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2020/02/21

移植後にMMFの血中濃度気にしていますか?

腎移植後の免疫抑制剤のときの血中濃度について腎臓内科医が考えることとして、

1:タクロリムスの血中濃度の定期的な測定は重要であり必要である。

2:Mycophenolate mofetil(MMF)の血中濃度は測定する必要性は低い

と考える場面が多いと言われていた。
実際、私も今まではこのように考えて診療をおこなってきた。ただ、違う施設にきてから2の血中濃度をしっかり測定していること(タクロリムスはトラフ濃度、MMFはAUC濃度)に非常に関心をして、今回の記事を書いてみようと思った。

今回の記事に関してはTransplantation 2019の論文が非常にまとまっており、この論文を中心に記載をしようと思う。

まず、薬物の話でありPKとPDを簡単に復習をしよう。
・PK(PharmacoKinetics):
投与された薬物がどのように吸収され、組織に分布し、代謝され排泄されるのかを解析している。

AUC24h:血中濃度時間曲線下面積:体内に取り込まれた薬の量を示す指標
Cmax:最高血中濃度


・PD(Pharmacodynamics):
薬物の作用部位における薬物濃度と薬物効果をみている。


MMFに関しては、当初は固定量をしっかりと投与(Fix dose)すればいいと考えられていたが、PKの点において、個体差がかなり大きいことが分かってきた。人によって10倍の差があると報告もされている。
なので、MMFに関してはTDM(Therapeutic drug monitoring)を行うことが良いとされている。とくにAUC 0-12h がいいのではと言われている。

では、一般的な薬において、固定量を投与したほうが良いか?AUCを測定し投与量を決定したほうが良いかに関しては、下記の図を見るとわかりやすい。


この図では、DrugA~Cは固定量、DrugDではAUC測定し量を決定が推奨されている。

理由としては、DrugDは非常にばらつきがある(投与量によっていい効果にもなりうるし、効果がなかったり毒性などの悪い効果もでる。)
→なので、DrugDなどは、TDMを測定しAUCなどを見る意義がある。

DrugA~Cは固定量でもいい(ただ、DrugBは量を多めにする必要があるし、Cは少なめにする必要がある)

このようにばらつきが多いものはTDMを行う必要性が有る。

前置きが長くなってしまったが、今回の論文は
1 MMFを投与することとAUC 0-12h の関連性
2 MMFを投与し、AUC 0-12h を行うことでの毒性の減少に寄与するかを検証している。

この2つに関して、過去の研究を検証している。



結論から書くと、
MMFのAUC 0-12h は薬剤効果を知る上で、投与量よりも有用なマーカーになりうる。ただ、AUC 0-12h をやることのデメリットとしては採血の回数の多さと入院が必要になることである。
MMFを固定量で投与することによって、薬剤過量や過少になったり、毒性を誘発するリスクは高くなる。
なので、基本的にはMMFに関してはAUCを行いう薬剤の調製を行う必要がある。

今回のことを踏まえながら、僕の診療も少しずつ変えていければ良いなと思う。



2018/01/29

マイフォーティック (Mycophenolate sodium)~免疫抑制剤~

 移植の外来をしていて、海外で移植をしてその後のフォローをするときにしばしば内服薬で「プログラフ、プレドニン、マイフォーティック」の内服をしているという場面に遭遇する事が多い。




 当初はマイフォーティックと聞いて何かのアニメなのか?と思ってしまった。このマイフォーティックに関してまとめたいと思う。

 マイフォーテックはMycophenolate sodiumの事であり、まず特徴としてはMMFに比べて腸管での吸収を遅くしている特徴がある。

 MMFを内服していて一定頻度で困るのは消化器症状(下痢)である。この消化器症状を少なくすることは患者の内服コンプライアンスを上げる上で重要である。

 マイフォーティックは移植後の下痢の症状などをMMFに比べて優位に減らしたという報告がされている(Transplant Proc 2009)。しかし、現時点ではマイフォーティックとMMFで移植患者の有用性の違いに関しては報告されていない(Transplant Proc 2010)。

