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2018/12/12

間質性腎炎のステロイド投与期間

 ここ最近で間質性腎炎の腎生検での報告件数は増えていることはご存知であろうか?
この論文(QJM2015)はスコットランドの報告ではあるが、割合が増加していることが示されている。

 また、報告によっては急性腎障害の原因のTop3に間質性腎炎が入っているのではないかとも言われている。

 最近は免疫チェックポイント阻害薬のぺムロリズマブやニボルマブによる間質性腎炎の報告も多くなっており、Hot Topicなのではないだろうか?

 薬剤性間質性腎炎の際に、治療として薬剤の中止が原則となる。薬剤中止により腎機能が改善する場合も多いが、全く改善しないまま透析や軽度改善したがCKDに移行するということも少なくない(NDT2004)。

 薬剤中止以外の治療オプションとしてステロイドを使用する場面も非常に多いと思う。

 ただ、薬剤性間質性腎炎においてのステロイド投与の効果は前向き研究などでの証明もされていないが、コホート研究では間質性腎炎の診断後早期に使用したほうがいい結果が出たという報告がある(KI 2008)。

 今回、下記の図のようにretrospectiveな研究ではあるが、薬剤性急性間質腎炎における投与期間について述べている論文があったので紹介する。


CJASN 2018より引用

 スペインの13施設で182人の薬剤性急性間質性腎炎(腎生検で証明されたもの)で、ステロイド投与をおこなった研究である。ステロイド投与量に関しては、平均は0.8±0.2mg/kg/dayで開始している(ちなみにUp to dateの記載では、下記のようになっている)。


One possible regimen is prednisone at a dose of 1 mg/kg per day (to a maximum of 40 to 60 mg) for a minimum of one to two weeks)

 この研究では、6ヶ月後の腎機能のフォローを行い腎機能の変化を見ている。

 間質性腎炎の原因薬剤に関しては、この研究ではNSAIDsが27%、抗生物質が22%、PPIが4%、薬剤の原因が不明が30%となっている。

 研究の結果は、完全に改善(41%)も部分的に改善(46%)、改善しない(13%、そのうち半数は維持透析に移行)であった。

 改善と改善しないものに関しての違いとして、ステロイドの早期投与と腎生検組織の繊維化(>50%以上)の程度が関連していた。

 この研究では、

・腎生検時期から急性間質性腎炎の診断の平均期間は11日(5.75~22 days)であった。これは、日本でも外注の場合に依頼し結果を得るまでにはそのくらいの期間になる。

・治療開始後に腎機能の変化は1ヶ月での反応が重要である。1ヶ月目以降の変化はどの場合でも乏しい(下表参照)。




・投与期間に関してはステロイド開始し3週間以上は高容量で投与しても効果乏しく、またそこから減量していくのも5~6週以上を要しても意味がないことが示された。

 つまり、薬剤性急性間質性腎炎の際は

・まずは原因薬剤の中止。
・その後、早期治療!生検を行なった場合には繊維化はどうかはチェック。
・0.8~1mg/kg/dayのステロイド投与を開始。最高でも3週間。
・徐々に減量していき、5~6週以内にはOFFにする。

 ということが今回の報告からは言われている。

 今後、これについても色々とエビデンスが構築されればなと思う。

 また、Twitterでもご意見をいただければ幸いです。

https://twitter.com/Kiseki_jinzo





2016/06/21

Expand differential diagnoses 2

 ADTKDと言われても初耳だが、私が卒業してからKDIGOがADTKD consensus conferenceをひらいて遺伝性の尿細管萎縮と間質線維化(IFTA)で末期腎不全にいたる諸病をこう総称することにしていた(doi:10.1038/ki.2015.28)。

 尿管拡張がmicrocystに見えることからMCKDと呼ばれていた時期もあったが嚢胞腎とは違うので紛らわしいということになった。総称されるのUMOD、MUC1、REN、HNF1Bの遺伝子異常で、これらの遺伝子は遠位ネフロン(UMODはHenle上行脚、TAL)にある(HNF1Bは腎外にもあり、糖尿病の亜型MODY5をおこす)。多くの場合小児科でみつかるだろうが初発年齢、腎機能悪化速度に差があり孤発例もあるので成人外来にくるかもしれない。

 UMOD異常はNKCC2チャネルを阻害して体液量を減らし代償的に近位ネフロンでの尿酸再吸収を増やすと考えられており、FEuric acidが5%以下になるのが特徴だ。腎生検でIFTAのほかにTAL細胞内のUMODたんぱく貯留がみられる。

 MUC1はムチンをコードするユビキタスな遺伝子だが、遠位ネフロンでは糸球体内腔をコーティングしている。この変異でできる異常たんぱくMUC1-fsが細胞内にたまるが他の臓器で異常をきたさないのがなぜかは分かっていない。

 RENはプレプロレニンをコードしており変異があるとレニン産生細胞が異常レニンがたまることでアポトーシスを起こす。これがIFTAを起こすしくみはまだわかっていない。

 HNF1Bは転写因子で肝、膵、腎などで諸遺伝子発現を調節しているが腎ではUMODの発現に関与している。動物実験でHGFによる尿細管発生をSOCS3遺伝子を介して抑制すると考えられている。

 また膵発生では内分泌細胞の前駆となるNGN-3遺伝子陽性細胞がHNF1B陽性の原始膵管細胞の周囲に並ぶが、HNF6発現を欠損させると膵管細胞でHNF1Bが発現されなくなり内分泌前駆細胞も並ばなくなるという。MODY5なのに普通の2型糖尿病として診断されることもあるから注意が必要だ。RCAD(renal cysts and diabetes syndrome)と呼ばれていたこともあり、腎嚢胞があればとくに。

