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2017/11/24

ADPKDについての復習と新しい試み ②

前回、簡単なADPKDに関しての概論を話した。

ある時に、のんびりとコーヒーを飲みながら歩いている時に後輩の先生からこのように尋ねられた。仮に後輩をTとして自分をMとする。

T「先生に教えていただいたことをよく見ながらやっていたら、自分の外来の人にADPKDっぽい人がいました。でも、30歳で腎機能もGFR<60未満なんです。なんか、トルバプタンも使うといいという報告もあるし、この人の治療をどうすればいいですか?」

M「いい質問ですね!本邦で使える薬も含めて見ていきましょ!最近、これに関する論文も出ているので是非見てね!」

ADPKDは個人的にはやはりとっつきにくいなと思う時も多い。それは、やはり患者予後や治療プランや方向性をある程度自分が知っておく必要性がある。

※まず、脱線するが最近の報告でFGF23とADPKDの話題が取り上げられている。FGF23上昇と腎サイズ上昇は関連があり、腎サイズ上昇は腎予後不良に直結する(CJASN 2017)。

治療について
・血圧管理
 −厳密な血圧管理はADPKDの進展を予防する可能性を示しており、薬剤としては投与禁忌がなければACE-IやARBは初期の血圧治療薬として推奨されている(理由としては、RAA系の活性上昇と細胞外液量増加のため。)。特にタンパク尿があるものには効果があるとされ、HALT-PKD trialではARBとARB+ACE-IでADPKD進展を比較しているが、差はなかった(NEJM 2014)。

※まず、血圧管理で120-130/70-80mmHgを目標に禁忌がなければACE-IやARBを1剤でいいので入れる。

・塩分制限
    −塩分制限に関しては2g/日以下を推奨しているものもある。塩分制限の効果としては、尿中Na排泄増加→腎疾患悪化につ上がることがわかっているためである(CJASN 2011)。これは、先に述べたHALT-PKD trialでも証明されている。ADPKDでは高血圧になる傾向もあり、それに対しての塩分制限は重要である。

・飲水励行
 −これは、原理としては血清のバソプレシン濃度を抑えてADPKDの嚢胞の進行を防ごうとしている。ある先行研究からは水を3L/day以上飲むと尿浸透圧を抑え、ADH分泌も抑えるとしている。ただ、腎不全の進行した症例などは飲水によって低ナトリウム血症が助長される場合もあるため、気をつける必要性がある。3L飲むのは大変そうである。。

・スタチン投与
 −高脂血症は慢性腎不全患者の冠動脈病変の進展に寄与する。また、CKD患者の腎機能の進行をスタチン投与で遅らせることができる報告もある。ADPKDのデータは少ないが、RCTでプラバスタチン(メバロチン)が小児や若年のADPKDの進行抑制に寄与したという報告もある(CJASN 2014)。

・トルバプタン
 −トルバプタンが効果がある機序としては、詳細は図に示すが、嚢胞の増大にはcAMP上昇が関与している。そのcAMP上昇を抑える治療としてトルバプタンが用いられる。
杏林大学ホームページより

トルバプタンとADPKDの関連でまずは覚えておく必要があるのが、TEMPO trial(NEJM 2012)である。研究の詳細は割愛するが、世界129の医療機関でのRCT第3相試験である。1445人に対して961人にトルバプタン投与、484人がプラセボに振り分けられ3年間見た研究になる。腎容積の増加に有意な差が認められた研究である。日本人グループでの解析も行われているが、その結果でも効果があったという。

トルバプタンに関しての詳細は次回の話題に述べるが、今回はREPRISE trial(NEJM 2017)に関しての話題である。
この前提として、トルバプタンはTEMPO trialの結果を受けて承認される国もあったが米国のFDAでは承認されなかった。その理由としては、やはり副作用である。
副作用は肝機能障害、多尿、夜間頻尿などであった。
また、TEMPO trial ではGFR≧60の患者を対象に見ている研究であった。

今回のREPRISE trialでは、平均GFR41(30-50)の中等度〜重度腎不全に対するADPKD患者のトルバプタンの作用を見ている。詳細は割愛するが、一年の期間で見てCKD stage4の人であってもトルバプタンの効果があるということが示されている。副作用に関しても肝機能上昇は投与群で5.6%で非投与群で1.2%であった。ただ、全体を通しての副作用には有意差はなかった。FDAはこの結果を見てどう動くのか?また、この論文の感度分析では高齢者での効果は薄く、非白人でも効果は薄いという結果であった。
なので、現時点では非高齢者(55歳以下)のADPKDの症例で腎不全があってもトルバプタンを内服することができる場合には適応になる可能性はありそうである。

・mTOR阻害薬
 −これに関しては、2010年のNEJM,NEJM2に論文が出ている。シロリムスとエベロリムスを用いて見ているが現状では腎機能障害を遅らせるという報告には至ってはいない。
mTOR阻害薬が用いられる理由としては、ADPKDではmTORパスウェイの活性化が促進していることがあり、これを阻害したらどうだろうというのが治療薬の選択となった。

他にもソマトスタチンやアミロライド、メチルプレドニンなども選択肢にはなっている。
今回は、特にトルバプタンの話題に触れたかった。

では、会話に戻る。
M「最近の論文でGFR<60の人に対するトルバプタンの使用も有用性は認められているね。あとは、トルバプタンを使用するとかなりの部分で患者さんに協力してもらわないといけないことも多くなるから、それが大丈夫であれば患者さんと相談して始めよう。あとは、保険や金銭的なものも。これは、次回に話すね。」

T「ありがとうございます。とてもスッキリしました。」

ADPKDは遺伝性の疾患であり、一人を見つけたら家族も考えて治療・検査も行わなくてはならない。

2017/05/19

仮説の検証(塩を捨てても水は捨てない仕組み)

