2020/12/24

静脈還流障害

 すべてのCKD患者の貧血が腎性貧血ではないように、すべてのCKD患者の浮腫が腎疾患によるわけではない。そこで本稿では、浮腫の原因の一つである静脈還流障害について少し紹介したい。

 まず、静脈還流は下図のようになっている。泌尿器科医には常識だろうが、みぎ性腺静脈はIVCに直接注ぐのに対して、ひだり性腺静脈はひだり腎静脈に注ぐ。また、尿管周囲には尿管自身を栄養する静脈叢がある(ので、剥離しすぎに要注意である)。


こちらから引用)


 ただし、IVCには稀ながらさまざまな奇形が知られている。放射線科医には常識だろうが、たとえば腎静脈より尾側のIVCが無形成だと、静脈還流は下図のように体表静脈・奇静脈・半奇静脈などの側副路を通る。


(Insights Imaging 2015 6 631より)


 また、肝部下大静脈が閉塞したものはBudd-Chiari、ひだり総腸骨静脈がみぎ総腸骨動脈の下を通るところが閉塞したものはMay-Thurnerとよばれる。いずれも症候群であり、先天的な血管奇形だけでなく、後天的な血栓などによっても起きる。


(左はこちら、右はこちらから引用)

 さらに後天的な要因としては、妊娠、IVCフィルターのような医原性(9年前にも紹介した)、腫瘍(胃・肝・膵・腎などがおおい)による浸潤や圧排もある。これらをまとめて、「SVC症候群」ならぬ「IVC症候群」と呼ぶこともあるようだ(こちらも参照)。

 このように静脈還流障害はさまざまな部位と原因によって起こる。そこで、血管外科医には常識であろうが、CEAP分類がある(1994年作成され2004年改訂された、J Vasc Surg 2004 40 1248)。まずCは臨床徴候で、


C0:視診や触診ではわからない
C1:毛細血管拡張や網目状静脈瘤
C2:静脈瘤
C3:浮腫
C4a:色素沈着や湿疹
C4b:脂肪皮膚効果や白色萎縮
C5:治癒した静脈潰瘍
C6:活動性の静脈潰瘍


 疼痛、緊満、皮膚刺激、重だるさ、足つりなどの症状があるとS、ないとAがつく(C6, Sなど)。つづいてEは原因で、


Ec:先天性
Ep:原発性
Es:二次性(結果ではなく原因としての血栓症)
En:静脈に原因を同定できない


 Aは解剖で、


As:表在静脈
Ap:穿通枝
Ad:深部静脈
 
 
 であるが、Advanced CEAP分類ではさらに以下の18カテゴリーに分類している。

  1. 毛細血管拡張・網目状静脈瘤
  2. 膝上の大伏在静脈
  3. 膝下の大伏在静脈
  4. 小伏在静脈
  5. 伏在静脈以外の表在静脈
  6. 下大静脈
  7. 総腸骨静脈
  8. 内腸骨静脈
  9. 外腸骨静脈
  10. 骨盤内静脈(性腺静脈、広間膜静脈、その他)
  11. 総大腿静脈
  12. 深大腿静脈
  13. 大腿静脈
  14. 膝窩静脈
  15. 下腿以遠の静脈(前脛骨静脈、後脛骨静脈、腓骨静脈)
  16. 筋間静脈(腓腹静脈、ひらめ静脈、その他)
  17. 大腿の穿通枝
  18. 下腿の穿通枝

 最後にPは病態で、以下のように分類される。


Pr:静脈逆流
Po:静脈閉塞
Pr,o:静脈逆流と静脈閉塞
Pn:静脈に病態を同定できない

 
 「ハンマーを持っていると全てがクギにみえる」ように、CKD外来で浮腫を診れば反射的に利尿薬を処方したくなるかもしれない。しかし実際にはこうした静脈還流異常をもつ患者もいると思われ、自戒を込めて紹介した。お役に立てれば幸いである。


★ ★ ★


 じつは、今年最初の投稿も浮腫でした(こちらも参照)。それから色々ありましたが、年末も同じように「この患者さんの浮腫はなんだろう?」と考えることができています。

 とても、有難いことだと思います。ほんとうに、何気ない日常こそが「キセキ」だと痛感させられた一年でした。

 そんななか不要不急の本ブログを読んでくださっている皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです。どうぞ、お元気で!来年も、よろしくお願いいたします。



こちらより引用)



2020/12/22

SGLT2阻害薬の注意点

  腎臓内科医師が使う薬剤で最も近年注目を浴びているのが, SGLT2阻害薬である. 当初はDMの治療薬として登場したが, 血糖降下作用以外の心血管イベント予防や腎イベント予防などが次々と明らかになり徐々に適応が拡大してきている.