 ただADTKDができて、今度は遺伝形式が違う嚢胞を主病変とする疾患があぶれた。Juvenile nephronophthisis(日本語ではネフロン癆;赤芽球癆、眼球癆、脊髄癆などもあるが共通した病気ではない)、Bardet-Biedl syndrome、Jorbert syndrome、Meckel-Grober syndrome(MKS)、Alstrom syndrome、Oral-facial-digital syndrome Type I(X-linked)などだ。

 しかしこれらは線毛に関係する遺伝子異常だとわかってきており、ADPKDとならびciliopathyと総称される(JASN 2009 20 23にもレビューあり、図;Jeune症候群は前稿に書いた)。ARPKDも原因遺伝子PKHD1の主要な遺伝子産物fibrocystin/polyductinがPKDの遺伝子産物polycystin 2と相互作用する。

 多発性結節症コンプレックス(TSC)は9番染色体にあるTSC1、TSC2遺伝子の異常でmTOC1が活性化されるが、TSC2とPKD1は隣同士なので大きなデリーションでは2つが抜けてTSC2/PKD1 contiguous gene syndrome(PKDTS)を起こす。




 これでもあぶれるのはvon Hippel Lindau病、medullary sponge kidney(MSK)くらいか。MSKは比較的有病率が多く、Beckwith-Wiederman症候群(巨舌、腹壁欠損、過成長)、Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群との関係があるが原因はいまだ不詳(尿管芽と後腎組織の相互作用異常が示唆されている)。

 Ca結石患者の20%にみられるともいうが、無症状で診断されていない例も多い。腎髄質の点状石灰化、IVPで腎乳頭に「花束」「刷毛」と言われる特徴的な像がみられる。問題は石と感染で、石にはクエン酸Kなど、感染はとくにurea-splittingな菌に注意が必要で「aggressiveに治療」とある。ただしこれらが守れれば腎機能低下をおこさないこともできる疾患だ。

[2016年6月追加]遺伝性間質性腎炎に、karyomegalic interstitial nephritis(核巨大化間質性腎炎)がある。ネフロン癆に似ているが、原因遺伝子FAN1はDNA damage response pathwayに関係する。これがないとinterstrand cross-linkの修復ができず(Nat Genet 2012 44 910)、その結果ciliopathy的なフェノタイプになるのかもしれない。たいてい20-40代くらいの兄妹で緩徐に進行する腎障害で発症する報告が多いが、常染色体劣性遺伝とされる。Lancetにも知っておこう的な記事が載っている(Lancet 2013 382 2093)。

[2018年12月追加]Nature Communicationsに発表された研究によれば(DOI: 10.1038/s41467-018-07260-4)、CKD患者コホートのGWASで引っかかる100以上の遺伝子多型(CKD-defining trait)のうち、3つでGFR低下との因果関係が証明された。そして、その代表的なものが上記のMUC1だった(なお他はNAT8BとCASP9だった)。

 MUC1の多型rs4072037は、MUC1遺伝子が転写されたあとのスプライシングパターンを変え、結果MUC1たんぱく質のN末端で9アミノ残基が失われるらしい(下図dからe、欠損部分はf、論文より)。




 ささいな違いだが、MUC1は腎にとって重要な分子なので、何か意味があるのだろう。そしてどう腎機能低下に関わるかは、今頃「よーいドン!」で各国研究機関が調べている。なおMUC1といえば日本で発見された肺臓疾患マーカー(肺がんにも応用されている)KL6の標的抗原でもあり、わが国からの研究成果にも期待したい。



2013/01/04

PPI and AIN

 米国でおそらく一、二を争うほど多く処方されるPPI(OTC、処方箋がなくても買える)。この薬と間質性腎炎(AIN)の関係はよく知られているし、実際臨床でもPPIを止めてクレアチニンが下がるというのはよく経験する。しかし、それ以上にこのトピックを掘り下げる機会はなかった。こないだRenal Grand Roundでこれが取り上げられ、紹介された文献に触れた。

 ひとつはオーストラリアの著者が書いたeditorial(Nephrology 2006 11 379)で、ニュージーランドの論文(Nephrology 2006 11 381)がPPIによるAINの罹患率が1:12000と発表したのを紹介していた。ほとんどが腎生検で確定診断された例だから、おそらく実際はもっと多いだろう。PPIのなかではomeprazole関連のAIN報告が最も多いが、これがomeprazole固有の問題なのか、先行薬でそれだけ報告が多いのかは不明だ。

 もう一つはコロンビアのグループによるsystematic review(Aliment Pharmacol Ther 2007 26 545)。色々検索して、腎生検による確定診断例に限ってピックアップしたら1970-2006年のあいだに60例みつかった。それらを分析すると、非特異的な症状が多く(腎障害なので無理もないが、典型的とされる発熱や皮疹はまれだった)、約半数は利尿剤やACE阻害薬を併用していた。

 投与からAIN発症までの期間は?2-52週間と幅があった(ただし2/3は12週間以内)。治療は?ステロイド?有効性のエビデンスは乏しい。薬を止めたらどうやってGERDをコントロールするの?H2ブロッカーを奨めるが、それでは症状を抑えられないこともある。

 このジレンマを紹介したNEJMの論文"Bitter pills"が有名だ(NEJM 2010 363 1847)。PPIによるAINを疑って、PPIを止めてステロイドパルスしたら、クレアチニンは下がったが上部消化管出血になったという話だ。日々の臨床経験ではステロイドはまず使わない、薬を止めただけでクレアチニンは下がる。

 なおPPIで腎臓内科がもう一つ知っておくべきことは低Mg血症だが、この話はまた。