 火星有人探査のための訓練プロジェクト(JCI 2017 127 1932、解説はこちらも参照)から、いくつかの仮説がうまれた。

A. 塩分摂取がふえると尿素が間質にたまり、尿濃縮で水を保存する
B. 塩分摂取がふえると飲水量のかわりに代謝水がふえる
C. 塩分摂取がふえると糖質コルチコイド作用でたんぱく異化が亢進して尿素合成がふえる
D. 間質への尿素の取り込みにはUT-A1が関与している
 
 これらを検証するべく、マウスで実験が行われた(JCI 2017 127 1944)。まずマウスで実験系を確立し、低塩から高塩にするとUNaVが増える分UKVとUUreaVが減ってNa利尿を防いでいること、糖質コルチコイド排泄量がおおいとき尿量がふえ飲水量が減ることなどが有人探査の訓練クルーと程度の差はあれ同じ傾向なことを示した。

 そのあといろいろ調べた結果、おおくのことが分かった。まず、塩分摂取がふえると:

・腎髄質の尿素量がふえる。
・髄質内層のUT-A1発現がふえる。

 ことでAとDが示された。さらに、

・血中の尿素濃度がふえる。
・肝臓と筋肉での尿素合成酵素が活性化する。
・筋細胞で糖質コルチコイド受容体が活性化する。
・筋細胞でオートファジーが活性化する(たんぱく分解を示唆)。

 などでCも示された。これで、火星探査の訓練クルーの実験(JCI 2017 127 1932)では推論だったalternative natriuretic-ureotelic conceptの図から、クエスチョンマークが消えた(Bが残っているので代謝水のところはまだ?な気もするが)。


 このあとこのグループは研究を進めて腎外、とくに肝臓と筋肉の代謝について詳しく調べた。結果、塩分がふえると:

・呼吸商がさがる(エネルギー源のβ酸化へのスイッチを示唆)。
・アラニンなど窒素ドナーになるアミノ酸が筋から失われる。
・アスパラギン酸、グルタミンなどのアミノ酸が肝臓にふえる。
・アラニンをとりこむトランスポーターが肝臓にふえる。
・肝臓で糖新生がさがりケトン体合成があがる。
・筋でβ酸化を促進するAMP、p-AMPK、p-ACCなどがふえる。

 とわかった。これらをまとめると、塩分負荷で肝臓と筋に図のような動きがおきることがわかった(緑は塩分負荷によりふえる・亢進するのに対して青はへる・抑制される)。




 筋がグルコースからできたピルビン酸にアミノ基をつけてアラニンにして肝臓に届ける。アラニンは肝臓に届き、ATPを消費して尿素とピルビン酸がつくられる。ピルビン酸は、ATPを食う糖新生に行かずに、節電モードでアセチルCoAからケトン体になる。ケトン体が筋に届き、エネルギー源がβ酸化に切り替わる。この動きはアラニンーグルコースー窒素シャトルともよばれる。

 このエネルギーの切り替えが論文タイトルにあるreprioritization of energy metabolismだが、じつはこの現象じたいは以前から知られていた。なんと、夏眠(estivation、aestivation)だ。夏眠とは、生物がとくに夏期の乾燥にたえるため仮眠状態になること。カタツムリ、カメ、アフリカハイギョなどのほか、哺乳類でもマダガスカルに住むfat-tailed dwarf lemur(写真)が行っているという。




 アフリカハイギョの夏眠については、あのホーマー・スミス博士も研究していたらしい(J Bio Chem 1930 88 97)。アフリカハイギョは、夏眠で水を身体にためるために尿素を作っている間に、心血管系のエネルギー消費(要は脈拍と血圧のこと)を減らすことが知られている(J Exp Biol 1974 61 111)。

 そこで、夏眠とおなじようなエネルギー消費・産生モードになっている塩分負荷時にも同じ傾向が見られるかをしらべた。すると塩分がふえたマウスはその直後に脈拍があがるが、4日以内には脈拍も血圧もさがり、脈拍パターンは副交感神経優位を示唆し夏眠中のハイギョと似ていた(直後の反応は、糖質コルチコイドがふえることと関係あるかもしれない)。

 塩を捨てないRAA系、水を捨てないバソプレシンに対して、今回わかったシステムは「塩を捨てても水は捨てない」仕組みといえそうだ。これまで塩も水も捨てて心血管系を守りたい、というのでRAA系やバソプレシンを抑制する薬をたくさんつくってきたが、この仕組みがフロンティアなのかもしれない。

 さらに、この仕組みがストレスホルモンを増やすことはもっと興味ぶかく、それにより長期にどんな影響が身体にでるかも調べる価値がありそうだ。端的に言えば、糖質コルチコイドがでるんだから、糖尿病になりやすいかもしれない。私が知らないだけで既にもういろんなことが調べられているにちがいないから、今後に期待したい。





2017/05/18

火星だより 4

 同じ食塩量を摂っていても、アルドステロンとコルチゾンの1日排泄量(それぞれUAldoV、UCortisoneV)には波がある。高い日と低い日の差は、6g/d食でも9g/d食でも12g/d食でも大体同じで、UAldoVは7.6mcg/d、UCortisoneVは33.8mcg/dだった。

 UAldoVが多い日は、少ない日にくらべて飲水量がおおく、尿量がすくなく、水がたまった(体重も増えた)。ここでも、以前に書いた、尿浸透圧と尿量の変化から自由水どれだけたまった(または、捨てられた)かを計算する方法をつかっている。


 いっぽう、6g食から12g食にするとUAldoVは減る(平均5.1mcg/d)。上記変化はUAldoVが7.6mcg/d増えた結果なので、UAldoVが5.1mcg/d減った影響は上記に5.1/7.6を掛けて正負を反転させたものになるとグループは考えた。