 ただ「First,  do no harm」という言葉があるように, 常に薬剤の良い部分だけでなく注意する部分にも目を向ける必要がある.

 SGLT2阻害薬の副作用の代表として腎機能障害が有名であるが, いくつかの要因が加わることで生じるDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)も忘れてはならない. 今回は参考にしやすい文献があったので簡単にご紹介する.

 SGLT2阻害薬内服中の患者がDKAを呈した場合, 1/3の患者の血糖値は正常と言われている. これをEuglycemic DKA(血糖正常DKA)と呼ぶ. ただ残り2/3はもちろん通常のDKAであり血糖値も上昇している.

 これまではDKA/HHSといえば血糖値も上昇していることが当然だったので, まずこの疾患のことを知る必要がある. なぜなら, 血糖上昇が軽度(<250mg/dl)であるため, 多飲や多尿も軽度であり重篤感が一見認められず見逃されることがあるからである. 

 頻度は観察研究で, 2型DM患者の場合, 1.3-8.8イベント/1000人・年であり1型の場合, 7.3イベント/1000人と1型DMの患者の方が発症しやすい. 特にSGLT2阻害薬を新規に開始してから180日以内に発症することが多いと言われている.

 ここからはQ and A形式で解説する.


 Q SGLT2阻害薬とケトアシドーシスの関係は?

 実はSGLT2阻害薬は複数の臓器に作用している. 言葉で全てを表現するのは難しいため, 本文中の図.1を引用する. SGLT2阻害薬自体にケトン体産生を亢進する作用があり血中ケトンが高値となる. 最終的には, 肝臓からの血糖産生より高血糖が, 腎臓からの血糖排出によりEuglycemicとなるので両者を天秤にかけた時の傾きで最終的に血糖が高いか正常かが決まる. 


 図1:ケトアシドーシスの状況でのSGLT2阻害薬の働き


 Q 注意すべき背景因子は?

 複数ある. 特に, 過剰なアルコール摂取や違法薬物使用者, 食事の偏り(低炭水化物食, ケトン食), 妊娠(現在妊娠を試みている or 妊婦), DKAの既往あり, インスリンへのコンプライアンス不良, インスリン持続ポンプの使用 などが挙げられている.

 

 Q どんなイベントで発症するのか?

 嘔吐, 脱水, 急性の感染, 手術のための入院や緊急入院, インスリンの効果不良 などいわゆるシックデイの状況が生まれることが発症しやすい要因である.


 Q 診断は?

 SGLT2阻害薬を内服している状況で, 血中ケトン上昇とアシドーシスを認めることで診断される. また, 1/3が血糖値が正常であることに注意が必要である. ここでケトン体測定が血中ケトンとされているのは, 尿ケトンと比較して測定できるケトン体の種類が異なるためである. 

 血清ケトン体:3分画であるβヒドロキシ酪酸, アセト酢酸とアセトンを検出

 尿中ケトン定性:ケトン体3分画のうちアセト酢酸とアセトンは陽性と出るが, βヒドロキシ酪酸は陰性

  DKAの際は尿中のβヒドロキシ酪酸の割合が増加する為, 尿ケトン体測定では陰性とでうるためである. 他のアセト酢酸とアセトンは尿中ケトン陽性となるが割合が低下しているため, DKAでもしばしば尿ケトンは陰性だが血中ケトンは陽性となる) 


 Q 治療は? 

 STICH protocolで対応する. 一部強引に頭文字を取った語呂であり, Stop sglT2 inhibitor:SGLT2阻害薬を中止, Inject bolus insulin:インスリン投与, Consume 30g 炭水化物:適度な炭水化物の摂取(インスリンと併せて, ケトン体産生を抑制するため), Hydrate:補液と呼ばれており, 薬剤を中止する以外は普段のDKA/HHSの対応と何ら変わりない.


 Q 予防は?

 SGLT2阻害薬を内服しているとある一定の確率で起きうることを医療者も患者も認識しておくことが重要であり, 患者毎のリスク因子, また新規イベントがあった時に受診するように促す. 

