2013/06/28

手技のいろいろ

 スタッフに、フェローの間にICUで中心静脈ライン、透析カテーテル、肺動脈カテーテルの必要があると出かけて行って挿入するという仕事をしていた先生がいる。何百というカテーテルを挿入していろんな事を知っているから、superviseしてもらうといつでも何かちょっとしたコツを教えてくれる。例えばガイドワイヤーを抜去する時には鞘に収めると安全だとか、皮下組織が硬い人にscalpelをいれるときは皮膚に垂直よりガイドワイヤーの方向に沿わせるとその後でdilatorが入りやすい(透析カテーテルは太いから)とか。
 今いるところはICUが内科、循環器、外科に分かれているうえ透析カテーテルと挿入キットは入院透析ユニットにしかない(超音波は各ICUにあるけど)。だから今までカテーテルと挿入キットを透析ユニットまで取りに行きICUで挿入していたが、万一落としたりサイズが合わなかったりすると透析ユニットに戻らなければならなかった…。それを、同期のフェローが(カテーテル、キット、手袋、ガウン、drape、heparinなど全部入った)透析カテーテル用の手技カートを作ってくれて以来、これをコロコロ押していけば全部揃っているので楽チンだ。

2013/06/24

Embracing evolving technology 2/2

 TAHについて腎臓内科医が知っておくべきことは何か?まず、TAHは高率に腎不全をおこす。文献によれば透析を要する腎障害は20-30%(NEJM 2004 351 859)。個人的にはVADに多いpigment nephropathyより、ischemic ATNという印象だ。TAH自体のせいなのか、心不全が重症すぎるのかは分からない。
 腎不全予防に試されるのがnesiritide(BNP)だ。TAH患者さんは心室がないのでBNPを補充しようというわけだ。Virginia Commonwealth Universityのデータによれば術後GFRと尿量が有意に優れていた(J Heart Lung Transplant 2011 30 S96)が、このデータは患者数も少なく何ともいえない。現在phase 4 trialが進行中という。
 Volume評価には、通常のパラメターのほかに人工心室のfill volumeが重要だ。余りギリギリまで心室を血液で充たすと、人工心室は心臓のように伸びないのでひどいdiastolic heart failureになる恐れがある。通常、fill volumeは60ml以下に抑える。
 ちなみに、高K血症になっても、TAH患者さんには心室がないので理論上は致死性不整脈の心配がない。しかし、だからといってKを6、7、8mEq/lで許容することはないが(高K血症は全身の筋力低下もきたしうることは以前に紹介した)。

2013/06/21

Embracing evolving technology 1/2

 腎代替療法が確立されてしばらく経つが、今度は心代替療法が産声を上げている。Total Artificial Heart(完全人工心臓、TAH)はVAD(心室補助装置)と異なり右室も左室も除いてしまい、そこに気圧ポンプで血液を駆出する人工心室を入れる(J Biomechanics 2013 46 266)。胸骨から胸椎前端まで10cmはないと入らないし、胸腔に400mlもスペースをとる割にstroke volumeは最大70mlだが、cardiac outputは心拍数で補う(120-130/min)。
 人工心室を加圧するポンプは体外にあり、二本のホースでつながっている。ポンプと心拍数、fill volume、圧波形、心拍出量などをモニターするコンピュータはexternal driverと呼ばれ、旧式は戸棚くらいあるが新式は肩掛けカバンくらいだ。カバンなどと言うと心移植を前提としないdestination therapyを想像するかもしれないが、いまのところは重度両室心不全における心移植までのbridge therapyである。
 Wizard of OzのTin Woodmanを想起させる近未来の世界だが、現実の話である。すでにTAHは世界で1000例以上に挿入されている。VADにくらべてmortality、bleeding、strokeなどの面で成績が良いと考えられている(J Heart Lung Transplnat 2012 31 117)ことから、今後もTAHの挿入は増えていくだろう。さて、TAHについて腎臓内科医が知っておくべきことは何だろうか。続く。

