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2020/09/24

食後の腎生理

 食欲の秋に、ビックリ?な発見だ。JASN・8月号の表紙をご覧になった方はもうご存知だろうが、アルカリン・タイド(食事摂取時に胃酸が放出される分、身体にアルカリがたまる現象)後に腎がどのようにして過剰なアルカリを排泄しているかが明らかになった(JASN 2020 31 1711)。


(ビックリ・・ならぬ、栃の実)


 なんと、食後に小腸粘膜細胞から分泌されるセクレチンが、腸液や膵液の分泌を促進させるだけでなく、β介在細胞(acidではなくbaseを排泄するため、αではなくβ)にも作用することがわかったのである。

 β介在細胞にセクレチン受容体があるだけでも驚きだが、この受容体の刺激により活性化された細胞内のホスホキナーゼA(PKA)は、Cl-チャネルCFTRを活性化する。そして、活性化されたCFTRがHCO3-/Cl-交換輸送体のベンドリンを活性化・安定化させるのだという。


(図は前掲論文より)


 CFTRといえば嚢胞線維症(Cystic Fibrosis、CF)の責任遺伝子であるが、そもそもこの発見はCF患者さんの観察から得られたもの。CF患者さんは腸液や膵液だけでなく尿中アルカリ排泄も障害されており、セクレチンに対する反応が乏しいことが知られていた。それで、その仕組みを調べたわけだ。 

 なお、実験にはCFに対する新薬も使われている。海外のCFTR遺伝子異常で多いのはΔF508であるが、この病型に対しては既にシャペロンやポテンシエイター(elexacaftor、ivacaftor、tezacaftor)が存在する。実験ではこれらの薬によってCFTR発現を調節し、セクレチンによる反応がどう変わるかを調べている。

 β介在細胞はCl-と交換にHCO3-を排泄するので、尿細管内腔にCl-がないと働くことができない(それが、Cl-欠乏時に代謝性アルカローシスが維持される仕組みなことは、以前も紹介した)。しかし、CFTRチャネルがあると、細胞内から尿細管内腔にCl-を供給してペンドリンを回せるので、何かと都合がよさそうだ。

 CFTRチャネル・・セクレチン・・今まで「素通り(腎臓には関係ない?と思っていた)」してきた筆者としては、反省しきりである。とくにCFTRチャネルは、腎臓内科の「裏テーマ」とも言うべきCl-の腎ハンドリングで大きな役割を果たしているかもしれず、今後に期待したい。



(Biophys Rev 2009 1 3より)



 

 

2016/08/12

R and D

 こないだEテレを見ていたら、ドラッグ・リポジショニングという考え方が流行っていると言っていた。新規薬を開発するのにはお金がかかってリターンの保証がなく採算がとれない。そこで既存薬に新しい適応みつけようということだ。たしかにシルデナフィルが心筋梗塞の薬として開発されたがEDの治療薬に生まれ変わったり、複数の効能がみつかることはある。ただ、1番目の効能に比べて2番目の効能は眉唾じゃないかと思ってしまう(ロサルタンの尿酸低下作用とか、カンデサルタン・オルメサルタン・テルミサルタンのPPARγ活性化を介したインスリン抵抗改善作用とか)。新薬は高いから医療費的にはいいことだが。

 そんななか地道にR and B(写真はレイ・チャールズ)、じゃなかったR and D(研究開発)をしているのはボストンやベイエリアの大学からスピンアウトしたベンチャーくらいなのか。わが国は数字は知らないが薬の多くが海外うまれのものを委託販売するかライセンスを買って生産するかで、医療費すなわち税金などをどんどん海外にロイヤルティーとして垂れ流しているのが個人的には憂慮される。欧米が国益を保護している(トルバプタンのFDA却下だって、どこまで医学的な判断だか)ので、日本は東南アジアとインドあたりに活路を見出すつもりなのだろうか。

 ただこういう話は基本的に抗がん剤だのモノクローナル抗体だのと思っていた。が、JASNの速報でPendrin/NDCBE阻害薬の実験結果がでた(doi:10.1681/ASN.2015121312)。それぞれ集合管のB型介在細胞と非A非B介在細胞にあるCl-/HCO3-交換体、Na+依存のCl-/HCO3-交換体だ(以前にここここで触れた)。これらだけを単独で阻害しても利尿効果はみられなかったが、フロセミドとの併用や、慢性的なフロセミド使用モデル(遠位ネフロンが代償的にNa再吸収を増やす)で利尿効果を増幅した。腎だけでなく副腎にもPendrinはある(Am J Physiol Endocrinol Metab 2015 309 E534)のでホルモン抑制に働いたかもしれない。