 日本で患者さんがMMFで下痢をした場合に、下痢止めを処方したり、それでも症状が治まらなければ、MMFをAZA(イムラン)に変更したりする。しかし、AZAのがGraft survivalは長期で見た場合に悪い事は既知の事実であり、なるべくならMMFを飲ませ続けたい(短期は違いは少ないので短期間だけの変更ならばいいかもしれないが)。




 そういう点でマイフォーテックはいい薬である。日本ではないため、患者さんにMMFに変更することを伝え、またそれにより下痢の出現があるかもしれない事を忘れずに伝える必要性がある。量に関しては180mgのマイフォーティックと250mgのMMFが同効果であるとされている。

 もうすぐ東京オリンピックも近づいている。その時に海外で移植した患者さんが急に来院する可能性もあり、内服薬に関してもしっかりと理解する事は重要である。




2015/11/22

Xenograft

 ブタのゲノムに混入するレトロウイルス(porcine endogenous retrovirus, PERV…英語でpervといったらpervertつまり変質者の略だが)をCRISPR/Cas9というゲノム編集技術で除去することができるようになったそうだ(私はEconomist誌2015年10月17日付で知ったが、論文はDOI:10.1126/science.aad1191)。

 これは、ブタの腎臓をヒトに移植するうえでの障壁のひとつを乗り越える一歩になるかもしれない。あと大きな障壁は、拒絶と凝固異常と倫理。前の二つはトランスジェニックな臓器を使う研究がされていて、後のひとつは話し合いがされているらしい。




[2019年4月追加]異種移植についての論文がCJASNに掲載された(CJASN 2019 14 620)。課題はやはり上記のようにPERV、拒絶、凝固異常、倫理であるが、それぞれがアップデートされていた。

 まずPERVについては、すでに行われているブタの膵島移植で、いまのところPERVによる感染が問題になったことはないようだ。

 拒絶については、いままで行われたほとんどの異種移植実験が、CD40/CD154(CD40リガンドとも)軸の抑制を拒絶抑制に用いており、そのヒトへの安全性を確認する必要がある。

 CD154はヘルパーT細胞がB細胞を成熟させるためにTCRと共に表出する共刺激経路のひとつで、これがB細胞のCD40と結合することでB細胞が成熟し、濾胞が形成され、免疫グロブリンのクラススイッチがおこる(これが欠損しているのがX-linked hyper-IgM syndromeで、濾胞ができずIgM以外の免疫グロブリンが作られず免疫不全になる)。

 他にも、抗原提示細胞にサイトカイン産生のスイッチをいれたり、さまざまな働きがある(下図は、Immunotherapy 2015 7 399)。リウマチ科疾患や移植領域はすでにこれを治療ターゲットにし始めており、後者ではAMR(antibody-mediated rejection)の予防に応用が試みられている。




 いっぽう、抗CD154抗体の使用は凝固異常と強い相関があり、異種移植で凝固異常がおきる原因はこの抗体のせいではないかと言われるようになった。CD154と血小板にあるαIIbβ3インテグリンの結合を阻害するとか、モノクローナル抗体のFc部分が内皮細胞のFc受容体(FcγRIIa)を刺激するとか、さまざまな機序が推測されているが、詳細はまだわからない。

 最後に倫理面では、治験対象を選ぶ必要がある。末期腎不全は移植以外にも腎代替療法がある(透析)。そこで、おそらく最初に試されるのは、利益とリスクの点で失うものの少ない(移植が困難でかつ透析も困難で予後の限られた)患者群になると考えられる。何をしてよいわけではないから、正式な倫理的手続きを踏まなければならないことは言うまでもないが。

