だから理論上はHRSでは肝臓がすべて悪くて腎臓はまったく悪くない(から肝移植すればよくなるはずだし、ドナー提供意思のあるHRS患者さんが亡くなってその腎を移植すれば正常に機能するはずである、あくまで理論的には。それについては以前に書いた;リンク1、リンク2、リンク3、リンク4、リンク5)。つまりHRSは利尿剤によるeffective arterial blood volumeの減少、低アルブミン血症、出血性ショック、NSAIDsなど薬剤、B/C型肝炎・ウィルソン病など肝臓にも腎臓にも障害を起こすものなどを除外して診断する。具体的な診断基準は(AJKD 2012 59 874);
①腹水のある肝硬変
②S-Cr>1.5mg/dl
③二日以上利尿剤を中止しアルブミンを負荷(1g/kgまたは100g)してもCrが改善しない
④ショックがない
⑤腎毒性の薬剤使用がない
⑥腎実質の疾患がない(蛋白尿>500mg/d、血尿>50RBC/hpf、腎エコーの異常所見)
心腎症候群は大して臨床的意義なく五分類されているが、肝腎症候群は1型と2型に分かれその臨床的意義は大きい。1型HRSは急速に腎機能が悪化するものをいい、2週間以内でS-Crが倍になるか2.5mg/dl以上に達する。治療しなければaverage median survivalは2週間だ。2型HRSは1型に当てはまらないより緩徐な腎機能の悪化をいう。2型HRSのaverage median survivalは約半年とされる(下図)。
1型HRSは基本、肝移植が第一選択だ。そうしないと死亡率が余りに高いので、MELDスコアにもS-Crが入っているわけだ。しかし肝臓がどっかに落ちているわけではないので、それまでは血管収縮薬とアルブミンの併用が行われ、データがあるのはterlipressinだがmidodrineやnorepinephrineを用いることもある。2型HRSの治療も根治的には肝移植だが、こちらは治療の有効性を示すよいデータがあまりない。この論文は大容量腹水穿刺(+アルブミン補充)、norfloxacin(bacterial translocationを防ぐためだろうか)、血管収縮薬がリストされていた。大容量腹水穿刺を繰り返すのが面倒ならALFApump®といって持続的に腹水を膀胱に流すデバイスを使ってもいいかもしれない(下図;日本にもあるのかな)。
HRSの予防は良いデータがない。アルブミンのルーチンな補充は現在では推奨されていない。Norfloxacinの予防内服は小さなデータがあるようだ。急性アルコール性肝炎におけるHRSの予防でpentoxyfyllineが試されたことがある(がpentoxyfyllineはHRS予防じゃなくてもアルコール性肝炎にどのみち用いられるはず)。V2 selective receptor blocker(vaptan)が予防するかもしれない。データがないから著者も小さなスタディを見つけて書きたい放題だ。
とまあHRSについて書いたが、うえに紹介したNEJMとAJKDのレビューが秀逸なのでそれを参考にしたらいいと思う。教科書的な投稿になってしまって申し訳ない。もっと熱血だったり面白みがあったりしたほうがこちらも書き甲斐があるし読者のみなさんも読み甲斐があるだろうに…。でもまあいいか、たまにはこういう平穏な投稿があっても(朝カンファで「HRSだけで30分語れる」と発言したら「じゃあやって」と言われたので有限実行で書いている)。
[追加]HRS-type AKIに関する国際腹水クラブのレビューが出た(J Hepatol 2015 62 968)。まだ詳しく読んでないが、診断基準からS-Crの値が消えて、そのかわりに国際腹水クラブが提唱するAKIのステージングを採用している。治療の基本原則とコンポーネントはほぼ変わりないようだ。