2015/12/22

Wunderlich Syndrome

 外傷のない腰痛の症例で撮ったCTにこんなのが写っていたらどうするか。よく「腰痛です…腎臓からでしょうか?」と訊かれた患者さんに「腎臓が痛むのはたいてい感染した時か石がある時です(腎機能の低下で痛みがでることはほとんどない、という意味で)」と答えていたが、これからは「出血したとき(それも、自然に出血したとき)」もくわえなければならない。



 自発的腎周囲出血(spontaneous perirenal hemorrhage, SPH)にはWunderlich Syndromeという別名がついている。Carl Reinhold August Wunderlich先生というのは19世紀のドイツ人医師で、平熱(mean、oral)が37C、正常上限が38Cだと測定したことでも知られている。20世紀に測定しなおしたら平熱は36.8C、正常上限は37.7C(朝は37.2C)、性別や人種や年齢によっても異なるとわかったが(JAMA 1992 268 1578)。なお日本の感染症法では37.5Cを発熱、38C以上を高熱と定義している(テルモ『知っておきたい体温の話』)。
 さてSPHの原因は7割ちかくが腫瘍(血腫内に脂肪があれば筋脂肪血管腫)、2割ちかくが血管炎、感染によるものが数%というメタアナリシスがある(J Urol 2002 167 1593)。感染のなかではKlebsiella pneumoniaeによるものが報告されていた(BMJ Case Rep 2013, bcr2012007523)。血圧が高いだけで起こったとする報告(Urol Ann 2011 3 44)もある。一旦出血すれば、レニンアンジオテンシン系が亢進してどのみち高血圧になる。
 SPHをおこす血管炎のなかでもっとも多いのはPAN。PANの腎病変は、PANが中径動脈を炎症の首座としていることから、毛細血管でできた糸球体の腎炎よりもやや径の太い腎細動脈瘤の破裂とそれにともなう梗塞のほうがおおいようだ。PANはANCA陰性で、血液検査で診断することは難しく、血管造影が診断のgold standardで、皮膚病変があれば皮膚生検で血管炎を証明することもできる(が特異度は低い)。
 昔はSPHに対しては出血のコントロールと(ほとんどの場合腫瘍によるものだったので)腫瘍の切除の意味で腎摘していたそうだが、いまでは画像検査もあるしIVRもあるのでそういうことは少ないし、出血も自然に消退することが多いようだ。ただ感染にともなう出血の場合は腎膿瘍に準じた治療が必要なので、経皮的ドレナージ、それが困難(で感染のコントロールがつかないなら)ならやっぱり「慎重に(prudently)」腎摘をすべきとされている。
 

2015/12/19

Blood Substitutes

 アメリカで内科レジデントをしていた時、指導医に「どうしてそうしたの?」ときかれて「フェローの先生に言われて…」と答えた研修医に指導医が「君はNuremberg裁判を知っているかね」と言った。第二次世界大戦中に捕虜や市民に対してナチの医師が生体実験や安楽死、大量殺人を行ったことを連合軍が裁判にかけたとき、医師たちが「上官や軍の命令でやりました」と言ったが結局刑を受けたことを指している。ただこの時にはまだ人体実験の害から被験者をまもるルールがなかったので、Nuremberg CodeとDeclaration of Helsinkiができた。
 日本における生体実験では731部隊やトラック島での海軍による生体実験が有名だが、1945年5月~6月に当時の九州帝国大学医学部第一外科教授のグループと陸軍が行った米兵捕虜への生体実験がある。どこまで臓器を摘出しても人は生きられるかとか、どれだけ出血したら人は死亡するかとか、あきらかに死亡する可能性の高い実験とも言えない実験だ。医学水準が違うとはいえ、理解に苦しむ。またいくら彼らがB29爆撃機で無差別空襲していたとはいえ、捕虜の扱いは当時から国際法があったので違反している。
 さてこの自殺した元教授の研究テーマの一つは海水から代替血液を作ることだった。現代でも、人類は一滴の血液も人工では作れない。晶質液は要は塩水、膠質液はデンプンだ(アルブミンは血液製剤だ)。ガス結合能のあるperfluorocarboneのエマルジョンが一時期試されたが結合曲線がヘモグロビンと異なり直線的なので効率が悪いのと、アメリカのIII相試験で脳梗塞が多く止めになった。Decafluoropentaneは酸素結合能は強い(Artif Cells Blood Substit Immobil Biotechnol 2009 37 156)そうだが。
 そのあと、やっぱり生体にあるものを使おうとヘモグロビン製剤がつくられた。期限切れ輸血製剤をもらっているので本当に血液型、感染リスクなど考慮しなくてよいのかわからないが、放射線照射しているのと、いまでは遺伝子組み換えで大腸菌からも作れる。二量化したり多量化したりして試した(単量体だとすぐに腎排泄されるか網内系に取り込まれる)が、高血圧や心機能低下など副作用が多く(Anesth Analg 2014 119 766)、現在ではPEG付ヘモグロビン(Hemospan®またはMP4OX)、pyridoxylated hemoglobin polyoxyethylene conjugate(PHP)が治験中だ。
 生ヘモグロビンではなくいろんな酵素とかといっしょに人工赤血球(小胞体)のなかに入れてあげたらどうかというのも、ナノテクノロジーを用いて研究されている。Liposome-encapsulated hemoglobinというのがそれで、とくに日本で研究が進められているようだ(日本血液代替物学会というのがあって、この分野の学会は日本にしかないらしい)。実は人工血小板H12-(ADP)リポソームというのも研究されている(血小板を増やすのではなく血小板凝集を惹起する小分子だ;止血能はあるらしいが全身で血小板凝集のコントロールが効かなくなったり血小板が消耗したりしないかが心配だ)。まだ動物実験のレベルだが、これらがいずれ臨床応用のために治験されるかもしれない。そのときは、70年前の過ちを繰り返さないでほしい。


2015/12/18

D5NS

 治療を即断して救命を図ることと、一歩さがって冷静沈着な頭で考えることを両立するのは容易ではない。しかし、Osler卿も平静の心を説いているし、プロなら何とかやらなければならない。

 アルコール性ケトアシドーシス(AKA)には糖と細胞外液が必要だが、日本にはD5NSがなくて、糖入りの外液にはカリウムが入っているので、高カリウム血症があるときなどどうしているのかなと思う。

 単純に5%糖液と0.9%NaCl液を両方落としてもいいし、一号液(糖とNaClが中途半端に入って等浸透圧になっている)を落としてもいいし、糖入り外液(なんとかD)に含まれるカリウムはわずかなので無視してもいいのだが、0.9%NaCl液500mlに50%糖液40mlを混ぜるのがD5NSに近い(浸透圧は高くなるが)。

 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)にくらべて、AKAは糖をいれてあげるだけでインスリンが出るので高血糖で来院したのでもないかぎりインスリンはあまり必要ない。だからGI療法しなくても糖を入れればケトンの分解によるアシドーシスの是正と内因性のインスリン分泌によって高カリウム血症は治療できるはずである。

 ・・そんなことを考えながら救急外来で50%糖液を点滴に混注していると救命感に酔いがちだが、落ち着いて(DKAと同じく)そのあと起こる低K、Mg、P血症を予測していなければならない。



D5NS

2015/12/10

Rising Cr on CVVHDF

 ICUでCVVHDFをまわしているのにBUN、Cr、K、Pなどが上がってくる(腎機能はほぼない状態で考慮しなくて良い)というようなことは、まずない。まず疑うのはCVVHDFの回路異常や中断、カテ先異常などだがそういう場合は脱血圧や送血圧、TMPなどが異常になってアラームが鳴るだろう。鳴らないなら、recirculation。大腿静脈カテーテルは内頚静脈カテーテルに比べてrecirculationが多い。また透析カテーテルは側孔から脱血し先端から送血するようにできているので、スイッチ(送血ポートから脱血して脱血ポートから送血)した場合も起こる。
 Recirculationを疑ったら脱血と送血の場所を離してみる(透析カテーテルと別に返血ルートを取る)か、再循環率を尿素希釈法などで求める(動脈ポート、静脈ポート、血流量を落として遠位を駆血した動脈ポートからの尿素をそれぞれA、V、SとしたときにS-A / S-V x 100で求め20%以上を有意とするそうだ)。ほかにもHFの置換が前希釈、UFをかけすぎて末梢組織に尿素をはじめとする老廃物が残ってしまうperipheral urea sequestrationなどが考えられるが、問題になったことはほとんどない。前希釈は透析膜の凝固を防いでくれるし、peripheral urea sequestrationは間欠的透析(iHD)で起こる現象のようだ。
 上記がなくて、CVVHDFが「普通の」クリアランスを提供しているにもかかわらず数字が悪くなってくるときには、老廃物の産生速度がクリアランスを上回っていると言うしかない。たとえば異化が亢進している場合だ。あまり良いサインではなさそうだが…。CVVHDFで十分なクリアランスが提供できない場合、どうするか。フェロー時代に肺移植後の致死的高アンモニア血症に対して二台のCVVHDFを同時にまわすのを見たことがある。iHDはどうか。血行動態が許すように最初は小さな膜で透析液流量も小さく(といっても100mL/minとかでmL/hrのCVVHDFとは桁が違うが)。ただこれで数字を良くしたところでアウトカムが変わるかはわからないけど。


2015/12/08

Ten Commandments

 10 commandments for effective consultations(効果的なコンサルテーションのための十戒)というのは余りにも有名で(Arch Intern Med 1983 143 1753)、20年経って改訂された(Arch Intern Med 2007 167 271)が、原典のほうが書き下ろしでスカッとしている(改訂版には重要な変更点もあるが長ったらしいのと、どの科からコンサルトを受けたかによって対応が違ってくることを調査で示している)。日本でどれくらい有名かは知らないが、紹介しても損にはならないだろうし何より自分に言い聞かせなければならないことだから書くと、以下の10項目だ(原典)。

