2017/12/30

より安全な腎生検を考えてみる。

 日々感じる疑問のうちの1つを考えてみようと思う。

 このブログを見ている方の中で腎生検を知らない人はいないだろう。腎生検は診断の助けだけでなく腎臓の予後自体も推定できるのではないかと言われている。手段としては大きく分けて、腎臓内科医が行う経皮的生検と外科医に依頼する開放生検がある。
 
 ただ侵襲的な手技であるため、高齢者の場合など、「生検の適応があっても実行はされない。」という状況が起きてしまうため、ジレンマを感じたことがある人も少なからずいるだろう。

 さてそんな腎生検だが、これまで医学生時代から含めていくつかの施設を見てきたが「病院毎にやり方(入院期間、高血圧の管理、抗血小板薬の扱いなど)が異なるのは何故?」と素朴に思っていた。腎生検に関しての解釈などの教科書、レビューなどはたくさんあるが、管理の話に関してはあまり知らないなと思っていた時に出会ったのがこれ(CJASN 2016 11 354)。

 特に面白かったのが、biopsy protocol(筆者たちの考えかもしれないが)、出血、いつ出血が起こるのかの3点である。

1 実施前にCBC、凝固能、Cr、T&Sを行う。
2 薬剤歴は必ず確認し出血リスクを助長するものは本人と確認し調整する。
3 IVラインをとる。
4 超音波ガイド下で16Gで穿刺する。
5 実施後は6時間ベット上安静とする。
6 バイタルは最初の2時間は15分毎、次の4時間は30分毎、その後は時間単位で観察する。
7 腎生検後6から8時間後にCBCを1回評価する。
8 退院前に尿検査を提出し新規の尿潜血がないか確認する。

 腎生検後の出血に関して、出血のリスクをあげる要因として、14Gの穿刺針の使用、Cr>2.0mg/dl、女性、AKI患者、Hb<12g/dlがある。他の報告では40歳以上、SBP>130mmHgなども考えられるようだ。
 
 合併症が起こるタイミングとしては、67%の重大な出血合併症は8時間以内に起こり、24時間以内で91%になるという。ただ10%ほどの24時間以降に発症した人もいるのが悩ましい。

 みなさんの施設ではどうしているだろうか?

 これからも時折、当たり前のテーマを少し深く考えていこうと思う。

 ここで重要なことは、「施設Aはこうだ、施設Bはこうだ、だからダメだ。」という議論ではなく「標準とは何か」を知った上でより安全に腎生検を実施する姿勢だと思う。
 
 全ては患者さんのために

 (写真)とても美しい標本 黒矢印は糸球体




 

2017/12/28

あなたのネフロンを数えましょう 1

 小柳ゆきさんの『あなたのキスを数えましょう』(1999年)では、好きだった相手とのキスを数え、一つ一つを思い出す。釈尊が愛別離苦を四苦八苦のひとつに挙げているように、忘れようとしても、嫌いになって楽になろうとしても、そう簡単に別れの悲しみは消えない。

 だからこその名曲なのだろう。

 同じように、腎臓内科の世界にはネフロンを数えようとする人たちがいる。といっても一個一個数えることはできないので、腎生検をして単位体積の皮質あたり糸球体が何個あるかを数え、造影CTで推定した皮質体積に掛け算して求める。

 そうして得られた腎臓1個あたりのネフロン数は、以下のようになる(NEJM 2017 376 2349の表2より、示したのは平均値)

18-29歳 97万
30-39歳 93万
40-49歳 85万
50-59歳 81万
60-64歳 75万
65-69歳 72万
70-75歳 48万




 数を数えただけで有名雑誌に載るのか?!と思うかもしれないが、さすがに世の中そんなに甘くはない。この論文はシングル・ネフロンGFRについて調べたものであり、さらにその背景には「ネフロン・エンダウメント」という(私の印象では、腎臓内科の裏テーマというか、あまり表に出てこない)概念がある。

 これらについて少し書いてみたい(写真は2004年の"Officially missing you"という曲で知られるカナダR&BシンガーTamia)。




腎臓内科 with B 2

 腎炎などに対して免疫抑制をかける時には、HBV再活性化が問題になる。歴史的にはリツキシマブでとくに問題になったようで、劇症B型肝炎にいたった症例もある。治療と副作用のリスクを勘案するのはどの病気でもおなじだが、この場合どうすればよいのか?

