亡率が高くなった(図右)。

 

 ではD-BICは低いほうがいいのだろうか?D-BICが多国より明らかに低い日本では、透析患者さんの予後がもっともよい。ただ、あまりにも他国とちがいすぎて前掲DOPPS論文では日本だけ分析から除外されてしまった。それでというわけでもないだろうが、日本のデータを独自に分析した論文が2015年にでた(AJKD 2015 66 469)。
 
 注目すべき点はいくつかあるが、ひとつめは透析前後のHCO3だけでなくpHにも注目し、結局死亡率に唯一有意に相関したのはHCO3ではなく透析前pHが7.40以上の群だけだったこと(生データが白丸、補正後が黒丸)。たしかにHCO3濃度が同じでもpCO2がひくくpHが高い患者さんとpCO2がたかくpHがひくい患者さんでは血管、筋、骨などへの影響がちがう気がする。



 ふたつめは透析液の総アルカリ濃度がいっしょでもD-BICが多ければ透析後のHCO3濃度とpH、透析前のHCO3濃度とpHは高くなったことだ(D-BIC 35とクエン酸1mEq/lの液と、D-BIC 31で酢酸6mEq/lの液を比較した)。FDAの通達は「クエン酸も結局アルカリとして体の中でHCO3になるのだから一緒」というものだったが、透析膜内外のHCO3濃度差はいくら透析液の総アルカリ濃度が一緒でもD-BICの影響を直接うける。

 このスタディは死亡率が低すぎて統計的なパワーが足りない(患者さんにとってはいいことだが)など限界もある。しかしpHの話などはアシドーシス診療を根本から変える可能性もあり、これからの同様な再試や大規模な研究を待ちたい。

 

2017/05/05

重曹の立ち位置

 CKDの代謝性アシドーシスの治療で目標にされてきたのは、ずっと骨と筋の維持だった。もとは透析患者さんについての推奨で、アシドーシスによる過剰H+をバッファーするために筋と骨が弱くなる(海洋がCO2により酸性化してサンゴや貝殻が溶けているのとおなじように;図はBeachapediaより)ことから「22mEq/l以上に保つ」ことを提案した2000年のKDOQIガイドラインがでた。
 


 保存期CKDのアシドーシスについては2003年KDOQIガイドラインに触れているが、このくだりは「CKDにおける骨の代謝と病気の治療ガイドライン」にふくまれている。歴史的にアシドーシスの治療で目標にされたのはずっと骨だった。ここでも「22mEq/l維持を目標に」と書かれているが、OPINION(意見)と明記されている。

 それから、アシドーシスと腎予後・生命予後についても調べられるようになった。腎間質のアンモニアと補体活性、エンドセリン、RAA系など仕組み(図、KI 2014 85 529)はほぼ事実として確立しよく知られているし、アルカリ補充の腎保護を示す研究も小規模ながら複数でた(JASN 2009 20 2075、KI 2010 77 617)。


 
 それでも、2012年のKDIGOガイドラインは「HCO3値が22mEq/l未満」のときに、禁忌でなければ重曹でHCO3値を「正常範囲に」することを「示唆」(2B)、と曖昧な書き方をしている。だから、誰がいつからどれくらい重曹をつかったらいいのかについてはyet to be determined(JASN 2015 26 515レビューの結論)、つまりまだ決まっていない。

 誰がいつからはじめるか?ガイドラインのHCO3-が22mEq/l未満より早く使ったほうがいいかもしれないという研究もある(KI 2010 78 303)。平均eGFR 75ml/min/1.73m2でHCO3値が正常の高血圧患者120人に対し、同モルの経口NaClまたはNaHCO3(またはプラセボ)を5年間投与したところ、重曹群で腎機能の悪化が緩徐になり(図)尿中エンドセリンもおさえられた。


 また、HCO3が正常であってもアンモニア排泄がおちた例、または酸摂取が過剰な例は腎機能が低下しやすいことから、これらの場合にはアシドーシスがなくても重曹が腎機能低下を遅らせるかもしれない。


 なにを目標に重曹を投与するか?ガイドラインの「正常範囲」というのは曖昧である。そこで、昨年AJKDに目安となるエキスパートオピニオンをのせたレビューが出て(AJKD 2016 67 696)、24-26mEq/lはどうかと言っている。アルカリ補充の介入研究(JASN 2009 20 2075、KI 2010 77 617)がゴールを24mEq/lにしていること、AASKとCKDの退役軍人のスタディではHCO3 28mEq/dくらいが腎予後・生命予後Uカーブの底だったが、CRICコホートでは26mEq/l以上で死亡率がたかったからだというのが根拠らしい。このレビューでは具体的な投与例まで紹介している(図)。HCO3の分子量は84だから、1300mgは15mEq、3900mgは46mEq、5850mgは69mEqだ。