 SGLT2阻害薬はとても期待されている薬であり慢性腎臓病, 糖尿病, 慢性心不全の今後の管理に大きな影響を与えると考えられている. 注目されている薬だからこそ, 様々な側面を理解して適応のある患者さんには使用していきたいと思う。

2020/12/15

理想のPD液を求めて(イコデキストリンの歴史)

 結婚相手や就職先などと同様に、腹膜透析の透析液(PD液)にも下記のような「望まれる条件」があるという。しかし残念ながら、現在PD液にはグルコースとイコデキストリンの2種類しかチョイスがない。

 

(日腎会誌 2009 51 864)

 じつは、PDの黎明期からグルコースに代わるPD液は模索されていた。グルコースには体内吸収による除水効率の低下や血糖への悪影響だけでなく、糖やその代謝産物(glucose degradation products、GDP)などによる腹膜障害などの害が懸念されるからだ。

 アミノ酸含有PD液は、除水効率ではグルコースに引けを取らないが、高BUN血症とアシドーシスが問題になる(精製が難しいため、価格も)。台湾など海外ではNutrineal®として承認されているが、その使用は低栄養患者に限られている。

 グリセロールも、グルコースよりも急速に吸収されてしまい製品化には至らなかった。多分鎖ポリグリセロールPD液はラットに試されたが(Perit Dial Int 2013 33 15)、その後ヒトに応用されたという話は聞かない。

 他にも1980年代には牛乳由来の「ポリペプチドPD液」なるものが開発され(ASAIO 1986 32 550)、1990年代にベルギーで患者に応用された形跡はあるが(Perit Dial Int 1994 14 215)、商品化には至っていないようだ。

 結局、グルコース濃度を限ったり(日本は高濃度の4.25%PD液を使わない)、中性・低GDPのPD液にしたりといった工夫はあるものの、「非グルコース含有PD液」となると未だにイコデキストリンしかない。

 そう考えると、イコデキストリンPD液は数少ない「成功事例」といえる。その開発経緯を共有するので(Perit Dial Int 1994 14 S5、Perit Dial Int 2011 31 S49)、あらたなPD液開発のヒントになれば幸いである。


☆ ★ ☆


 イコデキストリンの元になったのは、トウモロコシ由来のマルトデキストリン、キャロリーン(Caloreen®)である。元々は栄養剤だったが、これをPD液に応用できないかという取り組みが、1980年代の英国マンチェスターで始まった。


こちらより引用)


 デンプンを加水分解して生じるマルトデキストリンには、さまざまな分子長の重合体が混ざっている。そこで、「サイズ排除クロマトグラフィー」による分画をおこなうと、下図のような分布がみられた。


(前掲論文より引用)


 上図には、分子量1kDaと20kDaのピークがある。有機溶媒により分画したところ、前者はすぐさま体内に吸収されてしまった。しかし、後者(ギリシャ語で20を意味するicasaに因み「イコデキストリン」)では除水が維持され、血中への吸収も少なかった。

 その後、ポリマーごとの分子量を揃えるために重量平均分子量Mw・数平均分子量Mn・分子量分布(MWD)などを考慮して試行錯誤がなされた。その結果、新技術「膜分画法」などにより、ついに安価で再現性の高い7.5%イコデキストリンPD液が完成する。


前掲論文より引用
(新しいピークがイコデキストリン)

 しかし、その道のりは簡単ではなかった。1988年には、開発に関わってきたFisons社が撤退。そこで、Caloreen®の特許保持者Jerry Milnerが起業家Kevin Leechの支援を受けてMLラボラトリーズを立ち上げ、リバプール工業団地の片隅でなんとか研究が続けられた。 

 また、初期の開発段階では1施設33人の腹膜透析患者がのべ11の治験に参加した。幸い健康被害は最小限(数例に無菌性腹膜炎がでた)だったが、こうした文字通り献身的な協力と信頼関係があってこそ、製品化と承認にこぎつけることができた。

 その後、Inveresk Research International社と提携してMIDASスタディ(KI 1994 46 496)が行われ、治験が終了した1992年にさっそく英国で認可が下りる。欧州でもすぐに認可され、米国は遅れたが2002年に認可され(日本は2003年販売開始)、現在に至る。


☆ ★ ★


 いかがであろうか?断っておくが、患者の残腎機能や腹膜性能が低下してPDを離脱することが敗北なのではない。「PDファースト」よりも「患者ファースト」であり、病状やライフスタイルにあわせて適切に腎代替療法を選ぶことが大切なのは言うまでもない。

