2020/12/02

「知らん」じゃアカン、siRNA

 このほど、米国FDAがsiRNA医薬品のルマシラン(Oxlumo®)を原発性シュウ酸尿症1型(PH1、こちらも参照)に認可した。そこで、本稿でもsiRNA医薬品と、ルマシランの治験であるILLUMINATEについて解説したい。


1. siRNA医薬品


 si(small interfering)RNAとはRNA干渉を起こす20塩基前後の短いRNAのことで、ターゲットとなるmRNA配列(センス)とそれに相補的な配列(アンチセンス)の2本鎖RNAからなる。

 siRNAは細胞内で1本鎖のアンチセンスのみになり、アンチセンスが結合した標的mRNAはRISC(RNA-induced silencing complex)によって切断される(これを、RNA干渉という)。これにより、遺伝子自体を変えなくても、その転写翻訳を阻害することができる。


(Wikipediaより引用)


 siRNAは細胞内で作用するため、いかに細胞膜を通過させるかが鍵であった。しかし、RNAの末端にN-アセチルガラクトサミンを付加することで、アシアロ糖タンパク受容体から選択的に肝細胞に取り込ませることができるようになった。

 この技術は米国アルナイラム社が開発し、それにより肝臓の遺伝子をターゲットにしたさまざまなsiRNA医薬品が作られている。最もよく知られたインクリシランは、肝細胞のPCSK9遺伝子mRNAを阻害することで、LDL受容体が肝細胞表面に残りやすくなる。


(Cardiovasc Res 2020 116 e136より)


 ORION9-11スタディ(NEJM 2020 382 1507、NEJM 2020 382 1520)では初回・3ヵ月後・以後6ヵ月後の治療でも効果が持続し、PCSK9遺伝子が持つLDL低下以外の作用も抑制する可能性が示唆されている(Cardiovasc Res 2020 116 e136)。

 パティシランは、TTR遺伝子mRNAを阻害することで肝のトランスサイレチン産生を抑制し(APPOLOスタディ、NEJM 2018 379 11)、ギボシランはヘム代謝に関わるALAS1遺伝子mRNAを阻害する。

 前者はすでに日本でも家族性アミロイドポリニューロパチーに認可されており、後者もまた急性肝性ポルフィリン症に対して昨年11月にFDAで認可されている。そしてこのほど、PH1の原因であるAGXT遺伝子mRNAを阻害するルマシランが認可された。


2. ILLUMINATEスタディ


 6歳以上を対象にしたILLUMINATE-A、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-B、年代を問わず腎障害患者(血液透析も含む)を対象にしたILLUMINATE-Cスタディがあり、AとBの速報は10月のヴァーチャル米国腎臓学会でも発表された(Cは2021年に結果が出る予定)。

 ILLUMINATE-Aスタディは、39人を介入群2:プラセボ群1にランダム化し、平均年齢は18歳(6-60歳)、尿中シュウ酸排泄は1.8mmol(160mg)/24時間/1.73m2、eGFRは80ml/min/1.73m2だったが8割にグレード1以上の腎石灰化がみられた。

 スタディデザインはやや複雑で、介入群は3mg/kg皮下注を0・1・2・3・6・9・12・・・月目に受けた。いっぽうのプラセボ群は最初6ヶ月プラセボで、そこから追いかけるように6・7・8・9・12・15・・・月目からルマシランを受けた。

 すると、両群ともルマシランの開始とともに尿中シュウ酸排泄が低下・維持される下図のような平行四辺形グラフがみられた。


こちらより引用)

 また、短期間のデータではあるが、両群ともルマシラン開始後には結石イベント発生率の低下がみられた(介入群は開始前12ヶ月で3.19件/人・年だったのが0.85件/人・年、プラセボ群も開始前12ヶ月で0.54件/人・年だったのが0.17件/人・年)。

 有害事象は、重大なものは介入群に1件あった(尿路感染症からの敗血症)が、治療とは無関係とされた。重大でないもののうちでは、介入群のほうが注射部位の局所反応がおおくみられた。

 いっぽう、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-Bは、患者18人全員がルマシランを受けた(10kg未満、10-20kg未満、20kg以上かで量に微妙な違いあり)。蓄尿は困難なためシュウ酸尿は随時尿(クレアチニン比)で評価したが、やはり下図のような低下・維持がみられた。


こちらより引用)


 さらに、6ヵ月後の超音波検査による評価では、8人で腎石灰化が改善(両側3、片側5)していたという。シビアな有害事象はみられず、シリアスのうちではウイルス感染症が1件あったが治療に無関係とされ、それ以外は注射部位の局所反応などだった。


 筆者は正直、siRNAが何の略かも知らなかった。しかし、すでに腎疾患にも認可されている薬であり、方法論的にはほかの腎疾患にも応用できそうだ。腎特異的なトランスポーターを通すようsiRNAを修飾する試行錯誤が、世界のどこかで(日本でも?)されていると信じたい。 



 [2021年4月1日追記]上述のILLUMINATE-A試験の結果がきょうNEJMに掲載された(NEJM 2021 384 1216)。