2019/01/25

腎機能異常はあるが尿検査は正常な人を見たら

 腎臓内科外来には腎臓が悪いことで来院されるが全く症状のない人もいる。例えばこんな症例が忙しい外来の間にやってきたら、みなさんどう考えるだろうか。

 52歳男性、既往歴は虫垂炎術後のみであり内服歴もなし。自覚症状はないが、10年ぶりに健診を受けたところ、BUN 34、Cr 2.3で紹介され来院した。採血上は血算、生化学検査異常なく、尿検査ではタンパク陰性、潜血陰性、沈渣も異常なし。腎臓の超音波でも血流正常、腎サイズも問題なし。

 さてあなたはこの患者をどうするか?こんな患者さんに出会って「はて?」と思ったことはないだろうか。少々トリッキーな質問である。

 少々雑ではあるがクリニカルクエスチョンとするならば、「尿検査正常だが腎機能のみ悪化している患者さんの原因は一体なんなのか?」だ。

 最初は、改めて病歴を詳しく聞き、身体診察を入念に確認するだろう。場合によっては、検査の感度・特異度も考慮しながら再現性があるか再度確認するだろう。

 中には尿検査の限界に思いをはせる方もいるかもしれない。尿試験紙の添付文書には、尿蛋白が偽陰性となる因子として尿pH<3や非Alb性蛋白尿があるとされている。同様に尿潜血が偽陰性となる因子としては大量のアスコルビン酸や高比重、高タンパク尿があるとされている。

 ではいずれも問題なかったら?原因不明の慢性腎臓病であり腎生検をするのか?様子を見るのか?これは悩ましい問題かもしれない。

 これまで悩んだことのある内科の先生いないのかな?そんなきっかけで調べてみて見つけたのが、少し古いがこれ(Clin Nephrol 2012 77 283)とこれ(Ren Fail 2006 28 389)。

 1つ目の論文は、10年くらいの枠組みでCr≧2mg/dlの患者で尿検査異常がなかった症例512人の原因疾患を追求したもの。そこで出てきた原因としては、まずは当然ながら腎前性と腎後性を呈する疾患であった。次に腎硬化症、腎血管疾患や多発性骨髄腫、高Ca血症、低K血症性腎症、また腎細胞がんや間質性腎炎をなどが出てきたようである。

 2つ目の論文は5年くらいかけて、腎機能異常があるが正常尿検査の患者15人を腎生検してみたというもの。なお、糖尿病、高血圧、慢性肝障害、悪性腫瘍、自己免疫疾患、薬剤、低K血症、年齢<18歳のいずれも除外されている患者である。

 最も多かった診断は急性間質性腎炎で、引き続いて高血圧性腎硬化症であった。また慢性間質性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、急性尿細管性壊死、続発性アミロイドーシス、巣状糸球体硬化症とminor glomerular changeが続いた。年齢で分けると、<40歳では急性間質性腎炎、>40歳では腎硬化症が多かった。

 たまに出会う疑問に関して文献的に考えると意外と色々深くて面白いことが多い。 

2019/01/10

PIVOTAL 後編

前編のつづき)

 ESA量は有意に減った(高用量でEPO29757単位/月、低用量で38805単位/月)。プライマリ・エンドポイントは心血管系の複合イベント(致死的でない心筋梗塞・致死的でない脳梗塞・心不全による入院・総死亡)で、数字としては図のように高用量のほうが低かった(低用量に対する優越性は有意差なく、非劣性のみ)。




 高ESAと鉄過剰、どちらをとるかで地域ごとおおきく診療スタイルに差があるなか、英国なりにスタディを組んでこの結果になった。歯に物が挟まったような書き方だが、わが国でどうかという話には直接はならないということだ。

 それはなぜか。「うちはうち、他所は他所」だからか。

 そういうと身も蓋もないが、どう「うち」と「他所」が違うのかを、いくつかの観点から考えたい。

1. アクセス

 前編でも触れたように、おどろくほどカテーテル透析だった。わが国の現況でもカテーテルが高齢者・女性を中心に増えてはいるが、いまだ数パーセントだ。カテーテル透析患者が細菌感染を起こしやすいことを考慮すると、鉄の易感染化は微生物学的に言われるほどではないのかもしれない(CRP 5mg/dL以上、まさに感染を起こしている、などの例は除外されているが)。

2. 腎代替療法

 PIVOTALスタディは登録時に12ヶ月以内に生体腎移植を受ける予定の患者を除外している。さらに、フォローアップ中に移植を受けた患者も除外している。その数は、両群約2000人のうち、371人(約18%)だ。さらに在宅透析にうつったのが81人(4%)、腹膜透析にうつったのが30人(1.5%)。18%、サブスタンシャルな数字だ。

3. 心血管系イベント、死亡率

 より健康で若い患者が移植された可能性は高い。2年間フォローして死亡が2000人中505人なんて、日本では考えられない。以前紹介したLANDMARKスタディ(Ca非含有のランタン酸をCa含有のリン吸着薬と比較したもの)でエンドポイントに有意差が出なかったのも、そもそも有害事象の発生率がきわめて低いからだと言われる。


 しかし、有害事象の発生率が高いコホートのPIVOTALでも低いコホートのLANDMARKでも、結局差が出なかった。それじゃあ、「Caはダメ!」「鉄はダメ!」などといっても「ほんとかな?」ということになってしまうかもしれない。まあ、歯磨きのようにエビデンス云々を越えた常識的な知識や治療というのはあるわけだが。


 こういうトピックは、学会などでディベート方式で議論(利益の相反も公開して)があったら、聞いて見たい。視聴者参加型だったら、参加もしてみたい(写真は、やはり鉄分摂取。地下鉄と小田急がいっしょになって箱根湯本に至るリゾート/通勤特急、メトロはこね)。