 しかし、PDに技術的な改善余地があることもまた事実である。イコデキストランは、グルコース液のみではPD離脱していたであろう患者の体液管理を改善した。しかし、まだそれだけでは十分とは言えない。

 英国でのイコデキストラン承認から28年。その間、小惑星から2度もサンプルが届くようになった。「胸アツ」エピソードの多い(こちらも参照)PD領域だから、不可能に思える「理想のPD液」の開発も本気でやれば実現するのではないか。筆者はそう信じたい。



こちらより引用)


2020/12/10

ある韓国のスタディ

 1月に報告された英国MInTac試験につづき(こちらも参照)、微小変化型ネフローゼに対して半量ステロイド+タクロリムス併用と通常量ステロイド単独を比較した韓国のスタディが、先月のJASNに報告された(doi:10.1681/ASN.2019050546)。

 患者は16歳から79歳まで(平均は約40歳)の136人で、微小変化群は生検で確認され、初発と再発は約1:1。彼らに対して下図のプロトコルで導入・ステロイド漸減を行い、8週以内の寛解率と24週以内の再発率をしらべた。


論文より引用
(タクロリムス濃度はトラフ)

 すると、修正ITT(intention-to-treat)・PPS(per-protocol set)で寛解率は非劣性、寛解までの時間も平均15日と有意差なかった。しかし、再発率は併用群で有意に低かった(ITTでp=0.01、PPSでp=0.02)。


論文より引用

 有害事象の発生率には有意差なく、重症の有害事象も両群2件ずつだった。ただし、内訳では腹痛・下痢・頭痛がとくに併用群に多く、顔面浮腫(満月様顔貌のことか)・鼻咽頭炎は単独群に多かった。


 微小変化群にステロイドとCNIの併用が効くことはよく知られた事実であり、日本でも10年以上前から「入院期間を短縮し、なおかつPSLを早期に減量することによりQOLの向上とPSLの副作用予防ができる(日腎会誌 2008 50 581)」と報告されているほどである。

 だから筆者としては、日本で①高用量のPSLで開始する4週以上の腎臓内科入院がいまだに多く、②タクロリムスに微小変化群の適応がない(上記のスタディは、なんと日本の製薬会社がスポンサーだ)ことが、とても不思議である。

 「始まりが半分だ(시작이 반이다、シジャギ・パニダ)」という韓国の諺にもあるように、寛解導入の治療選択は患者の人生に大きく影響を及ぼす。①について、併用療法のほうが再発がおさえられるのなら、長期入院の正当性が微妙になってくる。

 ②については、併用療法にすればおそらく(ジェネリックでも)薬代は上がるだろう。しかし、指定難病222(一次性ネフローゼ)を申請すれば、2剤になったぶんの患者負担も低減できるかもしれない。


 今後、日本でも慣習や適応が変わるとよいなと思う。



引用はこちら


2020/12/08

炎症性貧血とジルチベキマブ

 先日、米国の血液透析患者の炎症性貧血に対して抗IL-6ヒトモノクローナル抗体のジルチベキマブの効果を調べた第1/2相試験が米国腎臓内科学会誌に発表された(doi:10.1681/ASN.2020050595)。

 IL-6といえば「急性期反応」を引き起こす重要なサイトカインであり、わが国で発見されていち早く抗IL-6Rヒト化モノクローナル抗体・トシリズマブが開発されたことでも知られている(現在は抗IL-6Rヒトモノクローナル抗体・サリルマブもある)。

 急性期反応には有名な「C反応蛋白(CRP)」だけでなくヘプシジンなども含まれ、IL-6は炎症性貧血に重要な役割を果たす。実際に、トシリズマブやサリルマブでリウマチ患者の貧血が改善するのはその道では常識だった。

 ジルチベキマブはIL-6の受容体ではなくリガンドに対する抗体で、AstraZeneca傘下のMedImmuneとWuXi AppTecの合弁ベンチャーにより抗リウマチ薬として開発された。しかし現在では、Novo Norvisk傘下のCorvidiaにより腎領域で治験されている。

 筆者が知る限り治験は2つあり、1つはCKD3-5患者を対象に月1回7.5、15、30mg皮下注してCRPやproNT-BNPなどの低下を調べる1/2相治験RESCUE(NCT03926117)。そしてもう1つが上述の治験だ。