 で、これらを阻害する小分子をみつけるのがhigh throughput screeningというシステムだ。ロボット、データ処理、解析ソフトウェアを使って何百万という実験操作を一度に行うことができる(と英語版ウィキペディアにすら書いてあるが初めて知った)。エディトリアル(doi:10.1681/ASN.2016070720)によれば、Pendrin/NDCBEだけでなく尿素トランスポーターUT-A1選択的阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113、尿濃縮に必要な浸透圧勾配を消す)、ROMK(ROMKは先天異常で立派にType 2 Bartterを起こす、体液保存に重要なチャネル)阻害薬Compound Aも見つかっている(Expert Opin Ther Pat 2015 25 1035)。

 Compound Aが細胞質ドメインでROMKに結合してイオン通過孔をふさぐことや、[5-(2-(4-(2-(4-(1H-tetrazol-1-yl)phenyl)acetyl)piperazin-1-yl)ethyl)isobenzofuran-1(3H)-one)]という長い名前を持っていることはこの際擱いて、とにかく人工知能、ロボット工学、ビッグデータ処理能力の発達によって本来R&Dは容易になったはずである。まあこれらの投資にお金がかかるのかもしれないが、やっぱり技術立国の日本が、オリンピックの金メダルのように、オリジナルのお薬で世界に通用するタクロリムスやイベルメクチンのような奇跡をたくさん起こすことを個人的には期待してしまう。

 もっとも今あげたお薬は動物実験レベルなのでどう転ぶかわらない(英語でくるかもしれない新薬をin the pipelineといったりする;日本語なら「卵」か)。いま利尿剤扱いされるお薬はNCCをターゲットとするサイアザイド、NKCC2のループ、鉱質コルチコイド受容体のMRA(余談だがPMSのお薬ヤーズにはスピロノラクトンより受容体親和性が8-10倍高いがプロゲステロン受容体にも親和性を持つドロスピレノンが入っている)、ENaCのアミロライド、脱炭酸酵素のアセタゾラミド、そして新たにV2RのバプタンとSGLT2のグリフロジンが加わったところだ。今後、さまざまにネフロン標的をブロックする「受容体標的利尿」診療の時代がくるのだろうか。





2015/04/14

介在細胞(aka 生涯教育)

 ぱっとめくったページが腎生理特集で、遠位ネフロンの介在細胞についてだった(CJASN 2015 10 305)。Last authorのDr. Pastor-Solerは私がUPMC(University of Pittsburgh Medical Center)の腎臓内科フェローシップの面接に行ったとき面接官の一人だった。またアイオワ大学腎臓内科のボスであったDr. John Stokesが亡くなって後任を選ぶのに、彼女がアイオワまで面接に来て講演した(そのときも介在細胞の話だった)。

 First authorとsecond authorは彼女の部下なのだろう、ヤングスタッフ、あるいはフェロー。アイオワも尿細管(とくに遠位ネフロン)を研究しているから、私も米国に残っていたらこういった総説を書く機会があったのかもしれないなどと思ったりする。が、今となってはこうしてせめて読者としてついていくしかない。これが"C(Clinical)"JASNに載っているということは、臨床家でも専門医ならこれくらいは知っておけということだ…。

 介在細胞は、遠位ネフロン(発生学的には中腎由来の部分)にあって、形態的には簡単に見分けられる。他の尿細管細胞にある中心に一本立った線毛がないからだ(なおこの線毛がどんな機能をしているかはまだ分かっていない、おそらく尿のフローセンサーだろうと推察されるが)。その名の通り、A型介在細胞は酸(acid)を、B型介在細胞は塩基(base)を排泄する。

 A型介在細胞は内腔側にH+-ATPase、H+/K+-ATPaseを持ちH+を排泄し、H+と一緒に出来るHCO3-(この反応はCAII: carbonic anhydrase IIによりなされる;B型介在細胞も同じ)は血管側のAE1(anion exchanger 1)に取り込まれる。またA型介在細胞は内腔側に大きなK+チャネル(big KだからBKチャネルという、またはMaxi-Kチャネルともいう)があってカリウム過剰摂取のときなどにK+をflow-dependentに排泄する。

 それに対してB型介在細胞はA型介在細胞をひっくり返したようにチャネルが付いていて、内腔側にあるPendrinと呼ばれるCl-/HCO3- exchangerでHCO3-を排泄し、逆にH+-ATPaseが血管側に付いている。

