2011/02/27

Lactic Acidosis

 私が一般病棟で診ていた腎不全と肝不全がある人が、非特異的な消化器症状を訴えていたら乳酸値が2-3日の間に10mg/dlに達した。非常に不安な気持ちで腹部CT(とCT血管造影)を行ったが腸管壊死や虚血のサインは全くない。そもそもこの患者さんに腸管壊死があったら、残念な言い方だがすでにこの世にいないはずである。それで他の原因を考えなければならない。肝不全、腎不全とも乳酸値を上昇させうるのは無論だが、それだけでは説明できない何かがあるはずだと思っているうちに患者さんはICUに行ってしまったのだ。
 それで、ICUにいって指導医とこの患者さんの話をしたら論文をくれた。Critical Care Clinicsというサイトにある"Lactic Acidosis: Recognition, Kinetics, and Associated Prognosis"という記事だ。読むと、1976年にCohenとWoodsが乳酸アシドーシスをType AとType Bに分類したとある。Type Aは虚血・壊死・低酸素によるもので、Type Bは肝不全・腎不全・薬物や中毒・酵素異常など解糖系・クエン酸回路・酸化的リン酸化のどこかに支障をきたしている状態だ。その中で、私の患者さんに当てはまりそうなものにThiamine deficiencyがあった。
 Lactic acidといえば予後不良因子として有名である。ICU Bookなどを読んでも、「乳酸値(mg/dl)は死亡率(割)」、すなわち4mg/dlなら40%、8mg/dlなら80%という恐るべき線形的なグラフが載っている。しかし、乳酸血症は非常事態を意味するものの、虚血・壊死・低酸素を除けば乳酸そのものが必ずしも死をもたらす産物というわけではない。むしろ必死にATPを作ろうと非常電源が入っているようなものだ。
 じつはこの患者さんは、私が月の初めに診て入院当日にprotein-losing gastroenteropathy(PLGE)を疑った患者さんなのだ。もはやアルブミンは1.0g/dl、肝不全の精査で消化器内科がめくら滅法オーダーした検査でもceluroplasminが低値、そしていま乳酸血症の原因にthiamin欠乏が浮上し、消化管の吸収障害を強く示唆している。大腸内視鏡は非特異的所見を示したのみで、生検は正常。これらはIBDを除外するのに十分で私からしたら疑いなくPLGEなのだが。
 リウマチ内科も同意して、さあステロイド治療しようと思ったら消化器内科が「どうしても違う」と言い張って、それで(一般内科がそれに従い)何もできないまま患者さんが徐々に悪化してICUに行ってしまった。診たことのない疾患を診断するに勇気がいるのは分かる。確かに稀な疾患だ。しかし疫学・症状・所見・検査結果をもとに診断するという基本に従っておのずと導かれた診断を、消化器内科医が「そんなの診たことない」とか「沽券に関わる」というような詰まらない理由で否定することはできないはずだ。それにたとえ診断が誤っていたとしても、患者さんがステロイドを開始して失うものは何もない。
 弱い、弱い、Hospitalistは弱い。専門内科に頭も上がらないし、患者さんを守る気概にも欠ける。アテンディングが平気な顔をして"She's a mess"とか言う。悲しくて腹が立って仕方がなかった。私はHospitalistが大嫌いだ。アルブミンシンチグラフィができれば診断を証明できてよかったのに、うちの病院では出来ない。彼女が入院した翌日に核医学の先生に相談したら「うちにはアルブミンのtracerなんかないし、作れる核医学専門の薬剤師もいない」と言われた。でもICUの指導医は私と同じ考えで、しかもちゃんとCritical Careの専門だがら外野を黙らせて正しい治療をしてくれそうで嬉しかった。まだ間に合えばいいけど…。

2011/02/10

bone and heart

 Grand Roundで、うちの病院の循環器科医でじつはMayoでcardiology nuclear medicineでfellowshipをしていた女性が、女性の冠動脈疾患をテーマに講演した。ストレス、自己免疫疾患など女性特有のリスク因子があることや、病態もmicrovascular injuryやvasospasmなど男性と異なる場合が多いことを学んだが、さらに興味深かったのはBone-heart axisという概念だった。
 これは、更年期に骨粗鬆症と冠動脈疾患のリスクが同時に上がること、骨はカルシウムの貯蔵庫で冠動脈疾患は動脈の石灰化(カルシウム沈着)なことから、ひょっとしてこれら二つを同時に説明する機序があるのではないかという仮説だ。この仮説を裏付けるように、2010年のJACC(Journal of American College of Cardiology)にOsteoprotegerinという因子が冠動脈疾患のpredictorになりうるという論文が発表された。
 講演によればOsteoprotegerin(OPG)はRANKLのdecoy receptorで、NFκBを阻害するらしい。これにより、免疫細胞や骨細胞(破骨細胞)の働きを調節しているのみならず、血管内膜のプラークを石灰化する働きもあるという。そして前述の論文は、血中OPGが冠動脈石灰化と相関するということを示したと紹介された。発想のダイナミックさに驚嘆した。この論文、病院の図書館でダウンロードして読んでみようと思う。

2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。

2nd case of milk alkali

 ミルクアルカリ症候群とおぼしき症例をまた診た。脳性麻痺の患者さんが数日続く嘔吐ののち誤嚥して運ばれ、血液検査でナトリウムが162mEq/l、カルシウムが11.7mg/dl(補正後)だった。カルシウムは嘔吐の前から高値で内分泌科医を紹介受診する矢先だったらしい。この程度のカルシウム値でそこまで症状がでるとも思われないので、嘔吐とカルシウムはべつの話だろう。
 ともかく血液検査ではHCO3が上昇しており、まさかまたミルクアルカリかと思って薬剤リストを見ると、果たしてbaking soda(重曹)とある。さらに骨粗鬆症予防にカルシウムとビタミンDも内服していた。家族に聞くと、重曹は胃が痛がるので慢性的に飲ませていたという。ともかく治療は補液で、最初の24時間はこまめに血液検査をして値が徐々に正常化するのを確かめることにした。