1. 治験の概要

 対象はESA抵抗性指数(エリスロポエチン[U/kg]とHgb[g/dl]の比)が8以上の貧血ある成人の血液透析患者。それに加えて、①IL-6値が4pg/ml以上、②TMPRSS6(別名マトリプロテアーゼ2)のrs855791多型も条件だった。

 TMPRSS6は膜たんぱく質で、肝細胞表面でヘモジュベリンを分解している。ヘモジュベリンが分解されると、ヘプシジン遺伝子HAMPをONにするBMP複合体が作られない。ヘプシジンが抑制されるとフェロポーチンが細胞表面によく出るので、鉄の輸送・利用がされやすくなる。


(Haematologica 2009 94 840より)


 上記の多型があると、TMPRSS6のIL-6に対する反応が高まるのだという(Corvidia内部データ)。そこで、とくにIL-6阻害によるヘプシジン抑制・貧血改善効果が見込めるということでこの多型が治験参加の条件になっている。

 実際の患者は61人。4群に分かれて、それぞれプラセボ・2・6・20mgの透析時静注を14日ごと12週間受けた。ただし、人数が少ないためか群ごとの患者背景には違いがあり、介入群で女性・黒人・人工血管グラフトの比率が高かった。また、高感度CRPも0.4・0.6・0.9・1.3mg/dlと、用量の多い群ほど高かった。

2. 結果

 10-12週後に、hsCRPは有意低下、ヘモグロビンは約1g/dl上昇(有意差つかず)、ESA抵抗指数は有意低下(6・20mg群はp<0.05、用量反応についてのP-DR<0.01)。ヘプシジンは4週後には低下傾向(p=0.08)も、鉄用量変更が可能になった12週後にはまちまちだった。


JASNより引用
(*はプラセボとp<0.05、†はP-DR<0.01)


 安全性はというと、皮下注射ではないので局所反応はなかった。しかし、34週までの観察期間までふくめると、6mg群と20mg群でそれぞれ2人の患者が死亡していた(敗血症、突然死)。治療との関連はないとされ、死亡率は米国統計であるUSRDSデータの平均よりも低かった。

3. 感想

 ペニシリン発見者フレミング卿の師であるライト卿は、「将来の医者とは、免疫者のことになるだろう」とよく語っていたという(アンドレ・モロワ『フレミングの生涯』より、邦訳は1959年)」。炎症は感染症や膠原病に限った病態ではなく、本来はすべての医者が扱うべきテーマなのだろう。

 1/2相で、無関係とはいえ死亡例もあった本治験がこうして発表された背景にも、炎症に「うまいこと」効く薬の開発を応援する意図があると思いたい(あのHIF-PH阻害薬も、炎症そのものは改善しないそうである)。

 また、IL-6は新型コロナウイルスにおいても病態に大きく関与しているといわれ、この経路をさまざまに阻害してサイトカイン・ストームを緩和できないか検討されているのは周知の通りだ(doi:10.1016/j.cytox.2020.100029)。


こちらより引用)

 IL-6にはじつは抗炎症作用もあるなど、免疫は複雑だ(Medical Hypotheses 2020 144 110053の著者らは、COVID感染へのIL-6阻害には否定的のようだ)。しかし、フレミングがペニシリンの発見に至ったように、努力していればいつかは何かにうまく使える薬ができるはず。筆者は、そう信じたい。






2020/12/04

FIDELIO-DKDスタディ

 「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)をARBまたはACE阻害薬(ACEI)に追加すれば、eGFR低下率を抑えられるか?」という問いは、大規模試験で未検証であった。それで、「AKIと高K血症をおこさなければ使ってよい」と暗然ながら了解されていた。

 しかし昨日、2型糖尿病をもつCKD患者約5600人をランダム化して新規MRAフィネレノンの追加効果を調べた多国籍スタディ、FIDELIO-DKDスタディが発表され(NEJM 2020 383 2220)、平均2.6年のフォローアップでeGFR低下(40%以上の増悪)などが介入群で有意に低下していた。


ベートーベンが完成させた唯一のオペラ、フィデリオ
(Wikipediaより引用


 日本も参加したスタディであり、認可は時間の問題だろう。フィネレノンはカリウムが上がりにくい「非ステロイド選択的MRA」だそうで、そうした治療選択肢が増えるのは喜ばしいことである。