 同様のことをUCortisoneVでもおこなうと、次のようになる。6g/d食から12g/dになってコルチゾンはふえるので、今回は正負が反転しない。ここでUAldoVの時と違う点のひとつは、体重が減らなかったことだ。コルチゾンがふえて自由水が捨てられたのに、飲水量がかわらないのだから、体重は減りそうなものだが減っていない。


 これをみてグループは、捨てられた自由水は内因的に作られた水、つまり代謝水だと推察している。食べ物から余計に水が作られれば、飲み水が増えなくてもいい。たしかに糖質コルチコイドには異化を亢進する作用があるから、それでいいのかもしれない。

 では、アルドステロンはどのように尿量をへらし、コルチゾンはどのように尿量をふやすのか?それを調べるのに、グループはそれぞれのホルモンが高い日と低い日の尿中溶質排泄と浸透圧をくらべてみた。

 するとアルドステロンが低い日は、高い時にくらべて尿Na排泄量(UNaV)がふえたが、尿K排泄量(UKV)は減り、尿素排泄量(UUreaV)も減ったので全体の溶質排泄量はかわらず、尿浸透圧はさがった。いっぽう、コルチゾンが高い日は、低い日にくらべてUNaV、UKV、UUreaVいずれもふえたが尿浸透圧はさがった。

 これらの現象でいまのところわかっているのは、アルドステロンがさがるとENaCによるNa再吸収がおちて、それに付随しておこるROMKによるK排泄も減ることくらいだ。これをグループはTraditional natriuretic conceptと呼んでいる(図)が、伝統的というだけあって目新しいことではない。RAA系ということだ。



 いっぽう、アルドステロンと尿素、糖質コルチコイドとNa、K、尿素の関係は、これから調べられるフロンティアだ。これを説明するのに、このグループは伝統的なコンセプトにかわるAlternative natriuretic-ureotelic conceptというコンセプトを提唱していて興味深い(図)。


 なお「-telic」はテロメアのテロと同語源で終末を意味するから、ureotelicとは尿素で終る、つまり「尿素排泄の」ということ。それに対して窒素の最終排泄物がアンモニアの場合をammonotelic、尿酸の場合をuricotelicという(それぞれ魚、鳥など;図はJournal of Experimental Biology 1995 198 273を改変)。


 Alternative natriuretic-ureotelic conceptは、ふえた塩分を排泄するとき一緒に水を失わない合理的な仕組みといえる。RAA系だけでは、塩分がふえるとENaCを介したNa再吸収が減って水が失われてしまう。しかしそれに平行して腎髄質の間質に尿素が蓄積し水を引き、抗利尿に働くかもしれない(推測)。また糖質コルチコイドの働きで代謝水がふえ、飲水量をふやさずに済むかもしれない(推測)。

 これらのメカニズムはいまだ不明だが、糖質コルチコイド作用がたかまってたんぱく異化により尿素が増えているのかもしれない(推測)。髄質への尿素の汲みだしには、UT-A1が関与しているかもしれない(推測)。

 さらに、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドが自由水の管理を互いに拮抗する働きを持ち、どちらも周期的にゆるやかに上下を繰り返していることから、両者はあたかも交感神経と副交感神経、RAA系とプロスタグランジンのように調節しあっているのかもしれない(推測、図)とグループは提唱する。


 このモデルによれば、鉱質コルチコイドがふえると塩と水が身体にたまる(図の環が6時から12時にまわる)。すると今度は糖質コルチコイドが増えて塩と水を捨てる(環が12時から6時にまわる)。塩分摂取がすくなければ塩と水を守る方向、すなわち鉱質コルチコイドが優位になる(図の左半分)。塩分摂取がおおければ逆で、糖質コルチコイドが優位になる(図の右半分)。

 推察ばっかりだが、糖質コルチコイドが体液バランスにおよぼす影響や、尿濃縮に大事な役割をもっているのにいままで(電解質でないためか)あまり掘り下げられてこなかった尿素の仕組みについて考えるきっかけになった。バソプレシン(と血漿浸透圧)を考えなくてもここまで説明できるのは、目からウロコだった。

 ここまで推論したら、あとは実証すればいいというわけで、JCI5月号にもうひとつ載った論文(JCI 2017 127 1944)がそのアンサーソングになっている。これは、べつに紹介する。もしこれからこの領域の知見が増えてくれば、高血圧や腎疾患などの診療が別次元に深まるのかもしれない。UT-A1阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113)とかそういうレベルではなく、それこそ「火星に人が着陸する」くらい、変わるかもしれない。それにしても、宇宙開発はその過程でいろんな科学の副産物をもたらしてくれる。






2017/05/17

火星だより 3

 火星探査訓練の被験者を対象にしたデータが2013年アトランタのASNのKidney Weekで口頭発表されているときには、センセーションだけで何のことだか分からなかった。いま論文を読み返すと(Cell metab 2013 17 125)、JCIの論文がこれを発展させたものだと分かる。

 このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。



 さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。



 何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。


 どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。

 さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。


 「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。

 …という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。

 そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。


 

 

2017/05/15

火星だより 2

 前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。


 塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。

 6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。


 このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。


 尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。


 集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。

 IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。

 高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。

 それをふまえてみると・・。

 尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。

 ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。

 つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。




2017/04/11

腎結石はライフスタイルや食事に影響する?(Dietary and Lifestyle Risk Factors Associated with Incident Kidney Stones in Men and Women)

今回の話題は腎結石についての話題である。
腎結石に関しては以前の記事を参考にしていただきたい。

いくつかの食事や生活習慣の因子が腎結石産生のリスク上昇の危険があることが知られている。
今回の論文はBMI、飲水摂取、DASH食、カルシウム摂取、糖分の多い飲料のリスク因子をPAF(population attribute fraction)、NNTP(number needed to prevent)で見ている。

データはHPFS(Health Professionals Follow-up Study)、NHS(Nurses Health Studies)から使用している。

