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2015/05/18

HRS

 肝硬変においては門脈圧亢進とbacterial translocationに伴う腸管NO産生によるsplanchnic vasodilatationで血液のpoolingが起こり、結果effective arterial blood volumeが減って腎臓がunder-filledになる(NEJM 2009 361 1279)。この大前提をHRS(hepatorenal syndrome;肝腎症候群) physiologyと呼んだりしていた。しかしHRSとHRS physiologyは少し違う。HRSは、HRS physiology以外の要因がないにもかかわらず純粋なHRS physiologyで腎が干上がってpre-renal azotemiaになることを言う。

 だから理論上はHRSでは肝臓がすべて悪くて腎臓はまったく悪くない(から肝移植すればよくなるはずだし、ドナー提供意思のあるHRS患者さんが亡くなってその腎を移植すれば正常に機能するはずである、あくまで理論的には。それについては以前に書いた;リンク1リンク2リンク3リンク4リンク5)。つまりHRSは利尿剤によるeffective arterial blood volumeの減少、低アルブミン血症、出血性ショック、NSAIDsなど薬剤、B/C型肝炎・ウィルソン病など肝臓にも腎臓にも障害を起こすものなどを除外して診断する。具体的な診断基準は(AJKD 2012 59 874);

 ①腹水のある肝硬変
 ②S-Cr>1.5mg/dl
 ③二日以上利尿剤を中止しアルブミンを負荷(1g/kgまたは100g)してもCrが改善しない
 ④ショックがない
 ⑤腎毒性の薬剤使用がない
 ⑥腎実質の疾患がない(蛋白尿>500mg/d、血尿>50RBC/hpf、腎エコーの異常所見)

 心腎症候群は大して臨床的意義なく五分類されているが、肝腎症候群は1型と2型に分かれその臨床的意義は大きい。1型HRSは急速に腎機能が悪化するものをいい、2週間以内でS-Crが倍になるか2.5mg/dl以上に達する。治療しなければaverage median survivalは2週間だ。2型HRSは1型に当てはまらないより緩徐な腎機能の悪化をいう。2型HRSのaverage median survivalは約半年とされる(下図)。


 1型HRSは基本、肝移植が第一選択だ。そうしないと死亡率が余りに高いので、MELDスコアにもS-Crが入っているわけだ。しかし肝臓がどっかに落ちているわけではないので、それまでは血管収縮薬とアルブミンの併用が行われ、データがあるのはterlipressinだがmidodrineやnorepinephrineを用いることもある。2型HRSの治療も根治的には肝移植だが、こちらは治療の有効性を示すよいデータがあまりない。この論文は大容量腹水穿刺(+アルブミン補充)、norfloxacin(bacterial translocationを防ぐためだろうか)、血管収縮薬がリストされていた。大容量腹水穿刺を繰り返すのが面倒ならALFApump®といって持続的に腹水を膀胱に流すデバイスを使ってもいいかもしれない(下図;日本にもあるのかな)。



 HRSの予防は良いデータがない。アルブミンのルーチンな補充は現在では推奨されていない。Norfloxacinの予防内服は小さなデータがあるようだ。急性アルコール性肝炎におけるHRSの予防でpentoxyfyllineが試されたことがある(がpentoxyfyllineはHRS予防じゃなくてもアルコール性肝炎にどのみち用いられるはず)。V2 selective receptor blocker(vaptan)が予防するかもしれない。データがないから著者も小さなスタディを見つけて書きたい放題だ。
 とまあHRSについて書いたが、うえに紹介したNEJMとAJKDのレビューが秀逸なのでそれを参考にしたらいいと思う。教科書的な投稿になってしまって申し訳ない。もっと熱血だったり面白みがあったりしたほうがこちらも書き甲斐があるし読者のみなさんも読み甲斐があるだろうに…。でもまあいいか、たまにはこういう平穏な投稿があっても(朝カンファで「HRSだけで30分語れる」と発言したら「じゃあやって」と言われたので有限実行で書いている)。

 [追加]HRS-type AKIに関する国際腹水クラブのレビューが出た(J Hepatol 2015 62 968)。まだ詳しく読んでないが、診断基準からS-Crの値が消えて、そのかわりに国際腹水クラブが提唱するAKIのステージングを採用している。治療の基本原則とコンポーネントはほぼ変わりないようだ。

2012/06/21

Thin Red Line between SLK and LTA 2/4

 では、どんな人が肝臓移植後に腎不全が残るか悪くなるのか。これがmillion-dollar questionだ。1990-2000年、つまりMELD前の時代のSRTRデータを分析してCKD(GFR30未満、あるいは透析依存)のcummulative incidentを調べた論文があり、それによれば肝移植後のCKD累積発病率は5年間で18%だった(NEJM 2003 349 931)。さらにmulti-variate Cox regression analysisを行い、年齢、移植前のGFR、移植前の透析、C型肝炎、高血圧、糖尿病などがリスク因子とわかった。

 もう少し系統的に言うと、①移植前の腎機能(肝腎症候群、それ以外の急性腎障害、慢性腎臓病、透析期間)、②CNI(calcineurin inhibitor、tacrolimusとcyclosporine)、③年齢、④周術期の腎障害、⑤C型肝炎とそれに関連した腎炎、⑥BKウイルスなどを考慮する必要がある(JASN 2007 18 3031)。もっとも、肝移植後のBK腎症はあまり多くないらしいが(Transpl Infect Dis 2006 8 102)。

