2012/03/17

Chimerism

 移植後は、免疫抑制剤を調節して感染症と拒絶反応のはざまで戦わなければならない。それならいっそレシピエントの免疫系をドナーの免疫系にすり替えてしまえば、移植腎に拒絶反応がおこることもなく免疫抑制剤をのまなくてもよくなるのではないか?という考え方がある。

 この場合を、一つの身体に二つのシステムが共存するので、ギリシャ神話の神獣chimeraにあやかりchimerismという。移植腎はいいかもしれないが、ドナーの免疫系がレシピエントの他の細胞をアタックするのではないの?(これをgraft-versus-host disease、GVHDという)という心配もある。

 Bostonのグループの仕事が2008年NEJMに載った(NEJM 2008 358 353)。かなり毒性の強い薬と放射線でレシピエントの骨髄を根絶やしにして、そこにドナーの骨髄を静注する。被験者のレシピエントはみな若く、5人中4人が遅くとも術後一年で免疫抑制剤が要らなくなった。

 残りの1人は、元々PRAが高かった。しかし奇跡的に妹とのcross matchが陰性で腎&骨髄移植に踏み切った。驚くべきことに根絶やしになったはずの本人の免疫系が術後にanti-donor HLA antibodyを作りはじめ、術後10日に免疫性拒絶反応が起きた。血漿交換、ATG、rituximabにも関わらず腎臓は戻らず、その後べつの家族から二回目の移植を受けて腎機能は通常の免疫抑制剤で維持されている。

 そしてこないだやはりBostonのグループの仕事が発表された(Sci Transl Med 2012 4 124ra28)。これはfacilitating-based hematopoietic stem cellという、骨髄由来でCD8陽性だがTCRを欠く細胞を使っている。要するにprecursor dendritic cellのことらしいが、これを使うとtoleranceが導入されやすいらしい。

 ここから先は免疫学の知識がないと何のことやらさっぱりなので、もう少しtransplant nephrologistの先生に学んで帰ってこよう(revisit)と思う。ともかく若くてsensitizeされていないレシピエントで、HLAが1-5/6 matchのliving donor transplantには有効なようだ。ボストンでは治療の一つとして確立されているのかもしれない。