 異種移植は、成功すればそのインパクトは大きい。スケールは違うが、たとえるなら、心臓の生体弁を献体ドナーから得ずに済み、「製品」としてゲットでき、機械弁とちがって抗凝固療法が不要になるようなものだ。今後、試行錯誤の応用をくりかえして洗練されていくことが期待される(写真は1990年に国内発表されてから進化を続けるYAMAHAのトランペットブランド、Xeno)。





 

2013/04/24

A2型

 A抗原のある腎(A型、AB型)を抗A抗体のある患者さん(B型、O型)に移植する、あるいはB抗原のある腎(B型、AB型)を抗B抗体のある患者さん(A型、O型)に移植することをABO不適合移植という。ただしこれにはいくつか付帯事項があり、ひとつはA2型(とA2B型)の腎だ。

 A2型は、H抗原をA抗原に変換する(先っぽのL-fucoseにN-acetylgalactosamineを付ける)A2 transferase活性が弱く、A抗原をあまり細胞膜上に表出できない。だからA2型の腎はBまたはO型で抗A抗体価のひくい患者さんに、A2B型の腎はB型で抗A抗体価のひくい患者さんに、血漿交換もrituximabもなく移植できる。

 それ自体はずっと前から知られており、成績はABO適合移植とそれほど変わらないらしい(Transplantation 1998 65 256)。しかしUNOSはA2型とA2B型腎の取り扱いを各移植施設に任せているのでまだまだこの組み合わせは少なく(Transplantation 2010 89 1396)、O型とB型の移植待ち時間を短縮させるためにも全国レベルで実施すべきと言う人もいる(Clin Transplant 2012 26 489)。

 ただし、A2型はアジア系に大変稀だ。A2型は0%という論文もある(AJT 2007 7 1181の表3、ただし出典がない)し、A型の1/500-1/1000という話もある。B型の患者さん(B型はAfrican AmericanとAsianに多い)が欧米で他ethnicityのドナーから腎移植を受ける時には関係あるだろう。


[2020年6月16日追記]A2型・A2B型の腎グラフトを生体移植されたO型・B型レシピエントを追跡したところ、グラフト生存率は思っているより低かったという報告が、アメリカ移植会議(American Transplant Congress、ATC)で発表された。




 報告は、米国の移植レジストリーSRTRに登録された、2000年から2018年までに304年のA2不適合生体腎移植について、A2適合群とグラフト生存率を比べたところ、原因を問わないグラフト生存率は不適合群よりも低かった(HR 1.30、患者死亡例を除外するとHR 1.60。pはそれぞれ0.04と0.004)。




 ではどうするか?グラフト生存率は低かったが患者生存率は遜色なかった(1・5・10年生存率は不適合群で99・93・79%なのに対して、適合群では98・92・79%)ので、「やむなし」と考える方もいるかもしれない。




 しかしPKD(paired kidney donation、こちらも参照)をすれば、A2型もA型のように適合させられるかもしれない。報告したジョンス・ホプキンス大学のチームはそれを推奨している。

 あるいは、A2型もA型のように免疫抑制や血漿交換の前処置をするかどうか。グラフト機能低下がA2不適合による免疫的機序なのだとすれば、現状の「前処置なしで安全に移植できる(Kidney Res Clin Pract 2015 34 170)」から「少しはやってもよい」に変わっていくかもしれない。


 なお、この発表は本来ならば、5月31日ののポスター・セッションC、「Kidney Living Donor: Selection」53番目の予定だったが(こちらも参照)、完全バーチャルとなった。今年は米国腎臓学会もバーチャルで、8月延期の日本腎臓学会も大半がバーチャル。残念ではあるが、貴重な学びの機会と前向きにとらえたい。



ジャミロクワイ『ヴァーチュアル・インサニティ』
(出典はこちら




2012/12/28

HLA match & mismatch

 HLAマッチとミスマッチは混乱しやすい概念だ。HLA抗原のなかでも腎移植で問題になるのはA、B、DR座だ(他も問題になるという話もあるが、一般的にはこの三座)。それぞれの座には父由来、母由来の抗原があるから(片親由来のA、B、DR抗原セットをhaplotypeと呼ぶ)、3x2で六つの抗原がある。たとえばこのように表示される。