 ①についてメインに取り上げると、2002-2007年のUNOSとUSRDS(United States Renal Data System)データを両方つかって肝移植までの透析期間と移植後の腎機能を分析した論文がある(Liver Transplantation 2010 16 440)。透析期間が30日未満の群では70%が移植後透析不要になり、30-60日の群で56%、60-90日で23%、90日以上で11%だった。「透析不要になったのは患者さんが亡くなったから(is this death-censored)?」という批判に答えるため各群の移植後生存率も示され、透析期間が90日以上の群を除けばsurvival curveはほぼ同じだった。

 また、2000-2005年にかけてのペンシルベニア大学のデータでは、移植前にクレアチニンが1.5mg/dl以上の期間が12週間以上続いた群で約25%が5年間でGFR以下になったのに対し、12週間未満はほんの数%しかならなかった(Liver Transplantation 2008 14 665)。しかしこれらのデータは腎機能障害の原因によって患者さんを分けていないので、「肝腎症候群(HRS)のように肝移植後に腎機能が戻ると考えられている例でも、腎不全が長引けば肝移植しても腎機能は戻らないの?」という問いには答えられない。

 HRSについては、1988-2004年にかけてのUCLAのデータがある(Arch Surg 2006 141 735)。HRSで、透析期間が30日以下で、肝臓のみ移植された80人は、術後にmedianで9日間透析を要したが、ほぼ全員(約95%)が一か月もすれば透析不要になった。ただし生き残ればの話で、この群の1年生存率は66%だった。それに対し、肝腎症候群でSLKを受けた患者さんの生存率が透析期間によって異なるかを調べたところ、8週間未満で64%、8週間以上で88%だった。例によって、これが腎臓を一緒に移植したからなのかは、分からないのであるが。

 「腎臓病の種類によって予後が違うというなら、腎生検してはどうか?」というスタディがメイヨークリニックでなされた(AJT 2008 8 2618)。2005-2008年にかけて44件のどっちつかずの症例について腎生検したところ、じつに多彩な病変が見られた。43%がHCV陽性であったせいもあるだろうが。これらは、生検しなければ分からなかったであろう、というのも血尿やタンパク尿が見られた例は約半分しかなかったし、ましてFENAはほぼ全例1%以下(underfilled kidney、門脈圧亢進により腎臓が干されているということ)だった。

 彼らの結論は、生検結果が①糸球体硬化が40%以上、②間質線維化が40%以上、③びまん性のMPGNのいずれかが見られれば腎予後不良としてSLKに振り分けるというallocation ruleが適切であったというものだ。移植後のフォローアップ(GFRなど)でみるかぎりplausibleな結果だった。inter-observer variabilityもなかったという。しかし見逃せないのは二単位以上の輸血、あるいはIR(interventional radiology)による止血手技を必要とする合併症が18%に見られたことだ。つづく。


2012/02/25

肝臓 and/or 腎臓

肝腎症候群の患者さんでは、肝臓のせいで腎臓がうまく働けないだけで、肝移植したら腎臓は正常に機能するはずである、というのが理論上の説明だ。実際、昔の論文で上手くいった例はある。一つは(NEJM 1969 280 1367)肝腎症候群で亡くなった患者さんの腎臓を別の人に移植したらちゃんと機能したというもの。もう一つは(NEJM 1973:289 1155)肝腎症候群の患者さんの腎機能が肝移植後に回復したというもの。

 注目すべきはazotemiaの期間が5-104日と比較的短かったことだ。今の指導医によれば、透析導入して3カ月たったような場合にはいくら肝腎症候群であっても、患者さんの腎が肝移植後に回復することは余りないという(要出典)。それでどんな場合に腎機能回復が見込まれ、どんな場合に見込まれないのか調べた人がいないかなと思って調べてみた。

 一つの文献(NDT 2006 21 478、single-center retrospective study)では、28人中16人で肝移植後に腎機能が改善した(透析依存にならずScrが1.5mg/dl以下)。腎機能が回復した患者さんのほうが若く術後7日目のビリルビン値が低かった。そして腎機能が回復しなかった患者さんのほうが原疾患としてアルコール性肝炎が多く、術後により透析を必要としていた。non-responderのほうが移植前のScrが少し高かったが、これは統計的にnon-significantだった。

 どうしてこんなことを調べていたかと言うと、肝硬変に腎不全を合併してGFRが25ml/minくらいまで低下した人がいて、移植外科医が「この人に(肝臓のみならず)腎臓も移植したほうがいいかな?」と聞かれたからだ。この人は肝腎症候群とはっきり言えない面があるし、GFR 25ml/min程度ですでに3か月が経過している。それで移植後に体液バランスの崩れや免疫抑制剤(calcineurin inhibitorの腎毒性)などで腎機能は低下すると考えられ、腎臓も移植するようにリコメンドした。

 肝臓だけ移植して、腎機能が悪化して透析導入になれば、そこで別のドナーからの腎移植を考えなければならないが、ドナーの数は少ないほうが免疫上都合がよい。そしてKAL(kidney after liver)移植は肝腎同時移植にくらべて成績が悪いことが分かっている。でも、肝腎移植したはいいが患者さんのnative kidneyが働き始めたら、あげた腎臓は不要だったということになる。もっとも外から見ただけでは、どちらの腎臓が働いて尿を作っているか分からないのであるが(differential GFRを調べれば別)。