 HCO3を目標にしていいのかどうかも、はっきりしない。pCO2まで考えるならpHをみたほうがいいのだろうか。NAEや尿アンモニアのほうがよい目標なのだろうか。利尿薬をつかえばアンモニア排泄が亢進してHCO3は上がるが、それでもいいのだろうか(だめということになっているはずだが、利尿薬でアシドーシスをなおしたら腎予後が改善したというデータがないだけかもしれない)。

 最近は「高齢者CKDの代謝性アシドーシスは治療されるべきか?」などという刺激的な論説(NDT 2016 31 1796)まで出た。重曹をのませるなんてawkward(え?…重曹??と抵抗がある;まあたしかにお掃除にも使うくらいだし)などと主観的なことも書いているが、高齢者でだいじなのは腎保護よりも心血管系のアウトカムと筋力や骨などのADLであり、保存期CKDで重曹がそれらを改善したというデータは乏しいというのが彼らの主張だ。それで、著者はADL改善についてしらべるBiCARBスタディを組んでいる。ほかにもNCT01452412が筋力などをアウトカムにしたスタディだ。
 
 データがないといえば、これまでの重曹介入研究はいずれも高血圧性腎症を対象にしていて、小規模だし、たとえば糖尿病性腎症は抜けている。より大規模で多様な病態を含んだスタディが待たれ、NCT01640119、EUDRACT 2012-001824-36(SoBicスタディとも)などが進行中だ。




2017/05/04

アシドーシスの裏テーマ 4(治療)

 酸負荷がおおく酸排泄がすくなければ酸がたまる。ならば酸負荷のすくない食事をとってはどうか?と考えるのは、まあ理にかなっている。みてきたように酸はタンパクに、アルカリは野菜と果物におおいので、ひとつはタンパクを減らすこと、もうひとつは野菜や果物を増やすことだ。

 たんぱく制限はMDRDスタディの頃から長い歴史があって、最近VLPD(very-low protein diet) がふたたび注目されていることは以前書いたが、たんぱく制限は以前からおこなわれてきたし、最近プロテイン消耗(PEW)の問題がわかってきたこともありなかなか難しい。

 いっぽうの野菜と果物を多く摂るほうはどうか。以前にも書いたが、酸負荷を50%に減らすように計算して野菜と果物を貧しい高血圧性CKD患者さんにただで配るテキサスのGoyara先生らのグループがCKD1-2、3、4それぞれについての「3部作」を発表した(KI 2012 81 86、CJASN 2013 8 371、KI 2014 86 1031)。野菜と果物を摂ると重曹と同様に酸負荷がへり腎障害マーカーがへり腎機能低下が抑えられ、カリウムは増えなかった。
 
 これを受けて、「新しい腎臓病食」をつくろう、という論説を海外雑誌でたくさんみかける。タイトルも「お皿になにを盛ればいい?」(AJKD 2017 69 436)、「食事の酸負荷をへらすには」(J Ren Nutrition、doi:10.1053/j.jrn.2016.11.006)、「食の西洋化・産業化と腎臓病」(AJKD、doi:10.1053/j.ajkd.2016.11.012、こんな口絵まで)、「CKD患者さんの食事、見直すべき?」(BMC Nephrology 2016 17 80)など刺激的だ。


 
 もっともすべての野菜と果物がアルカリなわけでもすべてのたんぱく質が酸なわけでもない。上に書いたようにタンパク不足にはPEWの心配もある。ほかにも塩分にリンに、考えることはたくさんあるから、総合的に考えるには栄養師さんとの協力が不可欠だ。これらの動きでCKD患者さんの利益になればいいと思う。たとえば、透析があまり普及していない東ネパールで政府とISNがコラボして、減塩と野菜摂取励行などによりCKD進行を予防する試みも行われている(Lancet Global Health 2014 2 e506、写真はDharan Hill Station)。



 ここまで「裏テーマ」と題して酸負荷・酸排泄・食事療法についてみてきた。「裏」としたのは、現行ガイドラインがHCO3に基づく重曹補充が中心だからだ。しかしこの「表テーマ」にも、わかっていないことがおおい。つづく。

2017/05/03

アシドーシスの裏テーマ 3(疫学)