  1. Determine the question
  2. Establish urgency
  3. Look for yourself
  4. Be as brief as appropriate
  5. Be specific
  6. Provide contingency plans
  7. Honor thy turf (or thy shalt not covet thy neighbor's patient)
  8. Teach... with tact
  9. Talk is cheap... and effective
  10. Follow-up

 3番などは、プライマリサービス(あるいは主担当医)が考えたことや得た情報を尊重しつつ、でもやっぱり自分の頭で考えて自分で調べることで診断がついたりベターな治療ができるということで、その通りである。相手の言うことをすべて鵜呑みにしていたら新しい考えや診断は生まれない。というか、何かが足りないか間違っているからコンサルタントが必要な事態になっているわけで、コンサルトを受けた側はそれらを一から点検しなければならない。
 ただそうやって得たより正しい情報をどのようにフィードバックするかが問題で、後医は名医なくせに偉そうにカルテに大文字で書きなぐったりするのはよくない(8番にはwithout condescension、上から見下さずに、とある)。Web上のやりとりも本当はよくない、一番あとくされがないのは話すことだ(9番)。また最終的に判断するのはプライマリーサービスなのだから勝手に検査や治療を始められるのも困る(7番)が、この辺が曖昧な状況をよく目にする。
 あとは5番で、たとえば私は腎臓内科フェロー時代に腎機能のあわせた薬剤の用量調節がひつようなときに「腎機能のあわせた薬剤の用量調節」とレコメンドするのはご法度だと習った。ひとつひとつ使われている薬剤を調べて具体的にアドバイスするように、そのために私達はお金をもらっているのだと(日本は入院中のコンサルテーションにお金は発生しないが)。ただ、この問題については電子カルテと薬剤師さんの協力があればもっと漏れなくオートマチックにチェックできるのではないかと思う。


Equations

 Osmola-L-ityとosmola-R-ityは違う。前者は溶媒1kgに溶けた浸透圧物質のモルで、後者は溶質と溶媒を合わせた水溶液1Lに溶けた浸透圧物質のモル。ただ後者は溶質の量などで分母が変わるので、通常私達は前者をあつかい、単位はmOsm/kgH2Oだ。浸透圧ギャップを測るシチュエーションというのはあって、緊急透析(やfamepizoleやethanol)の適応が決まったりするのでこれが外注では困るのだが、測定はふつうの生化学と違い凝固点降下の原理を利用した特別な器械でされるので仕方ない。
 ところで血清浸透圧の計算式といえば[Na+] x 2 + [BUN] / 2.8 + [Glu] / 18が使われるが、他にもある。たとえば、36個の計算式を全部比べた論文がある(図、Intensive Care Med 2013 39 302)。すると従来のものはmeanの差が多いもので35mOsm/kgH2Oにも達したのに対し、新しいもの、たとえばZander's formula = ([Na+] + [K+] + [Cl-] + [lactate-] + [Glu] + [HCO3-] + [urea] + 6.5) x 0.985(ドイツなので単位はすべてmmol/l)はmeanの差が0.5mOsm/kgH2O(信頼区間-6.5 - +7.5)だったという。
 39個あるといっている論文もある(BMJ Open 2015 5 e008846)。ここでは高齢者が水を与えられずに脱水になっていることを問題視していて、水不足のdehydration(体液量不足によるvolume depletionとは異なる)を診断するスタンダードは血清浸透圧であると言っている。しかし浸透圧を直接測定するにはお金がかかるしナーシングホームなどで気軽にオーダーもできないので、簡便にオーダーできる項目をつかってできるだけ近似した計算式をみつけ、スクリーニングをかけ浸透圧が高ければ水分を取るようにアラートしようというのが論文の趣旨だ(こういう発想が出るのもやはりイギリスでSI単位系を使っているからだろうなと思う)。すると、もっとも正確だったのはKhajuriaとKrahn(Clin Biochem 2005 38 514)の式で、1.86 x ([Na+] + [K+])+ 1.15 x [Glu] + [urea] + 14だったそうだ。


2015/12/01

CV catheter securement devices

 手技をするときに清潔野をつくって物品を置いていくが、CVラインキットなど大事なものはひとつひとつ気をつけて移さないといけない。小さな部品でもポロッと床に落ちてしまえば、それだけでキットすべてが台無しになって、もうひとつ新しいキットを出さなければならない。というようなことは誰もが失敗して申し訳ない声で「もうひとつキットください」と看護師さんにお願いして学んでいるわけだが、もったいない話だから(安いキットでも1万円ちかくするし)スーパーバイズする時には「気をつけてね!」と言ってあげなければならないなあと思う。
 さて気を取り直して、今回落ちた部品はCVラインの固定のためカテーテルに嵌めるゴム(一針ずつ縫合できるよう左右に羽がついて穴が開いているアレ)だったわけだが、古来から用いられている縫合について考えてみよう。縫合は患者の苦痛、術者の針刺しリスク、糸に雑菌がコロナイズする、縫合してもすこしは動く、など実は欠点も多い。そこでCV catheter securement deviceというのが開発されており、たとえば3M社はSecurement without Sacrificeというキャッチフレーズで糸を使わず固定しさらにクロルヘキシジンジェルで刺入部を覆ったものを売っている(1つ目の図;ただしこれはカテーテルを全部挿入しないといけないが)。
 薬剤で挿入部を覆うほうが感染症を予防するというのは、スタディがおおく今年9月にCochrane Reviewも出ている(DOI:10.1002/14651858.CD010367.pub2)。Securement deviceのほうが抜けにくいかどうかは、Interrad Medical社のSecurAcath®(2つ目の図;刺入部の皮下に錨をつけて固定する)がスタディを組んだ(NCT00903539)が症例数が少なすぎて結果が出なかった(Can J Anesth 2013 60 504)。現在、英国で抜けにくさをアウトカムにしたスタディが組まれている(スタディ番号18974、3M社のデバイスを使うようだ)。針刺しについてはBard Access Systems社のStatlock®(3つ目の図)を対照にCVライン挿入時の針刺し事故を考えた時の費用対効果を分析したスタディがある(doi:10.1136/bmjopen-2012-002327)。




Salicylamide

 PL顆粒はover-the-counterの総合感冒薬PyLon®を医療用にしたとき名前を残したからPLというそうだが、PyとLonがなんの略かは分からない(おそらくPyは解熱剤のantipyreticsを意味するのだろうが)。ところでこの中にはアセトアミノフェンとカフェインと抗ヒスタミン剤とサリチルアミドが入っている。サリチルアミドはサリチル酸にアミノ基がついたエステル(図:Conceptual Pharmacology by P. Jagadish Prasad, Universities Press, 2010)で、弱いがCOXを阻害するからNSAIDsはNSAIDsであり、あなどれない。

 NSAIDsだから輸入細動脈を締めてAKIを起こしたり、慢性使用で鎮痛剤腎症(以前に勉強した)を起こしたりはする。しかしoverdoseで教科書的に有名なサリチル酸中毒(嘔吐、意識障害、血小板減少、AG開大アシドーシス、呼吸性アルカローシス、腎機能低下)を起こすという報告はないようだ。サリチル酸中毒なら意識低下、乏尿、血中濃度100mg/dl以上などがあれば緊急透析適応になるから一安心。そもそも、サリチル酸濃度をオーダーしてもサリチルアミド濃度は測れない(「総サリチルアミド」というのが添付文書に書いてあるが)。


Iron-Based Phosphate Binders

 米国の腎臓内科雑誌にながらく広告されている新規リン吸着剤が、日本でも承認されていた。Sucroferric oxyhydroxide(米国名Velphoro®は2013年11月にFDA認可、日本名P-TOL®は2015年9月認可)と、ferric citrate(米国名Auryxia®は2014年9月にFDA認可、日本名Riona®は2014年1月認可というわけで日本のほうが認可が早くおりていた)。

 前者の鉄成分は不溶性なのにたいして後者は鉄として吸収される違いがあって、後者の使用により静注鉄やESAの使用が減ったというスタディもある(JASN 2015 26 2578)。ただ前者はchewableで食前一錠で済むのが便利なのと、相互作用のなかで後者はフルオロキノロンと結合してその作用を減弱させるのに対して前者は大丈夫なようだ。副作用でおおいのはどちらも下痢(ほかの吸着剤が便秘を起こすのと対照的だ)。

 しかしなぜ鉄なのか?それは無機リンが三価陰イオンで、三価陽イオンをとれる金属とよく結合するからだ。結合力が強い順にCrPO4、LaPO4、FePO4、AlPO4。しかしクロムやアルミニウムは毒性があるので現在ランサナムと鉄が実用化されている。



2015/11/30

Weekend Without Water

 入院患者さんが十分な栄養を与えられず飢えて、ひょっとすると命を落としているという注意喚起は何十年も前からされている。しかしいまだに軽々しくそして不必要に長くNPOオーダーがだされている(doi:10.1136/bmjqs-2015-004395)。それもさることながら、入院患者さんがケアがゆきとどきにくい週末に十分な水分を与えられず月曜日にそろって高Na血症になる(なかには意識障害を伴うものも)というのもまずい。ひとつには「自由水をいれると体液過剰になる」という半ば恐水症のような意識が(とくに医師に)ある。あと経管栄養は100%が水分ではないということを知らない、という基本的なものもある。私は「高Na血症は拷問だ」と習った。口渇はとても苦しいし、高Na血症は(中枢性尿崩症でもない限り)医原性だからだ。というかthirst tortureという拷問が本当にある。私は患者さんが苦しんだり不利益を被るのをヘラヘラ見過ごすことはできないから、教育しなければならない。


Stool Electrolytes

 私が初期研修したときには、腎臓内科が低Na血症の治療をするときに尿中Na喪失量だけでなく便中Na喪失量も測って、Naの出納を几帳面に測っていた覚えがある。そんな便中電解質だが、ここでは測れない。それに、調べた限りではどこでも測れないみたいだ。あの頃はどうしていたのだろう。