 ここまでは、よく知られたことで教科書にも書いてある。臨床的には、H+-ATPaseのa4、B1サブユニットの異常やAE1の遺伝子異常が遠位RTAを起こすことが知られている(以前に触れた)し、Pendrinの異常はPended症候群を起こす(これも以前に触れた)。このあと知らないことが次々に出てきた。

 まずはB型介在細胞の内腔側にあるNDCBE(Na+-driven chloride/bicarbonate exchanger)だ。B型介在細胞で能動的にH+が血管側に出ると細胞内外に電位差が起こり、NDCBEを通じてNa+が内腔側から細胞内に入ってくる(そして血管側のAE4; anion exchanger 4を使って再吸収される)。同時にHCO3-が細胞内に入りCl-が内腔側に出るが、Pendrinも回るので細胞内に入ったHCO3-は内腔側に再び出て行きCl-が細胞内に再吸収される。

 結果、NDCBEが一回周りPendrinが二回周れば、H+-ATPaseによってNaClが再吸収されることになる。いままで遠位ネフロンでのECF再吸収は主細胞の3Na+-2K+-ATPaseによるENaCのみで起こり、残りの現象はENaCによって生じた電位差を利用して説明されてきたので、これは意外だった。

 さらに、内腔側と血管側だけでなく介在細胞質内のメカニズムも分かってきた。たとえばA型介在細胞では、H+をたくさん捨てさせる機構としてCAIIでH+と一緒にできるHCO3-を感知するsAC(solubule adenylyl cyclase)活性化→cAMP/PKA活性化→H+-ATPaseの175番アミノ酸残基(Ser)を介したものが発見されている。

 逆にH+排泄をdownregulateする機構には[AMP]/[ATP]比の増加→AMPK(AMP-activated protein kinase)活性化→H+-ATPaseの384番アミノ酸残基(Ser)を介したものがある。センサーでいえば、内腔のpHを感知するものとしてGPR4(G protein-coupled receptor 4)、non-receptor tyrosine kinase Pyk2が調べられている。

 いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない;いまではアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっているが、これはまた別に書く)にも、介在細胞が関わっている。高K血症でアルドステロンが出るがレニンやアンジオテンシンはない場合、介在細胞のMR(mineralcorticoid receptor)はリン酸化されておりアルドステロンは主細胞にしか作用できない。それでENaC↑→ROMK↑→K+排泄が起こる。

 それに対し体液不足でRAASが活性化されている場合、介在細胞内MRのリン酸化が解けてアルドステロンが介在細胞に作用できるようになる。そうすればH+-ATPaseによるNaCl再吸収でENaCまでNa+が届かなかったり、A型介在細胞のH+/K+-ATPaseによりK+が再吸収されたりして、NaClは吸収されてもK+は排泄されない。

 他にも介在細胞のH+-ATPaseを修飾するタンパクにはPRR(prorenin receptor)があり、これがreninやproreninをひきつけるのでRAA系の反応効率が上がり、angiotensinogen→angiotensinの変換効率は4倍になる。また介在細胞はPGE2を産生し、paracrineな方法で主細胞のENaCをdownregulateするなどが書かれていた。

 そして最後に、これは介在細胞に限ったことではないが、尿細管細胞はTLR(Toll-like receptor)のほぼ全種類を持っていて、とくにTLR4はuropathogenic E. coliを認識しているといわれ、さまざまなAMP(antimicrobial peptides)を放出して尿を無菌に保とうとすると書かれていた。AMPはdefensin(とくにβ-defensin-2はヘンレ係蹄から集合管まで広く分布している)や、RNAase7(こちらは介在細胞、膀胱上皮、尿道上皮に分布している)、cathelicidin、hepcidinなど100アミノ酸残基以下のペプチドだ。

 これらの殺菌物質のほかに静菌物質もあり、A型介在細胞はlipocalin 2を産生する。lipocalin 2と言われてもピンとこないだろうが、これはNGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)のことだ。NGALはAKIでも産生されるが、感染時にも産生されグラム陰性菌の増殖に必要なenterochelinとFe3+の結合体に張り付いて増殖を抑える。さらにNGALはTLRの活性化にも必須とされている。

 こんなに長く文献をまとめたのは久しぶりだ。時間があったこともあるが、これを毎日やったら疲弊する。フェロー時代は学びのシャワーを浴びるのが良いからどんどん論文を読んでどんどん吸収していたが、スタッフになったいま、生涯教育として専門性をアップデートするためには、やはり何度も何度もいうように持久力が必要で、そのコツも学んでいかなくてはならない。