 酸の摂取量PRAL、産生量NEAP、排泄量NAEなどによって大規模コホートを層別化してCKDの進行やESRDとの相関を示したスタディが最近でてきた。

 まず2011年、アフリカ系アメリカ人の高血圧性腎症を対象にしたAASKコホートで、Frassettoの式で計算したNEAPと血中HCO3濃度の相関をしらべた論文がでた(CJASN 2011 6 1526)。たんぱくとカリウムの摂取量は24時間蓄尿の尿素窒素とカリウムから推計され、NEAPは平均71mEq/dだった。

 結果、NEAPが10mEq/dふえるごとHCO3-濃度が0.16mEq/lさがり、この関係はCKD2・3期よりもCKD4・5期でより顕著にみられた(図)。いままで代謝性アシドーシスでHCO3-を上げるには重曹と考えられてきたが、このスタディでNAEPを減らすのに(とくに動物性)たんぱくを減らし(アルカリのもとであるクエン酸カリウムなどが多い)野菜や果物をとってもいいんじゃないかと示唆された。


 
 つづいて、NHANESIIIコホートでRemer式の酸負荷(PRALとOAの和)とESRDリスクの相関を調べた論文がでた(JASN 2015 26 1693)。RRALは食事内容のアンケートから推計し、OAは体表面積から計算し、酸負荷は平均で42mEq/dだった。結果、酸負荷が多い群ほどESRDリスクが高く(図)、HCO3-やたんぱく摂取量、糖尿病や高血圧、腎機能やアルブミン尿などの交絡因子の影響を除外しても酸負荷が1mEq/d増えるごとESRDリスクが1.39(95%CI 1.19-1.63)倍になった。


 うえのふたつは酸負荷(摂取、産生量)からみたスタディで、負荷がおおいと腎臓に悪いから負荷を減らそうという結論が示唆された。それにたいして2015年にヨーロッパのNephroTestコホート(KI 2015 88 137)を対象に酸排泄能に注目した論文がでた。

 まずcross-sectional研究をおこない、腎機能が低下した群ほどNAE(尿NH4 + 滴定酸 - HCO3)が下がり酸排泄能がおちているのに対し酸産生NEAP(Frassettoの式)は下がらないのでNAE-NEAPバランスがプラスで酸がたまっていることを示した(図)。


 
 つづいてこのコホートを約4年フォローしてESRDリスク因子について分析したところ、TCO2ではなく24時間尿NH4量(Cr補正)と断食早朝尿NH4濃度(浸透圧補正)に相関がみられた(図)。どうしてNAEではなく尿アンモニアでみたかというと、cross-sectional研究のときに腎機能に比して滴定酸排泄量はあまり変わらず、NAEの低下にもっとも関与するのはアンモニアと考えたからだそうだ。尿HCO3は、もともと微量だ。


このスタディで、

A. 酸負荷がおおいのがいけないのか
B. 酸排泄できないのがいけないのか

 という問題がうまれた(図は前出JASN論文の著者Scialla先生によるcommentary;KI 2015 88 9)。


 で、この問いに答える形で4月に発表されたのがこのブログでも取り上げられた論文だ(doi: 10.1681/ASN.2016101151)。2011年のCJASN論文とおなじAASKコホートを使い、24時間蓄尿で求めたアンモニア排泄量とさまざまな因子の関係を調べた。これをみると尿アンモニア排泄量とESRD/死亡率の関係はU字で、30mEq/を底辺にそれより低いほどあがるのは2015年KI論文と一緒だけれど、たかくても上がることがわかった(図)。



 尿アンモニア能があれば酸をどれだけ摂っても排泄してくれるから大丈夫、というわけではないということだ。そう考えると、前出のA・Bをあわせた

C 酸がたまるのがいけない

 ようにも思われる。NAEPとNAEの差や、間質のアンモニアレベルやそれを代理する新たなマーカーを調べた研究が今後あれば、それについて分かるかもしれない。

 これらを踏まえて、CKDのアシドーシス診療どうなっていくのだろうか?つづく。





2017/05/02

アシドーシスの裏テーマ 2(PRAL、NEAP、NAE)

 動物の食餌にふくまれる酸を見積るDCADについて書いたが、人間の食事ではどうか?よく用いられる式がいくつかある。ひとつは、食事そのものの成分をみるRemerの式(J Am Diet Assoc 1995 95 791)だ。

0.49 x たんぱく[g/d] + 0.03 x リン[mg/d] - 0.021 x カリウム[mg/d] - 0.026 x マグネシウム[mg/d] - 0.013 x カルシウム[mg/d]