 しかし測れないことはないはずだ。というのも、便電解質は慢性水様下痢で浸透圧性下痢と分泌性下痢を鑑別する便浸透圧ギャップ(stool osmolar gap, SOG)を計算する際に用いられるからだ。

 SOGは便浸透圧 - [2 x (便Na + 便K)]で、unmeasured osmotic substanceが多ければ(125mmol/kgH2O以上)浸透圧性が示唆され、少なければ(50mmol/kgH2O以下)分泌性が示唆される。

 浸透圧性下痢には下剤の使用や乳糖不耐症、分泌性下痢には蠕動異常、内分泌疾患(糖尿病、副腎不全、甲状腺機能亢進症、肥満細胞症)、膵腫瘍(VIPoma、カルシノイド、ガストリノーマ)、IBD、腸管腫瘍、薬剤などがある(NEJM 2013 368 757)。

 あと便中電解質を利用するのが遺伝性塩素下痢(congenital chloride diarrhea, CCD)だ。便Clが100mEq/l、あるいは便Clが便Naと便Kの和よりも高いときに診断が示唆される。といってもCCDは稀で基本的には胎児・新生児疾患(写真)だが、腎外性の代謝性アルカローシスの鑑別で教科書に載っているから一応知っておかなければならない。成人発症も、ほんとうに稀だがある(Am J Med 1988 85 570、Am J Gastoenterol 2007 102 1329)。






2015/11/27

Rainbow Urine

 回診中に入院患者さんで暗褐色尿がでますというので、調べてもミオグロビン尿もヘモグロビン尿もビリルビン尿も血尿もない。というわけで、薬か?と思ったら最近メトロニダゾールが始められており、研修医の先生にスマホで調べてもらったら副作用があった(Journal of Pharmacy Technology 2014 30 54)。添付文書によれば代謝されてできるアゾ化合物の影響と考えられているそうだ。ここで使う頭は別に医学とは関係ない、ただの推論力と好奇心だ。

 薬による尿の変色にはリファンピン(オレンジ色)、ドキソルビシン(赤~オレンジ)、プロポフォール(青緑)、ニトロフラントイン(茶褐色~黒)、アセトアミノフェン大量内服(茶褐色~黒)などがある(SMJ 2012 105 43)のと、有名なのはpurple urine bag syndromeでこれはWikipediaにも載っているから説明しなくてもいいけど便中のトリプトファンが細菌によりインドールになって、吸収され肝代謝をうけてインジカンになり、尿路の細菌によりインジゴブルー(青)またはインジゴピン(赤)になってバッグを染める。

 さらに調べてみると、「虹色の尿をだす少年」というクイズ形式の論文があった(NDT 2001 16 2097)。化学者のお母さんをもつ16歳の少年で、学校の成績が悪いときに限ってさまざまな変な色の尿が出るという。尿異常ではacidificationの障害、高尿酸尿症、汎アミノ酸尿、そして色素の凝集が鏡検された。尿細管障害とカラフルな尿となると、重金属のなかでもクロムが疑われる。クロムの色素はpHによって色が変わる。

 そこでサンプルに硝酸銀、塩化バリウム、酢酸などをかけて沈降物ができたりそれが溶解したりするか調べて、クロムの検出が証明された。学校の成績が悪いときに変な色が出たのは、病院受診をすると学校を休める(病院まで3000kmある;インドの話なので)という疾病利得があったからで、クロムはおそらく絵の具や染料を摂取していたのだろうと思われた。しかし本人もお母さんも診断を否認したので結局精神科に紹介して、そのうち症状は治まった。





[2019年11月1日追記]今週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、上述のpurple urine bag syndromeが紹介されていた(NEJM 2019 381 e33)。知らないとビックリする(下図も前掲論文より)ので、ときどきはこうして読者に啓発しようという同誌の意図なのだろう。 






M protein & λ restriction & Ig gene rearrangement

 腎臓内科医は他の内科も詳しく知っていなければならない。濾胞性リンパ腫の「(CT上)完全寛解」後にLDHやsIL-2Rが上昇している症例の尿所見がまったくない進行する腎不全で、生検したら①腎の間質を這うように異型のあるB細胞が浸潤しており、②それがλ拘束に染まっていて、③IgG-λのMタンパクが血中に出ていて(もちろんκ/λ比も偏っている)、④骨髄にリンパ腫や骨髄腫がない場合、浸潤しているB細胞がクローナルでMタンパクを産生している(すなわちリンパ腫の再発)と言ってよいのではないだろうか。それ以外の診断が除外されているならなおさらだと思うが。それでもまだ、腎組織をとってB細胞の染色体転座(FISH)や免疫グロブリン遺伝子再構成(利根川進先生…)を調べなければならないのだろうか。腎原発のリンパ腫というのはまずないと思うが、リンパ腫の腎浸潤ならまれだが報告はある(ただし腎が腫大して尿所見も陽性な例が多いが)。


2015/11/26

Rare Cause of Prerenal AKI

 代謝性アルカローシスの腎外性の原因に結腸絨毛腺腫があることは以前に触れたが、そこで止まっていた。しかし調べると、大量の体液喪失により腎前性腎不全・アニオンギャップ開大アシドーシス・横紋筋融解症・(低K血症にともなう)不整脈まできたす重症なものには特別にMcKittrick-Wheelock syndromeという名前がついているそうだ。

 1954年に初めて報告され、以来消化器系の雑誌に"rare cause of diarrhea"という報告が無限に出されている(からどれくらいレアなのかわからない)。しかし腎臓内科系の雑誌にはほとんど報告がないので大量の体液分泌の機序がよくわからない。どの論文も「腺腫(場合によっては癌化していることも)を取ったらよくなりました」で終っている。

 Prostaglandin E2の過分泌によるもので、COX inhibitorを使って治療することもあると書いた論文があった(Surg Endosc 2014 28 2247)が、出典がない。COX inhibitorを使えば腺分泌は抑えられるかもしれないが輸入細動脈も締まってしまうとおもうが。酸塩基平衡をちゃんと読んで病歴を聴いていれば、いつかは下痢と腎前性腎不全の症例で出会うかもしれない。





2015/11/24

Nibs and Mabs

 VEGF阻害剤(Sorafenib、Sunitinib、Pazopanib、Axitinib、Cabozantinib、Bevacizumab…それぞれ作用機転は異なるが結局VEGFシグナリングを止める)を受けた後の転移性腎細胞癌症例に対して抗PD-1モノクローナルIg4のNivolumab群が、mTOR阻害剤のEverolimus群よりも生存期間が長かったというスタディを教えてもらった(NEJM 2015 373 1803)。

 興味深かったのは腫瘍細胞にPD-1Lが発現していてもいなくても治療効果に差がなかったことだ。PD-1のスイッチを入れT細胞を不活化するのはPD-1Lだけではないのかもしれない。

 ただmTOR阻害剤が転移性腎細胞癌に限定的な効果しかないことはもうわかっているので、知りたいのはNivolumabが抗VEGF抗体(やIL-2療法…これはtoxicなのでもう余り見ることはない印象だがUpToDateはKarnofsky Performance Scoreが高いならこれをするべきといまだに書いている)よりも先に来る第一選択薬になりうるのか、ということだ。

 あとCabozantinibはVEGF阻害剤なだけでなく予後に関わるMET遺伝子とAXL遺伝子も止めるので、他の抗VEGF抗体治療後の第二選択として使えないかMETEORスタディが組まれているが、CabozantinibとNivolumabの直接比較試験はないのでどちらがいいかわからない(UpToDateはNivolumabを使えない場合にCabozantinibを使え;Grade 2Bとしている)。

 個人的には、この手の治療をする時には泌尿器医が腫瘍を生検するようだが、腎臓内科医がする腎生検とどう違うのかが興味深い。



Don't Go Breaking My Heart

 "Don't Go Breaking My Heart"といえばElton John & Kiki Deeが1976年にリリースしたデュエット曲にして、Elton Johnはじめての全英チャートNo. 1ヒット曲だが、「私の心を壊さないで」と思うことは現実社会に生きていれば避けられない。たとえばMGRS(monoclonal gammopathy with RENAL significance;doi:10.1038/ki.2014.408)に対する抗腫瘍薬の使用(KI 2015 88 1135)がされなさそうで、腎機能悪化と透析導入・依存を黙ってみているしかない時などだ。血液内科の先生によればMGRSもMGUSと同じ扱いだから保険が通らないそうだが、簡単に検索したら日本の市中病院で使われている報告がすぐでてきた(腎炎研究報告 2015 31 232)。まだ腎生検の結果待ちだが、曲のように「あなたの心を壊さないわ」とまるくおさまればいいなと思う。二人のコンサルタントが別のことを言うなんてよくあることで、やれることをして最終的にはプライマリサービスに任せるしかない。


2015/11/22

Xenograft

 ブタのゲノムに混入するレトロウイルス(porcine endogenous retrovirus, PERV…英語でpervといったらpervertつまり変質者の略だが)をCRISPR/Cas9というゲノム編集技術で除去することができるようになったそうだ(私はEconomist誌2015年10月17日付で知ったが、論文はDOI:10.1126/science.aad1191)。

 これは、ブタの腎臓をヒトに移植するうえでの障壁のひとつを乗り越える一歩になるかもしれない。あと大きな障壁は、拒絶と凝固異常と倫理。前の二つはトランスジェニックな臓器を使う研究がされていて、後のひとつは話し合いがされているらしい。




[2019年4月追加]異種移植についての論文がCJASNに掲載された(CJASN 2019 14 620)。課題はやはり上記のようにPERV、拒絶、凝固異常、倫理であるが、それぞれがアップデートされていた。

