僕はこの概念を知ったのは後期研修医になってからと比較的遅かった。最初はよくわからないなと感じて、今回この論文(AJKD 2017)をよんで色々と分かった部分もあり、つねに勉強することが重要だなと感じた。
まず、入院患者の低ナトリウム血症で最多の原因としてはSIADHといわれている(Eur J Endocrinol 2010)。
SIADHにおいてはADH調整パターンは下記のように4つあると言われている。
①:古典的SIADH:浸透圧とは関係なしにADHが出てしまう(悪性腫瘍などに多い)。
②:視床下部のバソプレシン抑制ニューロンの障害で持続的にバソプレシン(ADH)がでてしまう。
③:臨床的にはSIADHを疑うが、ADH増加はみとめていない。:まれだがバソプレシン受容体変異により不適切に抗利尿が働くパターン(大人にも子供にも表出)
④浸透圧調整系に対するバソプレシン反応も問題なく、集合管での濃縮希釈機能も問題ないが、ADH分泌の閾値が低い
この中の④がいわゆるreset osmostatにあたる。
これは、重度の神経学的な異常、肺疾患、感染症、アルコール依存、悪性腫瘍、外傷などでもみられる。
古典的なSIADHとreset osmostatを分けることは治療にとっても非常に重要な部分である。SIADHであれば飲水制限が重要ではあるが、reset osmostatではそうではない。
・定義について
基本的な事項として人間の体では、血清浸透圧は280-290mOsm/kgになるように調整されており、これが浸透圧系とよばれている。この調整に関わる因子がADHである。
血清浸透圧が<275mOsm/kgではADH分泌は抑制されるし、血清浸透圧が上昇すればADHが分泌し浸透圧を整える。
しかし、reset osmostatでは、ADHの出る閾値が低く慢性的な低ナトリウム血症になっている。
この図ははreset osmostatの患者で血清Naが低いのに尿浸透圧上昇しているのがわかる。
この図はreset osmostatの患者の血清Naと尿浸透圧の推移であり、血清Na130前後で尿浸透圧の増加がある。
・検査について
Reset osmostatの検査にはどんなものがあるかだが、水分負荷試験である。
経口でも点滴でもかまわないが、10-15ml/kgの水分負荷をおこない、reset osmostatであれば4時間以内に水分負荷量の80%以上が尿から排出されるが、SIADHではこれがおこらない。
これは、reset osmostatでは前述したように集合管の部分の機能は維持されているためである。
・機序について
なぜ、これが起こるかに関しては様々なものが言われている。
①腫瘍浸潤や自律神経の疾患で抑制系に支障がきて低い浸透圧でADHがでてしまう。
②sick cellsといわれる細胞膜の障害で細胞内外の電解質のバランスが崩れてADHの早期分泌が生じる。
妊娠はreset osmostatがしばしば生じるため注意をする。平均5mEq/L低下し、妊娠後8-10週で達する。
・治療について
治療は前述した何らかの原因があるのであれば、そちらの治療を行う(結核が根底にあるならそちらの治療を)。
補正をすることで、逆に狡猾が刺激される場合があるため無理に正常に戻す必要はない。
今回の論文ではもともと中枢性尿崩症で慢性的にDDAVPを使用しており、その慢性的な使用がreset osmostatを生じたのではないかというものであった。
DDAVPに関しては短期的な副作用で多いのは軽度の低ナトリウム血症や頭痛である。
長期的使用に伴う副作用の報告は少ない。
慢性的にDDAVPを使う中枢性尿崩症などの症例に出会うことは腎臓内科医としては少ないかもしれない(内分泌科で管理が多いかと。)
ただ、今回この論文からはreset osmostatについても勉強になる部分も多い。