 で、S(たんぱく)・Pは酸でK・Mg・Caはアルカリという動物のDCADと同様の考え方だ。これをPRAL(Potential Renal Acid Load)と呼び、これを元にさまざまな食品がどれくらい身体に酸性、アルカリ性かをしらべることができる(ACKD 2013 20 141)。



 ただし、どのミネラルとタンパクをどれだけ食べたかを推計するのは手間で不正確だし、どれだけ吸収されているかもわからない。身体のなかで新たにつくられる酸もある(おもに有機酸)。じっさいにほしいのは、身体で1日につくられる(捨てなければならない)酸の量だ。

 そこで、ベルナールがいうように恒常性が保たれるならば「身体に入ってきた+身体のなかで新たにつくられた有機酸の量」と「排泄された酸の量」は同じでしょ、という前提を導入する。前者をNEAP(Net Endogenous Acid Production)、後者をNAE(Net Acid Excretion)と呼ぶ。健常人ならNEAPとNAEは同じで、身体に酸はたまらないはずである。

 NEAPをさきほどのPRALから求めるには、体表面積や体重で推定した有機酸(organic acid、OA)の量を足す。OA[mEq/d]は

41 x 体表面積[m2] / 1.73m2 または 体重[kg] x 0.66

 だ。あるいは、ふたつめのFrassettoの式(Am J Clin Nutr 1998 68 576)で食事のたんぱく量とカリウム量から以下のように推計する。

54.5 x たんぱく[g/d] / カリウム[mEq/d] - 10.2

いっぽうNAEは、尿からもとめる。

NH4+ + 滴定酸 - HCO3-

 しかし、24時間蓄尿しなければならず、またアンモニアやCO2が揮発しないよう工夫(油の膜を表面にはるとか)するのも手間だ。

 このように酸の1日摂取量・産生量・排泄量はそれぞれPRAL、NEAP、NAEとよばれ、体格と食事量、蓄尿などで算出できる。腎臓が正常な例で、いくつもの仮定をたててつくられた式ではあるけれど、最近はこれらの式と概念がCKD領域の疫学研究に用いられ、治療への応用も示唆されるようになってきた。つづく。


2017/04/28

SAFE、CHEST、SPLITトライアル

 0.9%NaCl輸液は、生理食塩水といわれるがNa濃度もCl濃度も生理的ではないし、英語でノーマル・セーラインというが何がノーマルなのかよくわからない、というくだりはよく聞く(生理食塩水が嫌いな作者が歴史を詳述したClin Nutr 2008 27 179がよく引用される)。

 ただし食塩水の電離係数が0.93なので浸透圧が154+154の308mOsm/kgではなく286mOsm/kgと等張だ。それで赤血球は溶血しないし、SAFEトライアルで脳外傷患者にたいして低張のアルブミンより脳浮腫を予防し優れた結果を残しもした。

 そのSAFEトライアルではアルブミン、CHESTトライアル(NEJM 2012 367 1901)ではHESとの比較で勝ち残った0.9%NaCl輸液だが、これらのスタディがいずれもオーストラリア・ニュージーランドで行われていることに気づいた人も多いだろう。どうして輸液のスタディを組みまくっているのか知っている人がいたら教えてほしい。

 なお、オーストラリアはSAFETRIPS(Crit Care 2010 14 R185)という輸液の国際比較スタディまで組んでいる。2007年の各国ICUの状況を「スナップショット」にとるとこうなった。


 こうしてみるとアメリカで晶質液、イギリスで膠質液を主に使っていたのがとびぬけているが、近い隣国なのにオーストラリアがイギリスのように膠質液中心なのにニュージーランドは晶質液が中心だ。膠質液の種類でみても、オーストラリアはアルブミンとゼラチンが半々、ニュージーランドはほとんどHESと全然違う。おたがい主張してスタディで決着することにしたのだろうか。SAFETRIPSの続編で2014年の状況をまとめたFluid-TRIPSもそのうち発表されるので興味深い。

 さて、オーストラリア・ニュージーランドがつぎに送る0.9%NaCl輸液へのチャレンジャーがPlasmaLyte®で、2015年にSPLITトライアル(JAMA 2015 314 1701)として発表された。ニュージーランドの内科・外科ICUの患者約2000人を対象に、一定期間ICUごと0.9%NaClまたはPlasmaLyteだけを使ってもらった(バッグには「A液」「B液」とだけかかれブラインドされた)。結果、RIFLEでみてもKDIGOでみても透析依存でみても、AKI発症に有意差はなかった。ICUごと、敗血症や外傷の有無などで分類しても差がなかった。