 まずPERVについては、すでに行われているブタの膵島移植で、いまのところPERVによる感染が問題になったことはないようだ。

 拒絶については、いままで行われたほとんどの異種移植実験が、CD40/CD154(CD40リガンドとも)軸の抑制を拒絶抑制に用いており、そのヒトへの安全性を確認する必要がある。

 CD154はヘルパーT細胞がB細胞を成熟させるためにTCRと共に表出する共刺激経路のひとつで、これがB細胞のCD40と結合することでB細胞が成熟し、濾胞が形成され、免疫グロブリンのクラススイッチがおこる(これが欠損しているのがX-linked hyper-IgM syndromeで、濾胞ができずIgM以外の免疫グロブリンが作られず免疫不全になる)。

 他にも、抗原提示細胞にサイトカイン産生のスイッチをいれたり、さまざまな働きがある(下図は、Immunotherapy 2015 7 399)。リウマチ科疾患や移植領域はすでにこれを治療ターゲットにし始めており、後者ではAMR(antibody-mediated rejection)の予防に応用が試みられている。




 いっぽう、抗CD154抗体の使用は凝固異常と強い相関があり、異種移植で凝固異常がおきる原因はこの抗体のせいではないかと言われるようになった。CD154と血小板にあるαIIbβ3インテグリンの結合を阻害するとか、モノクローナル抗体のFc部分が内皮細胞のFc受容体(FcγRIIa)を刺激するとか、さまざまな機序が推測されているが、詳細はまだわからない。

 最後に倫理面では、治験対象を選ぶ必要がある。末期腎不全は移植以外にも腎代替療法がある(透析)。そこで、おそらく最初に試されるのは、利益とリスクの点で失うものの少ない(移植が困難でかつ透析も困難で予後の限られた)患者群になると考えられる。何をしてよいわけではないから、正式な倫理的手続きを踏まなければならないことは言うまでもないが。

 異種移植は、成功すればそのインパクトは大きい。スケールは違うが、たとえるなら、心臓の生体弁を献体ドナーから得ずに済み、「製品」としてゲットでき、機械弁とちがって抗凝固療法が不要になるようなものだ。今後、試行錯誤の応用をくりかえして洗練されていくことが期待される(写真は1990年に国内発表されてから進化を続けるYAMAHAのトランペットブランド、Xeno)。





 

2015/11/18

Stereomicroscope

 腎生検をする時、そばに実体顕微鏡をおいてリアルタイムに検体を観察して検体が皮質か髄質かをチェックできればいいなと思う。まあ、放射線科医が完璧にロックオンしてくれ何も考えずに針を刺していればよかった米国時代とちがって、いまは自分でやらなければならないので私も少しは考えるようになったけど。それでも不安だから、うちには実体顕微鏡よりも眼がいい(ほんとかな)検査技師さんがいるので、ベッドサイドにきてもらって検体を取るごとに見て確認してもらっている。この方は骨髄穿刺のスメアを鏡検するのもめちゃくちゃうまくて、やっぱりその道のプロというのはいるんだなあと思う。





2015/10/05

Hemoglobinuria

 褐色尿といえば血尿より色素尿症を疑い、尿沈査でRBCがないことを確認する。たとえ10-19/hpf程度でていても、尿の色を変えるには至らないので色素尿症を疑う。CKが高値ならミオグロビン尿、溶血所見があればヘモグロビン尿。もっとも色素尿症の場合、沈査を鏡検するとすべてが茶褐色なのですぐわかる。遠心したあと上清にも色が付いているので、その上清を試験紙につけてヘムなことを確認する方法もUpToDateに紹介されていた。こういう情報は検査室で技師さんにやってもらってもカルテ上の結果にでてこない。やっぱり沈査は自分でやったほうがいいと思う。


2015/09/25

New Algorithm

 欧州三学会(集中治療、内分泌、腎臓内科)が昨年発表した低Na血症のガイドライン(それぞれが発表しているが腎臓内科はNDT 2014 29 S2 ii1)は、すでに和文誌でも詳細に取り上げられている(INTENSIVIST 2015 7 477)が、まだそれほど普及していない印象を受けるので、とりあげたい。そうなんだけど「ガイドラインをまとめる」というのは、ガイドライン自体がすでに「まとめられたもの」なので、うまくやらないと結局丸写しみたいになってしまって難しい。

 簡単には、このガイドラインでは新しいアルゴリズムが提唱されていて、そこでは大まかに①以前の体液量評価よりも尿浸透圧と尿Na濃度が前に来て、②重症・急性なら原因検索を待たずに治療(を考慮)というアクションが偽性や等張・高張浸透圧性低Na血症を除外したあとの最初に来ているという変化がある。

 尿浸透圧は水排泄能を見るよい指標だから(これなしに低Na血症を診るということはありえないように教わってきたので、「外注です」とか聞くとびっくりする)、これが前にでてきているのは理にかなっている。水排泄能はAVPと浸透圧物質摂取量(と腎機能)で規定されるので、尿浸透圧が低ければ(100mOsm/kg以下;この数字に根拠はないそうだが)、AVPがOFF(希釈して水を一生懸命排泄してもまだ余るほど水を摂取している)あるいは浸透圧物質がなくて水を排泄できず水が余る状態だ。

 ただ、尿生化学が先に来るからと言って、検査結果が出るまで指をくわえて待っているわけではない。腎臓内科コンサルトかなにかで、すでに尿検査結果がわかっている場合は別だが、そうでなければ結局検査を出す前に病歴聴取と診察で体液量をふくむ評価をすることに変わりはない。とはいえ体液量評価は難しいので、それを助けるために新しいアルゴリズムは腎臓の力を借りることにした。それが尿Na濃度だ。

 ここでは尿Na濃度のカットオフ値を30mEq/lとして、それより低ければ有効循環血液量が低下していると判断する。Würzburg大学(内分泌)のFenske先生がeuvolemic hyponatremiaとhypovolemic hyponatremiaの鑑別に20mEq/l、50mEq/lなどいろいろ実験して結局この値に落ち着いたらしい。有効循環血液量の低下は、心不全・肝不全・ネフローゼなどECFが拡張している場合もあるし、下痢嘔吐・敗血症性ショック・以前の利尿薬などECFが少ない場合もある。

 尿Na濃度が高ければ、まず腎のNa再吸収能が落ちていることによる原因(利尿薬、「腎臓病」←かなりアバウトだが)を除外する。そうでなければ①塩が捨てられECFが低下した病態(嘔吐←嘔吐初期には代謝性アルカローシスでろ過されてくるHCO3-を近位尿細管が再吸収しきれず、それに引きずられて尿Naも高くなる、renal / cerebral salt wasting;MRHEもここに入れていいかもしれない、一次性副腎不全→低アルドステロニズム、かくれた利尿薬使用)と、②ECFは正常にもかかわらず水排泄ができない病態(甲状腺機能低下症、二次性副腎不全→低コルチゾールによりACTHとAVPの抑制がされなくなる、SIAD←ADH過剰に似た稀な遺伝疾患も含めた総称)を考える。

 アルゴリズムというのは「頭のいい人たちがつくって、他の人たちが頭を使わなくてもいいようにしたもの」に感じられるので、個人的には自分の頭を使ってすべての患者情報と病態生理と鑑別診断をならべて総合的に判断したいなと思ってしまう。この論文でいえば、最初の病態生理の総論と一つ一つの原因の各論を読むのがやっぱりためになる(し、アルゴリズムではカバーされていないものも触れてある)。

 新しいアルゴリズムは尿生化学に重点を置いて、尿浸透圧ではAVPと溶質量を評価し(とくにAVPを中心においているのが正統的で)、尿Naで水過剰だけでなくNa喪失が従来よりもカバーされており(Na喪失の病態も結構多い…日本にとくに多いような気がする)、さらに有効循環血液量でECF低下と拡張の病態を統一的にしているのがすっきりしていると思う。アルゴリズムより、低浸透圧性低Na血症で尿浸透圧が100mOsm/kg以上のところから下流(そこまではお作法なので)を表か何かにまとめたら使いやすそうだ。



2015/09/24

SWPU

 腎臓を作ったら尿ができるわけで、それをどう排泄させるかは実際に腎臓を埋め込む時にも考えなければならない問題だ。いままで後腎組織から腎臓をつくっても尿が排泄できなくて水腎症になっていたそうだが、総排泄腔組織を移植してつくった腎臓+尿管+膀胱を、移植された側の尿管とつないだら(stepwise peristaltic ureter system;SWPU)、尿がちゃんと流れて腎臓も成長して機能したという論文(doi:10.1073/pnas.1507803112)がでて、これはビッグニュースで一般でも取り上げられている。ラットとブタでの実験で、今後ヒトiPS細胞で応用されるようになるかもしれない。

 私は手術のことはさっぱりわからないので、この論文の要であるSWPUが、どれくらい技術的に難しいのかが興味深い。それから、動物で成長させたヒト腎臓+尿管+膀胱(動物の細胞や変な感染症が混じらないように工夫したとして)をどうやって患者さんに移植するのかも興味深い。というかこの段階では尿路(またSWPUするのだろうか?腎移植のように最初はステントを入れたりするのだろうか)だけでなく腎血流も患者さんとグラフトでつなげなければならない(動物のおなかに移植していたときはレシピエント側から血管がやって来てグラフトを栄養していた;論文にはヒト由来の血管が新生するだろうと書かれている)。先をいろいろ考えさせさられる。



2015/09/17

悲しい話

 「AKIコンサルト」ということで見てみたらCr 8mg/dl、著明な高リン血症、アシドーシス、貧血、超音波で腎萎縮があって「これはCKDでしょう」ということが往々にしてある。残念ながら原因検索をしてもマネジメントが変わらない(移植が考慮される場合は別だが)ので、透析までの期間をできるだけのばすCKDのマネジメントをすることになる。腎臓病は最後の最後まで症状が出ないので、医療受診をしない人ではこういうことが起こる。しかし、医療受診をしていても、半年前のCrが高値、それから無介入で月日は流れて腎廃絶にいたり発見されるというような信じられないこともあって悲しい。




