腎移植の免疫抑制レジメンは施設によって大きく異なり、前向きのRCTが組めない性質上そのままになっている。例えば導入レジメンは、私がいた施設では生体腎(低リスク群)にはbasiliximab(抗IL-2受容体モノクローナル抗体)+MMF+ステロイド+tacrolimus(腎毒性を嫌って3-4日目からゆっくり入れていた)、献腎(高リスク群)にはrATG+MMF+ステロイド+tacrolimusだったが、これは標準でもなんでもない。
施設によってはalemtuzumab(抗CD52モノクローナル抗体)を使うところもあるし(私はこの薬のblack-box warningに挙げられている重度の自己免疫性溶血性貧血の一例を診たので怖くて仕方がないが、いまではCLLや多発性硬化症などにも用いられているようだ)、低リスク群にはステロイドを抜く場合もあるし、tacrolimus+MMFだけの場合もある。一応KDIGOは低リスク群にbasiliximabを第一選択にしているそうだが、これはcyclosporineしかなったころのデータに基づいた推奨で、outdatedな感もある。
そこで、先月のCJASNにこの問題をaddressする論文(CJASN 2015 10 1041)が出た。これは2000年から2012年までに初回生体腎移植(クロスマッチ陰性、ABO適合、1-6 HLA mismatch)を受けた成人レシピエント群のうち、退院時にtacrolimus+MMF(MPA;mycophenolic acidと書いてあったがそのプロドラッグであるMMFのことだろう)を処方されていたすべての患者を後ろ向きに解析したものだ。Selection biasを避けるためにpropensity score analysisしているが、無理やりな感じは否めない。これが移植業界のエビデンスの根源的な弱点だ。
結果、ステロイドを含んだレジメンではbasiliximabを使った群も使わなかった群もacute rejectionの率に差はなかった。ステロイドを含まないレジメンではbasiliximabを使った群よりrATGまたはalemttuzumabを使った群のほうがacute rejectionの率が有意に低かった。ただしoverall graft failureはbasiliximabとrATGが同じくらい、alemtuzumabはそれより有意に高かった。Alemtuzumabは置いといて、本論文は低リスク群のステロイド含有レジメンにおけるbasiliximabのadded benefitに疑問を呈する格好だ。
おそらく、低リスク群にはtacrolimus+MMF+ステロイドで十分なのだろう。しかし、怖いからみんなbasiliximabを簡単にはやめないと思う。もしやめるとしたら、basiliximabを加えることによる免疫抑制過剰のリスクがあるという報告が出る時だろう。
Calcineurin inhibitorに代わる、腎毒性のない薬として市場にでている(cyclosporineと比較したBENEFITトライアルはAm J Transplant 2010 10 535、日本では未承認;co-stimulatory pathwayに関与する薬というのが興味深くて以前に触れた)belataceptも、余り広まらない。これも、月1回クリニックで注射しなければならず手間(米国時代、移植後担当コーディネータが文句を言っていた気がする)なだけでなく、PMLやPTLDが出るとかリスクがあるからだと思う。
[2018年12月追加]おくればせながら、BENEFITトライアルの最終結果がでていた(NEJM 2016 374 333)。トリックは1対1対1の割付で高用量・低用量ベラタセプトをシクロスポリン群と比較していることで、グラフト予後・患者予後ともに高用量・低用量でシクロスポリンより優れていた。
では感染症などの副作用はどうかというと(それを心配して低用量群を用意したわけだが)、高用量は低用量よりは多いが、シクロスポリン群ほどは多くなかった。
BENEFITは生体腎と献腎(状態のよいSCDのみ、ECDはBENEFIT-EXTで別にスタディがくまれた)どちらも含むスタディで、多国籍スタディだがアジアからはインドとトルコしか参加していない。わが国で月1回点滴するのはそんなに高いハードルにはならないだろうが、往々にして免疫抑制が効きすぎる。だから、「ジャパン低用量」を見つけて、ひろく安全に活用されればよいなと思う。