 というわけで著者は「(やっぱり)晶質液のresuscitationは0.9%NaCl」と言っている(Crit Care Med 2016 44 1538)。批判は、投与された輸液量が2Lと少ないこと、患者さんの重症度がわりと低いこと、Cl濃度が測られておらず両輸液のちがいがどこまで影響しているかわからないことなどがあげられる(JAMA 2015 314 1695)。これらの課題をおそらく克服した、より大規模なPLUSトライアルが患者さんを募集中というから、また南半球からビッグな論文がでるのを期待したい。

 それまではどうしよう?SPLITはよく組まれたスタディだから、そこまで重症でない入院患者で2L程度最初に輸液するだけなら、かならずしも0.9%NaCl輸液を嫌う必要はないのかもしれない。理論上多少高Cl血症になり腎血流が減るかもしれないが、AKIや死亡率には影響せずにしばらくしたら戻るかもしれない。

 大量に輸液しなければならないときはどうか?前向きスタディは、ない。メタアナリシス(Br J Surg 2015 102 24)では、死亡率に差はない(図)けれどAKIや代謝性アシドーシスには弱い相関があった。



 いっぽう、最近出た一施設ICUの60ml/kg/d以上輸液を要したコホートの後ろ向きスタディでは、Cl負荷と死亡率には相関があったがAKI・代謝性アシドーシス(base deficit 2mEq/l以上)には相関がなかった。というわけでミックスした結果なのでなんともいえない。カリウムが入っているほうがいいとか、等張なほうがいいとか、個別になんとなく選ぶしか、ないか。

[2018年10月追加]Fluid-TRIPSがでていた(PLoS One. 2017 12 e0176292)。結論は、コロイド主体だった各国と地域で、英国を除き晶質液の使用が有意に増えていた。調査したICU全体の輸液では、80%が晶質液という結果になった。また興味深いのは晶質液の内訳で、0.9%NaCl液よりもより生理的な輸液(buffered salt solution, BSS)のほうが多かった。




 

高Cl血症とSIDアシドーシス

 0.9%NaCl輸液をつかうとアシドーシスになるとして、それがまずいのだろうか?0.9%NaCl輸液につて、賛成と反対の立場から書いた論文がKidney Internationalにでていた(賛成はKI 2014 86 1087、反対はKI 2014 86 1096)が、じつはどちらの立場もアシドーシスがわるいとはあまり言っていない。

 0.9%NaCl輸液がAKIや死亡率上昇に相関するスタディは、とくに集中治療の分野で多くだされている。ただし、ここでAKIの主因に考えられているのは高Cl血症による腎血流低下(動物実験だけでなく、健常者のボランティアでも示されている;Ann Surg 2012 256 18)で、そのメカニズムとしてマクラデンサを介したT-Gフィードバック(図はKI 2014 86 1096)が考えられている。ほかに、Cl貯留による浮腫・腎内圧亢進など。



 だから、アシドーシスじたいの害かどうかはわからない。実験動物にHClを点滴して高Cl代謝性アシドーシスにするとサイトカインやNFκBがふえるという論文もある(Chest 2006 130 962)が、アシドーシスにはヘモグロビンの酸素解離曲線を右に押し下げ(Bohr効果)組織の酸素化を改善する(Br J Anaesth 2008 101 141)ともいわれる。

 むしろ、アルカリ化でAKIを予防しようと心臓手術の麻酔開始時から24時間重曹を輸液した群と0.9%NaCl輸液した群を比較したスタディもあった(PLOS Med 2013 10 e1001426)が、かえってAKIと死亡率が悪化して、中断された。もっとも、このスタディでは重曹群でアルカローシスになったのに0.9%NaCl群でアシドーシスにはならかったので、重曹群でアルカローシスの害が出ただけのかもしれないけれど。

 高Cl血症とSIDアシドーシスはスチュワート的には同義かもしれないけれど、Cl自体の害とアシドーシスの害はまた、ちがうのかもしれない。



2017/04/26

スチュワート法のエッセンス 2

 電気的な中性と水の電離定数がきまっているというルールのもとでSID、弱酸の総濃度、pCO2がH+濃度を決めるというスチュワート法の、使い勝手がいい道具はないか?いちばん簡単なSIDの指標は、ナトリウムイオンと塩素イオンの差だ。K、Ca、Mg、乳酸などの濃度はナトリウムと塩素イオンに比べてとても小さいので、このふたつだけでSIDとほぼ相関する(よくとりあげられる論文はICU患者で測ったJ Crit Care 2010 25 525、縦軸がSIDで横軸がNa-Cl)。