 [2018年11月追加]世界には、打ち捨てられて信じられないようなクレアチニン値でやってくる人々がいる。いずれも、筋肉量が多く、尿毒症でも食欲が落ちない若めの男性だ。アラブ首長国連邦の報告では20歳男性の61.3mg/dl(Hemodialysis International 2013 17 137)。米国では34歳男性の53.9mg/dl(Open Journal of Nephrology 2013 3 217)。小児科では米国の17歳男子(思春期の移行期だが)で、52mg/dlという報告がある(Case Reports in Pediatrics Volume 2015, Article ID 703960)。

 前者ふたつの論文は「クレアチニンじたいには毒性がない」を結論にしているが、個人的には後者の「ここまで至る前に発見して治療するチャンスはいくらでもあった」のほうが、患者さん思いな結論で賛成だ。なお、ここまでいかなくても、尿毒素がたまってくると皮膚から析出し、これをUremic frostという(写真はNEJM 2018 379 669、クレアチニンは20mg/dlだった)。
 


2015/09/16

Spurious Hypophosphatemia

 低Na血症も高K血症も血小板減少もそうだが、低P血症にも偽性があるらしい。知らなかった。Paraproteinemiaのときに稀に起こり、タンパクがリン測定をinterfereするらしい(AJKD 1997 30 571、Ann Int Med 1999 131 314、QJM 2012 105 693)。Paraproteinemiaがあってリンが著明に低いのに症状もなくPTH、Vitamin Dなども正常な(あと、尿糖などもなくFanconi症候群も否定的な)時にはこれを疑って、タンパクを除いた検体で測定するそうだ。



Think Aloud

 内服薬のうちで適応となる疾患が既往症にリストされていないものをorphan drug(孤児薬)と呼び、その場合は適応の疾患があるのか吟味するか、適応なく使われている(または副作用がでている)ようなら中止することがpatient safetyとpolypharmacy対策(と医療経済)の面から薦められている。

 たとえば前医からのお手紙でcarvedilol、spironolactone、digoxinが処方されているのに既往のリストに慢性心不全がないというのは不思議だが、まあたぶん書き忘れだろう。問診と診察したうえで、私なら心不全の病名をつけて孤児たちに親を見つけてあげる。で、これらの薬の組み合わせをみると、いろんなことが考えられる。

 まずEF低下の心不全が疑われ、そういう目で診療する必要がある。すると、EF低下の心不全が本当なら心腎症候群などで腎機能も低下している可能性が透けて見えてくる。そこにspironolactoneが入っていれば、腎血流低下によりいつでも腎機能が低下したり高カリウム血症を起こしたりする可能性がある。

 なおMRA(mineralocorticoid antagonist;spironolactone、eplerenone)はEPHESUS(NEJM 2003 348 1309)、RALES(NEJM 1999 341 709)、EMPHASIS-HFスタディ(NEJM 2011 364 11)などで有効性が示されているが、EPHESUSはMI後のスタディだし、RALESとEMPHASIS-HFは基本的にACEI/ARBとの併用での有効性を示したスタディ。また、EMPHASIS-HFはeGFRが30ml/min以下の症例を除外している。本当にこの症例で有効かつ安全なのかを考えなければならない。

 造影剤使用にあたっては予防が必要なことは言うまでもないし、digoxinが必要か(心不全治療における位置づけは下がっていると記憶しているが…また腎不全があれば血中濃度を治療域にとどめるのも難しくなるだろう)も考える。

 こういう、頭に思い浮かぶことを言語化するのをthink aloudというが、日本にはあまりない習慣かもしれない。ぜんぶ言い尽くすから正しいことも間違ったことも露わになって成長が促されるが、大変は大変だ。


 [2016年7月追加]MRAのキー論文、PATHWAY-2(Lancet 2015 386 2059)を最近知った。resistant hypertensionにはspironolactoneという慣習的に知られたことを、β遮断薬、α遮断薬と比較して示したものだ。




2015/09/15

Delta Delta

 AG開大代謝性アシドーシスではΔAG/ΔHCO3を調べてAG非開大代謝性アシドーシスや代謝アルカローシスが混在していないかを確認するが、そのカットオフは1だと習ってきた。

 それが、KSAPをやっていたらHAから電離したH+は細胞外液のHCO3-だけでなく細胞内外のいろんなものにバッファーされるので血中のA-の増加とHCO3-の減少は必ずしも1:1ではなく、ΔAG/ΔHCO3は純粋なAG開大代謝性アシドーシスで1-2くらいだという。

 Referenceは挙げられていたが(KI 2009 76 1239←H-H、BE、Stewart法を比較した難解な論文)該当箇所を見つけられなかった。

 他にも論文(JASN 2007 18 2429)を当たったが、まあ計算式はいろんな仮定に基づいているので現実は理論どおりではないということらしい。この論文は純粋なAG開大代謝性アシドーシスでのΔAG/ΔHCO3は0.8-1.2を目安にしろと言う。

 数字だけでなく病歴や身体所見や経過もみて総合的に判断することが大事なようだ。



2015/09/14

Do No Harm

 腎機能の低下した患者さんや透析患者さんに容量調整が必要だったり禁忌な薬剤が処方されないようにするにはどうしたらいいか考えさせられた。とくに禁忌の薬剤となると、処方する医師がそれを知っているかどうかというレベルの問題ではない。薬なんて無限にあるし(たとえばSNRIのduloxetineが透析患者さんに禁忌だとか知らなかった)。だからもちろん調べなきゃいけないんだけど、電子カルテでSTOPサインがでるとか、薬剤師さんの側のシステムで止めるとかそういうことも考えたほうがいいと思う。先月のCJASNには患者さんが自分で処方された薬の安全性を確認するアプリを試験的に始めた論文がでていた(CJASN 2015 10 1364)けど、それは最後のラインと言う感じがする。良いQI(quality improvement)の対象だと思う。


2015/09/11

Caution

 造影剤腎症の診断に尿生化学を使うことはわたしはほとんどなかったが、KSAP(今年から始まった米国腎臓内科専門医試験対策+CMEのオンライン問題集)で「造影剤腎症ではしばしばFENaが低い」と書いてあり、UpToDateにも書いてあった。造影剤後の腎障害でFENaが低いのを見て「輸液しなきゃ」という人たちがたくさんいて注意喚起しなければならないということなんだろうなと思った。



2015/07/23

Electrolyte

 私は恥ずかしながら物理をほとんど勉強せずに医学部に入り、そのあとも物理をほとんど勉強せずに医学部を卒業したので、電圧:E(V)、電流:I(A)、時間:t(sec)、熱量(J)の関係が以下のように表される(ジュールの法則)ことを初めて知った。
J = E x I x t
 たとえば除細動器は電圧が約2000V、電流が約40Aにも達するらしい。しかし、時間が数msecと短いので治療域である50-250J程度の熱量で済む。プラスチックのパドルで絶縁されているからいいものの、ショックを掛ける側に通電すれば大ごとだなと思った。
 また最近日本で感電事故があったが、純粋な水は電離定数が低いので、抵抗が高いはずである。25度の理論純水の電気抵抗率は18 x 10^8Ω・mだそうだ。しかし自然の水は電解質が溶解しているので電気抵抗率は0.03 - 0.1 x 10^8Ω・m、また血液の電気抵抗率は0.02 x 10^8Ω・mだそうだ。電解質が「電解質」と言われるのには、理由があるということだ。


2015/07/22

EAH

 血よりも濃いものを作れるのはなんだろう?B'zの"RUN"(1992年)は、「時の流れ」だと言っている。しかし体内では、血よりも濃いものを作れるのは腎臓だけである。

 だから熱中症で低張の体液である不感蒸泄が増えただけなら、ナトリウム値は上がりそうである。それで、熱中症の予防には一般に体液喪失を防ぐと共に水分補給をすることが奨励される。しかし、overhydrationをした場合 and/or 浸透圧上昇・体液不足などでAVPが出ている(腎が水排泄を抑制している)場合には、水摂取が水排泄を上回るので低ナトリウム血症になる。総水分量と体液量(volume)を別に考えなければならないのがtrickyだ。そして、これに関連してexercise-associated hyponatremia(EAH)にも言及しなければならない(Google Scholarに"hyponatremia heat stroke"と入れるとEAH関連の論文に飛ぶ)。

 マラソン(NEJM 2005 352 1550)でも軍事演習でもハイキングでもアメフト練習でも水泳でも、汗があまり出ず(slow-pacedな人で起こりやすい)口渇もないのに水を過剰に摂取することがEAHのリスクになる(EAHの国際コンセンサスを日本の教授に教えていただいた;Clin J Sport Med 2015 25 303)。つまりEAHの本態はdilutionalということだ(塩喪失の関与もないことはないが、ultramarathonなど極端な例に限られるとされている)。EAHは急性のナトリウム低下であり、脳ヘルニアのリスクがosmotic demyelinationのそれを上回るので、重症EAHは直ちに高張液で治療することが推奨されている。3%NaClでもよいし、もし手元になければ8.4%NaHCO3でもよいと(逆に言うとそれだけ8.4%NaHCO3は高張だという認識が必要だ)。