2013/06/19

Urine microscopic exam

 米国腎臓内科は、ICUで診療チームがバタバタと治療しているときに「尿サンプルが必要です」と切り出し、サンプルを手にすると「では鏡検してきます」と去っていく。病棟の患者さんなら、挨拶するなり「ところであなたの腎臓で何が起こっているのか情報を得るために尿サンプルが必要です、少しでも良いのですが」という。
 まあこれはちょっと誇張で、尿サンプルを求める前に問診も診察もカルテレビューもすることが多いが、それくらい尿沈査が重要視されている。高K血症のAKIで緊急透析を求められたときに、bland(淡白)な尿沈査と病歴を盾に腎前性と信じて輸液だけで治したこともある。英国内科医Sir Robert Grieve Hutchison(1871-1960)のこんな引用句もある。

 The ghosts of dead patients that haunt us do not ask why we did not employ the latest fad of clinical investigation. They ask us, why did you not test my urine? 

 そんなわけで日々尿を鏡検しているが、こないだ経験あるスタッフからお洒落なテクニックを学んだ。検査室の器械は上皮細胞を白血球と誤認することがあり、白血球が10/lpfあるのにleukocyte esteraseが陰性ならその細胞は尿細管上皮細胞かもしれない。以来、鏡検でも有核で球形の細胞が白血球か上皮細胞か区別しにくいことはあり、意外と役立っている。

2013/06/17

Distal RTA

 Wake Forest大学から先生がやってきて講演した。この先生は私の尊敬する今は亡き恩師とUT Southwesternでフェローした腎臓生理学のもう一人の巨人で、ふたりは若い頃一緒に論文も出している(JCI 1979 64 1277)。体液過剰時の集合管によるCl-排泄にprostaglandinが関与しているという刺激的な内容だ。神が授けた互いに拮抗するRAAS系とprostaglandin/kallikrein系のうち、まだ謎の多い後者の作用の一つとして興味深い。

 前置きはさておき、講演は遠位RTAについてだった。不揮発酸摂取は1mEq/kg/dayといわれているが、これは米国食文化がsupersizingを迎える前の研究結果なので、高カロリー高タンパクの今はこれよりずっと多いかもしれない。この先生はtype 1 RTAをclassical(最初に見つかったから)、type 4 RTAをgeneralized distal RTAと呼んでいたが、私も「どちらも遠位では?」と思っていたので納得した。

 Classical distal RTAはtype A intercalated cellの異常によって酸排泄が出来ない。先天的には内腔側にあるH+-ATPaseのサブユニット(B1、A4;前者は難聴を合併する)、基底側にあるAE1(Cl-/HCO3- exchanger)、細胞質にあるCAIIの異常などが知られている。後天的な原因で有名なSjogren症候群ではH+-ATPaseが細胞質に閉じ込められて酸排泄が出来ない([2015年5月追加]CAIIに対する自己抗体も見つかっている、Am J Med 2005 118 181)。Amphotericin Bは、細胞膜に孔をあけてH+のback leakを起こすらしい。

 Classical distal RTAは酸が骨や筋肉(バッファー)を弱くし、先天性なら伸長障害、後天性でも骨粗しょう症などを起こし全身に影響が及ぶ。さらに骨から流れてきたCa2+が腎で結晶しnephrocalcinosisやnephrolithiasisを合併する。しかし、アルカリさえ飲み続ければ治療できる!Classical distal RTAの子供でHCO3-レベルを正常に保ったら、背が伸びた(JCI 1978 61 509)。先生は「Classical distal RTAは治すのに最もお金が掛からない病気だ」といっていた。