 これについて調べるのはそんなに難しくなくて、「リツキシマブ B型肝炎」とでも検索すればいくらでも資料がみつかると思う。ここでは、日本のガイドラインに載っているアルゴリズムを添付しておく。


 
 ほかにも、HBV感染腎移植レシピエントのマネジメント(肝生検の意義、肝腎移植の選択肢、抗ウイルス薬の選択など)や、透析患者へのHBVワクチンで留意すべきこと(反応がよくない、用量をふやす)なども考慮が必要だ。ちゃんとbrush upしておかなければならない。







2017/12/26

腎臓内科が必要とされるとき~急性血液浄化を考える~下巻

今回、下巻として、まずはどんな透析方法を用いるかについて話したいと思う。


透析方法に関しては大きく分けるとIRRT(intermittent renal replacement therapy)、CRRT(continuous renal replacement therapy)に分かれる。
まず、この両方のmodarityについてであるが、一般的にはCRRTのほうが血圧変動が少ないので血圧が低い場合に用いられることが多い。


注意点:
※CRRTであっても透析を開始してすぐの血圧低下(initial drop)は生じるという事は念頭に置く必要がある。
※血圧変動がある場合でも効率をあげる必要がある病態(重度高カリウム血症、重度尿毒症など)は血圧を維持して、IRRTを選択する必要がある。


まず、CRRTとIRRTに関しては2007年の論文では血行動態が安定しているものに対しての差は出ていなかった。2013年のsystematic reviewでも大きな差はみられなかった。ほとんどのRCTでの論文でもCRRTの有用性を示している論文はなかった。SSCG(surviving sepsis campaign gudeline)でも、重症感染症とAKIの患者に対しての短期死亡率を比較した場合にCRRTとIRRTの差はなかったとしている。
しかし、2017年のGMSの論文ではCRRTのほうが腎回復や経済学的な面でも良かったという事が言われている。


まだ、どちらのmodarityがいいかに関しては、明確な結論は出てはいないが、KDIGO2012のガイドラインではCRRTは血行動態が不安定な患者や、急性脳卒中や他の頭蓋内圧亢進を生じさせる病態があるAKIや脳浮腫があるAKIの患者には適応となる。


自分の施設でもCRRTの稼働に関しては少ないが、それで困った事は少ないと感じている。
ちなみに日本で多く用いられる血流量などを下図に示す。
日本内科雑誌 103巻 5号より

では、CRRTになった場合に治療量をどのように決めればいいのか?は悩む部分であろう。


CRRTで決める必要性があるのは血液流量(Qb)、透析液流量(Qd)、濾液流量(Qf)である。


まず、設定するにあたって浄化量(Qd+Qf)のことが悩ましいのではないだろうか?
CRRTの中で、CHFであればQd=0、CHDであればQf=0、CHDFではQd+Qfとなる。


これらの3つに関しては一般的に小分子量物質のクリアランスはほとんど差がないが、中分子量物質のクリアランスに関してはCHF>CHDF>CHDとなる。そのため、目的物質に対してQfをおおくするのか、Qdを多くするのかは変えるのは一つである(たとえば、サイトカインを除きたいならばQfを多くしたりする。)。


注意点:
※血液濃縮や膜劣化を防ぐためにQfはQbの30%未満に設定する必要がある。
※浄化量の保険上限に関しては15-20L/日までになっている。


まず、浄化量をどのくらいにすればいいのかは悩むかと思う。
これについては歴史を知っておく必要性がある。
2000年にC Roncoらの報告で浄化量を25ml/kg/hr、35ml/kg/hr、45ml/kg/hrで比較した際に25ml/kg/mlに比して有意に35ml/kg/hrや45ml/kg/hrが予後が良かった。
そのため、この時点では高流量の浄化量の方が予後がいいという風潮になっていた。

その後、2つのRCTが2008年と2009年に出された。
一つはATN(Acute Renal Failure Trial Network) studyで、1124人をintensive therapy群(循環動態安定:週6回のHD、循環動態不安定:35ml/kg/hrのCVVHDF、または週6回のSLED)とless-intensive therapy群(循環動態安定:週3回のHD、循環動態不安定:25ml/kg/hrのCVVHDF、または週3回のSLED)を施行し、結論としては60日死亡率に差は認めなかった。