[2018年11月追加]本文の最後に介在細胞が抗菌ペプチド(antimicrobial peptide、AMP)を産生して尿路感染症から腎臓を守っていると書いたが、それがインスリン受容体の支配下にあるという論文がJCIにでた(doi.org/10.1172/JCI98595)。糖尿病患者で尿路感染症が多いことと関係あるかもしれない、と著者は言う。


2013/09/27

代謝性アルカローシス 3/5(aka CDA)

 私が腎臓内科フェローになったばかりの頃、スタッフが「contraction alkalosisはもう古い、今はchloride-depletion metabolic alkalosisだ」と教えてくださり、NephSAPのeditorial(2011 10 91)をコピーして配ってくれた。そこには体液喪失によるアルカローシスはNaPO4によって戻らず、KClによって戻り、必要なのはNa+ではなくCl-と結論できる、とあった。それから、「そうなんだ」と実験結果を受け止めつつも分からないままにしていた機序が、いま少し分かった。

 そもそもcontraction alkalosisとは、ECFが減ってもHCO3-は減らない(Cl-が豊富な体液にはHCO3-が少ない)という前提で、要は「HCO3-が濃くなる」ということだ。そして、ECFが減ると(どういうわけか)近位尿細管でのHCO3-再吸収が増えて、代謝性アルカローシスが進行・維持されると考えられた。

 では、chloride-depletion alkalosis(CDA)はどういう考えなのか。最近のレビュー(JASN 2012 23 204)によれば、代謝性アルカローシスにとって重要だと分かってきた遠位ネフロン、そのなかでもβ介在細胞が鍵だ。Cl-欠乏で遠位ネフロンへのCl- deliveryが減って、β介在細胞がPendrinによってHCO3-を排泄することが出来ないから、代謝性アルカローシスが進行・維持される。

 これは、たとえNa+を補っていても、Cl-が欠乏するだけで起こる(Na+とリンクしていない)。また、ENaCによるNa+再吸収で起きた代謝性アルカローシスであっても、Cl-を補充してβ介在細胞からHCO3-を排泄しない限りは代謝性アルカローシスは改善しない(前回、PendrinがHCO3-を捨てたらENaCが活性化するとか書いたが、それでも結果的にはCl-補充で代謝性アルカローシスは補正される)。

 ここまで書いて、やっと次に代謝性アルカローシスの各論(嘔吐とか)を説明できる。


2013/09/23

代謝性アルカローシス 2/5(aka Pendrin)

 代謝性アルカローシスはENaCの活性化が根幹にあることを前回見てきたが、それは遠位ネフロンへのNa+ deliveryが増えることやアルドステロンのためばかりではない。ENaCは、代謝性アシドーシスで尿細管・間質のHCO3-濃度が高くなっても活性化する。

 これは、ちょっと考えると変なことだ。代謝性アルカローシスで血中HCO3-濃度が上がり、尿細管へのHCO3-が増えてENaCが活性化されれば、さらに酸排泄が増えてしまう。

 しかし腎臓にはアルカローシス時にHCO3-を排泄するβ介在細胞があり、その内腔側にはCl-/HCO3- exchanger、Pendrinがある。だから代謝性アルカローシスでHCO3-が増えれば、PendrinがHCO3-を内腔に捨ててくれる・・はずである。

 しかし、PendrinもまたENaCによって活性化されるという報告もある(JASN 2010 21 1928)。アルカリを捨てたら酸も捨ててしまうなんてcounter-productiveだ。このあたりのお話は前掲AJKD論文でも"evolving story"となっているから、今後分かってくるかもしれない。

 Pendrinは腎臓のみならず内耳と甲状腺細胞にある(甲状腺ではI-輸送をしている)。だからPendrinが異常なPendred症候群では耳と甲状腺疾患も合併するが、代謝性アルカローシスには必ずしもならない。

 それは人間の食事が酸ばかりでアルカリが少ないので、アルカリ過剰になることがないからと考えられている。しかし、そんなPendred症候群の患者さんも嘔吐などを契機に重度の代謝性アルカローシスになることはある(Eur J Endocrinol 2011 165 167)。

 Pendrinまで話して、やっとCl-が出てきた。このあと、代謝性アルカローシスにとって最も重要なCl-喪失、そして新しい(が難解な面もある)chloride depletion alkalosisの概念について書く。