          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44  2,16


 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと1 mismatch。ミスマッチで問題になるのはレシピエントにないドナー抗原(ここではDR16)なので、単にその抗原数を書くのみで分数表記にならない。


          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,8   2,16


 これはマッチで言うと4/6 matchだが(B8とB44、DR14とDR16はマッチしていない)、ミスマッチで言うと1 mismatch(ドナーのB8抗原はレシピエントにあるのでミスマッチにならない)。


          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44   2,2


 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと0 mismatch(ドナーのDR2抗原はレシピエントにもあるのでミスマッチにならない)。実際に移植で問題になるのはmatchよりもmismatch抗原数だ。これが多ければレシピエントがDSA(donor-specific antigen)を作りやすい。

 逆に0 mismatchは腎予後がよいとされ、同じOPO(organ procurement organization)管轄域内でcold ischemia timeが短いならその組み合わせのレシピエントは優遇される。

 DSAがあると何がよくないのか?graft survivalに悪影響をもたらすindependent risk factorなことを示した論文が最近出た(JASN 2012 23 2061)。まあそれは皆うすうす知っていた。だが現行では、移植腎生検でC4d陽性、AMR(antibody-mediated rejection)の組織学的エビデンスがなければDSAだけでは治療しない。というかよい治療法もない。


2012/12/05

非HLA抗原

 非HLA抗原に対する抗体の免疫学、臨床的意義はいずれもやっと研究が始まったエリアだ。その中でもっとも知られている抗原はMICA(MHC Class I-related chain A)、これは主に血管内皮細胞に表出する抗原で、抗MICA抗体はvascular rejectionを起こす。

 抗MICA抗体は独立したgraft lossのリスク因子であることが示された(NEJM 2007 357 1293)。しかし、抗体があるだけでは治療は変わらない。腎生検でperitubular capillaryでのC4dが陽性ならば抗MICA抗体がAMR(抗体を介した拒絶反応)で腎を障害しているかもしれない。


2012/11/03

PKD v. desensitization

 Living donorがいてABOないしクロスマッチが不適合の場合、選択肢はPKD(paired kidney donation)かdesensitizationだ。それぞれの第一人者のトークが聴けた。PKDを熱心に(30-40/year)しているNorthwestern Memorial Hospitalの先生は、自分の経験したnon-simultaneous  extended altruistic-donor chain(NEJM 2009 360 1096)を紹介した後、KPDには脆さ(chainは簡単に壊れる)があるし、cPRAが高ければいくらプールを広げてもマッチする可能性は低いが、効率をあげれば全米で年に1000-2000件は行けるのではないかと話した。

 Desensitizationを熱心にしているJohn Hopkinsの移植外科医は、やはり自分の経験した211例(mean cPRA 82、NEJM 2011 365 318)についてまず話し、術前後にIVIGと血漿交換をおこなうこと、Death-censored graft survival、patient survivalはcompatibleな移植例に比べれば悪い(抗体価の強さに応じてLuminex、Flow、CDCの順に悪い)が、移植を受けずに透析しながらマッチを待つのに比べれば(たとえCDCクロスマッチ陽性でも)良いと主張した。

 次に、LuminexやFlowをクロスマッチに用いる、脱感作にIVIGと血漿交換を用いるなどは全米の施設にほぼ共通したプラクティスと主張した(CJASN 2011 6 2041)。これを彼は"eminence-based medicine(誰かが始め、皆が従い、慣習になる医療)"と呼んだ。Rituximab、Bortezomibの話はでなかったが、Eculizumabの話は出た(NEJM 2010 362 1744、catastrophic APSの一例だが)。