もう一つはRENAL(Randomized Evaluation of Normal Versus Augmented Level Replacement Therapy) studyである。これはオーストラリアとニュージーランドで行われ、1508例のAKIをhigher intensive therapy(浄化量が35ml/kg/hrのCHDF)とlower intensive therapy(浄化量が25ml/kg/hrのCHDF)にわけて、90日死亡率を見ているが有意な差は認めなかった。



なので、それまで主流であった浄化量は大容量ほどいいというのではなく、現在の至適の浄化量はKDIGOのガイドラインでの20〜25ml/kg/hrを推奨量としている。

Crit care 15:207,2011より

つまり、患者が50kgで浄化量を20ml/kg/hrで設定した場合には、浄化量は1000ml/hrとなる。その浄化量を病態に合わせて、QdとQfに分ければいいということになる。

※CRRTでの透析での注意点として透析液に注意する必要がある。透析液にはリンは含まれていなく、またKは2であり、Mgは1に設定されており下がりやすいため注意する必要がある。

腎臓内科は急性血液浄化ではやはり第一線に立って治療をしていく必要がある。少しでも自信を持って第一線で戦って欲しいと思う。


2017/12/22

腎臓内科が必要とされるとき~急性血液浄化を考える~上巻

腎臓内科医が必要とされる場面は多いと思う。


尿異常、電解質異常、慢性期管理も依頼されるが、やはり急性期の場面で患者さんのアウトカムを救うことは重要なことだと考える。


その中で、今回急性血液浄化に関して考えたいと思う。


AKIで急性血液浄化療法を依頼される場面は多い。ポイントは以下の点と考える。
①いつから開始するか?
②どんな透析方法をもちいるか?
③いつ終了するか?
④抗凝固療法やアクセスの問題?


順を追って話す。
①いつから開始するかに関しては以下のものが考慮される。
・腎代替療法で生命の改善が得られる場合
・絶対適応がある場合


絶対適応に関しては、
・高度アシドーシス(pH≦7.15)
・高尿素窒素血症(BUN≧100mg/dL)、尿毒症症状(脳炎・心膜炎・出血傾向)
・高カリウム血症(K≧6mEq/Lや心電図異常)
・高Mg血症(Mg≧4mEq/L、無尿、深部腱反射消失)
・尿量の減少(乏尿<200ml/12Hや無尿)、体液過剰(利尿薬反応なし)


などになってくる。


たとえば、患者さんにフロセミドを高用量投与しているが、全く尿の反応がない場合は急性血液浄化療法の施行を考えなくてはならない。


では、早期にやった方が良いかに関してはKI2015にでており見ていただくといいが、生命予後・維持透析・ICU入室・入院期間のいずれのアウトカムに対しても有意な差は認めなかった


2016年に有名な論文が二つ出ている。
AKIKI trial(NEJM 2016)
ELAIN trial(JAMA2016)
である。


この2つに関しては、結論ではAKIKI trialは早期群と晩期群では差は認められず、ELAIN trialでは早期群に有意な差をもって良い結論が出た。
結論だけでなく背景も非常に大切である。


AKIKIでは多施設で主に敗血症患者(8割)に対して早期群:KDIGOstage3、晩期群:緊急急性血液浄化療法も基準を満たす場合とした。


ELAINでは単施設で主に銃後患者(5割)で早期群はKDIGO stage2+NGAL、晩期群はKDIGOstage3の患者群をとっている。


なので、正直患者群にもばらつきがあるため、何とも言えない。
最近、重症度で分けてみて急性血液浄化をした場合に、早期群と晩期群はどうかというメタアナリシスがあった(Oncotarget 2017
図を示す。左が重症患者、右が非重症患者である。


この論文では、重症患者には早期にやった方がよかったという結論であった。非重症患者では早期にやっても変わらないというものであった。

なので、個人的には絶対適応であればやる!また重症患者は急性血液浄化をおこなう閾値を下げてもいいのでは?とおもった。

また、1つの話で終わってしまった。次回は、どんな透析方法かを話したいと思う。




2017/12/21

腎臓内科 with B 1

 「B型肝炎といえば膜性腎症」と学生時代に教わるだろうが、私は実はその経験がない。溶連菌後の腎炎も典型的なものは経験がない。ワクチンと抗生物質のおかげか、衛生と行政が改善したおかげか(行政の話は、ここでは触れない)。時代とともに病気も変わり、DAAの登場でいずれHCV関連腎症なども診なくなるのだろうか。