 HCO3-を生化学で測らない日本では、以前から次善の策としてナトリウムと塩素イオンの差が酸塩基平衡の推定に用いられてきた。これがHCO3-とAGの和になると考え、それぞれの正常値(24、12)の和である36より低ければアシドーシス、高ければアルカローシスと言う具合だ。
 
 しかしAGやpCO2を無視しており、これらだけで酸塩基を考えるのは乱暴な気もする。たとえば、Na-Clが下がっていても呼吸性アルカローシスを代償してHCO3-が下がっているかもしれない。AG開大アシドーシスでAGが増えたのと同量のHCO3-が減っていればNa-Clは動かない。これらの心配があってもなおNa-Clが使えるのか?

 結論から言うと、生理学アプローチといわれるボストン法とちがってスチュワート法には本来代償という概念がない(AJKD 2016 68 793)。あえて極論すれば、SIDが下がったらそれだけでH+が動くわけだから、アシドーシスは存在すると考える(SIDアシドーシスという)。臓器や組織がどうかではなく、水溶液とその溶質が主眼なので物理化学アプローチともいわれる。

 だからSIDとNa-Clが相関する以上Na-Clが低ければSIDアシドーシス、高ければSIDアルカローシスと言ってしまう。このあたり腎臓内科医としては抵抗があると思う。じっさい、AJKDにボストン法とスチュワート法を比べる前掲レビューがでたあとに、集中治療医と著者の腎臓内科医のあいだでNa-Clについてバトルがおこった(doi:10.1053/j.ajkd.2016.12.019、doi:10.1053/j.ajkd.2017.01.039)。

 AGについてはどうか?AGは測定できない陰イオン(UMA、unmeasured anion)の総和で、SIDのなかに入っている。だからSIDから測定できる陰イオンであるHCO3-とアルブミン(リン酸、乳酸を入れる場合も)を引いたSIG(ストロング・イオン・ギャップ)で推定する。AGという概念をスチュワート法に入れるためにSIGという言葉を作ったような感もあるから、AGとSIGが相関する(PLOS One 2013 8 e56635)といわれても「それはそうだ」という気がする。

 なお、完全に電離した陽イオンと陰イオンの差SIDのことをSIDa(apparentの略)といい、乳酸などの有機イオンを省いたものをSIDai(iはinorganicの略)という。それに対して、SIGを計算する時にSIDaから引くHCO3-、アルブミン、リン酸などをまとめてSIDe(effective)と呼ぶ。スチュワート法解説の多くはここに労力をさいているけれど、私も含めここで森に迷い込む学習者が多いと思う(結局AGで代用するのに)。

 個人的には、

1.電気的中性
2.水の電離
3.SID

 の三つがスチュワート法のエッセンスだと思う。それらがわかって、0.9%NaCl大量輸液でアシドーシスになることがスチュワート法の考えで理解できればいいのかなと思う。実際、スチュワート先生の啓蒙ウェブサイトにある初学者用チュートリアルもそういっている。もういちどふりかえると輸液のSIDはNa-Clでゼロ。血液のSIDは30-40あるから、混ぜれば血液のSIDがさがりSIDアシドーシスになる。

 一方、「生理的な輸液」と称され生理食塩水から「生理」の字をうばってしまったPlasmaLyte®などはSIDが正常だ(Na 140、Cl 98mEq/l)。ただしスチュワート的に平和なこれらの輸液がほんとうに0.9%NaClより優れているかは、別の話。つづく。


2017/04/25

スチュワート法のエッセンス 1

 生理食塩水を最近は0.9%NaCl輸液と呼ぶことがおおい。これを大量輸液すると高Cl-代謝性アシドーシスになる。婦人科手術で0.9%NaCl輸液を輸液した群とLRを輸液した群をくらべると前者でpHが下がっていた論文が有名(Anesthesiology 1999 90 1265)だが、この現象自体はよく知られているし、これがおこることに異論はない。問題は解釈と臨床的な意義だ。まず解釈についてふれる。

 高Cl輸液で代謝性アシドーシスになるのは、HCO3-が希釈されるというのがHenderson-Hasselbachの考え方で、裏返しはコントラクション・アルカローシスだ。それに対して、Cl-濃度が増えるからアシドーシスになるというのが、スチュワート法の考え方だ。複雑なギャンブルグラム(米国の生理学者 James L. Gamble先生が提唱した、陽イオンと陰イオンをつみあげた2本の棒グラフ;図はAJKD 2016 68 793)や計算式が学ぶ者のやる気を阻むスチュワート法だが、とりあえず上記の例で考えるとエッセンスはつかめると思う。