 ただ、(AKIや高K血症になった患者を紹介されるかもしれない)腎臓内科医としては、どうしても慎重にならざるを得ない。そこで、患者背景や有効性などについて思いつく以下の4点を考察したい。


1. eGFR


 まず、本スタディはeGFR25ml/min/1.73m2未満を除外している。「リアル・ワールド」においても、腎臓内科外来などではCKDが4-5期と進行する過程でRAA系阻害薬を中止せざるを得ない(透析開始後に再開)ことがよくある。認可時にどのような禁忌・慎重投与がつくにせよ、こうした例に開始する場合は注意が必要だろう。


2. ARB/ACEI 


 また本スタディでは、ほぼ全例がどちらかを「添付文書の範囲内で患者が忍容できる最大量(maximally tolerated labelled dose)」内服してランダム化を受けている。しかし、添付文書上の最大量を内服していたのはACEI群の約22%(咳のためか?)、ARB群の約55%であった。

 そうした患者で本当にACEI・ARBを増やせなかったのか、フィネレノンだったからこそ追加することができたのか、(添付文書の最大量まで使ってから別のを追加することの多い)筆者としては少し疑問である。


3. K降下作用のある薬


 K降下作用のある薬がどのように併用されていたかも気になるところだ。まず利尿薬は半数以上が内服していた。また、吸着薬(こちらも参照)はベースラインで約2%、スタディ開始後は介入群で10%(プラセボ群は6%)に使われていた。

 しかし筆者が注目したのは、両群ともベースラインで患者の約64%がインスリンを使用しており、彼らの多くはスタディ開始後に導入されていたことである(表S3によれば、患者の約47%とある)。

 患者のベースラインHgbA1cは平均7.7%と「あと一歩」なので、インスリンのよい適応だろう(そう考えてスタディを組んだのなら流石だが・・交絡には留意が必要だろう)。逆に、RAA系阻害薬を増量したいがカリウムが気になる場合は、インスリンも考慮してよいのかもしれない。


4. SGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストとの関係


 最後になるが、じつは本スタディのサブ解析では、残念ながらSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストの併用患者におけるプライマリ・アウトカム発生率が介入群よりプラセボ群でむしろ低かった(ただし有意差はなく、併用患者数はそれぞれ全体の10%未満であった)。

 今となっては、「ARB/ACEIを忍容最大量内服しているがSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服していないDKD患者」にまず追加すべきは、MRAよりもSGLT2阻害薬かGLP1受容体アゴニストなのかもしれない。

 だから、論文著者もSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服している患者にもMRAを追加する利益があることを示したかったと推察される(考察でも、CREDENCEスタディとの違いが強調・詳述されている)。

 それが示せなかったのは残念だが、RAA系阻害とSGLT2阻害は相殺的でなく相補的と思われる(個人的には、そう思いたい)。これについては、今後も検討されていくことだろう。

  

 ともあれ、CKD診療(とくに蛋白尿のあるDKD)の本丸であるRAA系阻害において、今まで微妙だったARB/ACEI+MRAの組み合わせが「アリ」になったなら朗報だろう。結果待ちのFIGARO-DKDスタディにも注目したい。



モーツァルトのオペラ、フィガロの結婚
(Wikipediaより引用


2020/12/02

「知らん」じゃアカン、siRNA

 このほど、米国FDAがsiRNA医薬品のルマシラン(Oxlumo®)を原発性シュウ酸尿症1型(PH1、こちらも参照)に認可した。そこで、本稿でもsiRNA医薬品と、ルマシランの治験であるILLUMINATEについて解説したい。


1. siRNA医薬品


 si(small interfering)RNAとはRNA干渉を起こす20塩基前後の短いRNAのことで、ターゲットとなるmRNA配列(センス)とそれに相補的な配列(アンチセンス)の2本鎖RNAからなる。

 siRNAは細胞内で1本鎖のアンチセンスのみになり、アンチセンスが結合した標的mRNAはRISC(RNA-induced silencing complex)によって切断される(これを、RNA干渉という)。これにより、遺伝子自体を変えなくても、その転写翻訳を阻害することができる。


(Wikipediaより引用)


 siRNAは細胞内で作用するため、いかに細胞膜を通過させるかが鍵であった。しかし、RNAの末端にN-アセチルガラクトサミンを付加することで、アシアロ糖タンパク受容体から選択的に肝細胞に取り込ませることができるようになった。