 そのあとPKDとdesensitizationの比較に話は及び、cPRAとDSAと血液型できれいに治療方針を分けていた。Low PRA、low DSA、O donorならKPD、Low PRA、high DSA、O donorもPKD、High PRA、low DSA、non-O donor(とくにAB)、O recipientならまずPKDでマッチしない(モデルで示した論文はJAMA 2005 293 1883)からdesensitization、High PRA、high DSA、non-O donor、O recipientならPKDもdesensitizationも難しい。

 しかし、実際は最後のカテゴリーが一番多い…。彼はPKDでDSA抗体価の少ないドナーをみつけて脱感作するというコンビネーションを薦めていた。ただPKDは前述のようにchainがbreakしてしまうことが多々あり、実際は困難を極める。DSAのタイプ(DQが特に悪い?)についても会場から質問が出たが、まだスタディなどでvalidateはされていないようだ。

2012/05/20

ABO incompatibility

 あるliving donorがあるintended recipientに腎をあげたいと申し出たとする。でもその組み合わせではABO不適合だったら、どうするか。とくに、患者さんがO型の場合、その人は抗A、抗B抗体を両方持っているので、A型の腎臓は患者さんの抗A抗体、B型の腎臓は抗B抗体、AB型の腎臓は抗A、抗B抗体両方による拒絶反応(AMR、antibody-mediated rejection)の危険がある。

 ひとつの方法は、paired kidney donation(PKD)だ。同じように不適合なドナーとレシピエントのペアがたくさんいるので、そのなかでマッチする組み合わせを見つけてswapするということ。もっともシンプルなのは、A型の患者さんに腎臓をあげたいB型のドナーが、べつのB型の患者さんに腎臓をあげるかわりに、そのB型の患者さんに腎臓をあげたい(があげられない)A型のドナーが、A型の患者さんに腎臓をあげる、という交換だ。PKDは韓国で最初に報告された。

 しかし、O型の患者さんはO型からしか腎臓をもらえない一方で、O型のドナーは、腎臓にA抗原もB抗原もついてないので、A、B、AB、O、すべての血液型の患者さんにあげられる。だから、たとえPKDをしてもO型のレシピエントがどうしても長く待たなければならない。そこで、生まれ持った抗A抗体、抗B抗体をできるだけ除去して、なんとかA抗原、またはB抗原のある腎臓を生着させようというのがABO不適合移植だ。

 米国ではJohns Hopkins大学が最もABO不適合移植を先進的に行ってきた(Transplatation 2009 87 1246)。術前治療は血漿交換とIVIGで、抗Aあるいは抗B抗体の抗体価が1:16以下に下がるまでやる。手術前日にもやり、そのあと抗体価が下がっていることを確認する。

 成績は術直後のgraft lossがどうしても一定の割合でおこるが、それを過ぎると、極めてvigilantなモニタリングが必要(protocol biopsyなど)だけれども、成績はABO適合の移植と変わらない(Transplantation 2012 93 603)。ただ少なくともこちらでは、抗体価が1:512以上、AB→Oの不適合、HLAのflow cytometry cross matchも陽性な場合、などはやらない。

2012/03/17

Chimerism

 移植後は、免疫抑制剤を調節して感染症と拒絶反応のはざまで戦わなければならない。それならいっそレシピエントの免疫系をドナーの免疫系にすり替えてしまえば、移植腎に拒絶反応がおこることもなく免疫抑制剤をのまなくてもよくなるのではないか?という考え方がある。

 この場合を、一つの身体に二つのシステムが共存するので、ギリシャ神話の神獣chimeraにあやかりchimerismという。移植腎はいいかもしれないが、ドナーの免疫系がレシピエントの他の細胞をアタックするのではないの?(これをgraft-versus-host disease、GVHDという)という心配もある。