2015/07/16

Beeper

 スマホはおろか携帯もインターネットもメールもなかった時代がそう遠くないことが信じられないほど世界はever fasterであり、仕事時間というものもなくなってしまっている(24時間ハイテク機器にconnectされているから)。しかし、この世代の私達がどのように生きてけばいいのかを、だれも教えてくれない。ひとつのやり方は機械のように回転を速く速くして仕事に没頭することだが、それは不健康な結果をもたらすかもしれない。
 そんななか、米国医師が未だにおおかたポケベルを使用しているというのは興味深い事実だ。少しでも仕事から距離をおきたいということなのかもしれない。だから米国で医者をしたら、ポケベルに愛着が湧いてくる(日勤帯のあのコール、当直帯のこのコールが思い出されるから)。というわけで、Lancetに患者さんがAKIを発症したらチーム全員のポケベルにAKI alertを鳴らすという研究結果が発表された(Lancet 2015 385 1966)。
 しかし、結果はalert群とusual care群で死亡、透析、クレアチニン高値に差はなかった。AKI発症の定義は基本的にクレアチニンの上昇だったから、too lateである。それにalertを鳴らされたからといって、鳴らされないのに比べて先手を打ってできることはほとんどない(残念だが;腎毒性のある薬物を避ける、くらいしかない)。
 しかしalertというのは面白い考え方で、たとえばMRSAやC. difficileなどcontact precautionを要する菌をもつ患者のカルテにはその旨が大きく記載されるし、codeなども赤字で目立つようになっている。だから、eGFRが低値の患者さんではその旨を目だって表示する(たとえばCKD4期ならシャントのために右上肢からの採血やルート確保はしないなど対策ができる)などは有効かもしれない。


2015/07/13

Induction Therapy

 腎移植の免疫抑制レジメンは施設によって大きく異なり、前向きのRCTが組めない性質上そのままになっている。例えば導入レジメンは、私がいた施設では生体腎(低リスク群)にはbasiliximab(抗IL-2受容体モノクローナル抗体)+MMF+ステロイド+tacrolimus(腎毒性を嫌って3-4日目からゆっくり入れていた)、献腎(高リスク群)にはrATG+MMF+ステロイド+tacrolimusだったが、これは標準でもなんでもない。

 施設によってはalemtuzumab(抗CD52モノクローナル抗体)を使うところもあるし(私はこの薬のblack-box warningに挙げられている重度の自己免疫性溶血性貧血の一例を診たので怖くて仕方がないが、いまではCLLや多発性硬化症などにも用いられているようだ)、低リスク群にはステロイドを抜く場合もあるし、tacrolimus+MMFだけの場合もある。一応KDIGOは低リスク群にbasiliximabを第一選択にしているそうだが、これはcyclosporineしかなったころのデータに基づいた推奨で、outdatedな感もある。

 そこで、先月のCJASNにこの問題をaddressする論文(CJASN 2015 10 1041)が出た。これは2000年から2012年までに初回生体腎移植(クロスマッチ陰性、ABO適合、1-6 HLA mismatch)を受けた成人レシピエント群のうち、退院時にtacrolimus+MMF(MPA;mycophenolic acidと書いてあったがそのプロドラッグであるMMFのことだろう)を処方されていたすべての患者を後ろ向きに解析したものだ。Selection biasを避けるためにpropensity score analysisしているが、無理やりな感じは否めない。これが移植業界のエビデンスの根源的な弱点だ。

 結果、ステロイドを含んだレジメンではbasiliximabを使った群も使わなかった群もacute rejectionの率に差はなかった。ステロイドを含まないレジメンではbasiliximabを使った群よりrATGまたはalemttuzumabを使った群のほうがacute rejectionの率が有意に低かった。ただしoverall graft failureはbasiliximabとrATGが同じくらい、alemtuzumabはそれより有意に高かった。Alemtuzumabは置いといて、本論文は低リスク群のステロイド含有レジメンにおけるbasiliximabのadded benefitに疑問を呈する格好だ。

 おそらく、低リスク群にはtacrolimus+MMF+ステロイドで十分なのだろう。しかし、怖いからみんなbasiliximabを簡単にはやめないと思う。もしやめるとしたら、basiliximabを加えることによる免疫抑制過剰のリスクがあるという報告が出る時だろう。

 Calcineurin inhibitorに代わる、腎毒性のない薬として市場にでている(cyclosporineと比較したBENEFITトライアルはAm J Transplant 2010 10 535、日本では未承認;co-stimulatory pathwayに関与する薬というのが興味深くて以前に触れた)belataceptも、余り広まらない。これも、月1回クリニックで注射しなければならず手間(米国時代、移植後担当コーディネータが文句を言っていた気がする)なだけでなく、PMLやPTLDが出るとかリスクがあるからだと思う。


[2018年12月追加]おくればせながら、BENEFITトライアルの最終結果がでていた(NEJM 2016 374 333)。トリックは1対1対1の割付で高用量・低用量ベラタセプトをシクロスポリン群と比較していることで、グラフト予後・患者予後ともに高用量・低用量でシクロスポリンより優れていた。



 では感染症などの副作用はどうかというと(それを心配して低用量群を用意したわけだが)、高用量は低用量よりは多いが、シクロスポリン群ほどは多くなかった。

 BENEFITは生体腎と献腎(状態のよいSCDのみ、ECDはBENEFIT-EXTで別にスタディがくまれた)どちらも含むスタディで、多国籍スタディだがアジアからはインドとトルコしか参加していない。わが国で月1回点滴するのはそんなに高いハードルにはならないだろうが、往々にして免疫抑制が効きすぎる。だから、「ジャパン低用量」を見つけて、ひろく安全に活用されればよいなと思う。



2015/06/29

Prerenal

 「米国腎臓内科あるある」のひとつに、腎臓内科に興味を持っているがまだ将来は決めていない学生さんや研修医の先生方のことをprerenal(腎前性)と呼ぶというジョークがある。日本でも同じなのかな。さてご存知の通り米国の腎臓内科は人気がないので、学会は腎前性の彼らをいかに腎性にするかをいろいろ考える(たとえばCJASNには腎臓内科医のキャリアを選択する要因はなにかを分析した論文が数年前にでた、doi:10.2215/CJN.03250312)と共に、腎前性の層を増やすにはどうしたらよいかも考えている。
 そのひとつで最近出た論文が、内科レジデンシーにおける選択科ローテーション(elective)で腎臓内科は入院診療のexposureに比重を大きく置きすぎて、外来診療へのexposureが足りないのではないか、というものだ(doi:10.3109/0886022X.2015.1055693、Renal Failureなんて雑誌があるとは初めて知った)。全米の腎臓内科フェローシップのprogram directorに調査を行ったものだ。こういう「学生さんや研修医の先生方にいかに興味を持ってもらうか」というのがよく話題に上るのも「腎臓内科あるある」だ(日米どちらもそうな印象をうける;腎臓内科の先生方は元々教えるのが好きだし、腎臓学というのは独りで学べるようなものではないからだ)。
 論文の感想として、たしかに外来へのexposureが多いほうがよいと思う。一般腎臓内科外来(腎機能低下、血尿、蛋白尿など)のみならず、より特化したCKD外来、腎炎外来、尿路結石外来、血液透析外来、腹膜透析外来、自宅透析外来(米国にはある)、腎移植後外来、腎移植前外来(レシピエント、生体腎の場合はドナーも)などを見せるのもいいだろう。また論文にもあるようにmentorshipをきちんとして、指導する専門医がシステマチックに腎臓内科の魅力を伝えることも重要だ。
 ただ、腎臓内科を選択する内科レジデント(とくに米国の医学部を卒業したレジデント)が年々減っているのは、こういっては身も蓋もないが勤務時間のわりに儲からず割に合わないからだ。その為、せっかく腎臓内科専門医まで取ったのに転向してホスピタリストをやる人までいるくらいだ…(腎臓内科をやると全身を診るから、よいホスピタリストになれることは事実だが;あと自分が診るので腎臓内科コンサルトをしなくて済むという利点?もある)。腎臓内科が居るとアウトカムがよくなるなどのスタディをだし、みんなが「やっぱり腎臓内科は必要だ」と考えを変え、結果reimbursement(診療報酬)の構造が変わって米国の腎臓内科がリーズナブルに儲かるようになればよいなと思う。


2015/06/19

代償性腎肥大とclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signaling

 もうその道の先生方ならとっくにご存知かと思うが、腎肥大に関する画期的な論文がJCIに出た(JCI 2015 125 2429)。例の米国の優秀なお友達が論文をくれて、ありがたいことだ(その方は私が以前に書いたremote ischemic pre-conditioningについての最新の論文もくれた)。生体腎移植のドナーや腎腫瘍患者さんなどで片方の腎臓を摘出された場合、残った腎臓が代償性に肥大することは良く知られている。

 腎肥大はなぜおこるのか、その分子的な機序は長年不明であったが、この論文はそのうち二つを明らかにしたものだ。

 一つはEGFRを介したclass I PI3K/mTORC2/AKT signalingで、これは腎摘出とは関係なくEGFRが刺激されると下流のカスケードにスイッチが入り尿細管増生が起り腎massが大きくなる。もう一つは、片腎を摘出した後に残りの腎への血流が増え栄養が増えることにより賦活化されるclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signalingだ。

 画期的な研究だが、個人的には腎massの増大が尿細管の増生なことに少しの違和感を感じる。つまり、糸球体の数は変わらないということだ。Hyperfiltrationになるのは片腎への血流が増えるからで、じつは糸球体に負荷がかかっているのかもしれない。尿細管が増生しても、各種イオンの排泄・再吸収には貢献するだろうがeGFRにはあまり関与しない。むしろ、論文のdiscussionに書かれているように代償性肥大は腎に負荷がかかりいずれmaladaptationに陥る(ネフロンの障害や間質の線維化を起こす)という考えもある。先日書いたobestity-related glomerulopathyなどはそのよい例だ。