 そんなB型肝炎だが、まだ問題になる場面がいくつかある。そのひとつはB型肝炎慢性感染の透析患者さんのマネジメントだ(参考文献はJ Trans Int Med 2015 3 93)。B型肝炎はcccDNA(covalently closed circular DNA)が肝細胞の核内に残るので完全には消せないことがおおい。それで、慢性感染HBVの治療閾値はDNA量、ALT値、肝生検所見などで判断する(各地域のガイドラインもまとめた日本のB型肝炎治療ガイドラインはこちら)。

 それは透析を受けている受けていないに関わらず一緒だが、透析患者さんではいろいろあってALTが抑制されていることがおおいそうで、通常の閾値がALT正常上限の2倍以上のところを1.5倍にしたり、ALTが正常でも感染による肝障害が疑われるなら肝生検をしたり(安全に行えるならば)、を奨める人もいる(厚労省は透析かどうかにかかわらず31U/l以上としているが)。

 いっぽうDNA量については、米国の透析ガイドブックや前掲文献はLog10で4-5を閾値にするのが慣例と記載がある。これについて透析学会の推奨を探しているが、透析と関係ない前掲ガイドラインはLog10で3.3(2000コピー/mm3)以上としている。

 というのも、治療の奏効率があまりよくなくて薬の副作用がむしろ問題になるからだ。なので、治療にはさまざまな薬があるが、透析患者さんへの第一選択は逆転写酵素阻害薬ヌクレオシドのエンテカビル(ラミブジン不応がない場合の用量は0.5mg週1回)、耐性があればヌクレオ「チ」ド(ヌクレオシドにリン酸基がついたもの)テノフォビルとしている。

 腎臓内科とB型肝炎、もう少し話をつづけます(写真はB型肝炎ウイルスを発見しワクチンを開発した故Baruch Samuel Blumberg先生、wikipedia提供。1976年にノーベル医学生理学賞を受賞されました。冥福をお祈り申し上げます)。




2017/12/20

We're MYRED!(MYREスタディ)

 骨髄腫のcast nephropathyに対してヨーロッパで進行していたHCO-HDのRCTのひとつ(こちらこちらにも言及あり)、MYREの結果がJAMAにでた。もう読んだ方もおおいかもしれないが、結果はなんと?

 立場によっていろんな解釈ができるものだった!

 …そもそもMYREという名前からして、mire(「泥沼にはまる」の意味、写真)に寄せていることが私には疑問だったが。

 とにかく、どうしてこう歯切れ悪く婉曲的なのかをみてみよう。

 スタディは、以前にCKDがなく、骨髄腫で、AKIになり、腎生検でcast nephropathyが確認され、透析適応になった94人の患者(平均68歳、45%が女性)が対象だ。

 患者はランダム化され、それぞれがHCO-HD膜(Gambro社のTheralite®、2.1m2)、通常のhigh-flux膜で10日間に8回の透析を受けた。血液流量は250ml/min以上、透析液流量は500ml/min以上、1回の透析は5時間。Albが2.5g/dl以下のときにはアルブミン補充した。

 骨髄腫に対しては、両者ともボルテゾミブとステロイドのレジメンを受け、反応不良の場合サイクロフォスファミドが追加でき、6ヶ月以降は治療を選べた(腎機能が戻り65歳未満なら幹細胞移植も)。

 結果だが、プライマリ・エンドポイントである3ヶ月後の透析離脱率がHCO-HD群で41%、通常透析群で33%、群間差8%(95%CIは-12%から27%)だった。なので、まあこのスタディで華々しくHCO-HDが広がることは考えにくい。

 ただ、このように力を入れてやったスタディだし、どうして結果がでなかったのか、どういう部分は有効なのかという総括が必要だ。まずはサンプル数の少なさだ。サイズをあげれば有意差が出るかもしれない。またランダム化については、HCO-HD群の透析開始時Cr濃度が通常群よりも低かった点に疑問が残る。

 HCO-HDはfree light chainを十分に減らせたのだろうか?軽鎖濃度の減少率はHCO-HD群のほうが有意に大きい(3回透析後で70%減、対照群は30%減)。しかし、軽鎖濃度50mg/dl以下までさげた患者の割合には有意差が出ず、それぞれ43%と31%だった。

 この数字はプライマリ・エンドポイントのそれと酷似しているので、軽鎖濃度を50mg/dlまで下げれば透析離脱できるのかもしれない。しかしそのためには、すでに化学療法という軽鎖産生を抑える根治的な治療がある。HCO-HDに追加の利益があるのか?