 スチュワート法は二つの原理を基本にしている(BioMed Research International 2014 Article ID 695281)。ひとつは電気的中性で、陽イオンの総和と陰イオンの総和は等しい。だから、血中Na濃度が140mEq/l、Cl濃度が106mEq/lのところにNa濃度が154mEq/l、Cl濃度が154mEq/lの輸液をすればCl-が溢れ、そのままでは身体が陰性に荷電してビリビリする。でも電気的中性はゼッタイだからそんなことはおこらない。

 そこでもうひとつの原理、水の電離定数がでてくる。すなわち、[H+]と[OH-]の積は25度で10のマイナス14乗と決まっている。このおかげで、Cl-が増えた分、水が電離しH+がふえてOH-が下がるようにバランスをとってくれる。この書き方がポイントで、スチュワート法ではCl-が増えたのが「主」、それによってH+がふえるのでH+の変化は「従」、と考える。

 Cl-が増えたことを、スチュワート法ではSID(Strong Ion Difference)が減ったという。Strong ionというのは生理的なpHで完全に電離しているイオンのことだ。たとえばHCl(塩酸)は強酸だから、pHがちょっと変わったからといってCl-イオンとH+がくっついて電気的に中性なHCl分子になったりしない。あくまで陰イオンとして居座るイメージだ。このように「強い」陽イオンと陰イオンの差がSIDで、これが減ればH+は増える(アシドーシス)し、ぎゃくに増えればH+は減る(アルカローシス)。

 このようにpHを規定する「主」の因子はスチュワート法では3つあるが、一番効くのはSID。ほかの二つは弱酸総濃度(HA ⇔ H+ + A-の平衡にあるHAとA-のトータルだからAtotと書く)、CO2分圧だ。スチュワート法では、この三つの値がわかっていれば、ほかに電離定数や平衡の定数などいれた4次方程式をとくことで理論上H+濃度を算出できる。参考までに載せておくと:

aH^4 + bH^3 + cH^2 + dH + e = 0
a = 1
b = SID + Ka
c = Ka x (SID - Atot) - Kw' - Kc x pCO2
d = - [KA x (Kw' + Kc x pCO2) - K3 x Kc x pCO2]
e = - (Ka x K3 x Kc x pCO2)

 これがスチュワート法の素晴らしいところでもあり、複雑すぎてついていけないところでもある。Hendersonらのアプローチ(最近はボストン法というらしい)ではHCO3-とpCO2、AGを求めるのにNaとClをいれた4つでよかったのに、スチュワート法では他にCa、Mg、Cl、乳酸、アルブミン、リンが要る。というか、測定できるイオンが増えれば増えるほど式は長くなる。それでコンピュータにプログラムを入れたり工夫しているわけだが、とっつきにくい。

 おもわず好きになってまうねずみのスチュワート(図)のように、フレンドリーなスチュワート法の道具はないのだろうか?つづく。
 




2017/04/20

近位尿細管とアンモニア 2

 近位尿細管にはいったグルタミンはいくつかの経路でミトコンドリアに入り分解される。ミトコンドリア内膜にはPDG(phosphate-dependent glutaminase)があって、

グルタミン → グルタミン酸 + NH4+

 でグルタミン酸になる。グルタミン酸はグルタミン酸脱水素酵素(GDH)により

グルタミン酸 → αKG(αケトグルタル酸) + NH4+

 で、クエン酸回路の中間体であるαKGになる。NH4+が外れたあとは、リンゴ酸になり細胞質にもどり、オキサロ酢酸からPEPCKでホスホエノールリン酸となって①解糖系からクエン酸回路、②糖新生のふたつの経路をたどる。その結果、それぞれ次式でグルタミン1分子あたり2つずつNH4+とHCO3-ができる。

2グルタミン + 9O2 → 6CO2 + 4HCO3- + 4NH4+
2グルタミン + 6H2O + 3O2 → グルコース + 4HCO3- + 4NH4+
 
となる。突然HCO3-がでてきたが、「〇〇酸」とかいてきたのはCOOH基のH+が電離した陰イオン(H+がついたものを「-ic acid」、電離したものを「-ate」と英語表記するが、よい訳語がない)だ。その分が結局HCO3-になると考えてよいと思う。

 代謝性アシドーシスなどでアンモニア産生がふえるときには、以上の反応が進むためPDG、GDH、PEPCK酵素の活性があがる。またミトコンドリアへのグルタミン取り込みをふやすグルタミンユニポーターもしられている。

