日本には150mEq/lの炭酸ナトリウム輸液はないのかと思っていたが、友達の病院にはあるという。幻?と思っていたら、ちゃんとあった。炭酸水素Na静注1.26%バッグ「フソー」という(友だちが言っていたのは別の商品名だった気もするが、とにかくある)。1992年から販売されていて、アシドーシス以外にも蕁麻疹やめまいに適応があるらしい。
でも、なくても作れる。7%メイロン60ml(3管)には50mEqのNaHCO3がふくまれているから5%ブドウ糖液500mlバッグから90ml捨ててメイロン90mlを混注すれば、同じ濃度のものができる(8.4%メイロンはわかりやすくて1mEq/mlなので、同じことを75mlですればいい)。
…という計算をおこたってきたばっかりに、たとえば激しい下痢による体液減少にともなう重症の(HCO3-が10−12mEq/l以下、あるいは呼吸性代償でへとへとになっている)AG非開大代謝性アシドーシスのような、明らかに150mEq/lの炭酸ナトリウム輸液をつかうべき機会を何度もふいにしてきた。
ただし、よく知られているように代謝性アシドーシスにおける炭酸水素ナトリウムの治療には細胞内アシドーシスを悪化させるとか呼吸が悪い人では体内で変換されたCO2が貯まるとか問題もある。
ただ重度のアシデミアはカテコラミンの反応性を落とすだけでなく、心収縮力を低下させ(細胞へのCa2+流入をH+が競争的に阻害するのが主因だとか)、動脈拡張、静脈収縮、不整脈などをおこし血行動態を不安定にするから、そのようなばあい「溢水の心配がない限り」炭酸水素ナトリウムで治療してもよいとある(だから、こないだ書いた腎皮質壊死のように尿が出る見込みのないひとには難しい…あくまで透析までのつなぎだ)。
KDIGO AKIガイドラインにはpHいくつ以下の重症アシドーシスで透析するかという質問に答えるエビデンスはなく、数字のトレンドや基礎疾患などに応じて決めるとある。UpToDateには7.1以下とあり、その根拠は7.1以下で上述の血行動態異常がおきるためとしている。