移植を受けたい人と、臓器をあげたい人と、移植をしたい施設さえあれば理論上は生体臓器移植が成立するわけだが、その移植医療の質を担保し向上させる仕組みは日本にあるのだろうか。米国のUNOS(united network of organ sharing)はSRTR(scientific registry of transplant recipient)などで各施設ごとや地域ごとのパフォーマンスを公表したり、データ解析の研究を行い質の向上を目指している。国がやっているOPTN(organ procurement and transplantation network)のデータも公開・解析されている(尤も、これらのデータは雑多で、randomizationがなく、後向きなものになってしまうのは否めないが)。
日本でUNOSにあたるのは臓器移植ネットワークにあたるのだろう。臓器移植ネットワークのウェブサイトに行ってみると、公表されているデータは件数や登録者数に留まっている印象だ。それで日本移植学会のウェブサイトに行ってみると、学会がファクトブックを毎年だしてくれており、そこには日本全体での成績が公表されていた。それによれば日本の移植成績は世界一だそうだ。これは素晴らしいことだが、おそらくまだ移植の件数が少ないので、質の高い臓器をリスクの低いレシピエントに丁寧に移植して、極め細やかにフォローできていることが要因として最も考えられる。
世界に冠たる日本の移植医療だが、そのほとんどが生体臓器移植であるからには、ドナーの成績も世界一であってほしい。米国にいた頃は「ドナーには手術侵襲以外のいかなる健康上の悪影響もあってはならない」というルールがかなり厳しく守られている印象で、健康エリートみたいな人からしか移植ができなかった。それでか、生体腎ドナーはgeneral populationに比して同等あるいはより長生きし、末期腎不全になるリスクも変わらない(eGFRは移植前の70%程度にさがるが)。ただし血圧は少し高くなり(以前に変わらないというデータを紹介したが、メタアナリシスによればやはり上がるらしい;Ann Int Med 2006 145 185)、African AmericanとHispanicではとくにそう(NEJM 2010 363 724)というデータが出ている。日本はどうなのだろう。
そんなことを、今日の腎臓関連ニュースレターの論文(Am J Nephrol 2015 41 231)に触れて考えた。論文自体は、生体腎移植ドナーは痛風のリスクはmatched control群と変わらなかったが、痛風を起こしたドナーはAKIやCKDを有意に多く発症していたというもの。また、ドナーで痛風を起こしやすいリスク因子はAfrican American、男性、高齢など(これらはgeneral populationのそれと同じだろうが)だった。痛風や無症候性高尿酸血症とCKDの相関はどちらが卵でどちらが鶏か分からない、みたいな話を以前に書いたが、いまは無症候性高尿酸血症も治療する流れだし、痛風は痛いし、痛風発作の高リスク群ドナーではとくに尿酸をコントロールしたほうがよさそうだ。