2012/08/30

Reviews

 大学にいると、いろんな仕事がある。フェローも二年目、それらを手伝う機会もやってきた。ひとつは、医学雑誌に送られてきた原稿の出来をレビューして、掲載するに値するかを採点する仕事。もうひとつは、教科書や医学分野の本について書評をかく仕事だ。書評といっても文学的な質は要求されず、300語程度で内容の要約と特徴、個人的な感想を書くものだ。
 書評にはマニュアルがあって、①preface、目次、編著者のリストを読む、②ざっと本文に目を通し(scanning)、適宜ノートをとる、③よく知っている内容の章とよく知らない内容の章を一つずつ読む、④アンケート形式の質問(本の評価)に答える、⑤書評の各パーツを指示に従って書く、というものだ。昨日①から④までやったが、このやり方だと半日で約200ページの医学書が読めた。

2012/08/28

Honey

 蜂蜜には古来から特別な力があると信じられてきたが、そのなかでもbroad-spectrumな抗菌作用に注目して、カテーテルのexit-site infection予防に医療用蜂蜜を塗ろうという試みがAustraliaとNew Zealandではじまっている。
 蜂蜜は、高い浸透圧(3000mOsm/kg)、低いpH(3.5)、抗菌ペプチドのMethyl Glyoxal(MGO、働き蜂の咽頭腺から分泌される)、defensin-1、それに過酸化水素などにより、たいていの耐性菌はあっさり殺菌してしまう(FASEB J 24 2576 2010)。考えてみれば抗生物質だってもとはカビから貰ったわけで、自然の知恵を借りる発想は新しいものではない。
 しかし、抗生物質は、耐性菌とのイタチごっこを避けられない。たとえば腹膜透析カテーテルなども、MupurocinからGentamicinに移行しつつある(JASN 16 539 2005)。そのGentamicinすらも、最近耐性の緑膿菌がでたと報告があった(PDI 32 339 2012)。だから、異なる多数の機序で殺菌する医療用蜂蜜のほうが、長い目で見て賢明なのかもしれない。
 腹膜透析カテーテルでは、HONEYPOTスタディというのが組まれており(PDI 29 303 2009)、結果が近々出るだろう。血液透析カテーテルでは、同じグループがスタディして(JASN 16 1456 2005)、Mupurocinと比べcomparable(劣っていたけど、まあそう悪くない結果)だった。

Central dogma being challenged

 塩分摂取→体液貯留→血圧上昇→心血管系イベント、というのは腎臓内科医(と循環器科医)にとってのセントラルドグマであるが、再検討されて始めており、それは医学界を越えてさまざまなメディアで報道されている。

 20年以上前、世界各地の食塩摂取(24-hr urine Na excretion)と血圧(収縮期血圧)の関係を比較したINTERSALTスタディ(BMJ 197 319 1988)が発表された。グラフをみると、ほとんどの地域で相関はほとんどなかった。それを、大きく外れたデータ(ブラジルの少数民族など)を入れて、無理やり「相関する」と結論したのだ。

 その後もいろんなデータが出たが、昨年には健康で若い被験者約3000人を対象に行ったobservational studyが発表された(JAMA 305 1777 2011)。アウトカムの一つは血圧で、Na摂取が100mol/day(食塩換算で約6g)増えるごとに収縮期血圧が2mmHg上がるという結果がでた。しかしもう一つのアウトカム、心血管系の死亡率は、Na摂取量が低い群で(なんと)最も高かった。

 塩分制限といっても、米国の入院診療で行われる「Na 2g(食塩換算で約5g)/day」など現実には不可能だ。これを読むと、低Na食は不可能なだけでなく、却って害になるのではないか?という疑問がおこる。さらに、それに沿う結果のもう一つの論文がJAMAに出た(JAMA 306 2229 2011)。

 こちらは中高年で、冠動脈疾患があり、糖尿病など心血管系イベントのリスク因子も多い約28000人の患者さんを対象に行われたobservational studyだ。尿Na排泄をスポットで測定し(利尿剤は止めた)、九州大学の川崎教授らが編み出したというKawasaki formulaで24-hr Na excretionの推測値を算出した。