 しかし生体腎ドナーは腎予後もよく長生きするわけだし、尿細管の増生によって成長因子や良いサイトカインが出てネフロンが保護されているのかもしれない。



2015/06/18

CKDとMg

 Mgが低く(2.1mg/dl以下)高リン血症のCKD群と、Mgが高く(2.1mg/dl以上)高リン血症のCKD群では、Mgが高い群のほうが末期腎不全になりにくいというコホートスタディがでた(doi:10.1038/ki.2015.165)。これだけでは相関しかいえないし、「高リン低MgのCKD患者さん」と「高リン高MgのCKD患者さん」というのは臨床的にどんな人達なのか想像がつかない。高Mgの人たちは、Mg摂取量が多いということだろうか。だとすればMgが多い食品というのはナッツ、藻類、豆類などだそうだからこれらを多く摂る人は野菜も多く摂っておりアシドーシスが抑えられているのかもしれない。

 ただ、Mgが血管の石灰化や炎症を抑制するということはin vitroでよく示されているようで(たとえばNDT 2012 27 514)、上記の論文でもMgがサイトカイン産生を抑制したなどの結果があった。Mg2+はCa2+と拮抗して平滑筋収縮を抑制したり尿路結石の形成を予防したりするから、同様に血液中のCa9(PO4)6粒子やcalciprotein particleの形成(これらについては以前に書いた)を抑制しているのかもしれない。将来的にMg投与によって心血管系イベントや末期腎不全への進展が抑えられるかというスタディが組まれて、もしそうだと分かれば明るい話題になるだろう(もちろん高Mg血症に注意しなければならないが)。

 [2016年7月追加]まだ大きなスタディはないが、Mg補充と降圧をみた小さなスタディはヨーロッパを中心にいくつもあって、それらをメタアナリシス論文がでた(DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.116.07664)。それによれば、300mg/d以上(Mgの分子量は24.3なので酸化マグネシウムで約500mg以上)の摂取で収縮期血圧2mmHg、拡張期血圧1mmHg(CIで有意)さがっていた。高血圧患者も血圧正常被験者もあわせているし、おそらく腎機能正常例を対象にしているので上記テーマとは必ずしも直結しないが、きちんとしたスタディはしてもいいのかなと思う。なおMg濃度は0.05mmol/l(0.1mg/dl)程度あがった。



2015/06/15

Bundles

 いまいる職場はバンドル作りやチェックリスト作りが好きだ。レクチャをしても、最後にチェックリストを提示して締めくくることが慣習になっている。これは実践的でとても良いことだと思うし、私も少しずつ貢献できればと思う。先月CKDの簡単なチェックリストを作ったら(フェロー時代にみんなが使っていたものだが)研修医の先生達が援用してくれているようで、役に立ったなら嬉しい;

①原因
②体液量・血圧
③蛋白尿
④電解質・酸塩基平衡
⑤CKD-MBD(mineral and bone disorder)
⑥貧血・鉄代謝
⑦血糖
⑧尿酸
⑨心血管疾患の予防と治療
⑩ESRDへの備え

 それで、次は維持透析患者さんを診た時に考えることというのも作ってみようと思い立った(研修医の先生方にとって透析患者さんがなかなか取っ付きにくいみたいなので)。この分野には良書、成書がたくさんあるから「本を読んでおいて」と言い放ってもよいのだが、バンドル・チェックリストというのは「もっと短時間で読めて使えるものをくれ!」というニーズに応えるものなので、簡潔でなければならない。たとえば;

①末期腎不全の原因疾患
②ヴィンテージ(何年血液透析を受けているか)
③透析施設
④透析曜日
⑤ブラッドアクセス(シャント、グラフト、カテーテル)
⑥ドライウェイト
⑦最終透析日と透析後の体重
⑧IDWG(inter-dialytic weight gain;透析と透析の間でどれだけ体重が増えるか)
⑨自尿の有無
⑩透析の問題点(透析中の低血圧、高K血症、重なる溢水エピソード、たびたび透析に来ないなど)

 他にも、透析時間、透析モード(HD、HF、HDFなど)、血液流量、透析液流量、抗凝固薬の種類、透析膜、透析液・置換液組成、ESAの用量、鉄の用量、移植の適応について考慮されたか、など挙げ始めれば切がないが、「とりあえず透析患者さんが入院してきたらこれだけは聞いて欲しいこと(そして患者さんもこれ位なら簡単に答えてくれそうなこと)」という、初歩者にも使いやすいものにするには、取捨選択しなければならない。


[2018年11月追加]日本腎臓学会が2016年に提言した、こんな表もある(生活習慣病からの新規透析導入患者の減少に向けた提言~CKD(慢性腎臓病)の発症予防・早期発見・重症化予防~)。分厚いガイドラインとは別に、こうした使い勝手がよく漏らしの少ないリストを、自分なりに作るのもありかもしれない。




2015/06/09

アカデミズム(aka ORG)

 大学の勉強会に参加してきた。教授が親切にも(医局員でもない)私の成長を気遣ってくださり、ご厚意で参加を許されてありがたいことだ。心の中は不思議と静謐で、やはりアカデミズムのなかにいると自分は落ち着くようだ。そして、そこで私がフェロー時代に同級生がNephrology Grand Roundで最初に(2011年9月)発表したobesity-related glumerulopathy(ORG)を思わせる症例を聞いた。

 糖尿病のない重度肥満に伴うネフローゼ症候群は1974年に初めてPalo AltoのVA病院から報告された(Ann Int Med 1974 81 440)。腎病理標本データベースを見直したコロンビア大学の報告(KI 2001 59 1498)によれば、その頻度は徐々に増えているそうだ。まあ肥満じたいが増えているから無理もない。

 病理像としてはFSGSないし糸球体肥大を呈する。原発性FSGSと比較すると、ORGは蛋白尿の程度が軽度でネフローゼ症候群にまでなることは少なく、分節性硬化や足突起のeffacementは少ない代わりに糸球体は肥大していたそうだ。またイヌに高脂肪食を食べさせて肥満にすると(JASN 2001 12 1211;こんな実験は今はもう出来ないかもしれないが)腎が肥大し、糸球体が肥大し(TGFβ1の発現が亢進し)、hyperfiltrationになり、intraglomerular hypertensionを反映してか(交感神経の刺激により)RAA系が亢進する。またadiponectin減少も病態に大きく関係しているようだ(NDT 2008 23 3767)。

 治療はRAA系阻害薬、睡眠時無呼吸の治療、bariatric surgery(減量のための胃切除;有効性を示したペンシルベニア大学の発表はClin Nephrol 2009 71 69)など。



POEMS & HHV8

 HHV-8といえばKaposi肉腫とCastleman病(正しくはmulticentric Castleman's disease;MCD)の原因だとは聴いていたがPOEMS症候群(polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein, skin changes)にも関与していることは知らなかった(Blood 1999 93 3643)。しかし考えてみればMCDのリンパ節病理像は典型的には形質細胞のポリクローナルな増殖をとる(AIDS Rev 2009 11 3)。稀にモノクローナルな形質芽球にtransformしてアグレッシブな形質芽球性のリンパ腫になることもあるらしい(Am J Surg Pathol 2007 31 1439)が、これはHHV-8だけでなくEBVにも感染したAIDS患者の症例報告だ。いずれにせよ形質細胞にtropismがあるHHV8がMタンパクがでる病態を起こしてもおかしくはない。
 POEMS症候群のことは以前に腎臓のセミナーに行って初めて知った。POEMS症候群の診断基準に腎機能は含まれていないのであるが、Mタンパクもだすわけだし腎障害ももちろん起こす(Tohoku J Exp Med 2013 231 229)。フォローすると半数が腎障害を起こし15%が透析導入になったという報告もあるそうだ(NDT 1999 14 2370)。ただし、これらの機序はMタンパク質とは必ずしも直接は関係ないかもしれない。現在の仮説は、VEGFとIL-6による未熟な(CD34陽性)内皮系細胞の増殖、leakyな内皮細胞、内皮細胞ループの増加、糸球体基底膜の二重化(内皮下領域の増生)、メザンギウム領域の増生などが考えられているようだ。
 POEMS症候群の治療であるが、MCDではRTXや抗IL-6モノクローナル抗体であるtociliximab(日本で開発されたお薬らしい;抗IL-2モノクローナル抗体で生体腎移植の導入に用いられるbasiliximabと名前が似ている)が試されているのに対し、POEMS症候群は骨髄腫に準じた骨髄移植、MP療法、thalidomide、lenalidomide、bortezomibなどが試され、産生元の形質細胞をたたかないことにはという感じみたいだ(Blood Reviews 2007 21 285)。調べてみると、抗IL-6も移植・化学療法後の再発例に対して学会発表レベルでは試されているようだ。


2015/06/06

Stem Cell & Regeneration 2

 "Making a kidney is not a dream any more"、そう演者の先生が仰った。確かにこの先生のグループは20年ちかく苦労してhuman PS細胞からembryoid body、epiblast、nascent mesoderm、posterior nascent mesoderm、posterior intermediate mesodermなどを経てmetanephric mesenchymeをつくり、それにBMP、Wnt、activin、retinoic acid、fgf9だのをさまざまに混ぜて未熟ではあるが糸球体の形をした足細胞と近位尿細管と遠位尿細管を作った(下図;Cell Stem Cell 2014 14 53より)…すごい。まだ毛細血管内皮細胞もメサンギウム細胞も集合管もないが、これらの細胞の起源(集合管は尿管芽由来だ)を調べて、幹細胞からこれらの細胞を作る技術を編み出して、お互いにうまいこと掛け合わせれば、本当にネフロンができちゃうかもしれない。そのネフロンから作り出される尿が腎臓内科学の未来だと、私は信じたい。
 [2016年6月追加]同じグループがCITED1+/SIX2+のネフロン前駆細胞をES細胞とiPS細胞から作ってin vitroに増やす方法を開発した(Cell Reports 2016 15 801)。マウスでだが、ヒトにも応用できるだろう。研究は進んでいる。