 この技術は米国アルナイラム社が開発し、それにより肝臓の遺伝子をターゲットにしたさまざまなsiRNA医薬品が作られている。最もよく知られたインクリシランは、肝細胞のPCSK9遺伝子mRNAを阻害することで、LDL受容体が肝細胞表面に残りやすくなる。


(Cardiovasc Res 2020 116 e136より)


 ORION9-11スタディ(NEJM 2020 382 1507、NEJM 2020 382 1520)では初回・3ヵ月後・以後6ヵ月後の治療でも効果が持続し、PCSK9遺伝子が持つLDL低下以外の作用も抑制する可能性が示唆されている(Cardiovasc Res 2020 116 e136)。

 パティシランは、TTR遺伝子mRNAを阻害することで肝のトランスサイレチン産生を抑制し(APPOLOスタディ、NEJM 2018 379 11)、ギボシランはヘム代謝に関わるALAS1遺伝子mRNAを阻害する。

 前者はすでに日本でも家族性アミロイドポリニューロパチーに認可されており、後者もまた急性肝性ポルフィリン症に対して昨年11月にFDAで認可されている。そしてこのほど、PH1の原因であるAGXT遺伝子mRNAを阻害するルマシランが認可された。


2. ILLUMINATEスタディ


 6歳以上を対象にしたILLUMINATE-A、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-B、年代を問わず腎障害患者(血液透析も含む)を対象にしたILLUMINATE-Cスタディがあり、AとBの速報は10月のヴァーチャル米国腎臓学会でも発表された(Cは2021年に結果が出る予定)。

 ILLUMINATE-Aスタディは、39人を介入群2:プラセボ群1にランダム化し、平均年齢は18歳(6-60歳)、尿中シュウ酸排泄は1.8mmol(160mg)/24時間/1.73m2、eGFRは80ml/min/1.73m2だったが8割にグレード1以上の腎石灰化がみられた。

 スタディデザインはやや複雑で、介入群は3mg/kg皮下注を0・1・2・3・6・9・12・・・月目に受けた。いっぽうのプラセボ群は最初6ヶ月プラセボで、そこから追いかけるように6・7・8・9・12・15・・・月目からルマシランを受けた。

 すると、両群ともルマシランの開始とともに尿中シュウ酸排泄が低下・維持される下図のような平行四辺形グラフがみられた。


こちらより引用)

 また、短期間のデータではあるが、両群ともルマシラン開始後には結石イベント発生率の低下がみられた(介入群は開始前12ヶ月で3.19件/人・年だったのが0.85件/人・年、プラセボ群も開始前12ヶ月で0.54件/人・年だったのが0.17件/人・年)。

 有害事象は、重大なものは介入群に1件あった(尿路感染症からの敗血症)が、治療とは無関係とされた。重大でないもののうちでは、介入群のほうが注射部位の局所反応がおおくみられた。

 いっぽう、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-Bは、患者18人全員がルマシランを受けた(10kg未満、10-20kg未満、20kg以上かで量に微妙な違いあり)。蓄尿は困難なためシュウ酸尿は随時尿(クレアチニン比)で評価したが、やはり下図のような低下・維持がみられた。


こちらより引用)


 さらに、6ヵ月後の超音波検査による評価では、8人で腎石灰化が改善(両側3、片側5)していたという。シビアな有害事象はみられず、シリアスのうちではウイルス感染症が1件あったが治療に無関係とされ、それ以外は注射部位の局所反応などだった。


 筆者は正直、siRNAが何の略かも知らなかった。しかし、すでに腎疾患にも認可されている薬であり、方法論的にはほかの腎疾患にも応用できそうだ。腎特異的なトランスポーターを通すようsiRNAを修飾する試行錯誤が、世界のどこかで(日本でも?)されていると信じたい。 



 [2021年4月1日追記]上述のILLUMINATE-A試験の結果がきょうNEJMに掲載された(NEJM 2021 384 1216)。

2020/12/01

低ナトリウム血症の基礎的な症例を通して~全部Pseudohyponatremiaではない~

 今回は通常よくみる低ナトリウム血症のケースを一つ取り上げて、考え方の共有などができればなと思う。

症例:

特に大きな既往のない45歳男性が、全身性の強直間代性痙攣で救急搬送。到着時は痙攣は頓挫していた。病歴は言えずに、また友人、家族や目撃者はいなかった。身体所見上、意識は混濁あるが、神経学的に大きな異常所見はなかった。