 なお糖新生でできたグルコースはGLUT1、2を介して血中にでていく。アシドーシスになると糖新生がふえて耐糖能異常になりやすいという説もあるが、議論がわかれている。いずれにしても腎臓が糖を再吸収しているだけでなく糖新生もしている(ふだんでも血中にでていくグルコースの20%くらいは腎臓の糖新生由来とか;Diabetes Care 2001 24 382)、というのは意外と知られていない事実かと思う。砂糖工場だ(写真はSUGAR FACTORYラスベガス店)。

 こうして生まれたNH4+はどうなる?つづく。


2017/04/18

近位尿細管とアンモニア 1

 以前にアンモニアが腎臓でどのように移動しているかをまとめた。図にするとこういうことだ(Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11より改変)。アンモニアは尿中のほかの溶質とちがってろ過されてくるのではなく、近位尿細管でつくられネフロンを流れる。ループ上行脚のNKCC2でK+のかわりに再吸収され間質にはいる。一部はまたループの下降脚から内腔に戻りリサイクルされ、一部が集合管から排泄される。




 尿中アンモニアと腎予後の論文(doi:10.1681/ASN.2016101151)が注目されてもいるし、これから「HCO3を保てばいい」という代謝性アシドーシス診療が変わるかもしれない。そこで、腎とアンモニアについて基礎から振り返ってみよう(参考にしたのは今年2月にででたPhysiol Rev 2017 97 465、下図も)。まずはアンモニアの生成から。




 以前に近位尿細管で1分子のグルタミンから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来ると触れたが、グルタミンはどこからくるか?糸球体をろ過されアミノ酸トランスポーターB0AT1などでほぼ100%吸収される。そのうち分解されてNH4+、HCO3-になるのは一部で、余った分はY+LAT1-4F2hcやLAT2-4F2hcから間質にでていく(かわりにTAT1から芳香族アミノ酸が入ってくる)。略語が多いが、これらのついての説明は別に書く。

 代謝性アシドーシス、あるいは酸の負荷が過ぎる、低カリウム血症などでNH4+排泄を増やしたいときに近位尿細管細胞はどうするか?ろ過されたグルタミンだけでなく間質からもグルタミンを取り込むことがわかり、これは基底側にあるSN1とよばれるNa+依存グルタミントランスポーターによっておこなわれる。上記の条件下でSN1の近位ネフロンで発現範囲と発現量がふえることがわかっている。また取り込んだグルタミンが出て行かないようにか、Y+LATの発現は減る。

 とりこまれたグルタミンはどうなるか?つづく。

 

2017/04/10

尿のアンモニアが予後予測につながる?(Urine Ammonium Predicts Clinical Outcomes in Hypertensive Kidney Disease)

ご無沙汰しています。
4月の投稿の初回です。間が空いてしまいすみませんでした。

今回の投稿は尿中アンモニアの話です(JANS 2017)。
アシドーシスの場合には一般的には腎臓(尿)からHNH4の形で排出される。
尿中アンモニアは尿の緩衝系で働いており、尿中アンモニア排泄の低下は慢性腎不全において代謝性アシドーシスを引き起こす(酸の排泄低下により)。
つまり、尿中アンモニア排泄低下→これがアシドーシス進行や早期の腎不全の予後予測マーカーになるのではということを見た研究になる。

今回の論文は1044人のAASK ( African American Study of Kidney Disease and Hypertension)のデータから取って見ている。
平均のアンモニア排泄量は19.5mEq(6.5-43.2mEq)であった。
排泄量を
①(low group):10.5mEq(4.2-14.8mEq)
②(median group):19.4mEq(15.6-23.5mEq)
③(high group):31.4mEq(24.9-53.1mEq)
に分けた。
結果では、③のグループ(ちゃんと尿中からアンモニアを排泄している群)に比べて、末期腎不全や死亡のリスクが、①のグループのHazard ratioは1.46(1.13-1.87)、②のグループは1.14(0.89-1.46)で上昇していた。



アシドーシスがない慢性腎不全群で見た場合に尿中アンモニア排泄を20mEqをカットオフとして、20以上排泄に比べて、20未満の排泄であれば1年でのアシドーシス発生の頻度が優位に高く、また末期腎不全や死亡のリスクが高かった。



この論文からは高血圧性の慢性腎不全において、アシドーシスがその際に存在していようがいまいが、尿中アンモニア排泄の低下は死亡や末期腎不全のリスクを上昇させると結論づけている。

尿中NH4は日常的に測定できるものではなく、尿AGが用いられており、それを代用とした研究も進んでいるのが事実である。