 透析離脱について今回のスタディでは、残念ながら有意差が出なかった。ただ3ヶ月時点の寛解率(部分寛解、「とてもよい」部分寛解、完全寛解)でHCO-HD群で89%、対照群で62%と有意差がでて、17.5ヶ月のフォローアップで生存患者数にも有意差が出た(HCO-HD群で19人、対照群で13人、HR 0.76)。

 この差にHCO-HD群の何が効いているのか、あるいは交絡があるのか(アルブミン輸液が多かったとか)。興味深いところだ。

 十分な根拠がなくても用いられる治療は世の中にたくさんある(注)し、EuLITEスタディの結果もあわせ、HCO-HDも今後の動向に注目だ。



 
 [注]これに関連して、ICUブックの著者マリノ先生はAKI章の冒頭で以下のような言葉を皮肉をこめて書いてもいる。

The inability of hemodialysis to curb the mortality rate in acute renal failure has apparently escaped the notice of the "evidence-based medicine" junkies, who preach that an intervation should be discarded if it does not improve mortality.


2017/12/14

腎エコーは基本的なツール。

今回は、腎臓超音波に関して少し復習したいなと考える。

超音波検査はどの臓器でも現在注目されており、関節、肺、筋肉超音波検査など多種多様のものがあり、それの習得はおそらく患者さんのマネージメントを考える上で非常に重要になると考える。

腎臓超音波に関しては、例えば
「昨日、腎移植後の患者さんの腎臓の超音波評価はどう?」

などと聞かれた時に、

「腎臓の大きさ大丈夫なんで大丈夫ですよ!!」
といったら、聞いた方はそんなこと聞いてないのにと思ってしまうであろう。

腎移植の患者さんのエコー評価には血流の評価もある程度できる必要がある。

まずは、腎臓の基本的な構造の復習である。

ここで、血管の走行を知ることは腎病理を見る上でも非常に大事になる。

腎臓超音波のチェックポイント
1:腎臓の大きさ:腫大、正常、萎縮
2:皮質・髄質エコーレベル:高・等・低
3:皮質菲薄化:無・有
4:表面:整・不整
5:皮髄境界:明瞭・不明瞭
6:腎盂拡張:無・有
7:石灰化:無・有
8:腫瘤:無・有
9:腫瘤内血流:無・有
10:腎内血流動態の確認:区域・葉間・小葉間
11:腎動静脈異常:無・有
になる。

この中で基礎的なものの復習をする。

1:腎の大きさ:健常人:長径10〜12cm、短径4〜5cm程度で右腎のがやや大きい。12cm以上を腫大、9cm以下を萎縮としている。
腫大性病変:アミロードーシス、多発性嚢胞腎、糖尿病性腎症初期、急性腎不全、腎静脈血栓(急性期)など。
萎縮性病変:先天性腎低形成、慢性腎不全、腎静脈血栓など。

*以下は正常物であるので注意!
腎髄質間の皮質:ペルタン柱といい、これを腫瘤に間違えることがあるので注意!
ひとこぶラクダのこぶ(dromedary hump):左腎中央部の輪郭が外に突出して見えるもの。

:腎臓は腎実質と腎洞からなり、腎実質は皮質と髄質に分かれる。
健常人:腎皮質は肝臓よりもわずかに低エコー。また、腎髄質は皮質よりもエコーレベルは低い。
皮質のエコーレベルが上がる場合:慢性腎不全、腎アミロイドーシス、急性腎不全で認める。

8:腫瘤性病変:腎洞(CEC: central echo complex)にあれば腎盂の癌を疑う。実質にあれば、無エコーであれば腎嚢胞、高エコーであれば血管筋脂肪腫(実際は脂肪と平滑筋の成分の割合で異なる、平滑筋が多い場合には低エコーになる)、その他は腎細胞癌を疑う。