 その結果が、有名なJ-shapeの曲線グラフだ。要は、尿中Na排泄が極端に少ない群と多い群でイベント(CV death、MI、CHFによる入院)のhazard ratioが高く、Na排泄が4-6g/day(食塩換算で9-12g/day)あたりが低かった。observational studyなので、associationしか言えないが、これからは単純に「食塩をへらせば減らすほど良い」とは言えないかもしれない。

2012/08/23

Edith Helm

 Edith Helmという女性を知っているだろうか。彼女は1956年に、22歳のときボストンで一卵性双生児の姉妹(Wonda Foster)から生体腎移植を受けた。執刀医はDr. Joseph Murray、その二年前に世界初の生体腎移植を行って、彼女は三例目だった(1990年にノーベル賞)。彼女は昨年に76歳で亡くなったが、もらった腎臓はまだまだ元気だったそうだ(AJT 11 1545 2011)。
 米国初の腎臓移植は1950年だが、これは急性腎障害に対する腎“代替”療法だった。当時は免疫抑制剤もろくになかったし、移植腎が拒絶するのは必定だったが、自分の腎臓が回復するまでの“つなぎ”というわけだ。この目的ではロシアで1936年に行われたのが最初で、日本でも1956年に新潟大学で行われた(急性腎障害の原因は昇汞中毒という)。
 さて、Edith Helmという人は長生きした他にもう一つのことでも有名である。それは、彼女が「腎移植患者で初めて妊娠・分娩し、元気な四児の母になった」ことだ。移植患者・移植腎が妊娠のストレスに耐えられるかは当時知られていなかった(それまでの生体腎移植患者はみな男性だった)。子宮に移植腎が押されて機能しなくなるのではないかという心配もあったが、彼女によってそれが正しくないことが証明された。
 もっとも一卵性双生児間の生体腎移植は、免疫抑制剤も必要なく拒絶の心配もなく、現在の移植患者とはリスクが大分違う。移植患者の妊娠リスクに関するデータは意外と少ない(米国には1991年からNTPRというデータベースがあるが、患者さんの任意申告制で質は高くない)。それでも米、英、豪/NZのデータベース、それに世界各地の症例報告を集めて分析した論文(AJT 11 2388 2011)がでた。
 これによれば、米国一般女性の平均にくらべてlive birthの率は高く、miscarriageは低く、pre-eclampsiaやgestational diabetesは(おそらくhypertensionも)高かった。ただこの「平均」というのがいわゆる「未妊検」を含んだものなのに対し、移植患者の妊婦はhigh-risk OBで慎重にフォローされるだろうから、一概に比較はできないが。
 移植後の妊娠について知らないことはまだまだあるが、データは少しずつ集まり、それらに基づいてガイドラインも変化している。たとえばAST(米国移植学会)のwomen's health committeeは、「安定した腎機能・全身状態なら移植後一年で妊娠を考慮してよい」と、慣習的に行われていた「二年ルール」を引き下げた。

2012/08/18

Tacrolimusレベルを下げるもの

 一緒に使うとTacrolimusの作用が増強される薬は数あれど、一緒に使うと作用が減弱する薬というのはあるのか?と気になって、Micromedexで調べてみた。するとphenytoin、sirolimus、rifampin、caspofungin、phenobarbital、effavirenz、alefacept、carbamazepine、vemurafenib、rifabitun、infliximab、rifapentin、fosphenytoin、nevirapine、echinacea extractなどが引っかかってきた。大まかに言って、①抗けいれん剤、②抗ウイルス剤、③rifampinの一族、④その他(caspofunginなど、fluconazoleが作用を増強させるのと対照的だ)と覚えておこう。と言っても覚えられるはずもなく、だからここに掲載しているのであるが。

2012/08/16

CD80 (aka B7.1)

