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2018/01/28

カルシフィラキシス or CUAについて考える。 治療について

CUAだと分かった時に治療としてはどのような手があるか?


現時点でCUAに対する適切な治療に関しては分かっていない。ただ、これから示す治療で一つの治療よりも治療を組み合わせた方が良かったという事は分かっている。
アルゴリズムとしては下記のものがある。
Up To Dateより引用


1:チオ硫酸ナトリウム:デトキソール注射液
静脈投与が治療では最も使用される。
・透析患者の場合:透析の最後に100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・腹膜透析患者:週3回で100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・非透析患者:eGFRの値によって変更する。
eGFR>60mL/min/1.73m2 : 25gを週3-5回投与する
eGFR<60mL/min/1.73m2 : 初期量は12.5gで開始して、徐々に増量はするが25gで週3回は超えないように投与する。


治療期間:明確な決まりはないが、3カ月の静脈投与での治療期間が一つは推奨されている。疼痛の改善は2週間以内におこると言われている。


合併症:あまり使い慣れていないくすりだとやはりここが一番心配になる。
吐き気、嘔吐、代謝性アシドーシス、低血圧、低カルシウム血症、QT延長やvolume過多などが合併症としてはある。
とくに代謝性アシドーシスは重度である事が多く注意が必要である。


2:しっかりとした傷の管理;
傷のデブリードメン:これに関してはむやみにやる事で、その部位からの感染の波及のリスクがあるため、適応を判断して行う事が重要である。


3:しっかりとした疼痛管理;
麻薬をもちいた疼痛管理がしばしば行われる。


4:リン、カルシウム、PTHのコントロール
リン吸着薬などはCa非含有のものを用いる。
PTHが高い症例ではシナカルセルトの使用を考慮する。


5:透析処方:
適切な透析ができるような透析を組む。


6:薬剤の中止:
ワーファリンや活性VitD製剤やカルシウム製剤や鉄剤は中止できればする。


上記治療に反応しない場合のCUA
1:高圧酸素治療:


2:ビスフォスフォネート投与
パミドロネートを30mgで週3回投与。VitD活性を押さえ治療効果


3:その他:
VitK投与、t-PA、マゴット治療など


予後:
致死率も非常に高い。
特に感染症の合併で亡くなる症例が非常におおいため、感染の管理には気を付ける必要がある。


今回、CUAの話しを行いまずは透析患者であれば通常の透析管理が非常に重要であり、また非透析患者の場合は必要のない薬物の使用はさけることが重要であると認識した。



2016/07/09

Renal Supplements

 2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。

 さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。

 ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。

 ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。

 カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。

 一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。

 こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。

 なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。