腎代替療法が確立されてしばらく経つが、今度は心代替療法が産声を上げている。Total Artificial Heart(完全人工心臓、TAH)はVAD(心室補助装置)と異なり右室も左室も除いてしまい、そこに気圧ポンプで血液を駆出する人工心室を入れる(J Biomechanics 2013 46 266)。胸骨から胸椎前端まで10cmはないと入らないし、胸腔に400mlもスペースをとる割にstroke volumeは最大70mlだが、cardiac outputは心拍数で補う(120-130/min)。
人工心室を加圧するポンプは体外にあり、二本のホースでつながっている。ポンプと心拍数、fill volume、圧波形、心拍出量などをモニターするコンピュータはexternal driverと呼ばれ、旧式は戸棚くらいあるが新式は肩掛けカバンくらいだ。カバンなどと言うと心移植を前提としないdestination therapyを想像するかもしれないが、いまのところは重度両室心不全における心移植までのbridge therapyである。
Wizard of OzのTin Woodmanを想起させる近未来の世界だが、現実の話である。すでにTAHは世界で1000例以上に挿入されている。VADにくらべてmortality、bleeding、strokeなどの面で成績が良いと考えられている(J Heart Lung Transplnat 2012 31 117)ことから、今後もTAHの挿入は増えていくだろう。さて、TAHについて腎臓内科医が知っておくべきことは何だろうか。続く。