9:腎内血流動態
これを見る上で、まずは多いのはRAS(renal artery stenosis:腎動脈狭窄症)を疑って行う場合が多い。原因としては動脈硬化性(ARAS:atherosclerotic renal artery stenosis)、繊維筋性異型性(FMD:fibromuscular dysplasia)、大動脈炎症候群、解離性大動脈瘤などがある。

本幹の血流評価に関しては、PSV(収縮期最大血流速度)、RAR(renal to aortic ratio:腎動脈PSV/腹部大動脈PSV)を用いる。
ちなみにPSVは最高血流速度なので、ドップラーエコー検査の一番高い山になる。


下記に表を記載するが、狭いところを通ればPSVは上がる。また、RARが高いほど腎動脈の狭窄を示唆する。



では、腎内の血流評価に関しては区域動脈と葉間動脈の評価になるが、キーワードはAT(acceleration time)とAc(Acceleration:Δ流速/AT)である。
下図参照。
国立病院機構函館病院 小室先生資料より
また、腎の末梢血管抵抗の評価としてRI(resistance index)が用いられる。
国立病院機構函館病院 小室先生資料より
 RIは腎機能の増悪とともに高値になる。理由としてはEDVが低下するためである。
腎動脈狭窄の時にはATの延長が生じ、収縮期血流も低下する。
移植腎ではこれにPI(pulsatility index)を用いることが重要である。
PIも末梢血管抵抗を評価する指標としてRIと同じく、情報量が多く重要である。
PIの上昇などは拒絶を含めた良からぬことを疑うきっかけになる。

腎実質の障害を見る→RIを用いてRI>0.8であれば腎実質障害が高度なことを示唆する。
腎動脈狭窄を見る→PSVを用いてPSVが180cm/secで60%以上の狭窄を疑う。

これで、自信を持って聞かれた時に答えられるようになっただろうか?
「腎エコー当てた?」と聞かれて
「今回、腎萎縮もあって腎血流でもRIも低下していて慢性経過の腎不全を一番には考えます。その際に、ATの上昇もなくPVSも正常でしたので狭窄は可能性は低いと考えます。」
などと答えたら、みんなきっとぎょぎょっとするだろう。

そんな助けになれば嬉しい。




2017/12/10

IgA腎症と妊娠

今回、上記話題を挙げたのは外来での会話からである。
自分をT、患者さんをPとする。


P 「IgA腎症治療のステロイド療法も終了し、蛋白尿の悪化も無くて安定しました。先生がステロイド減量後に妊娠許可してくれて、早速なんですけど妊娠しました」


M 「本当ですか!?とてもうれしいです!!おめでとうございます!」


P 「でも、先生。妊娠してIgA腎症ってどうなるんですか?必ず悪くなるんですか?」


M 「そうですね、免疫も関連してますし悪くなる人もいますし、悪くならない人もいます(曖昧な回答。。。)」

自分の中でしっかりとした解釈ができていなかった。患者さんがこれからどういう転帰をたどるにせよ、しっかりと自分のなかの答えをもつようにしなくちゃ。ということで今回の話題である。

ちなみに以前、IgAと妊娠について成立するまでの話を書いた。


今回、AJKD2017にとってもいい論文が載っていた。これをもとに考えてみる。


IgA腎症は世界的に見てももっとも頻度が高い腎症であり、IgA腎症の好発年齢は10代後半から30代前半と言われており、女性であれば妊娠との関連性が非常に高い腎炎である。


妊娠とIgA腎症に関しては報告もまちまちな事が多い。
 ●ある報告では妊娠はIgA腎症の経過を変化させない(AJKD2010AJN2010
 
 ●ある報告では中等度から重度CKDの患者では腎機能低下の進行が非常に早くなる(23%-43%の割合)(NEJM1997


と言われている。


AJKDの論文の詳細は割愛はするが、この研究では413人の患者がenrollされ、そのうち妊娠をした人が104人で妊娠をしなかった人が309人であった。
今回の研究のcharacterは下記になる。