血液検査所見

白血球:11000、Hb:12.6、血小板:32万、BUN:50、Cr:2.7、血清Na:102、K:3.6、Cl:56、血糖:2150 mg/dL、乳酸:9.2

静脈血液ガス:pH 7.26、pCO2:59、HCO3:27

尿ケトン:陰性

比較する前値の検査所見はなし。

まず、この症例を見て異常な高血糖に驚くが、解釈を一つずつしていこう。

今回の血液ガス所見は、呼吸性アシドーシスとアニオンギャップ上昇代謝性アシドーシスの合併が認められる。呼吸性アシドーシスは意識障害に伴うものが考慮された。

低ナトリウム血症で腎臓内科がコンサルトを受けた。


では、低ナトリウム血症を考えるにあたって、基礎的な用語を再度復習する。

・Osmoles:液体中の分子またはイオンの粒子

・Osmolality:kgあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)

・Osmolarity:literあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)

・Osmosis:単純な水の動き(tonicityの低い方から高い方への水の移動)

・Tonicity:kgあたりの有効物質の数でOsmosisを決定している。


OsmolalityとOsmolarityは基本的には、Osmolalityのほうが正確は高いと言われる。理由は体重は変動が少なく、literだと水が揮発した場合など変動があるためである。PracticalなのはOsmolarityといわれている(ここの概念はこのYoutubeがおすすめ!)。

有効物質と非有効物質に関しては、細胞間同士の半透膜を通過する物質か、しない物質かによって分かれる。通過しない物質は有効浸透圧(Tonicity)格差を形成する有効物質になる。

有効物質としては、ナトリウムがあり、非有効物質としては尿素、エタノール、グリシン、他のアルコールなど。

今回問題になっているに関しては、適切なインスリンがあれば糖は速やかに細胞内に吸収されるため、非有効物質となるが、インスリン欠乏の状態だと血糖が有効物質になってしまう。


今回の症例の採血での浸透圧は350mOsm/kgであった。

低ナトリウム血症の際には、ナトリウムが有効浸透圧形成物質であり、通常は低張性(、もしくは等張性)になることが多い。低ナトリウム血症の際に、まず血清浸透圧をチェックする必要がある理由は、他に何か有効物質がないかを鑑別に考える必要があるためだ。

通常、低張性低ナトリウム血症が多いが、低張性でない場合には、次のステップで考える。

高血糖の存在がないかを確認。(この場合は等張性もしくは高張性)

②通常非有効物質である、尿素、エタノール、グリシンやそのほかのエチレングリコールなどの中毒性のアルコールなどはないか?(この場合は等張性もしくは高張性)

③上の原因がない場合に偽性低ナトリウム血症を考慮して、脂質(TG,TC)やタンパクなどをチェックする(下図参照)。


血漿中に固体の成分(脂質や蛋白)が多いために、フレーム発光分光分析法による測定ではナトリウム濃度が低下しているように測定されてしまう。

この症例では、高血糖が著明にありそのほかの原因は採血検査では否定された。


では、この症例の場合に測定浸透圧は350mOsm/kgで、血糖が実際はどれくらいなのかを考えたときに、

計算浸透圧=(2×Na)+ (GLU (mg/dl) / 18) + (BUN (mg/dL) / 2.8)

となる。浸透圧ギャップが10として測定浸透圧ー計算浸透圧=10と考えると

350 - 10 = 2×102 + 50 /2.8 + GLU/18

→GLU = 2124 mg/dLとなる。ほぼ血清と合致する。ちなみにギネス記録は2656mg/dLらしい。


では、この低ナトリウムが血糖によってどれほど変化しているのか?

通常は血糖が高値の際に下表のように計算を行う。




そうすると、この症例では血清Naは、 {(2124-100)×1.6}/100 + 102 mEq/L =134mEq/Lとなる。


なので、この症例がコンサルトされた場合に、高血糖による低ナトリウム血症  (偽性低ナトリウム血症ではないので注意!!)であるとわかる。


高血糖の場合の低ナトリウム血症は、有効浸透圧格差により細胞内から細胞外へ水移動が生じる。それに伴い希釈され低ナトリウム血症になっている。


低ナトリウム血症を見たときに、SIADHやBeer potomaniaなどのかっこいい名前の鑑別をまず挙げるのではなく、しっかりと基礎的なことから考えていくのはとても大切なのかなと感じる。

ちなみに症例はHHSの症例であった。