 Bostonのグループの仕事が2008年NEJMに載った(NEJM 2008 358 353)。かなり毒性の強い薬と放射線でレシピエントの骨髄を根絶やしにして、そこにドナーの骨髄を静注する。被験者のレシピエントはみな若く、5人中4人が遅くとも術後一年で免疫抑制剤が要らなくなった。

 残りの1人は、元々PRAが高かった。しかし奇跡的に妹とのcross matchが陰性で腎&骨髄移植に踏み切った。驚くべきことに根絶やしになったはずの本人の免疫系が術後にanti-donor HLA antibodyを作りはじめ、術後10日に免疫性拒絶反応が起きた。血漿交換、ATG、rituximabにも関わらず腎臓は戻らず、その後べつの家族から二回目の移植を受けて腎機能は通常の免疫抑制剤で維持されている。

 そしてこないだやはりBostonのグループの仕事が発表された(Sci Transl Med 2012 4 124ra28)。これはfacilitating-based hematopoietic stem cellという、骨髄由来でCD8陽性だがTCRを欠く細胞を使っている。要するにprecursor dendritic cellのことらしいが、これを使うとtoleranceが導入されやすいらしい。

 ここから先は免疫学の知識がないと何のことやらさっぱりなので、もう少しtransplant nephrologistの先生に学んで帰ってこよう(revisit)と思う。ともかく若くてsensitizeされていないレシピエントで、HLAが1-5/6 matchのliving donor transplantには有効なようだ。ボストンでは治療の一つとして確立されているのかもしれない。

2011/08/16

Anti-HLA antibody

 ドナーがなかなか見つからない患者さんは、desensitizationをしてでもHLA不適合移植をしたほうが、移植せずに透析をして待ち続けるより長生きできるという論文がJournal clubで紹介された(NEJM 365, 318-26, 2011)。

 Donor-specific anti-HLA antibodyは、妊娠や輸血、以前の移植などで作られることが多いが、そうでなくても敏感な免疫の人は元々持っている場合もある。ウイルス感染なども免疫反応を惹起する過程でこれらの抗体を作ることがある。

 この抗体がターゲットとなる抗原をもった臓器をあげたら、免疫の思う壺というか、飛んで火に入る夏の虫というか、移植臓器はdonor-specific anti-HLA antibodyの餌食になってしまう。だからドナーの免疫と移植臓器がマッチすることをあらかじめ確かめる必要がある。

 CDC(complement-dependent cytotoxicity assay)はドナーの血清とレシピエントのリンパ球を混ぜて反応するかをみる試験だ。補体とanti-human globulinをつかって反応を起こりやすくしている。さらに感度が高いのがFCXM(flow-cytometry cross-match)。

 さらに感度が高いのはbead assayで、これはレシピエントとの反応がどうこうというより、単に抗体を検出している。この試験は感度が高い半面、false positiveも高い。言い換えると、非常に抗体価の低いものまで拾ってくるが、これらの抗体がどれだけ移植後悪さをするかは分からない。

 移植にあたってはクロスマッチで反応がおこらない相手を探すのが第一だが、ドナーの30%は残念ながらdonor-specific anti-HLA antibotyを持っており、彼らに適合する臓器を見つけてくることは容易ではない。そこで、ただ待ちぼうけるのではなく、ドナーをde-sensitizeしてはどうかと言う話になる。

 De-sensitizationには大きく二つの方法があり、ひとつは高用量のIVIG、もうひとつは低用量のIVIGと血漿交換を組み合わせたものだ。これを行ってからHLA不適合移植した群は、適合移植の相手が見つかるまで待った群(どちらも移植後は免疫抑制を掛けるが)、相手が見つからずに待ち続けた群に比べて長生きした。

 しかし、どの群もloss of follow upが多く、8年間のフォローアップで得たKaplan-Meier曲線は美しく不適合輸血群の有意な長期生存を示しているものの、説得する真のパワー(計算上の統計学的なパワーでなく)は低い、と先輩フェローがこれをビシッと指摘しており、なるほどなと尊敬した。