[2019年5月24日追記]上述の恩師とは故・John B. Stokes先生、Wake Forestから来たのはThomas D. DuBose Jr.先生。そして昨日、KSN 2019のレセプションで声を掛けたのも、たまたま遠位RTAの第一人者、NorthwesternのDaniel Batlle(「バティエ」のように発音する)先生だった。

 彼にDuBose先生の「もっとも安い病気」発言を紹介したところ、"Well・・・"と留保して、「治療があることと、治療を続けることは違う」という答えが返ってきた。アルカリは苦くてかさばり、子供はもちろん大人でも、続けるのは並大抵の容易さではないと。

 そして今日、彼の講演のなかで、こんな写真が提示された(NEJM 2008 359 e1)。




 上記症例は当時37歳の男性で、9歳に遠位RTAと診断されたが15歳で中断していたという。この時はCr 3mg/dlで、論文には「アルカリ治療で腎機能は安定している」とあるが、実際は10年あまりで透析になったそうだ(遠位RTAで腎機能低下が進行するのは稀)。

 Batlle先生が留保した時も、この症例が頭に浮かんだのかもしれない。やはり疾患は、診ていないとイメージがつかみにくい。直接診られれば一番だが、稀な疾患は、たくさん診ている人から話を聴くことも大切だ。

 筆者は正直、Batlle先生が第一人者だとは少しも知らずに声を掛けた。そうさせる親しみ深い雰囲気をお持ちだったのもあるが、KSNが交流を重視しており、人と人との距離が近かった。

 あるいは、これもまた縁なのだろうか?



 

2013/06/13

Thinking outside the box

 よい免疫抑制剤がない頃、腎移植後の拒絶反応に放射線治療が試されていたと知った。文献(Radiotherapy and Oncology 2005 74 17、Am J Clin Oncol 2006 29 551)によれば免疫抑制剤に不応の拒絶例でgraft survivalを改善したという。これらはまだOKT3、Alemtuzumab、Atgam®などを用いていた時代の話で、今ではその役割はほとんどないと思われる。しかし、thinking outside the box(意表をつくアイデア)と思った。

2013/06/08

時の流れと共に

 利尿剤の歴史について調べながら、あらためて高血圧治療の変遷について考えた。利尿剤の歴史は古く、西洋では塩化水銀が永らく浮腫(垂れ下がるのでdropsyと呼ばれていた)に用いられてきた(Modern Drug Discovery 2003 Feb 19)。しかし高血圧は、本態性と呼ばれるようにそれ自体治療せずともよいと考えられていた。それが、20世紀にはいり徐々に血圧と心血管疾患の関係が分かり始め、塩化水銀は副作用で使いにくい薬でもあり、1950年代に新しい利尿剤が開発された。
 最初に作られたのは抗菌剤sulfanamideを元に作られたacetazolamideなどのCA inhibitors。次に作られたのがthiazides(まずchlorthalidoneができて、加工してHCTZが作られた)。その後もさまざまな降圧剤が開発され、それまで降圧は臓器潅流を悪化させると考えられていた高血圧治療はこの100年の間に一変した。
 それでも脳だけは急激に降圧すべきでないと考えられて来たが、先日NEJMに脳出血のselected  populationに対する超急性期のaggressiveな降圧治療(1時間後のゴール140mmHg以下)がガイドライン(180mmHg以下時のみ降圧)に比べてmortalityに差がない、modbidityスコアは優れているというINTERACT2スタディが出た(DOI: 10.1056/NEJMoa1214609、INTERACT1はLancet Neurology 2008 7 391)。
 いまから60年も経ったら、今の最新治療はoutdatedになり、それだけならまだしも間違っていると証明されるかもしれない。大事なのは日々変わっていく治療についていく努力と、その時々にベストの知識と経験でベストと思う治療をしてそれが先につながっていくと信じることと思う。それから、どれだけ時代が変わっても変わらない医療の本質を離さないこと。
 [2016年6月追加]多国籍多施設ATACH-2スタディ(DOI:10.1056/NEJMoa1603460)の結果がでて、両群ともかなりアグレッシブに降圧している(24時間以内に120mmHg v. 140mmHg)が死亡などのprimary outcomeに有意差なし(数字上はインテンシブ群のほうが悪い)、7日目以内の腎障害(カルテ上からMedDRA;ICU国際医薬用語集の用語をピックアップしたもので、詳しいことはわからない)はインテンシブ群で有意に悪かった。