192126人の患者で、6449人が腎結石が発症した。
HPFS,NHSⅠ,NHSⅡのデータで見ている。
PAFは糖分の多い飲料の4.4%から飲水摂取低下の26%まで分かれている。
10年以上のNNTPが飲水摂取低下の67からカルシウム摂取低下の556まで分かれている。

今回のものでは上記のリスク因子を減らすことで、結石の予防は可能であることがわかる。

ちなみに、
BMIに関しては30以上は21-22.9に比べて30%-109%リスクが高くなる。
飲水摂取増加は結石発生率の低下を起こす(RCTで56%再発を防いだとされている。)
フルーツ摂取、野菜摂取、低脂肪食は結石発生率を45%低下させる。
適切なカルシウム摂取は女性で27-35%、男性で44%の結石発生を低下させる。
動物性脂肪食制限や塩分制限は結石再発を51%低下する。
また、SSB(soda and punch)の頻回な摂取は結石の発生率を30-40%上昇させる。

結石は色々な種類があり、まずは成分分析が重要であり、それに応じた対応をすることが重要である。


2017/03/14

塩分摂取について ③(about sodium intake : NUTRICODE trial)

今回はもう一つの論文であるNUTRICODE trialについて(NEJM 2015;371:624-634)

今回のこの3つのtrialに関してはQUICK TAKE VIDEO SUMMARYが付いているので見ていただければと思う。

ちなみに食塩相当量の計算には常に注意することが大事である。
例えば食品にナトリウム量で書かれていれば、食塩相当量に直すことは重要である。
食塩相当量(g)=Na摂取量(g)×2.54
なので、注意する。
しかし、2015年の4月1日から、日本の食品基準に関して法律の変更があり義務表示の「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示しましょう!ということが提示されている。
なので、変換することを考えなくてもいいかもしれないが、知っておくと何かに役立つかもしれない。

では、本題であるが、
この研究は
国連や世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)は、食事のナトリウム摂取量と心血管疾患との関連を強調しているが,ナトリウム摂取が世界的にみた影響や年齢,性別,人種,国,高血圧合併等による違いは明らかにはなっていなかった。
そのため、66カ国の患者において尿中ナトリウム排泄から推定したナトリウム摂取量に関する調査を行い、
・世界的なナトリウム摂取量を定量化

・ナトリウム摂取量の血圧への影響
・血圧の心血管死への影響をメタ解析により評価
・基準値を超えるナトリウム摂取量が心血管死に及ぼす影響を年齢別・性別・国別に推定。

結果:
・ナトリウム摂取量に関して:世界の平均ナトリウム摂取量は3.95g/日(地域平均2.18~5.51g/日)。187ヵ国中181ヵ国でWHO推奨の2.0g/日を超過していた。
・減塩の効果:ナトリウム摂取量2.30g/日減少で収縮期血圧は3.82mmHg低下していた。その減塩の影響は高齢者や黒人や高血圧例で若年者や白人や正常血圧例より大きかった。
血圧の心血管死への影響:血圧の影響度は年齢に伴って低下した。
基準値を超えるナトリウム摂取量が心血管死に及ぼす影響を年齢別・性別・国別に推定。:世界中で毎年165万人の心血管死がナトリウム摂取過剰によるものであり、61.9%は男性で38.1%は女性であった。心血管死の10人に1人にあたり、このうち84.3%は低~中収入国に見られ、40.4%は70歳以下であった。ナトリウム摂取過剰による心血管死の割合はグルジアで最も高くケニアで最も低かった。

結論:この研究の結果では食塩5g(Na摂取 2g)以上の摂取は心血管死に繋がるとしている。

今回、PURE と NUTRICODEを出したが、PUREでは低すぎると心血管リスクが上昇して、塩分摂取量は7.6gが適切と言っていて、NUTRICODEでは5g未満が適切としている。
PUREは追跡調査研究でありlimitationがある可能性はある。

我が国の推奨は6g未満であり、この結果を踏まえても有用な基準であると認識した。

塩分摂取は様々な領域で取りざたされており、今後さらなる研究が進めば面白いと感じた。






2017/03/13

塩分摂取について ② (about sodium intake)

塩分の摂取量については外せない論文は2014年のNEJMに立て続けにでた論文たちである。

・PURE trial
・NUTRICODE trial

は必須論文になると思う。

今回はPURE trialに関して触れる(N Engl J Med. 2014; 371: 601-11.  N Engl J Med. 2014; 371: 612-23)

今回のPURE trialの目的は
・ナトリウムの摂取量増加は血圧上昇と関連するが、この関連がナトリウム,カリウムの摂取量や地域で異なるのかは明らかでない。
また、心血管疾患合併からみた至適摂取量に関してはわかっていない部分が多い。
これをしっかりと突き詰めようとしたのが、今回の研究である。

今回の研究は大規模コホート研究において,下記を検討している。
1)  ナトリウムおよびカリウムの摂取量(推定24時間尿中排泄量で代替)の実態を地域,国の所得水準別に推定し,血圧との関連を検証。
2)  ナトリウムおよびカリウムの尿中排泄量と死亡,心血管イベント(CVD)の関連を検証。


今回24時間尿中排泄量で代用しているが、その際に用いられているのが、Kawasaki formulaである。

下記にkawasaki formulaを記した。今回、そのほかにTanakaの式、Nervassの式なども提示している。
ある研究では、日本のCKD患者さんではTanakaの式の方がkawasaki の式よりも正確であると言われている。

Kawasakiの式(HypertensRes. 2006;29(6):397-402.)
24-h 尿中Na (mEq/day)=16.3{(UNa/UCr)x estimated24h-UCr } ^0.5
男性:推定 24h-UCr(mg/day)=15.12x BW + 7.39 x height –12.63 x age –79.90
女性:推定 24h-UCr(mg/day)=8.58 x BW + 5.09 x height –4.72 x age –74.95

