2015/05/02

Metformin as a potential endocrine disruptor

 病院で医療行為をしているとあたかもそれが病院という閉じた系で完結しているように錯覚することがあるが、当然患者さんがいるのは家庭であり職場であり社会であり、病院もまた社会の一部で外の世界と連結していることは言うまでもない。しかし今回書くのはそれではなく、自分が処方した薬が地球環境や生態系にまで影響を及ぼしている可能性もあるということだ。そんなこと、正直考えたこともなかった。

 ウィスコンシン大学の研究結果(Chemosphere 2015 135 38;まさかこんな論文まで読むことになろうとは…マニアだ)によれば、血糖降下薬のmetforminは、性ホルモンとはまったく違う構造を持つにもかかわらずオスの魚(minnow、姫鮠・ひめはや)の生殖器官を女性化するか、またはオスのままだとしても曝露された魚は生殖力(fecundity)が低下したという。その処方があまりにも大量なので下水処理施設で代謝されきれず、河川に流れ込み湖(今回調査されたのはミシガン湖)に高濃度で溜まっているそうだ。

 Metforminは米国では2型糖尿病の第一選択薬(日本では抗DPP4などの新薬が好んで使われているが)で、安価で比較的安全(乳酸アシドーシスは主にfenforminの話で、metforminと乳酸アシドーシスの相関は私が最後にチェックしたCochrane reviewでは否定されていた;とはいえ全くおきないとは言わないし、腎機能が低下した例では依然禁忌になっているが)なので環境に与える影響が無視できないほど処方されているということか。

 FDA(food and drug administration)はヒトへの安全を管轄する部署だから、日本の環境省にあたるEPA(environmental protection agency)が何らかの規制を掛けるか対策を講じるのだろうか。翻って、病院で発生するバイオハザードと呼ばれる医療感染廃棄物はどこでどのように処理されているのだろう。注射針とか鋭利なものは固い容器に捨てられるが、そのあとどこに行くのだろう。山奥に処理場でもあるのかな。…とここまで考えると、やはり病院は社会の一部だと認識し、病院機能評価やISO14000シリーズなどにも興味が出てくる。

 [2016年6月]環境ホルモンビスフェノールA(BPA)は、ポリカーボネート樹脂にふくまれているので、多くのダイアライザのハウジング(外枠)と膜から流出しうる(実際は燃やすのでどうかわからないが)。またBPAは腎不全患者の血中にたまり心血管リスクや糖尿病悪化に関係するといわれている。

 それでBPA freeなダイアライザがでている。FB-eco®、PES-eco®、MFX(マキシフラックス)-eco®、FIX(ファインフラックス)-eco®シリーズなど。親水化にもちいられるポリビニルピロリドン(PVP)を使わないダイアライザもある。

 なお日本だけで400種類以上のダイアライザ・ヘモダイアフィルタがあるが、膜の材質は7種類だ。技師さんは材質より性能(中分子除去能でI〜V型に分類される)を気にするが、一応特徴を上げると:

ポリスルホン(PS)
 トップシェア
 生体適合性がおおい
 親水化PVPの量が多い、ビスフェノール残基をもつ
 ハイパフォーマンス膜(中分子除去、アルブミン漏出、透析液汚染に弱い)

ポリエーテルスルホン(PES)
 ビスフェノール残基がない

セルローストリアセテート(CTA)
 余計な荷電がなく生体適合性がよい
 膜の細孔構造により透析液汚染につよい
 焼却してもCO2とH2Oしかでない
 抗血栓性
 低分子除去にすぐれるが中分子は苦手
 ドライタイプ、軽量で保管や輸送にすぐれる
 改良型のATA(非対称セルローストリアセテーテト)

エチレンビニルアルコール(EVAL)
 生体適合性がよい
 親水性が高くPVPコーティングを必要としない

ポリメチルメタクリレート(PMMA)
 吸着能に優れる

ポリエーテルポリマアロイ(PEPA)
 ポリアリレートとポリエーテルスルホンのポリマーアロイ
 疎水性つよい、PVPで親水化、透析液のエンドトキシンが血液に流入しない

ポリアクリロニトリル(PAN)、AN69
 積層型(血液圧が高く透析液は血液に入らない;圧が高く破損することも)
 陰性荷電のAN69による塩基性たんぱく、とくにサイトカイン吸着
 ACEIとの反応(アナフィラキシーショック)←第VII因子の活性化でKallikrein-Kinin系が亢進しbradykininが増加するが、ACEIがあるとbradykininを分解するkininase IIが阻害される