パッと見た感じは違いは意外に妊娠群で治療していない人が多く、ステロイド治療をした人が少なかったという印象である。

患者をCKD別に分けた表が下記になる。
これの印象としては、やはり腎機能悪化している症例ほど、蛋白尿は多く、血圧は軽度髙い傾向にあると感じた。

結果としては
★腎疾患の予後
CKD stage1 or 2:妊娠にともない腎疾患の増悪は見られなかった。

CKD stage3 or 4 :妊娠にともない腎機能の低下がみられた。(eGFR≧60以上の人に比べると数倍以上)

★妊娠・子供への影響
CKD stage3 or 4 :出産に伴う胎児の生存割合が55%程度に低下。

今回の研究ではCKDstage3以降の人数は少ないこと、選択バイアス(フォロー中に妊娠になった人のみ拾っている)、出産のリスクになる蛋白尿の評価が不十分という点はあるが、
IgA腎症でCKD stage1-2程度の人であれば、特に問題を起こす可能性は低いが、
CKD stage3以降の人であれば、腎機能障害や胎児影響などを引き起こす可能性がある。

そのため、しっかりと患者に情報を伝達する事は重要である。

ちなみにCKDはやはり進行とともに妊娠の成功率は悪くなる(下図)。


なので、我々としては腎機能障害をおこさせないように早期介入が非常に重要であることを感じた。

ちなみに最初の患者さんはCKD stage1であり、妊娠もそのまま継続としたし、このようなお話しもしっかりして納得して外来フォローとなっている。

ただ、医師として患者さんの子供ができることは非常にうれしいことで、その日はほっこりとした気分になった。





2017/12/09

ADPKD~少し知っておいていいこと~

T 「ADPKDのこと好きになりました!色々と他に知りたいこともあって。。嚢胞ってプスッと穿刺して水抜いて小さくするのはどうなんですか?あと、トルバプタンに関しても具体的な使い方や保険も教えてくれませんか?」


M 「とても大事な疑問ですね。やはり、実際に机上の話だけでは臨床の応用はできないので、今日はしっかりと実践にもつながる事を含めて話しましょう!」


★腎嚢胞穿刺吸引について
前提として、腎嚢胞穿刺吸引によって腎機能が保たれたりするエビデンスは現時点では認めていない。そのため、無症状の患者に腎機能を良くするために穿刺吸引を行う事はすすめられない。
基本的に適応になるのは、症候性(嚢胞に伴う慢性疼痛。腹部圧迫症状)の改善のための一つの手段として使用される(J Endo 2013)。
海外のものでは、吸引ドレナージにはなるが感染性嚢胞で抗菌薬治療に奏功しない場合には適応となっている
下記はADPKD2014のガイドラインにある、Flemingらの症候性ADPKDの治療アルゴリズムである。

ADPKD ガイドラインより抜粋
どのように手技を行うか:
エコー下経皮的腎嚢胞穿刺吸引療法が使用されている。
通常の単純嚢胞であれば穿刺して、縮小効果を維持するためにエタノールなどの硬化剤を使用する事が多い。
しかし、ADPKDなどであれば、基本的には全ての嚢胞へのアプローチはできないため安全性を考慮して、疼痛を来たしていると考えられる、1つないし少数の大きな嚢胞をターゲットとして治療する事が多い。


合併症は嚢胞出血・血尿・嚢胞感染・気胸などがあるため、注意する!


★トルバプタンの具体方法
トルバプタンの使用適応
①両側総腎容積が750ml以上
②腎容積増大速度が概ね5%/年以上


では、腎容積に関してはどのように測定するのがいいのか?
検査機械のmodarityは基本はMRIやCTを用いて検索する。測定に関しては下記のように計算をして腎容積をもとめる。


杏林大学ページより引用


なので、腎臓の容積をもとめ、年毎の増大速度を計算する。
そこから、年齢・両側総腎容積・腎増大速度/年をもちいて患者の腎機能低下を予測する(下図:大塚製薬資料より)。
大塚製薬資料より引用



大塚製薬資料より引用
なので、これによって患者さんには個別化した治療になる。
80歳の高齢者に腎予後をのばす事を目標としてトルバプタンの導入をすることは個人的には、適応は無いと考える。