Tanakaの式(J Hum Hypertens. 2002;16(2):97-103.)
24-h 尿中Na  (mEq/day) = 21.98 x UNa/UCrx {-2.04 x age + 14.89 x weight (kg) + 16.14 x height (cm) -2244.45}^0.392

Nervassの式(Nephron Clin Prac t2014;12861-66)
推定 24h尿中Na (mmol) = –68.625 + (体重kg 1.824) + (EM UNa in m
mol/l 0.482)

話は、脱線したが詳細は本文を読んでいただけたらと思うが、
1)については、
方法:
18か国で102,216人の成人を対象とし、早朝空腹時の尿検体を用いて24時間のナトリウム排泄やカリウム排泄を計算。そのうえで電解質排泄と血圧との関係を見ている。
結果:
Na排泄量と血圧に有意な正の関係を認め、排泄量1g増加ごとに、収縮期血圧が2.11mmHg、拡張期血圧が0.78mmHg上昇(p<0.001)。

この相関関係はNaの摂取量が増えるほど顕著になり尿中Na排泄が5g/日以上では2.58mmHg収縮期血圧が上昇し、3-5g/日では1.74mmHg、3g未満では0.74mmHgの上昇であった(P<0.001)であった。
関係が顕著だったのは,高血圧例,高齢者であった。
K排泄量と収縮期血圧には有意な負の関係が認めた。1g増加ごとに0.75mmHg低下(p<0.01)。拡張期血圧の低下は0.06mmHgであった(p=0.33)。
収縮期血圧低下が大きかったのは高血圧例、高齢者であった(p<0.001)

結論:

24時間尿中排泄量から推定したNa摂取量と血圧は正の関係,K摂取量と収縮期血圧は負の関係であった。特にその関係が顕著だったのは高Na食摂取者,高血圧例,高齢者であった。

2)については、
方法:
17か国の101,945人から早朝空腹時の尿検体を採取し、24時間ナトリウム排泄とカリウム排泄を計算し、尿中ナトリウム及び尿中カリウム排泄と死亡率と心血管イベント(CVD)の複合アウトカムとの関係を調べた。

結果:
死亡率と心血管イベントの複合アウトカムの発生は3,317例(3.3%)で、死亡1976例(CVD死650例)、心筋梗塞857例、脳卒中872例、心不全261例であった。

Na排泄量4.00~5.99g/日にくらべ,高値群(≧7.00g/日)は死亡、主要なCVDのリスクが高かった。CVD死、脳卒中による死亡・入院のリスクも高かった。この関連は高血圧例で強く、 6.00~6.99g/日、≧7.00g/日でリスクが有意に上昇した。
また排泄量低値群でも,4.00~5.99g/日群にくらべ
死亡率と心血管イベントの複合アウトカムの発生、死亡、主要なCVDのリスクが上昇した。

K排泄量≧1.50g/日群は<1.50g/日群にくらべ
死亡率と心血管イベントの複合アウトカムの発生のリスクが低かった。

結論:

24時間尿中排泄量から推定したNa摂取量3~6g/日は<3g/日,≧6g/日より死亡や心血管リスクの低下と相関していた。
K排泄量≧1.50g/日は<1.50g/日より死亡や心血管リスクの低下と相関していた。

とても、大規模なコホート研究であり重要なものである。
患者さんに少し、塩分取りすぎちゃダメですよ、カリウムはとってくださいねという意味が理解できてきただろうか?




塩分摂取について① (about sodium intake)

塩分に関しては、僕たちは摂取の制限をしてくださいね!高血圧になりますし。ということを外来で話すことが多い。

まず、塩分を取るとなぜ血圧が上がるのか?
これについてはJASN2014の論文によくのっている。
塩分摂取に対して全員が血圧上昇するかに関してはそうではない。個人差がある。

塩分摂取で血圧が上がる機序の一つが
・塩分摂取過多→腎臓の交感神経系活性上昇→WNK4(With no lysin kinase 4)発現低下→NCC(thiazide-sensitive sodium chloride cotransporter)活性化をおこし、Na保持につながり、血圧が上昇する。


図には書いてあるが、交感神経活性が上昇してWNK4活性が低下する機序も重要である(Nat Med 2011)
これは、交感神経活性化が起こり、β2ARが活性化、PKAを介してHDAC8の活性を低下させる。これにより、核内のGRE(glucocorticoid-response element)のヒストンアセチル化が増加、グルココルチコイドおよびGRが結合し、これがWNK4の発現低下をもたらす。

そのため、塩分制限はある患者にとっては重要である。

数回塩分についての話をしたいと思う。


2016/12/24

利尿剤が効かない!?(利尿剤抵抗性について考える) パート3

利尿薬抵抗性の症例を見たときにアルゴリズムがあるといいなと思うのは僕だけだろうか?
アルゴリズムはその流れに乗ればある程度うまくできるので好きなのだが、もちろんしっかりとなぜこのようなアルゴリズムになっているかなどを考えなくてはいけないと思う。
今回、アルゴリズムを乗せる。

1:アドヒアランスの不良やNSAIDsの使用はないかチェック!!
2:食事で塩分制限はできているか?
3:症例のPK,PDの点から考えて一回の利尿薬の投与量を増量したほうがいいのか回数を増やしたほうがいいのかを考える。
4:経口のループ利尿薬を使用し、ダメなら違う作用の利尿薬を加える(遠位尿細管の薬や近位尿細管作動薬など)
5:点滴投与を考える。ダメなら持続投与も考える。

パート2を読んでいただいた方にはスッと内容が理解できるであろう。

利尿薬抵抗性を乗り越えるために重要な点は
・2つの作用タイプの利尿薬を使用する(ループ利尿薬がファーストライン治療薬)。
・肝硬変症例であればフロセミドとスピロノラクトンの併用が様々なデータの蓄積がある。
・肝硬変以外の併用薬に関してはエビデンスが少ない。なので、小規模の研究からサイアザイドをセカンドラインの治療薬をして推奨されている。
・タンパク尿が出ている症例ではプラスミンの働きでENaCの活性が生じているので、ENaC阻害薬がいいかもしれない。

また、アセタゾラミドがペンドリンの阻害を起こすのでセカンドラインではどうだろうという意見もある。

本当に浮腫は悩まされるし、難しい。

ちなみに今回の症例はフロセミドの投与を行いつつ(しっかりと量と回数を注意して)、あとENaCを阻害するトリアムテレンを使用し、浮腫の改善を認めた。
つまり、今回の症例は
ネフローゼ、慢性腎不全、ENaC亢進などが主に利尿薬抵抗性に関連していたのだろう。


あと、ポイントとして利尿薬はスピロノラクトンとトルバプタン以外は糸球体濾過を受けずに近位尿細管から基本的には分泌されて作用するのはポイントだろう!

