2016/02/08

Lactic Acidosis and Lymphoma

 リンパ腫で重度の乳酸アシドーシスを合併することがある。機序には肝障害、解糖系の亢進(hexokinase II、IGF-binding protein遺伝子の発現亢進、ミトコンドリア膜電位の喪失など、doi:10.1155/2009/534561)、腫瘍の成長がはやく血管新生が追いつかず内部環境が嫌気状態になる、などいろいろ考えられている。これらのいわゆるB型乳酸アシドーシスのほかに、低血圧、低酸素、敗血症などによるA型乳酸アシドーシスを併発していることもある。治療は現疾患の治療だが、きわめて予後不良だ(死亡率80%以上、Seminars in Oncology 2013 40 403)。Cairo and Bishopによる腫瘍崩壊症候群の診断分類に乳酸アシドーシスは含まれていないが、アポトーシスにより乳酸が産生されるという報告もある(Br J Haematol 2001 114 574)。化学療法をはじめて、重症乳酸アシドーシスを透析でしのいだという報告もあるが(NDT 2007 22 2383)、A型乳酸アシドーシスを合併していたり、アシドーシスの是正が追いつかなければ仕方ない。
 なお腫瘍細胞が好気環境でも嫌気環境でも解糖系が亢進していることをWarburg効果といい、FDG-PETはdeoxyglucoseが解糖系の亢進した細胞に取り込まれることを原理に利用している。リンパ腫は取り込みがとくにさかんで診断に利用されるが、じつはリンパ節のなかでFDGを取り込んでいるのは間質細胞で、腫瘍細胞は間質細胞がつくった乳酸を取り込んでさかんにミトコンドリアで利用している(つまりリンパ腫において乳酸アシドーシスはparaneoplastic syndrome)ということを組織の免疫染色で示した興味深い論文があった(乳酸産生にかかわるPKM1、PKM2、乳酸のエクスポートにかかわるMCT4は間質細胞でよく染まり腫瘍細胞ではほぼ染まらない、など;Seminars in Oncology 2013 40 403)。これはreverse Warburg effectと呼ばれているそうだ。それにしても代謝経路は複雑で、壁に代謝マップを貼っておきたくなる。