もし、患者さんがトルバプタンの導入をしようと思った場合には原則は入院加療でおこなうべきである。用法・用量に関しては、色々とあるが一例としては、


160mg2回(朝45mg夕方15mg投与開始


160mgの用量で1週間以上投与忍容性があれば190mg(朝60mg30mg)へ増量


③最高用量を1120mg(朝90mg30mg)と1週間以上の間隔を空けて段階的に増量する。
    最高用量は1120mgまで


入院中の指導として大事なのは尿量が非常に増えるため、水分補給をしっかりとして頂くことが重要となる。また、肝機能障害の有無に関しては検査をする必要がある。


また、本邦ではADPKDに対するトルバプタンの処方にあたっては、高用量であり大塚製薬のe-learningを受講する必要があり、その受講後にもらえるサムスカカードが重要になる。
(e-learningの受講は担当MRに確認してください。)


また、大事なのは難病申請である。
難病申請を行う事で自己負担の軽減につながる。下図のように所得によってことなるが、自己負担額が3割→2割になり、軽減される。


大塚ホームページより
トルバプタンは30mg:4000円/錠で、60mg内服で8000円/日となる。
単純計算で(1か月を28日とした場合)
3割負担で67200円、2割負担で44800円となる。


そのうえで、上限が下図のようになる。そのため、難病申請は患者負担という意味では非常に重要である。
大塚ホームページより


T 「ありがとうございます!長々と話していただいてすみませんでした。腎嚢胞の穿刺吸引のこと、ADPKDの周囲の状況などよくわかりました。」


M 「日常の臨床では、患者さんの病態のこと周囲の保険のことの把握も非常に大事です!なので、患者さんの常に視点にたって医療をできるようにしましょう!」







2017/12/05

甘い水はお好き?中心静脈栄養と腎臓内科

 「あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という言葉をご存知だろうか。『ホタル取り』という唄の歌詞だそうだ(わたしはてっきり、おばあさんのこの言葉で川を流れていた桃太郎の桃が寄ってきたのかと勘違いしていた)。実際にホタルが甘い水を好むかは知らないが、いかにも風雅な慣習だ。

 日本ではあまり見られなくなったホタルだが、米国ではfirefly(lightning bugとも)と呼ばれ、初夏のちょっとした芝生や木立にたくさんいる(写真)。風物詩として、Rodney Atkinsの"It's America"にもfireflies in June and kids sellin' lemonadeという歌詞がでてくる。こちらは軽快な愛国カントリーだ。




 さて、腎臓内科の輸液といえば電解質ばかり考えているイメージかもしれないが、じっさいには糖とか他のものも入っている。というわけで、そんな輸液の代表である中心静脈栄養をオーダーしていたら、組成のところにこう書いてあるのに気づいた。

・1000mlあたりの電解質

Na+ 50mEq
K+ 22mEq
Mg2+ 4mEq
Ca2+ 4mEq
Cl- 50mEq
SO42- 4mEq
Acetate- 41mEq
L-Lactate- 12mEq
Citrate3- 8mEq
P 5mmol

 陽イオンの和は80mEq。陰イオンの和は、115mEqだから、あわない。どういうことか?これについて添付文書は明示していないが、おそらく差である「陽イオン・ギャップ」はunmeasured cationで、その多くはアミノ酸と思われる。アミノ酸は陽性荷電するアミノ基と陰性荷電するカルボキシル基をもっているけれど、輸液のpHがひくいので多くが陽性に荷電していると考えられるからだ。

 以前は、アミノ酸の陽性荷電にマッチする陰イオンの多くはCl-で、身体に入るとアミノ酸が分解されるのにCl-が残って高Clアシドーシスの原因になっていた。しかし、酢酸やクエン酸などの有機酸イオンにしてアシドーシスが避けられたという論文(Nutrition 2000 16 260、日本の研究)もでて、Cl-でマッチさせる製剤はあまり見なくなった。

 ほかにも中心静脈栄養には、アシドーシスを起こしうるメカニズムがいくつかあるので参考文献(Indian J Crit Care Med 2015 19 270)なども参考にしてほしい。私は上室と下室というように隔てて保存され、直前に混ぜるようになっている理由すら知らなかった(知らない人がもしいたら、メイラード反応を避けるため)ので、反省だ。腎臓内科に関係ないもんねと思っていた。

 「蛍の光」といえば日本では卒業式(英国では大晦日で、蛍は関係ない)だが、腎臓内科の卒業は遠い。苦手分野の克服しながら一歩一歩学んでいきたい。