どうであろうか?
かなり深く抵抗性に関してかかせていただいた。腎臓内科は利尿薬使用のスペシャリストとしてしっかりと把握しなくてはと常に思う。


2016/12/22

利尿剤が効かない!?(利尿剤抵抗性について考える) パート1

利尿剤は腎臓内科がよく使う薬の一つである。
薬の選択に関してはもちろんであるが、効かない時にどうしよう?と迷うことが多いと思う。今回、AJKDに利尿剤抵抗性についての総評があったので読んでみた。

利尿薬の抵抗性に関しては定義としては
「利尿剤投与を最大量使用しているが、望んだ浮腫の改善がない。」
ものである。

利尿剤抵抗性の原因としては
・診断が間違っている(浮腫が静脈うっ滞やリンパ浮腫など)
・塩分制限や水分の制限が守られていない。
・薬が腎臓に届いていない。
 -アドヒアランスが悪い
 -量が少なすぎる、投与回数が適切でない
 -吸収が悪い(腸管吸収など:ネフローゼ症候群)
・利尿薬分泌の低下
 -尿毒素による利尿薬の吸収障害
 -腎血流の低下
 -腎の機能している範囲の低下
・薬物に腎臓が働かない
 -GFRの低下(心不全や肝不全など)
 -有効循環血液量の低下
 -RAA系の活性化
 -NSAIDsの使用(遠位の尿細管での代償性Na再吸収亢進)

症例を提示しよう。
55歳男性で浮腫と呼吸困難で入院。
肝硬変にはいたっていない慢性C型肝炎があり、MPGNで2回再発がある。
MPGNの再発はステロイドと利尿剤の併用で改善していた。
ただ、再発の影響か腎機能に関しては低下して、GFRが37mL/min/1.73m2まで低下。

今回は体重が20kg増加して、腹水も伴っていた。血圧は145/110mmHg
今回の診断としてはネフローゼ症候群の再発と考えられた。

腎生検が施行されて、C型肝炎関連のMPGNの再発が考えられた。

治療でフロセミドの投与を行い、持続まで行ったが体重減少に関してしっかりとした反応がなく、サイアザイド利尿薬なども使用するも反応が乏しい状態であった。

どう考えよう?利尿薬も最大に使ってるのに、、
上の抵抗性のに当てはまるものはあるのか??

次回少しずつ紐解いてみる。


2016/06/04

Na intake estimate

 1日塩分摂取量はどのように求めるか。栄養士さんがカロリーカウントのように調べるのがひとつ。24時間Na排泄量は摂取量と同じはずなので、それを蓄尿で求めるのが一つ。このふたつがgold standardとされる。でもそれらは簡便でないので、スポット尿を使うのがもう一つ。

 なかでももっとも有名なのはKawasaki式で、早朝尿の次の尿(second morning urine)を用いて計算する(Clin Exp Pharmacol Physiol 1993 20 7、1985年のから改良された)。すなわち:

Na (mEq/d) = 16.3 x ルート[(UNa (mEq/l) / (UCr (mg/l)) x predicted Cr excretion (mg/d)]
Predicted Cr excretion (mg/d) = (15.12 x weight + 7.39 x height (cm) x 12.63 x age) - 79.9 in men
Predicted Cr excretion (mg/d) = (8.58 x weight + 5.09 x height (cm) x 4.72 x age) - 74.95 in women

他にINTERSALTスタディに用いられた随時尿のTanaka式(J Hum Hypertens 2002 16 97)、高さ16cm x 幅1.5cmのデバイスで夜間にpipe-samplingした尿を用いた式(J Hypertension 2002 20 2191)などがある。抵抗伝導率法で尿量、導電率法で塩分濃度を測定し1日塩分摂取量を推計する器械(下図、J Hum Hypertens 2006 20 598)はさらに簡便で、商品化もされている(2-3万、医療機器ではない)が、日本高血圧学会はunreliableとしている(Hypertens Res 2007 30 887)。

 いずれも日本の研究だ。Urinary Na excretionを対象にした論文の多くは、Kawasaki式を用いている(海外でもvalidateされているのかはわからないが、不思議と海外の式はあまり見当たらない)。そのお膝元の日本だが、減塩ができているかを尿で確かめて診療するというのはあまり聞かない。また栄養士さんが塩分カウントしてフォローするなどというのも、よほど高血圧に特化した施設でないとされていないのではないかと思う。


2016/06/03

High salt warning

 喫煙、割礼、トランス脂肪酸、ソーダを禁止するなど、健康に関する条例をどんどん出してきたNew York City。市長がMichael BloombergからBill de Blasioになっても変わらず、昨年12月にはhigh salt warning(下図)をメニューに載せることを決めた。ただちにNational Restaurant Associationに訴えられ、自主的に載せる企業を除いては判決の結果待ちになったが、昨月Appellate Division of the New York State Supreme Courtが条例を支持する判決を出した。