FGF23 and Klotho

 JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。

 CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。

 じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。

 あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。



尿中L-FABP

 糖尿病性腎症(DKD)のアップデートを受けた。以前に講演を聴いたときの内容や、以前にもった質問とうまくオーバーラップして、さらに新しい知見もたくさんあって学びが多かった。以前の講演でも触れられたDKDにおける炎症の関与がより詳しく説明された。GLUT、RAGE、TLRなどがinflammasome(Nlrp3、ASC、pro-caspace-1)を動かしてサイトカイン放出など炎症を惹起するということだった(KI 2015 87 12)。またDKDでアルブミン尿がない群はどういう群なのかという以前の質問についても、腎硬化症と類似した病態で予後も(糖尿病があるにもかかわらず)腎硬化症とほぼかわらないとのことだった(Diabetes Care 2013 36 3655)。

 知らないこともたくさん習った。2期腎症になると現れる初期の病理変化には門部(ネフロンの血管極)小血管増生がある(しばしば硝子化をともなう)。eGFRが45ml/min/1.73m2以上の群であっても病理で糸球体に結節や分節性硬化がみられる場合は予後が不良である。また蛋白尿が0.5g/gCr以下の群では糸球体基底膜の二重化(結節の有無は問わない)と間質の細胞浸潤があると予後不良だという。つまり糖尿病性腎症も腎症なんだから、ちゃんと腎生検すれば予後や重症度についての有用な情報が得られるということだ。

 しかし糖尿病性腎症の全例に生検するわけにもいかない。そこで日本の診療ガイドによれば以下の場合に腎生検が推奨されているらしい。すなわち①網膜症がない、②赤血球円柱などがある、③蛋白尿が糖尿病に先行している、④蛋白尿が急激にふえた、⑤eGFRが急激に低下した、など。②などは、私がフェローだったころは「腎炎をみつけても糖尿病の患者さんに高用量ステロイドを投与しますか?」という議論によくなったが、しっかり血糖コントロールが出来ればいいのかもしれない。

 糖尿病性腎症の治療はここで振り返るまでもないが、早期に発見していわゆる集約的治療(生活習慣の改善、降圧、血糖管理、ACEI/ARBなど)をちゃんとやれば微量アルブミンもなくなるし心血管系イベントも減って成果は出るというスタディが続々出ていると知った(まとめたのがKI 2014 86 50、PREVEND-ITやRENAALやONTARGET/TRANSCENDなどのサブ解析を行った;日本のスタディも含まれている)。ではどうやって早期に発見するか?ということでバイオマーカーの話になった。微量アルブミンよりも早くみつけるにはどうしたらいいのか。

 それで、尿中L-FABP(liver-type fatty acid binding protein)の話になった。これは日本では2011年から保険適応になっている。知らなかった…。糖尿病性腎症の早期マーカーとして上昇し(Diabetes Care 2011 34 691)、DKDを診断する感度としてROC曲線を描くと微量アルブミンよりも優れている(AUC 0.825)。これが保険適応になった背景には、日本政府として糖尿病と糖尿病性腎症の社会的経済的な負担を少しでも軽減したいという期待があるように感じられる。というのもこれからアジアで糖尿病性腎症とそれによる末期腎不全がどんどん増えていくと見込まれているからだ(Lancet 2015 385 9981)。糖尿病の合併症のなかでも腎症だけはなかなか減っていないという米国のデータもある(NEJM 2014 370 1514)。どげんかせんといかん。



AN69ST膜

 日本には「血液浄化」という言葉があって(英語にもblood purificationと訳されているがあまり使われない)、透析によっていろいろ除去して患者さんを助けることが出来るという信念のもと優れた膜の開発や透析方法の工夫がなされている。ヨーロッパもそうだ。しかし多くは大規模スタディでいまだ結果が出ていないのが現状だ。

 High-dose CVVHDF(70ml/kg/hr)を試したヨーロッパのIVOIREスタディも有意差がでなかった(Intens Care Med 2013 39 1535)。Polymyxin B hemoperfusion(PMX-DMP)はEUPHASスタディ(JAMA 2009 301 2445)では有意差が出たが、腹膜炎に対するABDO-MIXスタディでは2014 ISICEM(international symposium on intensive care and emergency medicine) conferenceの予備結果で有意差が出なかったという(ただし膜のclottingが多かったらしい;Crit Care 2014 18 309)。北米ではEUPHRATESスタディが走っている。

 早期RRTについてはスタディの立て方が難しい(早期RRT群はそもそもRRTが不要だった群という問題を包含しているし、早期介入の基準をどこに置くかが難しいため)が、インドのスタディでは有意差が出なかった(AJKD 2013 62 1116;他にもたくさんこの手のスタディはあるのにどうして講演でこれが引用されたのかよくわからない…比較的最近でたからだろうか)。しかしいまSTARRT-AKIスタディがカナダで、IDEAL-ICUスタディがフランスで走っているので結果まちだ。

 で、CAH(cytokine absorption hemofilter)として登場し、膜技術の粋を集めて作られたのがAN69ST膜(商品名SepXiris®)だ。これはサイトカインの吸着に優れたANとmethacryl sulfoneのコポリマーにpolyethylenenimineを表面処理しており、生体の炎症惹起が起こりにくいとされる。日本のスタディで(ちょっとアクセスがないのでどんなのかわからないが;Blood Purification 2012 34 164)いい結果が出たらしいので、日本ではすでに保険適応が通っている。それは;

(1)重症敗血症及び敗血症性ショックの患者
(2)敗血症、多臓器不全、急性肝不全、急性呼吸不全、急性循環不全、急性膵炎、熱傷、外傷、術後等の疾患又は病態を伴う急性腎不全の患者、あるいはこれらの病態に伴い循環動態が不安定になった慢性腎不全の患者

 だそうだ。つまり腎不全がなくてもいいわけ。いつの間にこんなことになっていたとは…(いいのか?)。重症敗血症というのも曖昧な表現だし、誰にいつまで何を指標にどれだけ行くのか、そしてその有効性は大規模RCTで検証されることになるのか、まだ誰も知らない…。ただ抗凝固は出来ればヘパリンがいい、nafamostatを使うとpolyethyleneimineで表面処理している関係でnafamostatが吸着されて回路内凝固を起こすらしい。

 [2016年7月追加]数年前に、ハーバードの画期的な応用研究をする機関Wyssが、マンノース結合レクチン(MBL)をFc抗体につけた分子を磁性ナノビーズにコーティングした「磁性オプソニンビーズ」で血中の細菌を吸着して、膜の外から磁気をかけてビーズごと抜いてくるという「人工脾」を開発した(Nat Med 2014 20 1211)。

 血液に菌を入れて感染させたモデルで100%ちかい菌を除去するが、臨床的に敗血症というのはどこかにフォーカスがあって全身に菌がいるのと、増殖を指数的に続けていると思うので、それを除去だけで治せるかはわからないなと思う。エボラも除去できるかもしれないそうだが、あれからフォローアップ情報を聞かない。


AKI to CKD

 AKIを発症した患者さんは腎機能が完全に前の状態にまで戻ることもあるが、多くの場合(その後もAKIのinsultを受ける受けないに関わらず)CKDに移行することが知られている(有名な下図はCJASN 2008 3 881より、他にも臨床研究はJASN 2009 20 223、JAMA 2009 302 1179、分子メカニズムはNat Rev Nephrol 2015 11 264)。


 問題は、この群を誰がフォローするかだ。正直、上図の1群はかかりつけ医でいいと思う(そしてお返しするときに「これこれにお気をつけ下されば幸いです」とお手紙をつければいいと思う)。4群はどうしようもない。2-3群は腎臓内科でフォローすることになるのだろうが、日本に1300万人いると言われるCKD患者さんすべてを腎臓内科で診ることは不可能だ。だからかかりつけ医との連携が不可欠になるだろう。

AKIはみんなの病気

 AKIで腎臓内科がコンサルトを受けるのはたいてい患者さんのクレアチニンが上がって、主科がどうにかしようとしても駄目なときだ。そこで腎臓内科コンサルテーションの仕事はほとんど探偵に等しく、死亡推定時刻(腎傷害がおこったとき)から遡ってそのまえの状況を細かに調べる。しかし、米国腎臓内科フェローシップの二年間でこれを来る日も来る日も30件くらい受けていると、楽しいんだけど「こうなる前になんとかできないものか」と思う。腎機能を下げる薬を避けるとか、血圧を維持するとかいろいろできることはあるし、AKIが必発なら状況なら起こる前からコンサルトしてくれたらmake a differenceできるのにと思う。つまりこういうことだ(下図)。


 しかし、早めに腎臓内科にコンサルテーションすると患者さんの予後は変わるの?という問いに答えはなかった。しかし今日、そういうスタディがあると知った(PLOS ONE 2013 8 e70482、NDT 2011 26 3202)。これらはICUでAKIになってから48時間以上待ってからコンサルトした患者さん達は死亡率が高かったというものだ。また、ICUに腎臓内科医(critical care nephrologist)がいると患者さんの予後が改善するというスタディもあるそうだ(Cardiorenal Med 2013 3 79)。特別な手技をするわけでもない腎臓内科医(透析だけならICU医だってできる)にコンサルテーションするだけでICU患者さんが助かるなんて、やっぱり腎臓内科医は格好いい。
 そこから話は進んで、上の図のように全科において患者さんのAKI発症リスクを認識してもらいAKIを予防することが大切だ。私もコンサルテーションしていたときには主科に「これからはこういうことに気をつけてね」と予防啓発活動を行っていたが、前述の日本版AKIガイドラインには予防の章もあるそうだからそれが活用されればいいと思う。ただし、AKIのガイドラインを腎臓内科と集中治療科と循環器内科以外の先生が入手するだろうか…せっかくいいものが出来あがったら、大々的に宣伝して全科の先生方が持つようになったらいいと思う。でもそれが難しかったら、やはり地道にコンサルテーションを通して(コンサルテーションチームに他科志望のレジデントや学生をいれることもよい教育になる;私がフェローシップしたところも内科や麻酔科のレジデントがローテートしていた)やるしかない。