2013/06/06

Dysnatremia in the ICU

 ICUでNa+が基準値より低い、あるいは高い群はNa+が基準値の群に比べてmortalityが高いと聞いても驚かない。ICUでNa+が基準値内であっても、6mEq/l以上の変動がある群は変動がない群に比べてmortalityが高いと聞くと、「ほう」とは思うがそんなに驚かない。
 先日のjournal clubで議論に提示された、ドイツの外科系ICUが調べた論文(Crit Care Med 2013 41 133)の結論だ。驚かないのは、dysnatremiaとNa+ fluctuationは重症度のマーカーだと推察されるからだ。実際Na+異常群は正常群に比べてSOFAスコアが高く、ICU滞在日数も破格に長い。
 このスタディでは高Na血症のほうが低Na血症よりmortalityが高かった。高Na+血症で想像されるのは①脳外科手術で脳圧低下に3%食塩水を用いている、②肺水腫で利尿剤を用いている、③蠕動低下で経口が遅れfree water不足、などだが、論文にはこれらの情報が一切ない。
 腎臓内科コンサルタントとして、ICUのNa+異常をどう治療すべきか?この手のretrospective studyはこの問いへの答えを与えない。腎臓内科医がいかなる手段を使っても術後のNa+を140mEq/lぴったりに保ったらmortalityが下がった!という前向きスタディがでれば別だが。今は、高Na+血症はmortalityよりも喉が渇くので治療している。

2013/06/03

LCMV

 輸血でも臓器移植でも、donorからrecipientに感染症が伝播する可能性は常につきまとう。臓器移植はrecipientが免疫抑制されているので尚のことだ。その一つに、稀だが報告されているのがLCMV(lymphocytic choriomeningitis virus)だ。
 LCMVはげっ歯類を宿主にもつArenaウイルスの一種で、ヒト→ヒトでは垂直感染が知られている。しかし、同一のdonorから臓器移植された複数recipientsが感染したclusterも何件か報告されている(NEJM 2006 354 2235、Emerg Infect Dis 2012 18 1256)。いずれも移植直後で免疫抑制がピークの時期に起こり、致死率が高い。
 いまだ確立された治療法はないが、MMFを早期に減量した例とrivavirinを受けた例が生存した。Donorのほうは症状もなく潜伏感染で、RT-PCRやserologyも必ずしも陽性にならない。CDCがスクリーニング方法を検討しているらしい。

2013/06/01

愛の酸塩基平衡

 以前に酸塩基平衡に関連して「愛する者の寝息がどうこう」と書いたが、愛と酸塩基平衡の新たなつながりを知った。といってもゲーテの『親和力(Elective affinities)』(1809年)のような、H+とA-が惹かれあってどうこうという話ではない。母の愛の話である。

 妊娠中はprogesteroneの働きで下部肋骨靱帯が弛緩して胸郭が開き横隔膜が挙上し、tidal volumeは増加する。これによりお母さんのpCO2は赤ちゃんのpCO2よりも下がり、pCO2勾配に従って(産まれてオギャーと泣くまで肺が閉じている)赤ちゃんのCO2はお母さんの血中に運び去られ、お母さんの肺から除かれる。

 腎臓は、呼吸性アルカローシスを代償することで母の愛をサポートしている。それでHCO3-が腎に捨てられるので尿pHが高くなり、血液中のHCO3-は18-21mEq/lに下がる(Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 2008 22 801)。これらは正常な所見なので、覚えておこう。