 アメリカのナトリウム摂取量は平均3400mg/d(食塩相当量に換算するには2.5倍するので8.5g/d)。US Department of Agriculture and the Department of Health and Human Servicesの推奨は2300mg/d(食塩5.75g/d)、AHAの目標は1500mg/d(食塩3.75g/d)。そして今月1日、FDAのvoluntary guidelinesがでた。2年で3000mg/d(食塩7.5g/d)、10年で2300mg/d(食塩5.75g/d)に減塩する目標を立てている。食品・外食企業に減塩を求める嘆願もたくさん届いているそうだ。

 日本は摂取量の現状や目標も食塩で表示するのに栄養表示はナトリウムで、意図的かどうか知らないが混乱を招くので、高血圧学会などが働きかけて食塩相当量も載るようになった(100g当たりで表示したりまだ隠したそうな場合もあるが)。健康日本21の目標は男女とも8g/d(Na 3200mg/d)。日本人の食事摂取基準の目標値は2010年版で男女それぞれ9g/dl(3600mg/d)、7.5g/d(Na 3000mg/d)、2015年版で8g/dl(Na 3200mg/d)、7g/d(3000mg/d)に引き下げられた。日本高血圧学会の目標は6g/d(Na 2400mg/d)。

 どれくらい本気かは知らない。「日本では減塩は禁煙より難しい」と言っていた先生を思い出す。日本は世界有数の食塩摂取国で、平均摂取量は男性で11.8g/d(Na 4720mg/d)、女性で10.1g/d(Na 4040mg/d)、身についた習慣はそうそう変えられないし、変えようという啓発活動もさほど大きくない。食品・外食業界の圧力もあるとは思うが、日本人は単純に塩が好きなのだろう。健康寿命を伸ばそうというスマートライフ・プロジェクトも運動、野菜摂取、禁煙、検診を柱にして減塩の塩の字もない(野菜を増やしてもドレッシングや醤油、つけものなど一緒に摂る塩分の量はすごく幅がある)。

 さらに複雑なのは、日本がそれでも長寿国なことである。食塩摂取と血圧・予後の相関について疑義があることは以前にも書いたが、INTERSALTの続編ともいうべきPUREコホート研究(NEJM 2014 371 610)でもNa 4g/d(食塩10g/d)を底辺にする生存Uカーブがみられ、EPIC-NorfolkコホートでもNa 150mmol/d(食塩9g/d)を底辺にする心不全HRのUカーブがみられた(Eur J Heart Failure 2014 16 394)。最近もHARTスタディ(JCHF 2016 4 24)で心不全NYHAII/IIIの患者でNa 2500mg/d(食塩6.25g/d)以下の群が以上の群より死亡率が高かった。心不全で極端な低Na摂取が悪影響を及ぼす理由としては、腎血流の低下などにともなうRAA系が亢進などが考えられている。

 それでもAHAはすべての人にNa 1500mg/d(食塩3.75g/d)を推奨している。さらに最近はbreak up with salt(塩との別れ)キャンペーンを張って、"I love you salt, but you're breaking up my heart."という標語、「10万人オンライン誓願」などをやっている。AHAはAHAで根拠なしに無茶を言っているわけではなくて、いろんなコホート研究(減塩食事療法のDASHとか)を30以上あつめてAHA/ACC Guideline on Lifestyle Management to Reduce Cardiovascular Riskを出した。そこに「血圧降下による利益のある成人のNa摂取は2400mg/dを越えないこと;1500mg/dではさらに血圧は下がる;無理な人は1000mg/dでも減らす(COR IIa、LOR B)」とある。

 



[2019年7月追記]減塩について、National academy of sciences engineering and medicineが5月に報告書をまとめ、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンにも取り上げられた(DOI: 10.1056/NEJMp1905244)。

 報告書は、ナトリウムの食事摂取基準(dietary reference intake、大半の健常者における必要量を満足する一日の栄養素の推奨摂取量)は1500mg/日(食塩で3.7グラム/日)、慢性疾患のリスク低減には2300mg/日(5.7グラム/日)以下にしておくべきと推奨している。


(食事摂取基準)

(慢性疾患リスク低減のために越えない摂取量)


 この目標をかなえるには、食品産業の取り組みが不可欠だとNEJM投稿者はいう。元来、食品の安全を管理するFDAは塩をGRAS(generally recognized as safe)としてきたが、今後は塩を「有害添加物」のように扱うくらいの考えの変化が必要かもしれない。

 これに対し、ダノンやネスレなど一部企業が参加するSustainable Food Policy Allianceは協力を表明しているが、「十分な科学的根拠がない」と言い張る企業も多い。それで、銃規制やCO2と同様に政治問題化しつつもある(おわかりだろうが、オバマ大統領のイニシアチブをトランプ大統領がやめようとする構図だ)。

 「加塩バター(写真)」ならいざ知らず、「増塩!」といえば商品が売れないことは目に見えている(逆に言うと、じっさいは塩分が多くても「減塩!」といえば売れるわけだが)。だから、そこらへんをうまく工夫して、お互いの意見を聴きながら前進すればいいなと思う。









 



2012/09/06

スーパーの辺縁

 コンサルト業務が再開して、患者さんがそこまで多くないこともあり、教育により多くの時間を割けてやりがいを感じる。二年目になって、遭遇する臨床上の問題がだいたいどれも経験済みなので(重要な知識、原理、論文はだいたい手にしているので)自信を持って教えられるせいもある。

 しかし、まだまだ知らないことはある。今日は指導医の先生から新しい論文(NEJM 2010 362 2102)を紹介された。これは、dietary therapy in hypertensionについてのclinical therapeutics(clinical practiceの姉妹記事)だ。要は、健康な食事をしよう、塩分を減らそう、野菜や果物を食べよう、と言っている。よく研究されているDASH dietがとくに取り上げられていた。