 尿中CD80抗原は、小児科領域でminimal change disease (MCD) in relapseの診断ツールとして提案されている。腎糸球体の足細胞は、物質輸送・交換など様々な機能を持ち、それこそニューロンに比較できるほど高度に分化した細胞だ。そんな足細胞は、さらに樹状細胞(抗原提示細胞)の機能をも獲得することができる。
 その一つがCD80で、これを細胞膜に表出することによりco-stimulatory signalを介したT cell activationが起こる。CD80などと言うと分かりにくいが、別名のB7.1といえば移植や免疫抑制の世界でお馴染だ。B7.1をT cellのCD28に結合させれば活性化スイッチが入り、regulatory T cellが分泌するCLTA4はそれを阻害するのでスイッチを消す。免疫抑制剤BelataceptはCLTA4を含むfusion proteinだ。
 Urinary soluble CD80は23kDのタンパク質で、MCD in relapseで(MCD in remission、FSGS、健常者)に比して有意に高かった(JASN 20 260 2009)。タンパク尿の度合いに関係なくである。再検(KI 78 296 2010)でも同様で、MCD in relapseにおけるROC曲線のarea under the curveが0.99という診断マーカーとしては驚異的な結果がでた。
 Urinary CD80があるとどう良いのか?三点あげるとすればひとつは、腎生検のリスクを避けられるかもしれないことで、小児科領域でよく調べられているのもそれが理由だ。二つ目は、病態理解が進むかもしれい。
 現在提唱されているtwo-hit theoryは、感染症などによる足細胞の直接傷害がfirst hit、regulatory T cellの機能不全などにより足細胞がCD80(B7.1)を表出し免疫反応が惹起されておこる傷害がsecond hitという(Pediatr Nephrol 26 645 2011)。
 そして三つ目は、治療が変わるかもしれない。前述の通り、ラッキーなことにCD80(B7.1)を介したco-stimulatory signalを阻害する薬は既に存在しているのだ。これを治療に用いたという例は未だ聞かないが、そのうち試されて、有効性と安全性が確認されるかもしれない。

HCO-HD

 治療して透析が離脱できる病気というのはそう多くないが、多発性骨髄腫によるcast nephropathyはその一つかもしれない。これは癌細胞による異常なタンパク質(monoclonal light chain)が大量に尿中に漏れ、内腔でT-Hタンパク質と結合してcastを作り尿細管が詰る病気だ。だから理論上は、異常なタンパク質がなくなれば詰りも改善するわけだ。

 そのためには、タンパクを作られないようにする(化学療法)か、除去するかだ。後者では伝統的に血漿交換が行われてきたが、(化学療法をしながら)週三回の治療でタンパク質の25%しか除けない。Mayoクリニックがまとめた論文(KI 73 1282 2008)によれば、血漿交換の効果を比較した三つのRCTがあるが、いずれも患者数が少なくpower不足だ。

 それに対して、現在あたらしくHCO-HD(high cut-off demodialysis)が欧州で行われている。HCO-HDは、分子量60,000まで除去する透析膜を用い、これによりタンパク質の約90%が除去できるという。何でもかんでも除去するのでアルブミンの補充と免疫グロブリンの補充を行うそうだが、血液凝固因子のレベルは変わらないらしい。

 データとしても、多施設retrospectiveスタディ(NDT 2012 27 3823)で、多発性骨髄腫と共に発症した急性腎障害にHCO-HDを行った67例のうち、早期に透析した例と異常タンパク質の血中レベルを下げた例では透析依存を防ぐことができた。ただbiopsyがないので、どの例がcast nephropathy、light-chain deposition disease、高Ca血症などによるpre-renal azotemiaなのかは分からない。

 欧州ではさらにRCTが二つ(EuLITEスタディ、MYREスタディ)進行中で、HCO-HDがcast nephropathyに対するメインの治療になるかもしれない。米国でも、ごく限られた例に使用を認めるorphan deviceとしてFDAが認可を検討しているし、前述のスタディ結果次第では、ひろく適用されるかもしれない。

 透析もアルブミンもお金のかかる治療だが、透析依存を防げるとしたら、お金・QOLどちらの意味でも安い治療だろう(英国モデルのコスト分析はCurrent Medical Research & Opinion 2011 27 383)。ただし、原疾患の多発性骨髄腫がコントロールされればの話だが。