 しかし言うは易し行うは難し、ポイントは、患者さんが食生活を変えるのをどうサポートできるかだ。論文の結論は、「食事療法士に会おう」と丸投げしている感が否めない。

 しかし、この話をチームでしていたら、内科レジデントが印象的なことを言った。彼は、「簡単さ、スーパーにいったら辺縁で買い物をして、中心部には行かないように指示すればいいんだ」と言った。確かに、米国のスーパーは辺縁に野菜、果物、肉、魚などがあり、中心部に缶詰、コカコーラ、お菓子、冷凍食品などがある。思わず手を打って感心した。

2012/08/28

Central dogma being challenged

 塩分摂取→体液貯留→血圧上昇→心血管系イベント、というのは腎臓内科医(と循環器科医)にとってのセントラルドグマであるが、再検討されて始めており、それは医学界を越えてさまざまなメディアで報道されている。

 20年以上前、世界各地の食塩摂取(24-hr urine Na excretion)と血圧(収縮期血圧)の関係を比較したINTERSALTスタディ(BMJ 197 319 1988)が発表された。グラフをみると、ほとんどの地域で相関はほとんどなかった。それを、大きく外れたデータ(ブラジルの少数民族など)を入れて、無理やり「相関する」と結論したのだ。

 その後もいろんなデータが出たが、昨年には健康で若い被験者約3000人を対象に行ったobservational studyが発表された(JAMA 305 1777 2011)。アウトカムの一つは血圧で、Na摂取が100mol/day(食塩換算で約6g)増えるごとに収縮期血圧が2mmHg上がるという結果がでた。しかしもう一つのアウトカム、心血管系の死亡率は、Na摂取量が低い群で(なんと)最も高かった。

 塩分制限といっても、米国の入院診療で行われる「Na 2g(食塩換算で約5g)/day」など現実には不可能だ。これを読むと、低Na食は不可能なだけでなく、却って害になるのではないか?という疑問がおこる。さらに、それに沿う結果のもう一つの論文がJAMAに出た(JAMA 306 2229 2011)。

 こちらは中高年で、冠動脈疾患があり、糖尿病など心血管系イベントのリスク因子も多い約28000人の患者さんを対象に行われたobservational studyだ。尿Na排泄をスポットで測定し(利尿剤は止めた)、九州大学の川崎教授らが編み出したというKawasaki formulaで24-hr Na excretionの推測値を算出した。

 その結果が、有名なJ-shapeの曲線グラフだ。要は、尿中Na排泄が極端に少ない群と多い群でイベント(CV death、MI、CHFによる入院)のhazard ratioが高く、Na排泄が4-6g/day(食塩換算で9-12g/day)あたりが低かった。observational studyなので、associationしか言えないが、これからは単純に「食塩をへらせば減らすほど良い」とは言えないかもしれない。

2011/07/23

塩の換算

 いまだに混乱するのが食塩とナトリウムの関係だ。食品の栄養成分表にはたいていナトリウムがmg表示で記されているが、私たちはたいてい体内のナトリウムをmEqで考え、食品の場合は食塩何gで考えるので、単位がバラバラだ。

 分かりやすい基準は、生理食塩水1Lに9gの食塩が入っており、それはNa 154mEq、Cl 154mEqだということだ。そして原子量の違いから、9グラムの食塩は約4グラムのNaと約5グラムのClからなる。これで換算できるはずだ。

 たとえば醤油大さじ1杯には940mgのNaが含まれている。これは940 x 9/4 = 約2グラムの食塩に相当し、2 x 154/9 = 約36mEqのNaとClに相当する。また生理食塩水を125ml/hで輔液した場合、一日に0.125 x 24 x 9 = 27グラムもの食塩を身体に入れることになる。


ポテトトングで塩分摂取


[2019年1月追記]カルシウムのmEq/l、mmol/l、mg/dlの変換も追加する。カルシウムの原子量は40、そしてイオンは2価イオンだ。だから計算しやすい10mg/dl(100mg/l)は、2.5mmol/l。そして1mmolのカルシウムは2mEq分荷電しているので、2.5mmol/lは5mEq/lになる。

 ただし、「イオン化カルシウム」は血中総カルシウムの約半分。実験では39.5%が蛋白結合、46.9%がイオン化し、13.6%がdiffusible calcium complexes(その間の、細胞膜などを透過できる状態)だった(JCI 1970 49 318)。それで、血中総Caが10mg/dlの患者さんでイオン化カルシウムだけをはかると、2.5の半分で1.25mmol/l程度になる。

 なお、血中カルシウムの一部が半透膜を透過しない(蛋白結合しているからだが)ことを1911年に初めて発表した論文(Biochem Z 1911 31 336)の第二著者、D. Takahashi博士は日本人と思われる。

 東大柏キャンパス図書館まで原著論文を閲覧しに行った筆者だが、「D」は原著にもイニシャルしか書かれていなかった・・。東京大学農芸化学科発酵学教室・第二代教授の高橋禎造博士のことかとも推察したが、確証はない。


頭文字Dを探して


[2020年6月4日追記]マグネシウムは原子量24、2価イオンであるから、1mmol/lは2mEq/l(2倍)、2.4mg/dl(24÷10の2.4倍)となる。したがって、SI単位系の血中Mg正常値である0.7-1.0mmol/lは、1.7-2.4mg/dlだ。

 また、混乱しやすい各種Mg製剤の単位も、いちど整理する。

 MgSO4・7水和物の分子量は約240。よって硫酸マグネシウム製剤1グラムには約4mmol(1000÷240)、8mEq(2倍)、100mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。逆に、Mg20mEq含有のMgSO4製剤1アンプルは、2.5グラム(20÷8)に相当する。

 MgOの分子量は約40。よって酸化マグネシウム製剤1グラムには約25mmol、50mEq(2倍)、600mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。ただし、剤形や腸の状態などによって吸収率に大きな差がでることに注意が必要だ(Nutrients 2019 11 1663)。

 ささいなことだが、単位を間違えると事故の元である。